ザ・ダイハード・マスターピース   作:EXTERMINATION

16 / 23
第16話 激戦

教室棟外周の搬入用スロープへ滑り込んだ綾小路と堀北の背後では、

校門前から教室棟脇へかけて広がった夜の戦場が、

白いサーチライトと赤色灯と焦げた煙と

砕けた資材の乱反射の中でほとんど原形を失っていた。

 

龍園側のマシンガンによって穿たれた無数の弾痕と、

坂柳側の横射を受けて崩れた進路と、

照明機材のショートから連鎖した小規模な破裂と発火が複雑に重なり合うことで、

もはや誰ひとりとして最初に思い描いていた

勝ち方では終われない局面にまで達している。

 

スロープの先は狭い。

 

左手に教室棟外壁、右手に搬入用の柵付き通路、

その向こうに駐車スペースと外周フェンス、

さらに先には警官隊の配置線が断続的に見えている。

 

真正面から見れば出口は近い。

 

だが近いからこそ、追手の全員がそこを最終到達点として共有してしまっている。

 

綾小路は走りながら、

その共有された出口をそのまま出口にしてはいけないと理解していた。

 

「まっすぐは行かない」

 

短く言う。

 

堀北は息を抑えながら頷く。

 

「右の柵沿い?」

「ああ。警官隊の主視線から一度外れる」

「追ってくるわね」

「来る」

 

それは断言だった。

宝泉は必ず来る。

龍園も、ここで引けば最後まで取り逃がした側になることを嫌うはずだ。

 

坂柳は勝ち目と損切りの境界を見極めながらも、

少なくとも綾小路がどのように外へ出るかは見届けようとする。

 

七瀬は止めるために来る。

天沢は最後の崩れを見逃さない。

 

つまり、このスロープの先が本当の意味で最後の圧縮空間になる。

 

背後でまず響いたのは龍園の怒声だった。

 

「逃がすな!右へ切るぞ!」

 

その声に応じて、龍園側の生徒がスロープ入口へ散り、銃撃が再び夜を裂く。

 

今度の射撃は前方ではなく、綾小路たちの進行方向の少し先、

柵沿い通路の曲がり角へ集中していた。

 

火花が散る。

柵が鳴る。

コンクリートの角が削れ、小さな破片が跳ねる。

 

「読まれてるわ!」

 

堀北が低く言う。

 

「読ませてる」

 

綾小路は即答した。

 

その言葉の意味を堀北が理解するより先に、

綾小路は足元に転がっていたプラスチックの搬入ケースを拾い上げ、

銃撃の走る方向ではなく、その手前の街路灯支柱へ向けて全力で投げつける。

 

ケースがぶつかって弾けるような音を立て、

龍園側の何人かが反射的に銃口をそちらへ振る。

 

その一拍の誤差が欲しかった。

 

「今だ」

 

綾小路と堀北は連射の切れ目を縫うように走り、

まっすぐ通路を抜けるのではなく、途中で右手の搬入パレットの山へ飛び込み、

その陰へ身を沈める。

 

連射はそのまま柵沿い通路を削り続ける。

つまり龍園側は、綾小路たちが読まれた進路をそのまま取ると信じて撃っている。

 

そこへ坂柳の声が飛んだ。

 

「龍園くん、真正面に弾を撒いても意味がありません」

「だったらテメェが見つけろ!」

「見つけていますよ」

 

その静かな返答の直後、橋本が別角度から単発を入れる。

弾はパレットの山そのものではなく、その少し左脇の地面を叩いた。

 

牽制だ。

 

位置を読まれている。

綾小路は内心で驚く。

坂柳はやはり、撃って当てるよりもそこにいると知らせる撃ち方がうまい。

 

「綾小路くん!」

 

堀北が息を潜めながら言う。

 

「ここも長くは持たないわ!」

「分かってる」

「なら次は?」

「前じゃない。後ろに開ける」

 

堀北が眉を寄せる。

 

「後ろ?」

「追手同士をぶつける」

 

それしかない。

 

この狭さで全員から同時に追われれば詰む。

ならば追う側の進路を交差させて、自分たちのための渋滞を作るしかない。

その時、パレットの向こう側を重い足音が横切った。

 

宝泉だ。

 

煙やライトや銃撃の騒音の中でも、この男の接近だけは妙に分かりやすい。

一直線で、重くて、迷いがない。

 

「そこだろ!」

 

叫びと同時に、パレットの束へ真正面から衝撃が走る。

 

宝泉が蹴りつけたのだ。

木製パレットがずれる。

二段目が崩れる。

このままでは次で押し切られる。

 

綾小路は即座に動く。

崩れたパレットの隙間から宝泉の足が見えた瞬間、

その下へ一本だけ残っていた金属バーを蹴り込む。

 

宝泉の踏み込み足に直接当てるのではない。

 

足場を一拍だけ狂わせるための介入。

宝泉の二撃目がわずかに遅れる。

 

綾小路はその隙に堀北の肩を押し、パレットの反対側、

つまり龍園と坂柳の射線が交差する細い通路へ飛び出した。

 

「走れ」

「ええ!」

 

二人が飛び出した瞬間、宝泉もパレットを押しのけて追う。

 

そこへ龍園側の銃撃が、

今度は綾小路たちではなく飛び出してきた影に対して半ば反射的に走った。

 

「撃つな!撃たないでください!」

 

七瀬の声が遅れて響く。

だが遅い。

弾は宝泉の進路の前を削り、柵と地面に火花を散らす。

 

宝泉が怒鳴る。

 

「邪魔すんな!」

 

龍園も怒鳴り返す。

 

「テメェが前に出すぎなんだよ!」

 

そこへ坂柳側の橋本がさらに単発を入れ、

今度は龍園側の連射班が身を引かされる。

 

完全に交錯した。

 

綾小路が言った通り、追手同士がぶつかり始めている。

 

だがそれだけではまだ足りない。

 

前へ抜けるには、もう一段大きな乱れが必要だった。

 

その乱れは、意外な形でやってきた。

教室棟側の窓の一つが、乾いた音とともに内側から開いたのだ。

 

そこから一之瀬帆波と平田洋介が顔を出す。

 

完全に逃げ切っていたわけではない。

外周の陰から教室棟内へ回り込み、別導線でここまで来ていたのだろう。

 

そしてその姿を、当然ながら全員が認識した。

 

龍園が目を細める。

坂柳も一瞬だけ視線をずらす。

七瀬が驚く。

天沢が「へえ」と楽しそうに声を漏らす。

 

一之瀬は叫ぶ。

 

「綾小路くん、こっち!」

 

その声に合わせるように、彼女は崩れた文化祭資材の陰へ滑り込み、

周囲を警戒するふりをしながら、床へ転がっていたマシンガンを素早く拾い上げた。

 

それは先ほど龍園側の武装班の一人が

吹き飛ばされた際に落としたものだったのだろう。

 

「……」

 

一之瀬は一瞬だけその重さに表情を強張らせる。

 

本物だ。

 

冷たい金属の感触と、掌へ伝わる重量が、その現実を嫌でも理解させてくる。

 

だが彼女は何も言わず、そのまま制服の陰へ隠すように抱え込みながら、

再び綾小路へ視線を向けた。

 

「さぁ、こっちへ!」

 

その声は、単なる誘導ではなかった。

覚悟の声だった。

 

つまり彼女は、自分が再び目立つ位置に出ることの危険を承知で、

それでも導線を開こうとしている。

 

綾小路は一瞬だけ迷う。

外へ抜ける最短は前だ。

だが前には龍園と坂柳の挟撃がある。

 

一之瀬たちのいる窓側へ一度寄れば、宝泉の直線を外し、

警官隊の別視線にも繋げられるかもしれない。

 

「行くわよ!」

 

堀北が先に言った。

迷いはない。

綾小路も頷く。

 

「行く」

 

二人は進路を変える。

柵沿い通路ではなく、教室棟壁際へ。

 

その瞬間、龍園が気づく。

 

「窓側だ、切れ!」

 

銃撃がまた走る。

今度は一之瀬たちの出た窓の周囲を狙って、壁と地面を削る圧の射撃だ。

 

一之瀬と平田はすぐに身を引く。

だが、その一拍で十分。

綾小路と堀北は窓下の死角へ滑り込む。

 

宝泉も追う。

 

だがそこへ、教室棟の角からひよりが飛び出してきた。

彼女は大きく動けるタイプではない。

それでも今、手に持っているのは消火器だった。

 

「危ない……!」

 

小さな声とともに、彼女はためらいなくレバーを引く。

白い粉末が一気に噴き出し、窓下と外周通路の間に濃い幕を作る。

 

龍園側の激しい銃撃が一瞬止まる。

視界が消えるからだ。

宝泉でさえ、ほんのわずかだけ勢いを緩める。

 

その隙に綾小路が窓枠へ手をかけ、

一之瀬と平田の補助で堀北を先に室内へ上げる。

 

「先に入れ」

「あなたも!」

「後だ」

 

堀北が窓を越える。

平田が引き上げる。

一之瀬が手を伸ばす。

 

その直後、粉末の幕を割って宝泉が突っ込んできた。

 

「逃がすかよ!」

 

綾小路は窓へ飛びつかない。

振り返り、真正面に立つ。

ここでまた一度止めるしかない。

 

宝泉の拳が来る。

 

綾小路は窓下の壁を背にせず、半歩横へ切って受け流す。

 

狭い。

 

だが教室棟壁際は宝泉の大きな動きも制限する。

 

綾小路はその制限を最大限使う。

 

一撃、二撃、三撃。

 

受けて、流して、押し返す。

 

宝泉が笑う。

 

「最後までそう来るか!」

「お前もだろ」

 

短く返す。

 

そして四撃目、宝泉が完全に前へ乗った瞬間、

綾小路は窓下に置かれていた小型の消火器ケースを蹴り上げた。

 

宝泉の視線が一瞬だけ落ちる。

 

一拍。

 

体幹の軸へ短く圧を入れ、肩で外へ流す。

宝泉の体が壁から離れる。

そこへ横から、龍園が本当に最悪のタイミングで割り込んだ。

 

「どけ宝泉!」

 

宝泉が怒鳴る。

 

「糞が!」

 

二人の進路がまた被る。

今度は完全にぶつかった。

 

宝泉の腕が龍園の肩を弾き、龍園は舌打ちしながらも押し返す。

その一瞬の混乱の向こうで、坂柳が冷静に言う。

 

「橋本くん、今です」

 

橋本が撃つ。

単発、3発。

 

狙いは綾小路ではなく、龍園側の武装班が置いた予備マガジンと、

仮設電源ケーブルの束だった。

次の瞬間、ショートした小型発電機の内部から

圧縮されていた熱と火花が一気に噴き出し、

それまで白く瞬いていただけだった閃光が、

今度は轟音とともに真正面へ押し出されるような

爆炎へ変わって外周路を呑み込んだ。

 

赤橙色の火柱が地面を這うように広がり、

吹き飛んだ燃料片と溶けかけたプラスチック片が

火の尾を引きながら宙へ散り、

爆発の衝撃で持ち上がった煙と粉塵が

渦を巻く暇もないまま熱圧に押されて前方へ膨れ上がる。

 

倒れていた照明スタンドの金属フレームが熱で軋みながら跳ね上がり、

砕けた電源ボックスの内部では青白いスパークが連続して炸裂し、

そのたびに爆炎の内側が脈打つように明滅して、

まるで炎そのものが生き物のように暴れ狂っていた。

 

火は単なる一点の燃焼では終わらず、

地面へ散らばっていた暗幕用の布や木製パネルの破片へ瞬く間に燃え移り、

赤黒い炎の帯が外周路の床を舐めるように走っていく。

 

熱風が真正面から叩きつけられ、綾小路たちの髪と服を激しく煽り、

植え込みの枝葉が乾いた音を立てながら一斉に揺れ、

わずかに残っていた水分すら蒸発させるような灼熱が周囲の空気を歪ませた。

 

龍園側の武装班は反射的に身を引き、

顔を庇いながら後退を余儀なくされ、

連射しようとしていた銃口も熱と閃光で完全に狙いを失い、

散発的な発砲音だけが炎の轟きへ飲み込まれていく。

 

宝泉でさえ踏み込みを止めざるを得ず、腕で顔を覆いながら舌打ちを漏らし、

その巨体が熱圧によって半歩押し返されるほど、爆発の勢いは凄まじかった。

 

さらに遅れて、燃え上がったケーブル束が耐えきれず天井側から垂れ落ち、

火花を撒き散らしながら床へ叩きつけられたことで、

新たな火の筋が外周路の中央を裂くように広がり、

白灰色だった煙の壁が今度は赤い炎を内包した巨大な火煙へ変貌していく。

 

爆炎は渦を巻くのではなく、

まるで巨大な獣が咆哮しながら前方へ牙を剥くように、

一直線に熱と光と煙を押し出し続け、

その圧倒的な熱量が校門前の空気そのものを揺らしていた。

 

そして次の瞬間には、炎に照らされた外周路全体が赤く染まり、

銃撃戦の舞台だったはずの通路は、完全に火災現場へ姿を変えていた。

 

「綾小路くん!」

 

一之瀬の声。

綾小路は今度こそ窓枠を掴む。

 

平田が腕を取る。

一之瀬も引く。

堀北が内側から支える。

 

その瞬間、外から龍園の怒声と宝泉の咆哮が同時にぶつかるが、もう遅い。

 

綾小路は室内へ滑り込んだ。

窓を閉める余裕はない。

だが、窓一枚挟むだけで射線はかなり制限される。

 

平田がすぐに机を引きずる。

堀北も手を貸す。

一之瀬が反対側から押し、ひよりはもう一本の消火器を窓下へ転がした。

 

全員が動いていた。

迷っていない。

 

教室棟の一室、文化祭準備用に半ば空けられていた教室の中で、

ようやく逃げるためのチームが成立しつつあった。

 

綾小路は短く呼吸を整えながら全員を見る。

 

堀北、まだ立てる。

一之瀬、覚悟が決まっている。

平田、補助に回れる。

ひより、恐怖の中でも動けている。

そして軽井沢は――教室の奥、机列の陰にいた。

 

顔色は悪い。

だが意識はある。

目が合う。

 

何か言いたげに唇が動くが、今は言葉にする余裕がない。

 

背後の窓の外では、龍園と宝泉がまだ怒鳴り合い、

坂柳がさらに別導線を探り、警官隊が教室棟側への本格侵入を始めている。

 

つまり、まだ終わらない。

だが今、初めて綾小路は確信した。

ここまで繋げれば、終わらせ方は作れる。

 

「ここから先は一直線だ」

 

綾小路が言う。

誰へというより、全員へ向けて。

 

「校門へ戻るんじゃない。教室棟の裏階段から管理棟脇を抜ける」

 

堀北が即座に頷く。

 

一之瀬も、平田も、ひよりも視線を上げる。

軽井沢も机の陰からこちらを見ている。

外ではまだ銃撃と爆発による破裂音が続いている。

だが内側では、ようやく次の一手が一つに揃い始めていた。

 

――その刹那。

 

「いやいや、それはちょっとつまんなくないですかぁ?」

 

軽い声。

 

だが、その直後には発砲音が響いていた。

 

教室後方の崩れた窓枠から滑り込むように現れた天沢は、

笑顔のまま拳銃を連射しながら一気に距離を詰めてくる。

 

弾丸が机を砕く。

木片が飛ぶ。

 

軽井沢が悲鳴を上げて伏せる。

 

綾小路は即座に横へ滑り込みながら射線を外した。

 

だが天沢は止まらない。

 

「もうちょっと遊びましょうよ、先輩!」

 

発砲。

さらに発砲。

撃ちながら動く。

しかも軌道が読めない。

 

右へ来ると思った瞬間には左。

距離を取ると思えば、そのまま至近距離まで飛び込んでくる。

 

綾小路は机を蹴り飛ばし、その陰へ半歩だけ身体を滑らせた。

 

弾丸が机上を裂き、紙片と木屑が宙へ舞う。

次の瞬間にはもう、天沢の蹴りが飛んできていた。

 

速い。

 

綾小路は腕で受け流しながら、そのまま逆に足を払おうとする。

 

だが天沢は笑う。

 

「読めてますって!」

 

そのまま身体を捻り、回転を利用した裏拳が綾小路の側頭部へ走る。

 

綾小路はギリギリで身体を沈める。

拳が髪を掠める。

天沢はその勢いを殺さず、今度は拳銃そのものを鈍器のように振り抜いた。

 

綾小路は腕で弾き返す。

 

金属音。

 

だが反撃へ移る隙がない。

 

天沢は笑いながら攻め続ける。

まるで戦闘そのものを楽しんでいるように。

 

堀北たちは動けなかった。

いや、動けない。

二人の動きが速すぎる。

 

発砲と格闘が完全に混ざり合い、ほんの一歩踏み込むだけで巻き込まれる。

 

「綾小路くん……!」

 

一之瀬が息を呑む。

 

その声と同時にまた別方向から、低い足音。

 

七瀬だった。

 

「天沢さん、下がってください」

 

言葉とは裏腹に、その動きは迷わない。

七瀬は一直線に綾小路へ踏み込み、そのまま最短軌道で腕を取りにいく。

 

制圧。

関節。

重心崩し。

 

七瀬の格闘は徹底して合理的だった。

そして天沢は、その瞬間に戦い方を変えた。

 

「りょーかいっ」

 

軽い返事。

七瀬の制圧に合わせるように綾小路の死角へ滑り込み、

拳銃で回避先だけを潰し始める。

 

完璧だった。

 

七瀬が止める。

天沢が崩す。

 

七瀬の関節制御へ合わせ、天沢のフェイントと高速打撃が混ざる。

連携への切り替えが異常に速い。

 

綾小路は腕を取られる。

 

同時に天沢の膝が腹部を狙う。

綾小路は身体を捻って避ける。

 

だがすぐに七瀬の足払い。

さらに天沢の発砲。

弾丸が頬を掠める。

 

「っ――」

 

綾小路の動きが初めて僅かに押される。

 

堀北が歯を食いしばった。

 

「まずい……!」

 

七瀬の制圧術と、天沢の遊撃。

噛み合った瞬間、その精度は異常だった。

綾小路が反撃へ移ろうとした。

だが、本命は別だった。

突然、白い煙が二人へ吹き付けられる。

 

「っ!?」

 

消火器だった。

 

ひよりは震える手で消火器を抱えながら、

死角側から七瀬と天沢へ一気に噴射していた。

 

白煙が視界を埋める。

天沢が一瞬だけ顔を背ける。

七瀬も視界を遮られ、僅かに動きが止まった。

 

その僅かが全てだった。

 

綾小路は一気に踏み込む。

まず七瀬の背後へ滑り込み、鋭い手刀が首筋へ叩き込まれた。

 

七瀬の身体が揺れる。

そのまま崩れ落ちる。

 

気絶。

 

だが天沢は笑みを消して即座に反応した。

 

「うわ、やばっ――」

 

拳銃を抜こうとする。

だが遅い。

綾小路はその腕を掴み、関節を逆方向へ捻り上げながら身体ごと回転した。

 

天沢の身体が宙へ浮く。

そのまま床へ叩きつけられる。

 

拳銃が滑る。

天沢の意識が飛ぶ。

 

教室が静まり返った。

 

七瀬も。

天沢も。

 

動かない。

 

綾小路は短く息を吐く。

そして落ちていた拳銃を拾い上げ、気絶した二人へ向けた。

 

「……イピカイエー」

 

小さく呟く。

その指が引き金へかかった直後――

 

「やめなさい!」

 

堀北の声が響く。

 

綾小路の動きが止まる。

 

数秒。

沈黙。

 

そして綾小路は小さく息を吐いた。

 

「……そうだな、やりすぎた」

 

拳銃を下ろす。

そのまま七瀬と天沢を見下ろしながら、綾小路は背を向けた。

 

気絶した二人は、その場へ残される。

 

そしてその直後、窓の外から宝泉の怒声が響く。

 

「まだ終わってねえぞ!」

 

それに重なるように、龍園の低い笑いも聞こえた。

 

「上等だ……!だったら最後まで追ってやるよ!」

 

この夜は、まだ一歩だけ、終わりを先延ばしにした。




モチベ維持のために感想・評価をもらえると幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。