ザ・ダイハード・マスターピース   作:EXTERMINATION

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第83話 コマンダーの暴威

シェルター入口では尊徳と彩が防衛線を作っていた。

 

彩は施設案内図を見ながら、避難民を第二シェルターへ誘導している。

 

「こちらです。慌てず進んでください。右側の通路は使えません」

 

尊徳はその横で敵の接近に備えていた。

 

遠くから足音が聞こえる。

 

敵兵三名。

 

尊徳は彩へ低く言う。

 

「下がって」

 

彩は一瞬だけ震えたが、逃げなかった。

 

「私は誘導を続けます」

 

「無理はしないでください」

 

「はい。でも、ここは私にもできます」

 

尊徳は短く息を吐く。

 

「分かりました。俺の後ろから出ないで」

 

敵兵が現れた。

 

尊徳は一気に距離を詰める。

 

銃を構える前に手首を掴み、壁へ叩きつける。

 

二人目の足を払い、三人目の銃口を逸らして肘を入れる。

 

一瞬で制圧。

 

彩はその間も避難民を止めなかった。

 

「大丈夫です!こちらへ進んでください!」

 

尊徳は倒れた敵の武器を遠ざけながら、彩を見た。

 

「本当にお強くなられた」

 

彩は振り返らずに答えた。

 

「お姉様に負けていられませんから」

 

その声は震えていた。

 

けれど、確かに前を向いていた。

 

ロビーでは、戦闘がさらに激化していた。

 

綾小路と海斗は一階から二階へ、

二階から吹き抜け回廊へと移動しながら敵を引きつけていた。

 

敵をシェルターから遠ざける。

 

それが目的だった。

 

海斗は二階回廊の手すりを飛び越え、下のソファへ着地する。

 

「腰に悪いな!」

 

綾小路は階段を使って降りながら言う。

 

「なら飛ぶな」

 

「近道だ」

 

「合理的ではない」

 

「お前が言うと腹立つな」

 

敵兵が三階から撃ってくる。

 

綾小路は柱の影に入り、海斗が床に滑り込む。

 

弾丸が壁を削る。

 

綾小路は天井のスプリンクラーを撃ち抜いた。

 

水が噴き出し、敵の視界が乱れる。

 

海斗はその水煙を利用して前に出る。

 

ベレッタ二丁で敵の武器を撃ち落とし、接近して蹴り倒す。

 

「水も滴るなんとやらだな」

 

綾小路が淡々と言う。

 

「敵に言っているのか」

 

「自分にだ」

 

「余裕だな」

 

「なけりゃ言わねぇよ」

 

その時、館内放送が再び起動した。

 

『いやぁ、いいねぇ!派手にやってるじゃないか!』

 

コマンダーの声。

 

ロビー中に響く。

 

『刑事さん!護衛さん!働きすぎだぜ!休暇中くらい休めよ!』

 

海斗が叫ぶ。

 

「お前が帰れば休めるんだよ!」

 

『そいつは無理だな!俺も仕事中だ!』

 

綾小路は無線の発信位置を探る。

 

偽装されている。

 

だが、声の背後にローター音が混ざっていた。

 

「ヘリだ」

 

海斗が反応する。

 

「来るか」

 

その瞬間。

 

ホテル上空に巨大な影が落ちた。

 

黒い大型ヘリが、ホテル正面の吹き抜けガラスへ接近していた。

 

ローターの風圧で割れたカーテンが暴れ、ガラス片が床を滑る。

 

ヘリの側面扉が開く。

 

そこに立っていた。

 

巨漢。

 

重機関銃。

 

サングラス。

 

葉巻。

 

コマンダーだった。

 

「よう!」

 

声が直接聞こえた。

 

「刑事さん!護衛さん!」

 

海斗が見上げる。

 

「出たな、うるさい筋肉」

 

コマンダーは豪快に笑う。

 

「褒め言葉として受け取るぜ!」

 

「受け取るな!」

 

コマンダーは重機関銃を持ち上げた。

 

その銃身がゆっくり回転する。

 

綾小路の表情が変わる。

 

「下がれ!」

 

重機関銃が火を噴いた。

 

弾丸の雨がロビーを薙ぎ払う。

 

大理石の柱が削れるどころではない。

 

砕ける。

 

壁が裂ける。

 

床が爆ぜる。

 

吹き抜けの手すりが千切れ飛び、シャンデリアの装飾が粉々に砕け散る。

 

海斗は柱の陰へ飛び込みながら叫ぶ。

 

「火力がおかしいだろ!」

 

綾小路も床を転がり、破片を避ける。

 

「正面から相手をするな!」

 

「言われなくても分かってる!」

 

コマンダーは笑いながら撃ち続ける。

 

「最高のバカンスだなぁ!」

 

弾丸がロビー中央の残骸を吹き飛ばし、爆発で壊れた装甲車の燃料に引火した。

 

炎が再び噴き上がる。

 

熱風が吹き抜けを駆け上がり、二階のガラス壁が一斉に割れた。

 

夜空へ火の粉が舞う。

 

その光景を見ながら、コマンダーはますます笑った。

 

「いいねぇ!こういう歓迎を待ってたんだ!」

 

海斗が遮蔽物越しに叫ぶ。

 

「歓迎されてるのはお前じゃねぇ!」

 

「じゃあ俺から歓迎してやる!」

 

コマンダーはヘリからロープを使わず、直接ロビー二階の回廊へ飛び移った。

 

巨体が床に着地した瞬間、回廊が軋む。

 

重機関銃を肩に担ぎ、彼は悠然と歩いてくる。

 

敵兵たちが道を開けた。

 

コマンダーは笑っている。

 

だが、その目は冷静だった。

 

「刑事さん。護衛さん。ホテル遊びは楽しかったか?」

 

綾小路は柱の陰から出ない。

 

「まだ終わっていない」

 

「だよな」

 

コマンダーは重機関銃を構える。

 

「俺もそう思ってた!」

 

再び銃撃。

 

綾小路と海斗は左右に散る。

 

コマンダーの火力は圧倒的だった。

 

遮蔽物が長く持たない。

 

柱も、壁も、ソファも、数秒で削られる。

 

しかし、動きは大きい。

 

銃の取り回しにも隙がある。

 

綾小路はそれを読む。

 

「海斗、上へ」

 

「吹き抜けか!」

 

「ああ」

 

「落ちたら死ぬぞ!」

 

「落ちるな」

 

「簡単に言うな!」

 

二人は同時に動いた。

 

海斗が正面で敵兵を引きつけ、綾小路は横の階段を駆け上がる。

 

コマンダーの銃口が海斗を追う。

 

海斗は転がりながら弾丸を避け、倒れたテーブルを蹴って視界を遮る。

 

「おい、筋肉!」

 

「なんだ護衛さん!」

 

「その銃、観光地に持ち込み禁止だろ!」

 

「現地調達だ!」

 

「嘘つけ!」

 

コマンダーが笑って銃を振る。

 

その瞬間、綾小路が三階回廊からシャンデリア固定ワイヤーを撃った。

 

一本。

 

二本。

 

三本。

 

巨大シャンデリアが大きく揺れる。

 

コマンダーが見上げる。

 

「おっと」

 

海斗もベレッタを構える。

 

「落ちろ!」

 

最後のワイヤーが切れる。

 

十メートル近い巨大シャンデリアが轟音とともに天井から落下した。

 

何千枚ものクリスタルが夕陽を乱反射させながら

豪雨のように降り注ぎ、ロビー全体が白く輝く。

 

直後だった――。

 

シャンデリアはコマンダーの真正面へ激突し、

大理石の床を粉々に砕きながら巨大なクレーターを穿った。

 

爆発にも似た衝撃波がロビー中を駆け抜け、

砕け散った無数のガラス片が嵐のように四方八方へ吹き荒れる。

 

鋼鉄の骨組みは悲鳴を上げながら折れ曲がり、

火花を激しく撒き散らし、周囲の柱や壁へ次々と叩きつけられた。

 

舞い上がった粉塵と煌めくクリスタルが視界を埋め尽くし、

豪華絢爛だったホテルのロビーは、

一瞬で瓦礫と破片に覆われた戦場へと変わり果てた。

 

爆発で舞っていたガスに火花が触れ、小規模な爆発が連鎖する。

 

ボン、ボン、ボン、とロビーの奥で炎が跳ねた。

 

敵兵たちが慌てて後退する。

 

海斗が息を吐く。

 

「やったか?」

 

綾小路が即答する。

 

「その言い方はやめろ」

 

煙の向こうから笑い声が響いた。

 

「最高だなぁ!!」

 

海斗が顔をしかめる。

 

「やっぱりかよ」

 

コマンダーが煙の中から現れた。

 

重機関銃は壊れていた。

 

肩口には破片が刺さり、服は焦げている。

 

だが、立っている。

 

笑っている。

 

「今のは効いたぜ」

 

海斗が呆れる。

 

「普通は倒れるだろ」

 

コマンダーは壊れた重機関銃を投げ捨て、腰からアサルトライフルを引き抜いた。

 

「じゃあ次は軽めで行くか」

 

綾小路が呟く。

 

「軽めの定義が違うな」

 

その時、坂柳の声が無線に飛び込んできた。

 

『綾小路くん、朝霧さん。ホテル中央部の耐久が限界です』

 

堀北の声も続く。

 

『今の爆発と銃撃で、吹き抜け周辺の支柱が損傷しているわ。

このままだと中央ロビーが崩れる』

 

麗華の声が緊迫する。

 

『二人とも、すぐ離脱して!』

 

海斗が周囲を見る。

 

天井から粉塵が落ちている。

 

壁の亀裂が広がっている。

 

シャンデリアの落下で床も割れている。

 

確かに、ホテル中央部は限界だった。

 

だが敵はまだいる。

 

コマンダーもいる。

 

放置すれば、敵は避難民のいる地下へ向かう。

 

綾小路は即座に判断した。

 

「敵を上へ誘導する」

 

海斗が理解する。

 

「プールエリアか」

 

「そこなら地下から遠い」

 

「ついでに逃げ道もある」

 

「水上バイクだな」

 

海斗がニヤリと笑う。

 

「前回のボートの次はそれかよ」

 

コマンダーが二人を見て笑う。

 

「何を相談してる?」

 

海斗が叫ぶ。

 

「次の観光スポットだ!」

 

「いいねぇ!案内してくれよ!」

 

「ついて来られるならな!」

 

海斗が発煙弾を投げた。

 

白煙が広がる。

 

綾小路と海斗は同時に上階へ走った。

 

コマンダーは笑いながら追う。

 

「逃げ足も一流か!」

 

敵兵たちも追おうとする。

 

だが、その瞬間。

 

七瀬翼の狙撃が入った。

 

ホテル外、商業ビル屋上。

 

七瀬はスナイパーライフルを構え、敵兵の足元と武器を正確に撃ち抜いていた。

 

敵が混乱する。

 

「どこからだ!?」

 

「スナイパーだ!」

 

七瀬は冷静に次弾を装填する。

 

だが、背後から敵兵が近づいていた。

 

「おい、七瀬。お前、何を撃っている」

 

七瀬は振り返らない。

 

「敵です」

 

「敵?今撃ったのは味方だ」

 

七瀬はゆっくりと立ち上がった。

 

「そう見えましたか」

 

「裏切り者か」

 

七瀬は少しだけ微笑む。

 

「最初から、あなたたちの味方になった覚えはありません」

 

次の瞬間、七瀬は腰の拳銃を抜いた。

 

一発目で敵兵のライフルを弾き飛ばす。

 

二発目で別の敵の足元を撃つ。

 

三発目で照明を砕く。

 

屋上が暗くなる。

 

七瀬は手すりを蹴り、隣の低い屋根へ飛び移った。

 

背後で敵兵が叫ぶ。

 

「七瀬が裏切ったぞ!」

 

七瀬は走りながら無線を奪い、敵通信へわざとノイズを流す。

 

「ホテル北側に敵増援。繰り返します。北側に敵増援」

 

偽情報。

 

敵部隊の一部が北側へ向かう。

 

ホテル中央の圧力が少しだけ減った。

 

七瀬は息を整えながら呟いた。

 

「今は、これが私の役目です」

 

ホテル上階。

 

綾小路と海斗は非常階段を駆け上がっていた。

 

背後からコマンダーの足音。

 

重い。

 

速い。

 

冗談のような巨体なのに、速度が落ちない。

 

海斗が叫ぶ。

 

「なんであの体で速いんだよ!」

 

綾小路が答える。

 

「鍛えているからだろ」

 

「冷静に分析すんな!」

 

コマンダーの声が響く。

 

「聞こえてるぞ!褒めてくれてありがとな!」

 

海斗が振り返らずに叫ぶ。

 

「褒めてねぇ!」

 

「なら褒めろ!」

 

「面倒くせぇ!」

 

十階。

 

十二階。

 

十五階。

 

高級ホテルの廊下を、三人の足音が駆け抜ける。

 

敵兵が各階から現れるが、綾小路と海斗は止まらない。

 

綾小路が前方の敵の銃を撃ち落とす。

 

海斗が横から飛び出した敵を蹴り倒す。

 

コマンダーが後方から追ってくるせいで、敵兵まで巻き込まれて混乱していた。

 

「どけどけぇ!」

 

コマンダーが味方の敵兵を肩で押しのける。

 

海斗が笑う。

 

「あいつ、敵にも迷惑だな!」

 

「騒がしい要塞だ」

 

「言い得て妙だな!」

 

やがて、二人は最上階に近いインフィニティプールエリアへ出た。

 

夜の海と一体化するように造られた巨大プール。

 

透明なガラスフェンスの向こうには、黒い海と燃える港が見える。

 

プールサイドにはパラソル、デッキチェア、バーカウンター。

 

その奥に、メンテナンス用の小型桟橋へ続く階段。

 

そして、その近くに水上バイクが並んでいた。

 

海斗が息を切らしながら笑う。

 

「本当にあったな」

 

綾小路が頷く。

 

「坂柳の情報通りだ」

 

その時、背後の扉が吹き飛んだ。

 

コマンダーが現れる。

 

「いい場所じゃねぇか!」

 

夜風を受けながら、彼は笑っていた。

 

「プール、夜景、爆炎!最高のバカンスだ!」

 

海斗がベレッタを構える。

 

「お前のバカンス基準は壊れてる」

 

「よく言われる!」

 

コマンダーがアサルトライフルを構える。

 

綾小路と海斗は左右に散った。

 

プールサイドで銃撃戦が始まる。

 

弾丸が水面を叩き、水柱を上げる。

 

ガラスフェンスが砕け、夜空へ透明な破片が舞う。

 

デッキチェアが吹き飛び、バーカウンターのボトルが次々と割れる。

 

酒が床に広がり、火花が散る。

 

海斗がそれを見て叫ぶ。

 

「綾小路、酒!」

 

「分かっている」

 

綾小路はバーカウンター裏の照明配線を撃つ。

 

火花。

 

酒に引火。

 

青白い炎が床を走り、コマンダーの進路を塞ぐ。

 

コマンダーは笑いながら炎を飛び越えた。

 

「いい演出だ!」

 

海斗が呆れる。

 

「本当に効かねぇな!」

 

綾小路はプール横の清掃用薬剤タンクを見る。

 

爆発させるには危険。

 

だが、煙幕には使える。

 

「海斗、左のタンク」

 

「壊すのか?」

 

「中身を撒く」

 

「了解」

 

海斗がタンクのバルブを撃つ。

 

白い洗浄液が床へ噴き出す。

 

綾小路がプール設備の蒸気管を撃つ。

 

熱い蒸気が一気に広がり、白煙がプールサイドを覆った。

 

コマンダーの視界が一瞬遮られる。

 

その隙に、綾小路と海斗は水上バイクへ向かって走った。

 

だが、コマンダーは勘で撃ってきた。

 

弾丸が二人の足元を抉る。

 

海斗が叫ぶ。

 

「勘で当てんな!」

 

コマンダーが笑う。

 

「自然は全てを見ている!」

 

海斗が怒鳴る。

 

「それジャンボーの台詞だろ!」

 

「借りた!」

 

「返せ!」

 

綾小路は水上バイクの鍵を探す。

 

管理ボックス。

 

暗証番号式。

 

綾小路は端末を操作する。

 

「坂柳、ロックを開けられるか」

 

坂柳の声が返る。

 

『三秒ください』

 

「二秒で」

 

『無茶を言いますね』

 

二秒後。

 

管理ボックスが開いた。

 

海斗が笑う。

 

「さすが姫さん!」

 

坂柳の声。

 

『褒めるなら無事に戻ってからお願いします』

 

綾小路は鍵を取り、海斗へ投げる。

 

「乗れ」

 

「おう」

 

その瞬間、ホテル中央部から巨大な軋み音が響いた。

 

床が震える。

 

プールの水面が波打つ。

 

コマンダーも一瞬、足を止める。

 

坂柳の声が緊迫する。

 

『中央ロビーが崩れます!衝撃が上階にも来ます!』

 

堀北の声が続く。

 

『二人とも、今すぐそこから離れて!』

 

麗華も叫ぶ。

 

『海斗!』

 

海斗は水上バイクに跨りながら笑った。

 

「聞こえてる!」

 

綾小路も隣の水上バイクに乗る。

 

だが、出入口へ向かうにはプールサイドを抜け、

ガラスフェンスの向こうへ飛び出す必要がある。

 

普通のルートではない。

 

海斗が前を見る。

 

「飛ぶしかねぇな」

 

綾小路が答える。

 

「またか」

 

「まただ」

 

「今回は高さがある」

 

「今さらだろ」

 

コマンダーが背後で笑う。

 

「逃がすかよ!」

 

彼が銃を構える。

 

その瞬間。

 

ホテル中央部が崩壊した。

 

下階から巨大な爆炎と粉塵が噴き上がる。

 

吹き抜けが崩れ、階段が折れ、ガラス壁が連鎖的に砕け散る。

 

衝撃が最上階のプールエリアまで伝わり、床が大きく傾いた。

 

プールの水が一気に溢れ、波となってプールサイドを飲み込む。

 

デッキチェアが流され、破片が水と一緒に滑っていく。

 

海斗が叫ぶ。

 

「今だ!」

 

二台の水上バイクが同時にエンジンを唸らせる。

 

プールの水面を走る。

 

普通ならあり得ない。

 

だが、溢れた水と傾いた床が即席の滑走路になっていた。

 

綾小路は体を低くし、海斗はハンドルを押さえ込む。

 

コマンダーが銃撃する。

 

弾丸が水面を跳ね、水柱が上がる。

 

ガラスフェンスが目の前に迫る。

 

海斗が笑う。

 

「南国らしく行くぞ!」

 

綾小路が言う。

 

「物騒な南国だ」

 

「違いねぇ!」

 

二台の水上バイクはガラスフェンスへ突っ込んだ。

 

夜空へガラス片が舞う。

 

二人は水上バイクごとホテル外へ飛び出した。

 

眼下には黒い海。

 

遠くには燃える港。

 

背後ではホテルが崩れ、爆炎が空を染めている。

 

一瞬、二人の身体が空中に浮いた。

 

海斗が叫ぶ。

 

「着水に備えろ!」

 

綾小路は無言で姿勢を整える。

 

二台の水上バイクが海面へ叩きつけられた。

 

巨大な水柱が上がる。

 

衝撃で全身が軋む。

 

だが、二人は落ちなかった。

 

エンジンが唸る。

 

水上バイクは夜の海を走り始める。

 

背後のホテルでは、コマンダーが崩れかけたプールサイドに立っていた。

 

彼は大笑いしている。

 

「最高だ!最高だなぁ!」

 

ヘリが彼の背後へ降りてくる。

 

コマンダーはロープを掴みながら叫んだ。

 

「次は海上戦だ!逃げるなよ、刑事さん!護衛さん!」

 

海斗が振り返って叫ぶ。

 

「お前が追ってくんな!」

 

綾小路は前方を見る。

 

夜の海。

 

敵の探照灯。

 

水上バイクのエンジン音。

 

無線に坂柳の声が入る。

 

『お二人とも、生存確認しました』

 

海斗が叫ぶ。

 

「見ての通りだ!」

 

『見えていません。センサー上です』

 

「なら言い方変えろ!」

 

堀北の声が入る。

 

『綾小路くん、今のは無茶よ』

 

「必要だった」

 

『あなたはいつもそう言うわね』

 

「今回は海斗も同意した」

 

海斗が慌てる。

 

「巻き込むな!」

 

麗華の声が続く。

 

『海斗』

 

「無事だ」

 

『十割?』

 

海斗は少しだけ笑った。

 

「九割八分」

 

『十割』

 

「……十割だ」

 

『よろしい』

 

そのやり取りを聞いて、綾小路はわずかに表情を緩めた。

 

だが、すぐに前方へ目を戻す。

 

敵の武装水上バイクが、左右から迫っていた。

 

さらに遠くには武装艇。

 

上空にはヘリ。

 

ホテル銃撃戦は終わった。

 

だが、休む暇はない。

 

次の戦場は夜の海だった。

 

海斗はアクセルを握り直す。

 

「お次は水上バイクチェイスか」

 

綾小路が隣で答える。

 

「まだタイトルを決めるには早い」

 

「どう見てもそれだろ」

 

「否定はしない」

 

背後でホテルの一部が再び爆発した。

 

炎が夜空を染める。

 

水面に赤い光が揺れる。

 

海斗はその光を横目で見ながら呟いた。

 

「高級ホテル、滅茶苦茶だな」

 

綾小路は淡々と言う。

 

「敵に請求だ」

 

海斗は笑った。

 

「それ何回目だよ」

 

「足りないくらいだ」

 

「違いねぇ」

 

二台の水上バイクは速度を上げた。

 

黒い海を切り裂き、火の粉を背に、次なる戦場へ向かう。

 

島はまだ封鎖されている。

 

研究施設は狙われている。

 

ジャンボーは森で待っている。

 

コマンダーは海上へ出る。

 

七瀬は敵の中で正体を晒した。

 

そして、ホテルの地下では、仲間たちが避難民を守り続けている。

 

誰か一人が戦っているのではない。

 

全員が、それぞれの場所で戦っている。

 

常夏の夜を切り裂くエンジン音が、海の向こうへ響いていった。

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