ザ・ダイハード・マスターピース 作:EXTERMINATION
中央搬送路は、これまでの区画よりも明らかに広かった。
人や物資を運ぶための通路なのだろう。
床には古いレールのような溝が走り、
壁際には使われなくなった搬送用カートがいくつも放置されていた。
天井は高い。
照明は一部が切れかかっている。
白い光と暗闇が交互に落ちるその空間は、
まるで巨大な獣の喉の中のようだった。
綾小路清隆は足を止めた。
前方に人影はない。
だが、誰もいないわけではなかった。
空気が違う。
第三区画の居住ブロックにあった混乱とは違う、
明確な敵意が通路全体に満ちていた。
「いるな」
朝霧海斗が言った。
「複数だ」
綾小路は短く答えた。
「退学者か?」
「おそらく」
綾小路は周囲を確認した。
左右に分岐通路。
上部には点検用のキャットウォーク。
搬送カートの陰。
非常用シャッター。
待ち伏せには十分すぎる構造だった。
月城がわざわざこの場所を龍園に任せた理由も分かる。
ここは正面から通る者を狩るには最適な場所だ。
「どうする」
海斗が尋ねる。
「普通に進めば撃たれる」
「なら撃たれる前に撃つか」
「相手の配置が分からない」
「じゃあ炙り出す」
海斗は床に転がっていた空の薬莢を拾い、前方へ投げた。
金属音が通路に響く。
次の瞬間、暗闇の奥から銃声が鳴った。
薬莢の落ちた場所に弾丸が集中する。
乾いた破裂音。
壁から火花が散る。
海斗は口笛を吹いた。
「やる気満々じゃねぇか」
「素人ではないな」
綾小路は言った。
第三区画の退学者たちは恐怖で撃っていた。
だが今の射撃は違う。
正確ではないにしても、狙いがある。
撃つ位置を分け、こちらの動きを制限する意図があった。
龍園が指揮している可能性が高い。
「歓迎の挨拶にしては派手だな」
海斗が言う。
「龍園らしい」
「お前、あいつに何したんだよ」
「少し勝っただけだ」
「少しでこれか」
海斗は笑った。
「よっぽど根に持たれてるな」
綾小路は否定しなかった。
龍園翔という男は、敗北を簡単には忘れない。
暴力で支配し、恐怖で人を動かす。
だが、ただの粗暴な男ではない。
負けた相手を認め、そのうえで噛みつく。
龍園の厄介さは、そこにある。
一度折れても、完全には折れない。
むしろ、折れた場所から別の形で牙を伸ばす。
前方のスピーカーが鳴った。
『よう、綾小路』
龍園の声だった。
通路全体に響く低い笑い声。
『随分と遅かったじゃねぇか。待ちくたびれたぜ』
綾小路は前方の暗闇を見た。
「堀北たちはどこだ」
『クク……相変わらず淡白だな。久しぶりに再会したんだ。少しくらい感動しろよ』
「必要ない」
『そういうところが気に入らねぇんだよ』
龍園の声に、わずかな怒りが滲んだ。
『てめぇはいつもそうだ。人を見下してるわけでもねぇ。怒ってるわけでもねぇ。
ただ、何も感じてねぇみたいな顔で全部を踏み越えていく』
綾小路は黙っていた。
『俺の暴力も、策も、プライドも、全部な』
海斗は横目で綾小路を見る。
「本当に嫌われてるな」
「好かれる理由はない」
「だろうな」
海斗は楽しそうに笑った。
スピーカーの向こうで、龍園も笑った。
『そっちの男が朝霧海斗か』
海斗が顔を上げる。
「ああ」
『クク……お前も大概イカれてるらしいな』
「初対面で褒めんなよ」
『褒めてねぇよ』
龍園の声が低くなる。
『だが、月城がわざわざ呼び込むだけのことはあるんだろうな』
「試してみるか?」
『そのために待ってたんだよ』
その瞬間、通路の奥で照明が一斉に点いた。
暗闇の中に、武装した退学者たちが姿を現す。
数は十数人。
第三区画の居住ブロックにいた者たちより明らかに装備が良い。
拳銃だけではない。
H&K MP5サブマシンガン。
M870、M31ショットガン。
M16A1のアサルトライフル。
全員が慣れているわけではない。
だが、少なくとも撃つ覚悟はできている。
その奥。
搬送カートの上に腰掛けるようにして、龍園翔がいた。
片手には拳銃。
もう片方の手には通信機。
彼は楽しそうに笑っていた。
だが、その笑みは前よりも暗かった。
「あいつが龍園か」
海斗が言った。
「そうだ」
綾小路は答える。
龍園はゆっくりと立ち上がった。
「ようやく会えたな、綾小路」
「道を開けろ」
「断る」
龍園は即答した。
「ここを通りたきゃ、俺を潰していけ」
「そうなるだろうな」
「クク……いいねぇ。そのつまらねぇ答えも、今は笑える」
龍園は銃口をこちらへ向けた。
「撃て」
その一言で、退学者たちが一斉に引き金を引いた。
銃声が通路を埋め尽くす。
綾小路と海斗は同時に左右へ飛んだ。
弾丸が二人のいた場所を通り過ぎ、背後の壁を砕く。
綾小路は搬送カートの陰へ滑り込む。
海斗は反対側の柱を蹴り、鉄製コンテナの裏へ転がった。
「派手だな!」
海斗が叫ぶ。
「相手の射線は三方向」
綾小路は冷静に言った。
「上にもいる」
海斗が見上げる。
キャットウォークの上に二人。
ライフルを構えている。
「じゃあ上から落とすか」
海斗は床に転がっていた空の消火器を掴み、思い切り投げた。
消火器は弧を描いてキャットウォークへ飛ぶ。
退学者の一人が反射的に撃つ。
弾が消火器を貫く。
白い粉末が爆発するように撒き散らされた。
視界が白く染まる。
その瞬間、綾小路が動いた。
カートの陰から飛び出し、壁際の梯子へ一気に駆ける。
上の退学者が銃口を向けるより早く、
綾小路は梯子を数段飛ばしで上がり、キャットウォークへ到達した。
一人目の銃身を掴み、外側へ逸らす。
発砲。
弾丸は天井へ吸い込まれる。
同時に膝を相手の腹へ入れ、呼吸を止める。
二人目が銃を構える。
綾小路は一人目の身体を盾にするように動き、相手の足元へ踏み込んだ。
手首を取る。
銃が落ちる。
肘を支点にして体勢を崩す。
キャットウォークの床へ倒す。
海斗は下からその様子を見ていた。
「無駄がねぇな」
そう呟きながら、自分も動く。
退学者三人が海斗へ銃口を向けていた。
海斗はコンテナの陰から低く飛び出した。
一人目の膝を撃つ。
倒れる。
二人目が驚いて発砲する。
海斗は身体を捻り、弾丸を避ける。
完全には避けきれず、頬をかすめた。
血が一筋流れる。
海斗は笑った。
「惜しいな」
次の瞬間、距離を詰める。
拳銃の銃身を相手の手から叩き落とし、肘を顎の下へ入れる。
倒れた相手を踏み越え、三人目の懐へ入る。
相手が引き金を引く前に、海斗は銃口を上へ逸らした。
発砲音。
天井の照明が砕ける。
海斗はそのまま相手の腕を捻り、肩を外しかける位置で止めた。
「寝てろ」
膝蹴り。
相手が崩れ落ちる。
龍園はその光景を見ていた。
笑みを浮かべたまま。
だが、その目は細くなっていた。
「なるほどな」
龍園は呟く。
「確かに化け物だ」
通信機を手に取る。
「第二班、出ろ」
通路の側面シャッターが開いた。
そこからさらに退学者たちが現れる。
今度は盾を持っている。
簡易的な防弾シールド。
その後ろから銃口が突き出る。
「面倒なのが来たぞ」
海斗が言った。
「正面からは厳しい」
綾小路はキャットウォークから飛び降りる。
着地と同時に身を低くし、遮蔽物の裏へ戻った。
「上の配電盤を落とす」
「どれだ」
「右奥」
海斗はそちらを見る。
配電盤は鉄格子の奥にある。
簡単には撃ち抜けない。
「角度が悪い」
「なら近づく」
「正面は盾持ちだぞ」
「分かっている」
綾小路は動き出した。
海斗はそれに合わせて反対側から飛び出す。
二人は同時に別方向へ散った。
退学者たちの銃口が迷う。
綾小路か。
海斗か。
どちらを撃つべきか。
その一瞬の迷いが、二人には十分だった。
海斗が先に発砲する。
狙うのは人ではない。
床に落ちていた金属製カートの車輪。
弾丸が当たり、カートが傾く。
海斗はそこへ蹴りを入れた。
カートが通路を滑るように走り、盾持ちの集団へ突っ込む。
退学者たちの陣形が崩れた。
綾小路はその隙に横を抜け、配電盤へ近づく。
一人が気付いて銃を向ける。
だが、綾小路は既に相手の射線の内側にいた。
手首を押さえる。
銃口を下へ向ける。
足を払う。
相手が倒れると同時に、綾小路は配電盤のカバーを開けた。
配線を確認。
短絡。
火花が散る。
通路の照明が半分落ちた。
非常灯だけが赤く点滅する。
視界が不安定になる。
「暗くなったな」
海斗が言った。
「お前の方が戦いやすいだろう」
「分かってるじゃねぇか」
暗闇の中、海斗が動く。
退学者たちは視界を失って銃を乱射した。
弾丸が壁を削る。
だが、海斗は音で位置を捉えているようだった。
一人。
二人。
三人。
次々に無力化する。
殺さない。
だが、確実に戦闘不能にする。
綾小路も同じだった。
暗闇の中で、相手の呼吸、足音、
銃の金属音を拾いながら最短距離で武器を奪う。
龍園は奥で笑っていた。
「いいねぇ」
その声は銃声の中でも妙にはっきり聞こえた。
「やっぱりてめぇはそうじゃねぇとな、綾小路」
綾小路は答えない。
龍園は続ける。
「だが、そっちの男も面白ぇ」
海斗が退学者の一人を柱に叩きつける。
それを見た龍園の目が、一瞬だけ揺れた。
海斗の動きは綾小路とは違う。
荒い。
乱暴。
予測不能。
だが、相手を見ている。
必要以上に壊さない。
こちらの攻撃を読み、最短で制圧する。
その根底にあるものが、龍園には不快だった。
「チッ……」
龍園は舌打ちした。
海斗が振り向く。
「何だよ」
「お前を見てるとムカつく野郎を思い出す」
「綾小路か?」
「分かってんじゃねぇか」
龍園は笑った。
「似てねぇのにな。全然似てねぇ。なのに、同じ匂いがしやがる」
海斗は少しだけ目を細めた。
「そりゃ光栄だな」
「褒めてねぇ」
「さっきからそればっかだな」
海斗は拳銃を構えた。
龍園も銃を構える。
一瞬、二人の視線がぶつかった。
だが、その間に綾小路が割って入ることはなかった。
綾小路は理解していた。
龍園は自分を狙っている。
だが同時に、海斗にも反応している。
朝霧海斗という存在を通して、龍園は綾小路とは別の完成形を見ている。
それが、さらに彼の苛立ちを刺激しているのだろう。
「龍園」
綾小路が言った。
「道を開けろ。これ以上続けても、お前の手駒が減るだけだ」
「手駒?」
龍園は笑った。
「こいつらは手駒なんかじゃねぇよ」
倒れている退学者たちを見る。
「ここで腐ってた連中だ。外にも戻れず、ここで飼われて、
月城に餌をちらつかされて尻尾振るしかねぇ連中」
退学者の何人かが顔を歪める。
龍園は構わず続けた。
「だがな、綾小路。そいつらにも牙くらいはある」
龍園の声が低くなる。
「てめぇみたいな完成品には分かんねぇだろうがな」
「お前は彼らのために戦っているのか」
綾小路が尋ねた。
龍園は一瞬沈黙した。
そして、笑った。
「まさか」
その笑いは冷たかった。
「俺は俺のために戦ってる。こいつらも同じだ」
「そうか」
「だがな、ここにいる連中は全員、何かに負けた奴らだ」
龍園は銃口を綾小路へ向ける。
「だからこそ、てめぇみたいな負けを知らねぇ奴が気に食わねぇんだよ」
綾小路は静かに見返した。
「オレも負けたことはある」
「その顔で言うな」
龍園の声に怒りが混じる。
「てめぇの負けは負けじゃねぇ。全部、次のための計算に見える」
それは龍園なりの理解だった。
正しい部分もある。
間違っている部分もある。
だが、龍園にとってはどうでもいい。
彼は理屈で綾小路を憎んでいるのではない。
存在そのものが気に入らないのだ。
「龍園」
海斗が言った。
龍園が視線を動かす。
「お前、面倒くせぇな」
一瞬、通路の空気が止まった。
龍園の口元が引きつる。
「何だと?」
「綾小路が嫌いなら嫌いでいいだろ。ごちゃごちゃ言ってねぇで撃てばいい」
「クク……」
龍園は笑った。
「てめぇ、いい性格してるな」
「よく言われる」
「ますますムカつく」
龍園は通信機を床に落とした。
そして踏み潰す。
同時に、周囲の退学者たちへ手を上げた。
「下がれ」
退学者たちが戸惑う。
「聞こえなかったのか」
龍園の声が低くなる。
「下がれって言ってんだよ」
その一言で、退学者たちは後退した。
龍園の支配力はまだ生きている。
恐怖だけではない。
彼の持つ圧が、退学者たちを従わせていた。
「ここからは俺がやる」
龍園は拳銃を投げ捨てた。
海斗が眉を上げる。
「撃たねぇのか」
「銃で終わらせてもつまんねぇだろ」
龍園はナイフを抜いた。
短い刃。
実用的な形。
「綾小路。てめぇは最後だ」
「最後?」
「まずはそっちの朝霧からだ」
海斗の口角が上がった。
「オレか」
「てめぇを潰せば、綾小路の顔が少しは動くかもしれねぇからな」
「残念だが、こいつそんなに情が深そうに見えねぇぞ」
「だから試すんだよ」
龍園は踏み込んだ。
速い。
銃撃戦の後とは思えない鋭さだった。
海斗は拳銃を下げ、あえて撃たなかった。
龍園のナイフが横へ流れる。
海斗は半歩下がって避ける。
刃が服をかすめる。
海斗は拳を入れようとする。
龍園はそれを読んでいた。
体勢を低くし、海斗の懐へ潜る。
肘。
膝。
ナイフ。
龍園の攻撃は荒いようでいて、狙いはえげつない。
急所。
関節。
視界。
呼吸。
人を倒すための場所だけを狙ってくる。
海斗は笑った。
「いいな」
「余裕ぶってんじゃねぇぞ」
龍園が低く吐き捨てる。
海斗の拳が伸びる。
龍園は腕で受けた。
重い衝撃。
龍園の腕が痺れる。
だが、そのまま距離を詰める。
ナイフの柄で海斗の脇腹を打つ。
海斗はわずかに顔をしかめた。
「痛ぇな」
「痛くしてんだよ」
龍園はさらに踏み込む。
海斗は蹴りで距離を作る。
龍園はそれを腕で受け、床を滑るように後退した。
二人の間に距離が生まれる。
綾小路はそれを見ていた。
介入はしない。
今のところ、海斗が劣勢ではない。
だが龍園は単純な相手ではない。
一対一の戦闘能力なら海斗の方が上だろう。
しかし龍園は、相手の感情を揺さぶる。
相手の判断を汚す。
そこに隙を作る。
「朝霧」
龍園が言った。
「麗華って女、今頃どうしてるだろうな」
海斗の目がわずかに変わった。
龍園はそれを見逃さない。
「人質管理区画ってのは、名前だけは綺麗だがな。
月城が本気で使えば、どうなるか分かんねぇぞ」
海斗は黙る。
「助けるんだろ?なら急がねぇとな」
龍園が笑う。
「だが、ここで俺に構ってる時間はあるのか?」
挑発。
海斗を焦らせるための言葉。
綾小路は海斗の反応を見た。
海斗は一瞬だけ沈黙し、それから笑った。
「お前、思ったより喋るな」
「何?」
「焦らせたいなら、もっと上手くやれ」
海斗は一歩前へ出た。
「麗華は助ける。お前も倒す。順番は今決めた」
龍園の笑みが深くなる。
「気に入らねぇ」
二人が再びぶつかった。
今度はさらに速い。
ナイフが光る。
拳が唸る。
足音が通路に響く。
龍園は海斗を綾小路と重ねていた。
似ていない。
何もかも違う。
綾小路は静かに潰す。
海斗は正面から壊す。
だが、どちらも自分の中に入ってくる。
暴力でも、恐怖でも、言葉でも揺らしきれない何かがある。
その事実が龍園を苛立たせた。
「何でだよ」
龍園が呟く。
海斗の拳を避けながら、ナイフを振る。
「何でてめぇらは、そういう顔で立ってやがる」
海斗は答えない。
龍園は続ける。
「てめぇも綾小路も、全部見透かしたような顔しやがって」
「見透かしてねぇよ」
海斗は言った。
「オレはそこまで賢くねぇ」
「嘘つけ」
「本当だ」
海斗の拳が龍園の肩を打つ。
龍園が後退する。
「ただ、分かることはある」
「あ?」
「お前はまだ折れてねぇ」
龍園の目が鋭くなる。
海斗は続けた。
「折れてねぇから、こんな場所で吠えてる」
一瞬。
龍園の動きが止まった。
それはほんのわずかな時間だった。
だが、海斗は見逃さない。
踏み込む。
拳が龍園の腹に入る。
重い音。
龍園の身体がくの字に折れる。
それでも倒れない。
龍園は歯を食いしばり、海斗の腕を掴んだ。
「言ってくれるじゃねぇか」
龍園は笑っていた。
血が口元から滲んでいる。
「そうだよ。俺はまだ折れてねぇ」
ナイフが海斗の肩をかすめる。
血が飛ぶ。
「折れてねぇから、てめぇらを噛み砕きに来たんだよ!」
龍園の動きが変わった。
捨て身。
防御を捨て、攻撃だけに集中する。
海斗は後退する。
ナイフが連続で迫る。
一撃でも深く入れば危険だ。
綾小路はわずかに足を動かした。
だが、その瞬間、通路の奥から別の銃声が鳴った。
弾丸が綾小路の足元を撃つ。
退学者の一人が、まだ銃を構えていた。
龍園が笑う。
「言っただろ。こいつらにも牙はあるってな」
綾小路は銃弾を避け、退学者の位置を確認する。
隠れていた残党。
海斗と龍園の戦いに集中した隙を狙った。
合理的だ。
龍園の指示か。
あるいは退学者自身の判断か。
どちらにせよ、戦いはまだ終わっていない。
退学者たちが再び動き始めた。
数は少ない。
だが、今度は龍園の戦いに合わせて撃ってくる。
綾小路を足止めするために。
海斗を孤立させるために。
「面倒なことになったな」
海斗が言った。
龍園が笑う。
「ここからだろ」
龍園はナイフを構え直した。
その目は、復讐だけではなく、戦う喜びにも燃えていた。
綾小路は拳銃を構える。
だが、撃つべき相手は多い。
海斗は肩から血を流しながら、龍園と向き合う。
中央搬送路の奥では、非常灯が赤く点滅していた。
まるで、戦いを煽るように。
龍園が低く言った。
「来いよ、朝霧」
そして、視線だけを綾小路へ向ける。
「その次はてめぇだ、綾小路」
綾小路は静かに答えた。
「好きにしろ」
海斗は笑った。
「じゃあ、先に片付けるか」
復讐の牙が、白銀の闇の中で剥き出しになる。
龍園翔は、まだ終わっていなかった。
そしてその執念は、綾小路清隆だけでなく、
朝霧海斗というもう一人の完成形へも向けられ始めていた。
モチベ維持のために感想・評価をもらえると幸いです。