ザ・ダイハード・マスターピース   作:EXTERMINATION

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第37話 2人のガンスリンガー

白銀禁止区域は、もう施設ではなくなりつつあった。

 

それは巨大な白い研究棟でも、

退学者たちを回収したブラックルームでもなく、ただ崩壊へ向かう迷宮だった。

 

赤い非常灯が明滅し、警報音が通路の奥から奥へ反響し、

天井裏を走る配管のどこかで爆発が起きるたびに、床が低く震えた。

 

綾小路清隆は先頭を歩いていた。

 

その少し後ろを堀北鈴音が進み、

坂柳有栖は杖をつきながらも歩調を崩さず、

二階堂麗華は負傷した朝霧海斗を支えていた。

 

海斗の足取りは重い。

 

雅樹との戦いで受けた傷は浅くない。

 

だが、彼は立っていた。

 

「おい、麗華」

 

「何」

 

「そんなに支えなくても歩ける」

 

「じゃあ離す」

 

「いや、そこまで言ってねぇ」

 

「面倒くさい」

 

「お前、助けられてる相手に言う台詞かよ」

 

「助けてるのはこっち」

 

海斗は小さく笑った。

 

「言い返せねぇな」

 

堀北はその会話を聞きながら、前を歩く綾小路の背中を見た。

 

天沢が死に、山内が消え、海斗は父を倒した。

 

普通なら、誰かが足を止めてもおかしくない。

 

だが、止まれない。

 

月城がいる。

 

司馬がいる。

 

龍園がいる。

 

宝泉がいる。

 

そして、この施設は確実に崩壊へ向かっている。

 

「綾小路くん」

 

堀北が声をかけた。

 

「何だ」

 

「次に出てくるのは、七瀬さんかしら」

 

綾小路は少しだけ間を置いた。

 

「可能性は高い」

 

坂柳が静かに言った。

 

「雅樹さんは、七瀬さんはまだ戻れると言っていましたね」

 

「信用できるのかしら」

 

堀北の声は硬かった。

 

七瀬翼。

 

彼女は一度、綾小路の前に立った。

 

敵として。

 

だが、完全な悪意の人間ではなかった。

 

むしろ逆だ。

 

責任感が強すぎる。

 

罪悪感を背負いすぎる。

 

誰かに命じられた役割を、自分の責任として抱え込んでしまう。

 

だからこそ危うい。

 

月城のような人間にとって、使いやすい駒になる。

 

綾小路は答えた。

 

「七瀬は敵になる理由を持っている。だが、敵であり続ける理由はもう崩れている」

 

「どういう意味?」

 

「月城の計画は破綻し始めている。天沢は死んだ。海斗の父も倒れた。

山内も制御下から外れている可能性がある。

七瀬が守ろうとしていたものは、もう形を保っていない」

 

堀北は黙った。

 

それは残酷な言い方だった。

 

だが、正しい。

 

その時、通路の奥から金属音がした。

 

全員が止まる。

 

海斗が麗華から身を離し、腰の銃へ手を伸ばそうとする。

 

だが、さっき雅樹戦で武器を外していたため、手は空を切った。

 

「……あ」

 

麗華が呆れたように睨む。

 

「あなた、銃置いてきたの?」

 

「格好つけるとこうなる」

 

「馬鹿」

 

「反省してる」

 

「絶対してない」

 

綾小路は片手で制した。

 

「来る」

 

通路の先。

 

壊れた隔壁の向こうから、一人の少女が現れた。

 

七瀬翼。

 

制服は煤で汚れ、頬には擦り傷があり、手にはサブマシンガンが握られていた。

 

銃口は下がっている。

 

だが、いつでも撃てる角度だった。

 

「綾小路先輩」

 

七瀬は静かに言った。

 

その声は震えていた。

 

敵意ではない。

 

疲労。

 

迷い。

 

そして、限界まで張り詰めた責任感。

 

「七瀬」

 

綾小路は名前を呼んだ。

 

「そこを通してください」

 

七瀬は首を横に振った。

 

「できません」

 

「月城の命令か」

 

「……はい」

 

「まだ従うのか」

 

七瀬の指が銃に食い込む。

 

「従わなければならないんです」

 

堀北が一歩前へ出た。

 

「七瀬さん、もう分かっているでしょう。この場所は終わっている。

月城はあなたを守らない。誰も救わない。ただ利用するだけよ」

 

七瀬の目が揺れた。

 

「分かっています」

 

「なら」

 

「分かっていても!」

 

七瀬の声が強くなった。

 

「それでも、私は途中で投げ出すわけにはいかないんです!」

 

通路に沈黙が落ちた。

 

七瀬は唇を噛む。

 

「私は、何度も間違えました。自分の正義だと思っていたものが、

誰かに利用されていたと気付いても、それでも止まれなかった。

止まったら、今まで傷つけた人たちが何だったのか分からなくなる」

 

海斗が低く言った。

 

「責任感が強すぎる奴は厄介だな」

 

麗華が海斗を睨む。

 

「茶化さない」

 

「茶化してねぇよ」

 

海斗は七瀬を見た。

 

「本気で言ってる。そういう奴ほど、自分が壊れるまで止まらねぇ」

 

七瀬は海斗を見た。

 

「あなたに何が分かるんですか」

 

「分かるさ」

 

海斗は傷だらけの身体で立つ。

 

「オレもさっきまで、倒したい相手だけ見てた」

 

七瀬は何も言えなかった。

 

綾小路が静かに口を開く。

 

「七瀬。お前が本当に責任を取るつもりなら、ここで撃つことじゃない」

 

七瀬の銃口がわずかに上がる。

 

「では、何をすればいいんですか」

 

「生きて戻れ」

 

七瀬の表情が止まった。

 

綾小路は続ける。

 

「そして、知っていることを話せ。月城が何をしたのか。

ブラックルームで何が行われていたのか。

誰が利用され、誰が消されたのか。責任を取るというなら、真実を持ち帰れ」

 

七瀬の目から力が抜けていく。

 

「でも……私は……」

 

堀北がさらに前へ出た。

 

「七瀬さん、あなたがここで私たちを止めても、誰も救われないわ」

 

「……」

 

「あなたが守りたかったものは、月城の命令ではないはずよ」

 

七瀬の手が震えた。

 

「私は……」

 

銃口が下がる。

 

「私は、誰かを守りたかっただけなんです」

 

その声は、もう戦う者の声ではなかった。

 

「でも、誰も守れなかった。止められなかった。

天沢さんも、雅樹さんも、山内先輩も、

みんな壊れていくのに、私は命令を守ることしかできなかった」

 

七瀬の膝が崩れそうになる。

 

それでも彼女は立っていた。

 

「もう、何が正しいのか分からないんです」

 

綾小路は近づいた。

 

七瀬は銃を持ったまま動かない。

 

堀北が緊張する。

 

海斗も片目を細める。

 

だが、綾小路は止まらなかった。

 

七瀬の前に立つ。

 

そして、銃身をそっと下げた。

 

七瀬は抵抗しなかった。

 

「なら、今正しいと思えることを選べ」

 

綾小路が言った。

 

「全部を取り返すことはできない。だが、これ以上失わないように動くことはできる」

 

七瀬の目から涙がこぼれた。

 

彼女は銃を落とした。

 

金属音が通路に響く。

 

「……戦えません」

 

七瀬は小さく言った。

 

「もう、綾小路先輩たちとは戦えません」

 

堀北が息を吐いた。

 

麗華も肩の力を抜く。

 

海斗は小さく笑った。

 

「よし。ようやくまともな話になったな」

 

七瀬は袖で目元を拭った。

 

「協力します」

 

綾小路は頷く。

 

「武器はあるか」

 

七瀬は顔を上げた。

 

「あります。月城さんたちが使う予定だった武器庫を、事前に押さえてあります」

 

海斗の目が輝いた。

 

「おいおい、優秀じゃねぇか」

 

麗華が呆れる。

 

「さっきまで倒れそうだったくせに、武器って聞いた瞬間元気にならないで」

 

「男の子だからな」

 

「年上でしょ」

 

「細けぇな」

 

七瀬は少しだけ困ったように笑った。

 

その笑みは弱々しかったが、先ほどまでの張り詰めた顔よりは人間らしかった。

 

七瀬の案内で、一行は武器庫へ向かった。

 

武器庫は厚い隔壁の奥にあった。

 

七瀬が端末を操作すると、扉が重い音を立てて開く。

 

中には弾薬箱が積まれていた。

 

サブマシンガン用の弾倉。

 

ショットガンシェル。

 

アサルトライフル用の弾薬。

 

医療キット。

 

そして、ケースに収められたグレネードランチャー。

 

海斗が口笛を吹く。

 

「月城の野郎、学校をどうするつもりだったんだよ」

 

七瀬は暗い顔で答えた。

 

「最終局面で、綾小路先輩たちを確実に制圧するためです」

 

堀北が顔をしかめる。

 

「制圧という言葉で済む量ではないわね」

 

坂柳は弾薬箱を見て静かに言った。

 

「これは戦争の準備です」

 

綾小路はグレネードランチャーを見た。

 

「使えるのか」

 

七瀬は頷く。

 

「基本的な操作は教わりました。ですが、反動も大きいので連発は危険です」

 

海斗が手を伸ばす。

 

「じゃあオレが持つ」

 

麗華が即座に止めた。

 

「あなた、さっき父親と殴り合ってボロボロなの忘れてない?」

 

「忘れた」

 

「思い出して」

 

綾小路がランチャーを手に取った。

 

「オレが持つ」

 

海斗が眉を上げる。

 

「お前が?」

 

「必要なら使う」

 

「似合わねぇな」

 

「似合う必要はない」

 

海斗は笑った。

 

「まあ、お前が持つなら安心だな。撃つ時も無表情そうだし」

 

堀北が弾倉を確認しながら言った。

 

「冗談を言っている場合ではないわ」

 

「いや、冗談言ってねぇとやってらんねぇ場面だろ、これ」

 

七瀬は全員に弾薬を配った。

 

堀北には小型の拳銃と予備弾倉。

 

坂柳には護身用の小型銃。

 

麗華には弾倉ではなく、医療キット。

 

「私は?」

 

麗華が問う。

 

七瀬は申し訳なさそうに言った。

 

「戦うより、負傷者の処置をお願いします」

 

麗華は一瞬不満そうにしたが、すぐに頷いた。

 

「分かった」

 

海斗が笑う。

 

「麗華がナースか。似合ってんじゃねぇの」

 

「あなたを最初に治療してあげる」

 

「優しいな」

 

「雑にね」

 

「怖ぇよ」

 

綾小路は武器を確認しながら七瀬に尋ねた。

 

「月城たちはどこにいる」

 

「中央制御区画です」

 

七瀬は答えた。

 

「そこには月城さんと司馬先生。それから、龍園先輩と宝泉くんが向かっています」

 

堀北の表情が険しくなる。

 

「龍園くんと宝泉くん……」

 

七瀬は頷いた。

 

「二人とも、綾小路先輩との決着を望んでいます」

 

海斗が肩を鳴らそうとして、痛みで顔をしかめた。

 

「野郎ばっかで暑苦しいな」

 

坂柳が静かに言う。

 

「龍園くんも宝泉くんも、簡単には止まらないでしょうね」

 

綾小路は武器庫の出口へ向かった。

 

「行くぞ」

 

七瀬がその背中を見た。

 

「綾小路先輩」

 

「何だ」

 

「私も行きます」

 

綾小路は振り返った。

 

七瀬の顔にはまだ涙の跡が残っていた。

 

だが、目は先ほどよりもはっきりしていた。

 

「責任を取るために、逃げません」

 

綾小路は少しだけ黙った。

 

「分かった」

 

堀北が七瀬に近づく。

 

「無茶をしたら止めるわ」

 

七瀬は小さく頷いた。

 

「はい」

 

海斗が歩き出しながら言った。

 

「よし、裏切ったら堀北に説教されるぞ。怖いぞ」

 

堀北が睨む。

 

「海斗くん」

 

「ほら怖い」

 

麗華がため息をついた。

 

「本当にあなたは……」

 

一行は武器庫を出た。

 

中央制御区画へ向かう通路は、すでに半分崩れていた。

 

天井からケーブルが垂れ下がり、壁の内側から炎が漏れ、

床には割れたガラスと金属片が散らばっている。

 

遠くで何かが爆発する。

 

衝撃が走り、坂柳がわずかに体勢を崩した。

 

堀北が支える。

 

「大丈夫?」

 

「ええ」

 

坂柳は微笑んだ。

 

「この程度で倒れていては、盤面を見届けられませんから」

 

「あなたも相当無茶を言うわね」

 

通路を抜けると、広い吹き抜けの空間へ出た。

 

中央制御区画。

 

巨大な円形ホール。

 

上層には管制室。

 

下層には複数の通路。

 

中央には大型の制御端末。

 

その奥に、月城が立っていた。

 

隣には司馬。

 

そして左右の通路に、それぞれ龍園翔と宝泉和臣がいた。

 

龍園はサブマシンガンを肩に担ぎ、唇を歪めて笑っている。

 

宝泉はショットガンを片手に持ち、獣のような目でこちらを睨んでいた。

 

月城は拍手をした。

 

「素晴らしい」

 

穏やかな声だった。

 

「七瀬さんまで連れてくるとは。綾小路くん、あなたは本当に人を変えるのが上手い」

 

七瀬の顔が青ざめる。

 

だが、逃げなかった。

 

綾小路は月城を見る。

 

「もう終わりだ、月城」

 

「いいえ」

 

月城は微笑んだ。

 

「ここからが最終試験です」

 

龍園が笑った。

 

「クク……待ちくたびれたぜ、綾小路」

 

宝泉が続ける。

 

「今度こそぶっ潰してやるよ、センパイ」

 

海斗が低く言った。

 

「人気者だな、綾小路。サイン会でも開くか?」

 

「余裕があればな」

 

「冗談返せるようになったじゃねぇか」

 

月城が片手を上げた。

 

その瞬間、ホール上層の照明が一斉に点灯した。

 

同時に、複数の銃口がこちらを向く。

 

退学者たち。

 

月城に従う者たちが、上層通路に展開していた。

 

M16A1アサルトライフル。

 

MP5サブマシンガン。

 

M870ショットガン。

 

数では圧倒的に不利だった。

 

堀北が息を呑む。

 

麗華が医療キットを抱え直す。

 

七瀬は震えながらも銃を構えた。

 

「伏せろ!」

 

綾小路が叫ぶ。

 

次の瞬間、銃声がホール全体を埋め尽くした。

 

弾丸が壁を削り、床を叩き、制御端末の周囲で火花を散らす。

 

綾小路は堀北を引き寄せ、崩れた柱の陰へ滑り込む。

 

海斗は麗華を押し倒すように遮蔽物へ入れ、自分もその横へ転がった。

 

坂柳は七瀬に支えられて別の端末の裏へ隠れる。

 

「始まったな!」

 

海斗が叫ぶ。

 

「嬉しそうに言わないで!」

 

麗華が怒鳴る。

 

「嬉しくはねぇよ!」

 

海斗は弾倉を装填しながら笑った。

 

「ただ、分かりやすくなっただけだ!」

 

綾小路はホールの構造を見ていた。

 

上層の敵。

 

中央の月城と司馬。

 

左右に龍園と宝泉。

 

こちらの戦力。

 

負傷した海斗。

 

戦闘経験の浅い堀北と麗華。

 

体力に不安のある坂柳。

 

離反直後の七瀬。

 

だが、武器はある。

 

弾薬もある。

 

グレネードランチャーもある。

 

勝つためには、まず上層の銃撃を崩す必要がある。

 

「海斗」

 

「何だ!」

 

「右上の連中を黙らせろ」

 

「簡単に言うな!」

 

「できるだろ」

 

海斗は笑った。

 

「できる!」

 

次の瞬間。

 

龍園のサブマシンガンが火を噴いた。

 

宝泉のショットガンも同時に轟く。

 

弾丸が雨のように降り注ぐ。

 

綾小路は崩れた制御端末の陰から飛び出した。

 

海斗も別方向へ動く。

 

だが、その直後。

 

上層からの銃撃が二人の退路を同時に塞いだ。

 

「チッ!」

 

海斗が舌打ちする。

 

綾小路も足を止めた。

 

遮蔽物はない。

 

前には龍園。

 

右には宝泉。

 

上には退学者たち。

 

完全な十字砲火だった。

 

その時。

 

綾小路と海斗はほぼ同時に動いた。

 

互いの背中へ身体を預ける。

 

背中越しに熱が伝わる。

 

海斗が後方へ銃を向ける。

 

綾小路が前方へ銃を向ける。

 

言葉はない。

 

だが、お互いに理解していた。

 

海斗は後ろを見ない。

 

綾小路も後ろを見ない。

 

見る必要がないからだ。

 

自分の背後には、自分と同じくらい信用できる男がいる。

 

「おい」

 

海斗が笑う。

 

「何だ」

 

「オレたち、今すげぇ主人公っぽくねえか?」

 

綾小路は一瞬だけ沈黙した。

 

そして。

 

「そうかもしれないな」

 

海斗が吹き出した。

 

「お前がそういうこと言うと笑うわ!」

 

銃声。

 

海斗のマシンガンが唸る。

 

上層の退学者たちが慌てて身を伏せる。

 

同時に綾小路が前方を制圧する。

 

龍園が舌打ちした。

 

宝泉が獰猛に笑う。

 

だが二人とも前進できない。

 

綾小路と海斗。

 

二人の射線が完璧に噛み合っていた。

 

それは偶然ではない。

 

技術でもない。

 

信頼だった。

 

「右上は任せろ!」

 

海斗が叫ぶ。

 

「ああ」

 

綾小路は迷わず答える。

 

「前はオレがやる」

 

二人は背中を預けたまま走り出した。

 

それは共闘ではない。

 

契約でもない。

 

命を預け合う、本当の意味での相棒だった。

 

海斗が遮蔽物から飛び出し、短く銃撃する。

 

上層の敵が身を引く。

 

その隙に綾小路はグレネードランチャーを構えた。

 

堀北が目を見開く。

 

「本当に撃つの?」

 

「撃つ」

 

綾小路は無表情で照準を合わせる。

 

発射。

 

低い爆発音。

 

直後、支柱の根元が爆発的に砕け散った。

 

鉄骨が悲鳴を上げるような音を響かせる。

 

上層通路全体が大きく傾く。

 

退学者たちの足元が揺れた。

 

何人かが体勢を崩し、そのまま階下へ転落する。

 

手すりが千切れ飛ぶ。

 

照明設備が連鎖的に落下する。

 

火花が滝のように降り注いだ。

 

さらに崩れた支柱が隣の通路へ激突する。

 

衝撃で別の支柱にも亀裂が走った。

 

轟音。

 

爆煙。

 

崩落。

 

三つが同時に押し寄せる。

 

積み上げられていた資材コンテナが雪崩のように転倒した。

 

敵の射撃陣地がまとめて押し潰される。

 

退学者たちは悲鳴を上げながら飛び退いた。

 

整然としていた包囲網が一瞬で崩壊する。

 

綾小路は再装填を終えながら冷静に前を見る。

 

その一発だけで、敵が数分かけて築いた陣形は完全に瓦解していた。

 

海斗が口笛を吹く。

 

「似合わねぇけど強ぇな!」

 

龍園が笑う。

 

「クク……派手にやるじゃねぇか、綾小路!」

 

宝泉がショットガンを撃つ。

 

柱の角が吹き飛び、堀北が身を縮めた。

 

綾小路は即座に位置を変える。

 

「堀北、七瀬と一緒に左を押さえろ」

 

「分かったわ」

 

「坂柳は敵の動きを見て指示を出せ」

 

坂柳は頷く。

 

「承知しました」

 

「海斗」

 

「ああ?」

 

「宝泉を止めろ」

 

海斗は一瞬だけ綾小路を見た。

 

「今のオレにあのゴリラを止めろって?」

 

「できる」

 

海斗は笑った。

 

「お前、たまに人使い荒いよな」

 

「褒めている」

 

「嘘つけ」

 

海斗は銃を構え、宝泉のいる右側通路へ走った。

 

宝泉が獰猛に笑う。

 

「来いや、朝霧ぃ!」

 

「うるせぇ筋肉ダルマ!」

 

海斗と宝泉の銃撃が交差する。

 

海斗のマシンガンが激しい連射音を響かせた。

 

銃口から火線が走る。

 

吐き出された弾丸が一直線に宝泉へ襲いかかる。

 

だが宝泉は止まらない。

 

ショットガンを肩に叩き付けるように構える。

 

轟音。

 

散弾が扇状に広がった。

 

通路の壁が吹き飛ぶ。

 

鉄製のコンテナが大きくへこむ。

 

海斗は横へ飛び、飛来する散弾を紙一重で回避した。

 

着地と同時に再び引き金を引く。

 

マシンガンが唸る。

 

連続するマズルフラッシュが暗闇を切り裂いた。

 

宝泉の足元で火花が弾ける。

 

胸元を狙った弾丸が防弾プレートを叩く。

 

それでも宝泉は笑っていた。

 

「効かねぇなァ!」

 

再びショットガンが咆哮する。

 

今度は配管が破裂した。

 

蒸気が噴き出す。

 

視界が白く染まる。

 

その中へ海斗が飛び込んだ。

 

宝泉の目前まで一気に距離を詰める。

 

マシンガンを腰だめに構えたまま乱射した。

 

銃弾の嵐が宝泉を包む。

 

肩。

 

腕。

 

脇腹。

 

防弾装備に火花が散る。

 

だが宝泉は強引に前進する。

 

まるで弾幕そのものを踏み潰してくるようだった。

 

「もっとだァァァァッ!!」

 

ショットガンが至近距離で火を噴く。

 

海斗は咄嗟に身体を捻る。

 

散弾が頬を掠めた。

 

血が飛ぶ。

 

背後の鉄柱が大きく抉れた。

 

海斗は舌打ちしながら後退する。

 

だがその目は笑っていた。

 

宝泉も笑っていた。

 

二人とも引かない。

 

一歩も譲らない。

 

マシンガンの連射が逃げ場を奪う。

 

ショットガンの轟音が遮蔽物ごと破壊する。

 

火花。

 

硝煙。

 

爆炎。

 

二人はまるで意地のぶつかり合いそのもののような銃撃戦を繰り広げていた。

 

一方、龍園は綾小路へ向かってゆっくり歩き出していた。

 

サブマシンガンを片手に、弾幕の中を笑いながら進む。

 

「ようやくだ」

 

龍園の声が銃声の中でも響く。

 

「ようやくてめぇと決着をつけられる」

 

綾小路は遮蔽物の陰から龍園を見た。

 

月城はまだ動かない。

 

司馬も静かに立っている。

 

二人はこの銃撃戦を見ている。

 

試している。

 

削らせている。

 

「龍園」

 

綾小路は静かに言った。

 

「お前は月城に利用されている」

 

龍園は笑った。

 

「知ってる」

 

「ならなぜ来る」

 

「利用されてでも、てめぇを潰せるなら構わねぇ」

 

龍園の銃口が上がる。

 

「俺はもう、戻る場所なんざねぇんだよ」

 

銃声。

 

綾小路は横へ跳ぶ。

 

弾丸が柱を砕く。

 

堀北が叫ぶ。

 

「綾小路くん!」

 

綾小路は答えない。

 

龍園の目は完全に綾小路を捉えていた。

 

月城の駒でありながら、龍園は龍園として動いている。

 

復讐。

 

執着。

 

怒り。

 

それが彼をここまで来させた。

 

宝泉のショットガンが轟く。

 

海斗が床を転がる。

 

「クソッ、怪我人に優しくしろよ!」

 

「知るかよ!」

 

宝泉が笑いながら突っ込む。

 

海斗は距離を取りながら撃つ。

 

だが、宝泉は止まらない。

 

まるで銃撃そのものを恐れていない。

 

海斗のマシンガンが空転した。

 

弾切れ。

 

「チッ!」

 

海斗は遮蔽物の陰へ滑り込みながら素早くマガジンを引き抜く。

 

同時に宝泉もショットガンのポンプを引いた。

 

排出された薬莢が床を跳ねる。

 

宝泉は腰のホルダーから新しいシェルを掴み、力任せに装填した。

 

二人とも止まらない。

 

再装填しながら移動する。

 

再装填しながら相手を睨む。

 

まるで呼吸をするような自然さだった。

 

海斗が新しいマガジンを叩き込む。

 

ボルトを引く。

 

次の瞬間には発砲していた。

 

火線が一直線に伸びる。

 

宝泉は転がるように回避する。

 

その巨体からは想像できない俊敏さだった。

 

だが宝泉も負けていない。

 

最後のシェルを叩き込むと同時にショットガンを構える。

 

轟音。

 

散弾が床を抉る。

 

コンクリート片が爆発したように飛び散った。

 

海斗は破片を浴びながら後退する。

 

「キングコングかよ!」

 

「お互い様だろうがァ!」

 

宝泉が咆哮する。

 

再びショットガン。

 

再びマシンガン。

 

轟音と連射音が交互に響く。

 

硝煙が濃くなる。

 

薬莢が積み上がる。

 

一方、七瀬と堀北は左側から上層の敵を牽制していた。

 

七瀬の手は震えている。

 

だが、撃つべき場所は外さない。

 

堀北はそれを横目で見ながら言った。

 

「七瀬さん」

 

「はい!」

 

「迷うなら、撃たないで。撃つなら、迷わないで」

 

七瀬は息を呑む。

 

そして頷いた。

 

「はい!」

 

坂柳は端末の陰から全体を見ていた。

 

「綾小路くん、右上の足場が崩れかけています」

 

綾小路は即座に視線を走らせる。

 

確かに支柱が歪んでいる。

 

そこへ月城が声をかけた。

 

「いい判断です、坂柳さん」

 

坂柳は月城を見た。

 

「褒められても嬉しくありませんね」

 

「残念です」

 

月城は微笑む。

 

「では、次はこちらも少し動きましょう」

 

司馬が前へ出た。

 

その瞬間、空気が変わった。

 

月城の余裕。

 

龍園の執着。

 

宝泉の暴力。

 

そして司馬の無機質な殺気。

 

全てが一つのホールに集まっていた。

 

綾小路はグレネードランチャーを再装填した。

 

海斗は宝泉と撃ち合いながら叫ぶ。

 

「綾小路!そっち、そろそろ本命来るぞ!」

 

「分かっている」

 

龍園が笑う。

 

「よそ見してんじゃねぇぞ!」

 

銃声。

 

綾小路は身を低くして避ける。

 

司馬が無言で走る。

 

速い。

 

月城が静かに歩き出す。

 

中央制御区画の全てが、決戦の形へ収束していく。

 

七瀬は震える手で弾倉を交換した。

 

堀北はその横に立つ。

 

坂柳は盤面を見る。

 

麗華は負傷者のために医療キットを開く。

 

海斗は宝泉を相手に笑いながら血を吐く。

 

綾小路は龍園と月城と司馬を同時に見据える。

 

施設は崩壊している。

 

炎は近い。

 

退路は狭い。

 

だが、ここを越えなければ終わらない。

 

月城が微笑んだ。

 

「さあ、綾小路清隆くん」

 

その声は、銃声と崩壊音の中でもはっきり響いた。

 

「最後の授業を始めましょう」

 

綾小路は無表情のまま答えた。

 

「終わらせる」

 

その瞬間、再び銃声が爆発した。

 

白銀禁止区域の中央制御区画。

 

崩壊するブラックルームの心臓部で。

 

綾小路清隆たちと月城たちの最終決戦が、ついに幕を開けた。




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