ザ・ダイハード・マスターピース   作:EXTERMINATION

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第18話 夜明

管理棟脇の非常扉が外へと押し開かれた瞬間に流れ込んできた夜気は、

これまで校内に充満していた焦げた匂いと火花の残滓と

銃撃の余韻を一気に押し流すほどには強くなかったものの、

それでも確かに外の空気であることを全員に認識させるには十分であり、

そのわずかな違いが、ここまで極限まで圧縮されていた緊張を

逆に一段だけ現実へ引き戻す役割を果たしていた。

 

綾小路は扉の外へ半歩踏み出した位置で立ち止まり、

完全に外へ抜ける前に一度だけ背後を振り返る。

 

そこにはまだ終わりきっていない校内側の光景が広がっていた。

 

砕けた照明機材の残骸。

壁へ刻まれた無数の弾痕。

煙に濁る空気。

 

そして校庭中央では、先ほど八神が乗っていた戦闘機が、

歪んだ翼を晒したまま黒煙を上げ続けている。

 

機体へ絡みついた大量のワイヤーと、燃え落ちた文化祭横断幕の残骸が、

まるで鋼鉄の怪物を拘束する鎖みたいに夜風へ揺れていた。

 

崩壊した文化祭ステージでは、折れ曲がった鉄骨が火花を散らし、

ショートした照明ケーブルが断続的に青白い閃光を走らせている。

 

焼け焦げた提灯の破片がまだ空中を漂い、

赤色灯の光が煙越しに滲むたび、

その場に立つ人影だけが不気味に浮かび上がった。

 

誰も完全には崩れていない。

しかし誰も前へ踏み出せない。

その絶妙な均衡が、戦闘機墜落によって

さらに異様な静けさを帯びながら成立していた。

 

校庭中央では、先ほど八神が乗っていた戦闘機が黒煙を上げ続けている。

 

歪んだ翼。

引き裂かれた尾翼。

機体へ絡みついた大量のワイヤーと、燃え落ちた文化祭横断幕の残骸。

そこから立ち上る熱気が、夜気と混ざりながらゆっくりと校庭全体を揺らしていた。

 

砕けたステージの照明は断続的に火花を散らし、

ショートしたケーブルが青白い閃光を何度も瞬かせるたび、

その場に立つ全員の影が長く伸びては歪み、また煙の中へ消えていく。

 

龍園は肩で息をしながら、なお綾小路を睨んでいた。

制服は裂け、頬には煤と血が混ざっている。

それでもその目だけは最後まで折れていなかった。

 

宝泉も同じだった。

膝を痛め、全身へ煤と火傷痕を刻みながらも、

なお前へ出ようとする獣みたいな圧だけは消えていない。

 

坂柳は崩れた照明機材へ片手を添えたまま静かに立っている。

その白い指先には薄く血が滲んでいたが、

それでも彼女の瞳だけは最後まで盤面を見続けていた。

 

七瀬は荒い呼吸を整えながら壁へ寄りかかり、

天沢はまだ髪へへばり付いたガムテープの粘着痕を不満そうに引っ張っている。

 

そして八神は、煙を上げる戦闘機のコックピット越しに

こちらを見て、小さく笑っていた。

 

誰も勝っていない。

誰も負け切ってもいない。

 

ただ、この夜だけが限界まで壊れ尽くした。

その事実だけが、焼け焦げた学校の空気の中へ重く残っていた。

 

警官隊のライトがさらに強く差し込む。

 

「武器を捨てろ!その場で動くな!」

 

その声はもはや命令ではなく、状況を確定させる宣言に近かったが、

それでもなお、校内側に残る面々の中にはここで終わることを

受け入れきれていない気配が色濃く残っていた。

 

宝泉が最初に動こうとした。

ほんのわずかに重心を前へ寄せる、その動作だけで彼の意志は十分に伝わる。

 

まだ終わらせる気はない。

 

だが、その肩へ今度は七瀬がしっかりと手を置いた。

 

「……もう、いいです」

 

その声はこれまでのどの制止よりも静かで、そして強かった。

 

宝泉は一瞬だけ七瀬を見る。

 

言葉は交わされない。

 

だがその視線のやり取りだけで、

宝泉の中の何かがわずかに収まったのが分かった。

 

完全に諦めたわけではない。

それでもここでこれ以上進めば何も残らないという理解だけは共有された。

 

その一瞬が、この夜の終着点を決定づける。

 

龍園はその様子を見て、鼻で笑った。

 

「ハッ……終局、かよ」

 

悔しさを隠す気はない。

だが同時にその声にはどこか乾いた納得が滲んでおり、

この夜が誰か一人の完全勝利で終わる形ではないことを理解したうえで、

それでも最後まで場に立ち続けたという事実だけは

自分の中で折り合いをつけているような、そんな複雑な響きを帯びていた。

 

その龍園の肩へ、強い光が当たる。

 

警官隊のライトだった。

 

「動くな!そのまま手を上げろ!」

 

数人の警官が一斉に前へ出る。

盾を構え、間合いを詰め、逃げ場を削る。

その動きは無駄がなく、これまで校内で繰り広げられてきた力任せの衝突とは違う、

確実に終わらせるための手順だった。

 

龍園は一瞬だけ視線を左右へ流す。

 

逃げ道はあるか。

突破できるか。

 

だが、その判断はほんの一拍で終わる。

 

「……チッ」

 

舌打ち。

そしてゆっくりと両手を上げた。

完全な降伏ではない。

だが、これ以上抗う意味がないと理解した動きだった。

 

「最初からこうしときゃ楽だったのによ」

 

小さく吐き捨てる。

その言葉に、後ろの警官が一歩踏み込む。

 

龍園はそれ以上動かない。

動けば押さえ込まれると分かっているからだ。

 

それでいい。

 

ここでの終わり方としては、それが龍園翔という人間の限界であり、

同時に矜持でもあった。

 

坂柳は静かに目を伏せた。

 

「ここまで、ですか」

 

その言葉が落ちた直後、彼女の周囲にも警官隊が配置される。

 

橋本と神室が一瞬だけ彼女の方を見る。

 

指示は出ない。

出さない。

 

坂柳は最初から分かっていた。

ここでの最適解は、もう抗わないことだと。

 

「坂柳有栖さんですね」

 

警官の一人が確認する。

 

「はい」

 

迷いなく答える。

その声は普段と変わらない。

むしろ、ここに至ってなお揺らがないことが異様ですらあった。

 

「武器を置いてください」

 

坂柳はゆっくりと拳銃を地面へ置く。

金属音が小さく響く。

その音が、この夜の終わりを象徴するかのように静かに広がる。

 

「残念ですが」

 

彼女は小さく微笑む。

 

「今回は、少しだけ読み違えましたね」

 

誰に向けた言葉でもない。

自分自身への総括だった。

そしてそのまま、何の抵抗もなく警官に両腕を取られる。

 

無理やりではない。

ただ、手順として拘束される。

 

宝泉は最後まで立っていた。

だが、動かなかった。

 

動けなかったのではない。

動かなかった。

それは明確な意思だった。

 

警官隊が距離を詰める。

 

「止まれ!そのまま手を上げろ!」

 

宝泉は答えない。

ただ綾小路の方を見る。

その視線は、戦いの最中と何も変わらない。

だが、その中にあった続きは、もうどこにもない。

 

「……ちっ」

 

短く舌打ちする。

それは悔しさでもあり、納得でもあった。

 

そしてゆっくりと拳を解く。

力が抜ける。

その瞬間、警官が一気に踏み込む。

 

両腕を取られる。

 

だが宝泉は抵抗しない。

ほんのわずかに肩を揺らしただけで、それ以上は動かない。

 

「次は……必ず、潰す」

 

誰に聞かせるでもなく、低く呟く。

それは敗北宣言ではない。

ただ、終わりを認めた上での次への言葉だった。

 

七瀬は深く息を吐いた。

肩の力が抜ける。

張り詰めていたものが、ようやく切れたように。

 

警官が近づく。

 

「君も来なさい」

 

七瀬は素直に頷く。

 

「はい」

 

その返事には、迷いがなかった。

 

任務。

責任。

選択。

 

そのすべてを、彼女は理解している。

 

そして――

 

「……これで、よかったんですよね」

 

小さく呟く。

誰にも聞こえないほどの声で。

だがその言葉は、確かに彼女自身の中で答えを探していた。

 

完全な正解ではない。

だが、最悪でもない。

 

その位置に落ち着いたことを、彼女は受け入れていた。

 

天沢は、最後まで笑っていた。

 

「いやー、本当に面白かったですねぇ」

 

警官が近づく。

 

「動くな」

「動いてませんよ?」

 

軽い調子で両手を上げる。

まるで最初からこうなると分かっていたかのように。

 

その余裕が逆に不気味だった。

 

「でも」

 

天沢は少しだけ顔を傾ける。

 

「もうちょっと続いてもよかったんじゃないですか?」

 

誰に対する言葉でもない。

ただの感想。

それ以上でもそれ以下でもない。

 

警官に腕を取られる。

だが彼女はまったく抵抗しない。

 

むしろ楽しそうに歩き出す。

 

「次は、もっと面白くなりそうですねぇ」

 

その一言が、最後まで軽く響いた。

綾小路はそれを聞いても何も言わない。

 

返す必要がないからだ。

 

もう言葉で決着をつける段階は終わっている。

背後では警官隊が完全に陣形を広げ、校内側へゆっくりと圧をかけ始めていた。

 

盾が前へ出る。

ライトが角度を変える。

数人が武器を構えたまま静かに距離を詰める。

 

暴力ではなく制圧。

 

だがそれは確実に終わらせる力だった。

 

「行くぞ」

 

綾小路が小さく言う。

その声に、堀北がすぐに反応する。

 

「ええ」

 

一之瀬、平田、ひより、軽井沢も続く。

 

誰も振り返らない。

だが、完全に無視しているわけではない。

背後の気配は全員が感じている。

ただ、それでも前へ進むと決めた。

それがこの夜の最後の選択だった。

 

外へ出る。

完全に外へ。

 

足元のコンクリートが校内とは違う冷たさを持っているのが分かる。

 

空気が違う。

音の響き方が違う。

 

それだけで、ここがもう別の場所だと実感できた。

 

数歩進んだところで、堀北がふっと息を吐いた。

 

「……終わったわね」

 

その言葉は確認でもあり、実感でもあった。

 

綾小路は空を見上げる。

煙はまだ残っている。

だが、もう広がってはいない。

火も、制御できる範囲に収まっている。

 

銃声も止まっている。

怒号も、もう聞こえない。

 

「終わったな」

 

短く答える。

その一言には、これまでのすべてが含まれていた。

 

長すぎた夜。

複雑すぎた状況。

噛み合わなかった思惑。

 

崩れ続けた均衡。

 

それでも最後まで立っていた者たち。

そのすべての果てにある、静かな終点。

 

軽井沢が少し遅れて隣へ来る。

まだ顔色は完全には戻っていない。

 

だが、確かに立っている。

 

「……あんた、ほんとに生き残るよね」

 

弱く笑う。

 

綾小路は肩をすくめる。

 

「たまたまだ」

「絶対違うでしょ」

 

そのやり取りは、あまりにも日常的だった。

だがその日常が、逆にこの異常な夜の終わりを強く印象づける。

 

一之瀬は静かに周囲を見渡していた。

平田は深く息を吐き、ようやく肩の力を抜く。

ひよりは少し遅れて座り込むように膝を折り、その場で小さく震えている。

 

誰もが限界だった。

それでもここまで来た。

それだけが事実だった。

 

少し離れた位置で、堀北が綾小路へと静かに視線を向けたその瞬間、

校門の外に広がる夜の空気は、

すでに先ほどまでの喧騒をほとんど失っていたにもかかわらず、

二人の間にはまだ完全には消えきらない緊張の残滓が確かに漂っており、

それは銃撃や爆発の名残ではなく、この夜を通して互いに見せてしまった

本来なら見せる必要のなかった部分が、

まだ言葉にされないままそこに残り続けているからだった。

 

「……ねえ」

 

堀北の声は小さかったが、その一言はやけに重く、

周囲でようやく安堵し始めていた一之瀬たちの呼吸や

警官隊の無線のやり取りとは切り離された、

二人だけの時間を一瞬だけ切り取るような響きを持っていた。

 

「なんだ」

 

綾小路は短く返すが、その声もまた、

これまでの戦闘の最中に見せていた即応的な応答とはわずかに違い、

ほんの僅かにだけ思考を挟んだような間を含んでいた。

 

「もし、最初からやり直せるとしても」

 

堀北はそこまで言って、ほんの一瞬だけ言葉を止める。

 

その沈黙は長くはない。

だがこの夜の長さを知っている者にとっては十分すぎるほどの意味を持つ間であり、

その中には、これまでの判断、選択、犠牲になりかけたもの、

守れたもの、守れなかったかもしれないもの、

そのすべてを一度だけ振り返る時間が詰め込まれていた。

 

それでも彼女は視線を逸らさない。

 

綾小路から目を外さない。

逃げない。

そのまま続ける。

 

「同じこと、するの?」

 

問いは単純だった。

だが、その中身は決して軽くない。

 

それはこの夜の是非を問うものではなく、

この夜に至るまでの綾小路清隆という存在そのものの在り方を、

遠回しに確認する問いだった。

 

綾小路はすぐには答えない。

ほんのわずかだけ視線を上げる。

 

夜空を見る。

 

煙はもうほとんど流れている。

 

さきほどまで空を覆っていた赤と白の混ざった光も、

いまは警官車両の点滅だけが規則的に繰り返されているだけで、

あの異常な輝きは消えていた。

 

静かだ。

あまりにも静かだ。

 

それが逆に、この夜がどれほど異常だったのかを強く際立たせる。

 

綾小路は視線を戻す。

考える時間は長くない。

だが考えていないわけでもない。

選択肢を並べているわけではない。

 

すでに答えはある。

 

ただ、それをどう言葉にするかだけを一瞬だけ選んでいる。

 

「同じにはならない」

 

その言葉は否定の形を取っていたが、

そこに含まれている意味は単純な後悔ではなかった。

 

やり直せば違う結果になる、ではなく――

 

やり直したとしても、同じ状況にはならない。

 

同じ人間関係にはならない。

同じ選択肢にはならない。

 

だから、同じことをするという前提自体が成立しない。

そういう意味を含んだ、極めて綾小路らしい答えだった。

堀北はその返答を聞いて、すぐには言葉を返さなかった。

ただ小さく息を吐き、視線をほんの僅かだけ外してから、再び綾小路へ戻す。

 

「そう」

 

その一言は、納得とも諦めとも取れる曖昧な響きを持っていたが、

少なくともそれ以上を追及する意思がないことだけははっきりしていた。

 

それは彼女が答えに満足したからではない。

 

むしろ、その答えが綾小路清隆という人間にとって最も正しい形だと

理解してしまったからこそ、それ以上聞く意味がないと判断した結果だった。

 

「……でも」

 

堀北が小さく続ける。

今度は少しだけ声が柔らかい。

 

「今回は、あれでよかったんじゃないかしら」

 

それは評価ではない。

肯定でもない。

 

ただ、この夜を通して自分たちが辿った経路を、無理に否定しないという選択だった。

 

綾小路はわずかに肩をすくめる。

 

「どうだろうな」

 

曖昧な返答。

 

だが否定はしない。

 

そのやり取りの間に、遠くで誰かが名前を呼ぶ声がする。

警官隊の指示、救護班の呼びかけ、事情聴取の準備――。

 

崩壊した学校を事件現場として処理していく現実の音が、

ようやくこの長すぎた夜を終わらせようとしていた。

 

だが、その瞬間だった。

 

「――うおおおおおぉぉぉぉッ!!」

 

突如、獣のような咆哮が校門前へ炸裂した。

 

全員の視線が弾かれる。

 

そこには、警官二人に押さえ込まれていたはずの宝泉和臣がいた。

 

「なっ――!」

 

警官の一人が叫ぶ。

 

だが遅い。

 

宝泉は拘束された腕を力任せに振り払い、

その勢いのまま肩から警官へ体当たりを叩き込み、

バランスを崩した相手の腰から拳銃を強引にもぎ取った。

 

「宝泉くん!?」

 

七瀬が叫ぶ。

 

だが宝泉は止まらない。

 

額から血を流し、息を荒げ、

それでもその目だけは最後まで綾小路清隆だけを捉えていた。

 

「死ねぇッ!!綾小路ィィィッッ……!!」

 

咆哮。

 

宝泉は奪った拳銃を真正面から綾小路へ向け、

ほとんど狙いを定める間もなく引き金を引いた。

 

乾いた発砲音。

 

一発。

二発。

三発。

 

乱射。

 

警官隊が一斉に怒号を飛ばす。

 

「伏せろ!」

 

綾小路は即座に堀北を引き寄せる。

弾丸が地面を弾き、コンクリート片が火花とともに跳ね上がる。

 

さらに次弾。

 

今度は近い。

 

宝泉はもうまともな照準などしていない。

 

執念だけで撃っている。

だが、その執念こそが危険だった。

 

「っ……!」

 

堀北が息を呑む。

 

その瞬間だった。

 

別方向から、今度はマシンガン特有の乾いた連続音が夜気を切り裂いた。

 

高回転の掃射。

 

赤い銃口炎が断続的に明滅する。

 

宝泉の身体が大きく揺れた。

 

一発ではない。

 

連続して叩き込まれる衝撃によって、その巨体が後方へ押し戻される。

 

撃ったのは――

 

一之瀬帆波だった。

 

彼女は無言でマシンガンを構え、震える腕で必死に引き金を握り続けている。

 

それでも撃つ。

 

宝泉の身体がさらに後退する。

 

拳銃が手から落ちる。

 

膝が折れる。

 

それでも宝泉は前へ出ようとした。

 

執念だけで。

 

だが、もう身体が動かない。

 

最後に一度だけ綾小路を見る。

 

その視線には、怒りでも憎しみでもなく、どこか満足したような熱だけが残っていた。

 

「……つぁ……」

 

小さな笑い声。

 

次の瞬間、宝泉の巨体がゆっくりと後方へ崩れ落ちる。

 

地面が鈍く揺れる。

 

今度こそ、完全に動かない。

 

校門前が静まり返った。

 

銃声も。

怒号も。

 

誰も、すぐには声を出せなかった。

 

一之瀬はマシンガンを握ったまま立ち尽くしている。

 

「……」

 

呼吸が乱れている。

 

撃った本人が、一番信じられていないような顔だった。

 

綾小路はそんな一之瀬を見つめる。

 

だが何も言わない。

 

言葉にできる状況ではなかった。

 

やがて、遠くで再び無線の声が響く。

 

救護班が走る音。

警官隊の指示。

 

現実の処理が、もう一度ゆっくりと動き始める。

 

そしてようやく――

 

校門前には、本当の意味で静寂と安堵が戻り始めていた。

 

夜は終わった。

 

本当に、完全に。

 

戦いも、試験も、あの異常な時間も。

 

すべてが、現実の中へ回収されていく。

 

堀北は最後にもう一度だけ空を見上げる。

 

綾小路もつられるように視線を上げる。

 

星はほとんど見えない。

 

だが、煙は消えている。

 

この夜は終わったのだと実感できる程度には、静けさが戻っていた。

 

二人はそれ以上言葉を交わさない。

 

交わす必要がないからだ。

 

この夜に必要な会話は、もうすべて終わっている。

 

そして――

 

高度育成高等学校の長すぎた一夜は、ようやく本当の意味で幕を下ろした。

 

第一部 完

 




■あとがき
第一部、完結です。
この作品も僕が大好きな爆発描写やアクションをふんだんに盛り込みました。
初期プロットではほとんどアクションシーンがない感じで
天沢や七瀬、好戦的な龍園な宝泉とも戦闘シーンはほとんどありませんでした。
加えて、文化祭という舞台なのにそれを活かすシーンも皆無に等しく、
これは読んでても面白くないなと思い、加筆修正を繰り返して完成させました。
個人的にはアルベルトのミシンのシーンは痛ましくて可哀想で結構好きです。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

明日からは第二部である「ザ・ガンスリンガー・マスターピース」を投稿します。
なんと衣笠先生の代表作である「暁の護衛」とのクロスオーバーです。
主に朝霧海斗、二階堂麗華、宮川尊徳、海斗の父の雅樹が活躍します。
とにかく大好きな海斗を描くのが楽しくて、夢中になって書きました。
最強主人公同士のバディものであり、原作を知らない方でも楽しめます。
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