ザ・ダイハード・マスターピース 作:EXTERMINATION
最初の銃声は、白銀禁止区域の奥で短く響いた。
それは戦闘の始まりを告げる音ではなかった。
すでに戦いは始まっていた。
龍園翔は倒れた。
宝泉和臣も突破された。
坂柳有栖は盤面を組み替えた。
堀北鈴音は朝霧海斗の隣にいる。
二階堂麗華は綾小路清隆の隣にいる。
守るべき相手は入れ替わった。
だが、それでも二人の主人公が選ぶ答えは変わらなかった。
生きて合流する。
それだけだった。
赤い非常灯が点滅する補助発電区画で、
海斗はマシンガンを構えたまま通路の先を見据えていた。
背後には堀北がいる。
右足首に痺れが残っているせいで、彼女の歩幅は普段よりわずかに小さい。
本人は隠しているつもりだった。
だが海斗は見抜いていた。
「無理に歩幅を合わせるな」
海斗は前を向いたまま言った。
「合わせていないわ」
「右足を庇っている」
「観察力が嫌になるわね」
「走る時に転ぶ方が困る」
堀北は軽く息を吐いた。
「綾小路くんみたいな言い方をするのね」
「それは不本意だ」
「本人が聞いたら、同じことを言いそう」
海斗は答えなかった。
通路の奥で、退学者たちの影が動いた。
三人。
いや、奥にもう二人いる。
銃を構えている。
狭い通路。
遮蔽物は少ない。
堀北を背後に置いたまま接近戦に持ち込めば、
流れ弾が彼女へ向かう危険がある。
ならば、近づかせない。
海斗はマシンガンを構えた。
だが、撃つためではない。
相手に撃たせないためだった。
銃口が向いただけで、退学者たちの足が止まる。
それで十分だった。
「下がれ」
海斗が低く言った。
退学者たちは笑った。
「脅しかよ」
「弾が入ってるかも分からねえだろ」
その瞬間、海斗は天井の照明へ一発だけ撃った。
光が弾ける。
通路が一瞬だけ暗くなる。
退学者たちの視界が揺れる。
堀北はその一瞬で理解した。
海斗は人を狙っていない。
だが、空間そのものを制圧している。
暗闇。
音。
火花。
それらで相手の判断を奪っている。
「走れるか」
海斗が言った。
「必要なら」
「今だ」
海斗が前へ出る。
堀北も続いた。
退学者たちが慌てて銃口を向ける。
だが遅い。
海斗は照明の落ちた暗がりを利用し、壁際を滑るように進む。
一人目の手首を打つ。
銃が落ちる。
二人目が後退する。
海斗は追わない。
代わりに銃口を床へ向け、足元の金属板を撃って跳ねさせた。
甲高い音。
火花。
退学者の視線が落ちる。
その隙に堀北が動いた。
壁に固定されていた消火器の留め具を外し、床へ転がす。
消火器は通路の中央を転がり、退学者の足元で止まった。
海斗はそれを撃たなかった。
撃てば危険が増す。
代わりに、足で蹴った金属片を消火器へ当てた。
消火器が横倒しになり、白い粉末を噴き出す。
視界が奪われる。
退学者たちは混乱した。
その中を、海斗は堀北の腕を軽く引いて突破する。
堀北はその手を振り払わなかった。
今は意地を張る場面ではないと分かっていた。
「あなた、撃つより撃たせない方が上手いのね」
堀北が走りながら言った。
「守るなら、その方がいい」
「合理的ね」
「そうでもない」
「どうして?」
海斗は短く答えた。
「合理的なら、お前を置いて進む選択肢もある」
堀北は一瞬だけ言葉を失った。
だがすぐに、前を向いた。
「置いていかないのね」
「麗華に怒られる」
「二階堂さんに?」
「ああ」
堀北は少しだけ笑った。
「あなたの行動原理、案外分かりやすいわね」
「よく言われる」
「綾小路くんとはそこが違う」
その言葉に、海斗は答えなかった。
一方、中央制御区画へ続く連絡通路では、
綾小路清隆がショットガンを手に進んでいた。
背後には二階堂麗華がいる。
麗華は足首の痛みをこらえながら、壁沿いに歩いていた。
綾小路は彼女の歩行速度に合わせている。
ただし、海斗のように声をかけ続けることはない。
必要な時だけ言う。
それ以外は、沈黙。
その沈黙が、麗華には少し怖かった。
だが同時に、頼もしくもあった。
「ねえ」
麗華が小さく声をかけた。
「何だ」
「あなた、海斗のことをどう思ってるの?」
「今聞く必要があるか?」
「ある」
綾小路は通路の角で足を止めた。
先を確認する。
敵影はない。
だが、監視カメラはある。
彼は床に落ちていた布切れを拾い、カメラへ投げた。
視界が塞がる。
そのまま進む。
「朝霧海斗は有能だ」
綾小路は言った。
「それだけ?」
「それ以上を言う必要があるか?」
「ある」
麗華の声が少し強くなった。
綾小路は一瞬だけ彼女を見た。
「海斗は、お前を守ることに関しては判断を誤る可能性がある」
麗華の表情が揺れた。
「それって、弱いってこと?」
「弱点だ」
綾小路は続けた。
「だが、その弱点があるからここまで来た」
麗華は黙った。
その言葉は冷静だった。
だが、海斗を否定してはいなかった。
むしろ、認めているようにも聞こえた。
「あなたには、そういう弱点はないの?」
麗華が聞いた。
「ない方がいい」
「答えになってない」
「なら、ないと思っておけばいい」
麗華は小さく息を吐いた。
「分かりにくい人」
「よく言われる」
その時、通路の奥で扉が開いた。
退学者が四人。
うち二人は銃を持ち、一人は防弾盾のようなものを構えている。
もう一人は端末を持っていた。
坂柳の指示役か。
綾小路は即座に状況を把握した。
狭い通路。
退学者の配置。
盾持ちが前。
銃持ちが後ろ。
端末持ちはさらに奥。
正面から進めば足止めされる。
麗華を連れている以上、長引かせるのは危険。
綾小路はショットガンを構えた。
麗華が息を呑む。
だが、綾小路は人へ向けて撃たなかった。
天井の配管。
一発。
轟音が通路を震わせた。
配管が破裂し、白い蒸気が噴き出す。
退学者たちの視界が塞がる。
盾持ちが怯む。
綾小路はその一瞬で前へ出た。
ショットガンの存在感で相手の進路を止める。
そして、撃たずに距離を詰める。
盾持ちの足を払う。
盾が傾く。
後ろの銃持ちの射線が塞がる。
綾小路は盾を押し込み、退学者たちを通路の壁へまとめて押し込んだ。
二人目の銃を奪う。
弾倉を抜く。
三人目の肘を取る。
端末持ちが逃げようとする。
麗華が反射的に声を上げた。
「右!」
綾小路は見ていた。
だが、その声で端末持ちの意識が麗華へ向いた。
それが隙になった。
綾小路は床に落ちた弾倉を蹴る。
弾倉が端末持ちの足元に当たり、相手がよろける。
綾小路は一気に詰め、端末を奪った。
戦闘は終わった。
麗華は心臓の鼓動がまだ速いまま、綾小路を見た。
「今の、私の声って邪魔だった?」
「結果的には役に立った」
「結果的には?」
「意図していなかったなら、次は控えろ」
「……はい」
麗華は素直に頷いた。
少しだけ悔しかった。
海斗なら、ありがとうと言ってくれたかもしれない。
だが、綾小路の言葉は厳しい分、正確だった。
今の自分は守られる側だ。
だが、ただ黙っているだけではいられない。
それでも、動くなら考えなければならない。
麗華は深く息を吸った。
「次は、ちゃんと考えて言う」
「そうしろ」
綾小路は奪った端末を見た。
そこには施設内部の簡易マップが表示されていた。
ただし、すべてではない。
一部の通路は黒塗り。
一部の扉はロック状態。
そして、二つの点が表示されている。
青い点。
赤い点。
青い点は自分たち。
赤い点は、海斗と堀北だろう。
二つの点は、別々の通路から同じ大広間へ向かっている。
「合流地点が見えた」
綾小路が言った。
麗華の表情が明るくなる。
「海斗たちと会えるの?」
「罠の可能性が高い」
「……そうだよね」
「だが、坂柳は合流させるつもりだ」
「どうして?」
綾小路は端末を閉じた。
「合流させた後で崩す方が、効果的だからだ」
その頃、海斗と堀北も補助発電区画を抜け、
古い搬送エレベーターの前に到達していた。
エレベーターは停止している。
扉は半分だけ開いている。
内部は暗い。
上へ続くワイヤーが見える。
堀北は顔をしかめた。
「これ、使えるの?」
「使えない」
「じゃあどうするの?」
「昇る」
「本気?」
「本気だ」
堀北は上を見た。
暗い縦穴。
途中にメンテナンス用の梯子がある。
ただし、かなり古く、ところどころ歪んでいる。
右足に痺れが残る堀北には厳しい。
「あなた一人なら行けるでしょうけど、私は時間がかかるわ」
「分かっている」
海斗はマシンガンを背中に回し、エレベーター内部へ入った。
「先にお前を上げる」
「私を?」
「梯子を途中まで登れ。落ちそうになったら支える」
「簡単に言うわね」
「難しく言っても変わらない」
堀北はため息をついた。
「本当に綾小路くんと似ているわ」
「だから違うと言っている」
「似ていると言われるの、そんなに嫌?」
「嫌ではない」
海斗は少しだけ間を置いた。
「同じだと思われるのが違うだけだ」
堀北はその言葉を聞き、梯子に手をかけた。
「なら、証明して」
「何をだ」
「あなたが、綾小路くんとは違うってことを」
海斗は一瞬だけ堀北を見た。
そして、静かに答えた。
「もうしている」
堀北は何も言わずに梯子を登り始めた。
足が痛む。
だが、止まらない。
海斗は下から支えながら、周囲を警戒していた。
その時、下の扉が開いた。
退学者たちが追ってきた。
海斗は顔を上げた。
堀北はまだ途中。
落ちれば危険。
海斗はマシンガンを手に取り、下へ向けた。
退学者たちが止まる。
縦穴の中で銃声が響けば反響する。
危険も大きい。
海斗は撃たない。
だが、銃口の向きだけで相手を止める。
「堀北、止まるな」
「分かってる」
「上に着いたら、右の非常扉を開けろ」
「あなたは?」
「後から行く」
「またそれ?」
「今度は本当だ」
堀北は歯を食いしばり、梯子を登った。
海斗は下を見据えた。
退学者の一人が銃を構える。
海斗はその足元を撃った。
火花が散る。
相手が怯む。
直接狙わない。
だが、確実に進ませない。
縦穴の中で、音が何度も反響した。
堀北は上へ辿り着き、非常扉のハンドルを回した。
開かない。
「ロックされてる!」
「右下に非常解除がある」
「見えないわ」
「手探りで探せ」
「無茶を言うわね」
それでも堀北は探した。
壁の凹凸。
冷たい金属。
小さなレバー。
指先が触れる。
「これ?」
「引け」
堀北がレバーを引いた。
重い音を立てて非常扉が開く。
光が差し込む。
「開いた!」
「先に出ろ」
堀北は扉の向こうへ転がるように出た。
海斗も梯子に手をかける。
その瞬間、下から退学者が発砲した。
弾が梯子の近くに当たり、金属音が響く。
海斗は片手で梯子を掴み、片手でマシンガンを構えた。
撃つ。
ただし、相手ではなく縦穴の壁面へ。
火花と破片が降る。
退学者たちが顔を庇う。
その隙に海斗は一気に登った。
上へ出た瞬間、堀北が彼の腕を掴んだ。
海斗が少しだけ目を見開く。
堀北は息を切らしながら言った。
「後から来るって言ったでしょう」
海斗は数秒だけ黙った。
そして言った。
「ああ」
堀北は彼を引き上げた。
非常扉が閉まる。
追手の声が下に遠ざかる。
二人は床に座り込むようにして息を整えた。
堀北は額の汗を拭った。
「あなた、意外と約束は守るのね」
「守れない約束はしない」
「さっきは危なかったけど」
「守った」
「ええ。そうね」
堀北は少しだけ笑った。
同じ頃、綾小路と麗華も別ルートから合流地点へ向かっていた。
そこは白と赤の照明が入り混じる広い搬送ホールだった。
天井は高く、中央には使われていない大型コンテナが並んでいる。
奥には複数の通路。
上部には監視カメラ。
左右には防火シャッター。
いかにも坂柳が好みそうな場所だった。
麗華は周囲を見て、不安げに言った。
「ここ、絶対に罠だよね」
「そうだな」
「それでも行くの?」
「海斗たちもここへ来る」
「なら行くしかないか」
綾小路はショットガンを低く構えたまま進む。
麗華は彼の後ろを歩く。
足首の痛みは残っている。
だが、先ほどよりは動ける。
その時、ホールの反対側の扉が開いた。
海斗と堀北が現れた。
麗華の顔が一気に変わる。
「海斗!」
海斗も麗華を見る。
だが、すぐには駆け寄らなかった。
ホールの中央。
広すぎる空間。
遮蔽物はあるが、射線も多い。
ここで不用意に走れば、坂柳の罠にかかる。
麗華もそれに気づいた。
走り出しかけた足を止める。
海斗は小さく頷いた。
それだけで、麗華は理解した。
今は感情で動く場面ではない。
堀北は綾小路を見た。
「無事だったのね」
「そっちもな」
「ええ。海斗くんのおかげで」
綾小路は海斗を見る。
「堀北を守ったか」
「麗華を守ったか」
二人の声はほぼ同時だった。
数秒の沈黙。
そして、二人は同時に答えた。
「問題ない」
麗華は少しだけ笑った。
堀北も呆れたように息を吐いた。
「本当に似ているわね、あなたたち」
「違う」
海斗が言った。
「そうだな」
綾小路も言った。
その返答まで同じだった。
だが、次の瞬間、坂柳有栖の声がホールに響いた。
「美しい合流です」
上部モニターに坂柳の姿が映る。
杖を手に、穏やかに微笑んでいる。
「異なる護衛対象。異なる武器。異なる判断。
それでも合流地点へ辿り着く。実に興味深い結果でした」
海斗はマシンガンを構える。
綾小路はショットガンを構える。
堀北と麗華はそれぞれ背後へ下がる。
坂柳は微笑んだまま続けた。
「ですが、合流できたから終わりではありません。むしろ、ここからが本題です」
ホールの防火シャッターが一斉に下りる。
重い音。
逃げ道が塞がる。
左右のコンテナの陰から、退学者たちが現れる。
数は多い。
銃を持つ者。
盾を持つ者。
端末を持つ者。
そして、上部通路には遠隔操作式の銃座が並んでいた。
麗華の顔色が変わる。
堀北も表情を引き締める。
坂柳は静かに言った。
「さて、綾小路くん、朝霧さん」
モニターの中の坂柳が目を細める。
「あなた方は、互いの守るものを預け合うことができるのでしょうか」
その言葉と同時に、銃座が動いた。
狙いは二手に分かれている。
一方は綾小路と麗華。
もう一方は海斗と堀北。
このままでは、二人はそれぞれの護衛対象を守るだけで手一杯になる。
合流した意味がない。
綾小路は一瞬で判断した。
海斗も同時に理解した。
この盤面は、二人が別々に戦う限り突破できない。
必要なのは、役割の交換。
守る相手だけではない。
武器も、立ち位置も、思考も。
綾小路が先に動いた。
ショットガンを海斗へ投げる。
海斗も同時にマシンガンを綾小路へ投げた。
空中で二つの武器が交差する。
麗華は息を呑んだ。
堀北も目を見開いた。
海斗はショットガンを受け取る。
綾小路はマシンガンを受け取る。
言葉はなかった。
確認もなかった。
だが、二人には分かっていた。
この場では、海斗が近距離で進路を止める。
綾小路が広い範囲を制御する。
普段とは逆。
だからこそ、坂柳の読みを外せる。
「使えるか」
海斗が聞いた。
「問題ない」
綾小路が答えた。
「そっちは?」
「問題ない」
二つの銃声が、同時に響いた。
綾小路はマシンガンで上部銃座の周囲を撃ち、
銃座そのものではなく、その支持部の近くに火花を散らして動きを止めた。
海斗はショットガンを構え、接近してくる盾持ちの足元と壁面を撃ち、前進を止める。
どちらも、人を狙うためではない。
道を作るため。
守るため。
坂柳の盤面を崩すため。
堀北はその隙に麗華へ駆け寄った。
「動ける?」
「うん。足は痛いけど」
「なら、あのコンテナの陰まで移動するわよ」
「分かった」
二人の少女も動き出す。
守られるだけではない。
自分たちも盤面の一部として動く。
坂柳の笑みが、わずかに深くなった。
「なるほど」
モニターの向こうで、坂柳有栖は呟いた。
「武器まで交換しますか」
それは単なる戦術ではなかった。
信頼の証明だった。
綾小路清隆は朝霧海斗にショットガンを預けた。
朝霧海斗は綾小路清隆にマシンガンを預けた。
互いの武器を渡すということは、互いの判断を信用するということだった。
そして何より、自分の守る相手を一時的に相手の判断へ預けるということだった。
坂柳はその瞬間、初めて少しだけ楽しげではない沈黙を見せた。
彼女の白いチェス盤に、想定外の手が打たれた。
綾小路が前へ出る。
海斗が横へ回る。
堀北と麗華がコンテナの陰を移動する。
四人の位置が変わる。
守る者と守られる者。
撃つ者と進む者。
止める者と抜ける者。
そのすべてが、坂柳の想定した役割から少しずつ外れていく。
白銀禁止区域の搬送ホールで、二つの銃声が重なった。
それは破壊の音ではない。
合流の音だった。
そして同時に、坂柳有栖の盤面が崩れ始める音でもあった。
だが。
その時、ホールの奥にある白い扉が開いた。
杖の音が響く。
こつん。
こつん。
こつん。
坂柳有栖が、ついに姿を現した。
モニター越しではない。
ホログラムでもない。
本物の坂柳有栖が、白い光の中からゆっくりと現れた。
周囲の退学者たちが道を開ける。
坂柳は杖をつきながら、穏やかに微笑んだ。
「見事です」
彼女はそう言った。
「ですが、まだチェックメイトではありません」
綾小路はマシンガンを下げすぎず、坂柳を見た。
海斗もショットガンを構えたまま、麗華と堀北の位置を確認する。
坂柳は二人を見比べた。
「綾小路くん。朝霧さん。あなた方は確かに、私の読みを一つ外しました」
彼女の声は穏やかだった。
「ですが、読みを外されたからといって、盤面そのものを失ったわけではありません」
ホールの照明が落ちる。
白と赤の光が消え、非常灯だけが残る。
そして、床の黒いラインが青白く光り始めた。
麗華が息を呑む。
堀北が目を細める。
綾小路は床を見た。
海斗も同時に気づいた。
このホール全体が、まだ罠だった。
坂柳は杖を軽く鳴らした。
「次の一手です」
床の一部が動き始める。
コンテナが横へ滑る。
通路が閉じる。
新しい射線が開く。
守る相手。
持つ武器。
立ち位置。
そのすべてが、また変えられていく。
だが、今度は違う。
綾小路と海斗は、すでに一度武器を交換した。
堀北と麗華も、守られるだけではないと示した。
坂柳の盤面はまだ強固だった。
しかし、そこには確かに亀裂が入っていた。
綾小路は静かに言った。
「海斗」
海斗は視線を坂柳から外さずに答えた。
「何だ」
「次は、盤面ごと壊す」
海斗は短く息を吐いた。
「同感だ」
坂柳有栖は微笑んだ。
「では、見せていただきましょう」
杖の先が床を叩く。
こつん。
その音を合図に、白銀禁止区域のチェス盤は新たな局面へ移行した。
モチベ維持のために感想・評価をもらえると幸いです。