毒蝶と巨躯   作:kamiomiya

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16話 死合序章

蝶屋敷はその日ばかりは、どこか重みを帯びていた。

 

――柱合会議、招集。

 

しのぶの名に続き、

もう一つ、鎹烏から異質な伝令。

 

「下弦の伍討伐者・ジャック・ハンマー同席」

 

しのぶは薄く笑った。

(……ついに、ですね)

 

柱合会議の場は静寂に満ちていた。

 

だが、それは平穏の静けさではない。

猛獣が檻の中で互いの呼吸を測るような、

張り詰めた沈黙だった。

 

柱たちが庭に直線を描くように並ぶ中、

"端" に異物がいた。

異様の体躯。筋肉の塊のような巨躯。鋭く獣じみた眼光。

 

ジャックは畏まるでもなく、

両手を空に挙げ、大欠伸をし、涙を浮かべ、

暇そうに、ただ立っていた。

まるで――

「呼ばれたから来た」

それだけだと言わんばかりに。

 

産屋敷耀哉が静かに口を開く。

 

「しのぶ……説明を」

 

しのぶは一歩前に出た。

その表情は、いつもの穏やかな微笑だが、

声には一切の冗談がなかった。

 

「はい」

「この者――ジャックは、」

「私が研究している薬物を投与した被験体です」

 

ざわり、と空気が揺れる。

 

「一般隊士に使用すれば重度な障害が発症、」

「最悪の場合は死亡、」

「柱であっても耐えられるかどうか不明なレベルの」

「増強剤、劇薬をすでに複数種類、投与済みです」

 

柱たちの視線が一斉にジャックへ突き刺さる。

 

「その結果――」

「下弦の伍を一方的に圧倒、蹂躙し倒しました」

 

沈黙。

 

「危険視されるのは当然です」

「この時代に下弦の鬼を圧殺する戦闘力を持つ、」

「"人間"など鬼殺隊以外は皆無ですから」

 

しのぶは、言葉を選ばなかった。

 

「ですが――」

「柱以外の切り札として、」

「これ以上に有能な存在がいますか?」

 

一瞬の静寂の後、低く粘つくような声が割り込んだ。

 

「……クドイ」

 

"蛇柱・伊黒小芭内"

 

「ネチネチ説明されなくても分かる」

「力があるかどうか確かめればいいだけだ!」

 

その目は最初から獲物を見る目だった。

 

「言葉はいらない。力で示せ!」

 

しのぶは、微笑んだまま一歩引いた。

 

(……ええ。)

(そう来ると思っていました)

 

その瞬間だった。

 

「決まりだな!」

 

低く愉悦を孕んだ声。

ジャックが金属歯を見せて笑った。

 

「兄ちゃん!やろうか!」

 

そして蛇柱を見下ろし何でもないことのように付け加える。

 

「兄ちゃんよ――」

「その蛇のマフラー……」

 

伊黒の首元で白蛇がとぐろを巻く。

 

「大事なもんなんだろ」

「置いていくか、誰かに持たせろ!」

 

場が凍りつく。

 

「お前の首を噛むのに邪魔だ!」

 

笑顔で完全な挑発。

伊黒の眼が蛇のように細くなった。

 

「……デカブツが……」

 

殺気が露骨に立ち上る。

 

だがジャックは一歩も退かない。

むしろ楽しそうだった。

 

(……ああ!いいぞ!)

(……この蛇は分かっている!)

 

しのぶは内心で確信した。

これは "立会い" ではない。

 

――"死合い" だ。

 

そして同時に柱たちも理解していた。

この異人の大男は、味方か、

それとも――鬼より厄介な災厄か。

その答えは言葉ではなく、血と骨で示されることになる。

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