ザ・ダイハード・マスターピース   作:EXTERMINATION

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第86話 日常を守る者たち

管理道路へ出た瞬間、空気が変わった。

 

背後には黒いジャングル。

 

前方には研究施設へ続く白い道路。

 

さらに遠くには、巨大コンテナ港のクレーン群が夜空へ影を伸ばしている。

 

綾小路清隆、朝霧海斗、七瀬翼の三人は、

荒い息を整える間もなく走り続けていた。

 

海斗が濡れた髪をかき上げる。

 

「海、ホテル、森……次は港か」

 

綾小路は前を見る。

 

「ああ」

 

七瀬がライフルを背負い直す。

 

「敵の輸送部隊はこの道を使います。研究施設へ物理的に侵入するつもりです」

 

海斗が舌打ちする。

 

「麗華の技術狙いか」

 

「ええ」

 

七瀬は頷いた。

 

「エネルギーコアの保管区画。

そこに到達されれば、島の主電源も研究データも危険です」

 

綾小路が無線を入れる。

 

「坂柳、聞こえるか」

 

すぐに坂柳有栖の声が返る。

 

『聞こえています。七瀬さんの合流も確認しました』

 

「研究施設の状況は」

 

『敵輸送車両が三台、南側搬入口へ接近中です。港湾側から追加部隊も出ています』

 

堀北鈴音の声が続く。

 

『こちらは第二シェルターへの移動をほぼ完了したわ。

ただし、研究施設を落とされると島内の電源制御が危ない』

 

麗華の声は硬かった。

 

『エネルギーコアはまだ守れているわ。でも、施設内へ入られたら長くは持たない』

 

海斗が答える。

 

「入れさせねぇよ」

 

その声は軽くなかった。

 

麗華は一瞬黙り、それから静かに言った。

 

『頼りにしているわ』

 

「任せろ」

 

綾小路は道路の先を見る。

 

敵の車列のライトが近づいている。

 

装甲輸送車。

 

小型トラック。

 

武装バギー。

 

数は少ないが、研究施設へ向かうには十分な戦力だった。

 

七瀬が言う。

 

「ここで止めますか」

 

綾小路は周囲を見る。

 

道路脇には観光用メンテナンス車両。

 

資材コンテナ。

 

照明ポール。

 

そして、雨水排水用の浅い溝。

 

「完全に止めるのは難しい」

 

海斗が笑う。

 

「じゃあ派手に遅らせるか」

 

「そうする」

 

綾小路は七瀬を見る。

 

「七瀬、先頭車両のタイヤを狙えるか」

 

「はい」

 

「海斗は右側のバギー」

 

「了解」

 

「オレは中央のトラックを止める」

 

敵車列が近づく。

 

ライトが三人を照らす。

 

敵が気づいた。

 

「前方に敵!」

 

「撃て!」

 

車載機銃が火を噴いた。

 

弾丸が道路を叩き、火花を散らす。

 

三人は左右へ散った。

 

七瀬は道路脇の資材コンテナの上へ駆け上がり、膝撃ちでスナイパーライフルを構える。

 

一発。

 

先頭輸送車の右前輪が弾けた。

 

車体が大きく揺れる。

 

二発目。

 

左前輪。

 

輸送車は制御を失い、道路脇の照明ポールへ激突した。

 

海斗は右から迫る武装バギーへ向かって走る。

 

ベレッタ二丁。

 

片方で運転席前のライトを砕き、もう片方で機関銃の固定部を撃つ。

 

敵の視界が潰れ、銃座が横へずれる。

 

海斗はさらに接近し、ショットガンへ持ち替えた。

 

「悪いな、通行止めだ!」

 

轟音。

 

バギーの前輪が破裂し、車体が横転する。

 

綾小路は中央のトラックへ向け、道路脇の排水溝を撃った。

 

蓋が跳ね上がる。

 

さらに手榴弾を一つ、トラックの進路ではなく、排水溝の奥へ投げ込む。

 

海斗が横目で叫ぶ。

 

「今度はどこだ!?」

 

「下だ」

 

爆発。

 

道路の下から衝撃が走り、排水溝のコンクリートが持ち上がった。

 

トラックの前輪が段差に乗り上げ、積み荷を大きく揺らす。

 

積まれていた弾薬箱が荷台から崩れ落ち、道路へ散乱した。

 

敵兵たちが慌てて飛び降りる。

 

その瞬間、七瀬が弾薬箱の近くの照明ポールを撃った。

 

火花が散る。

 

海斗が叫ぶ。

 

「下がれ!」

 

三人は同時に遮蔽物の裏へ飛び込んだ。

 

弾薬箱が誘爆した。

 

夜の管理道路に巨大な火球が広がり、爆風でトラックが横転する。

 

道路脇の椰子の木が大きく揺れ、照明ポールが折れ、

燃えた破片が雨のように降ってきた。

 

敵兵たちは爆風で吹き飛ばされ、車列は完全に停止した。

 

海斗が煙の向こうを見ながら笑う。

 

「よし、派手に遅れたな」

 

綾小路が立ち上がる。

 

「ああ」

 

七瀬も頷く。

 

「研究施設までの時間は稼げました」

 

だが、敵の全てを止めたわけではない。

 

爆煙の向こうから、まだ複数の影が動いている。

 

敵兵が銃を構え直す。

 

綾小路が短く言う。

 

「長居はしない。研究施設へ戻る」

 

三人は再び走り出した。

 

その頃、第二シェルターでは避難民の移動が終盤に差しかかっていた。

 

一之瀬帆波は最後尾の人々を誘導していた。

 

「あと少しです。ゆっくりで大丈夫です」

 

椎名ひよりは負傷した従業員に肩を貸している。

 

「足元に気をつけてください」

 

軽井沢恵は子供たちの手を引いていた。

 

「ほら、探検隊みたいでしょ?怖くない怖くない!」

 

子供が小さく笑う。

 

「ほんと?」

 

「ほんと!恵隊長についてきなさい!」

 

森下藍は人数確認をしている。

 

「一、二、三……」

 

ツキが隣で言う。

 

「藍、藍」

 

「今度はなんですか」

 

「今回は合ってるよ」

 

森下が驚く。

 

「本当ですか?」

 

「はい」

 

「やりました」

 

ツキは頷く。

 

「成長」

 

森下も頷く。

 

「ついに人類の仲間入りですね」

 

「おめでとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

軽井沢が吹き出した。

 

「何の表彰式!?」

 

森下は真面目な顔だった。

 

「人数確認検定一級です」

 

「そんな資格ないから!」

 

ツキも真顔で言う。

 

「二級は昨日取得済み」

 

「取得してない!」

 

森下は少し考えた。

 

「では準一級かもしれません」

 

「柔軟ですね」

 

「向上心があります」

 

軽井沢が肩を震わせる。

 

「でも森下さん、ちゃんと役に立ってるよ」

 

森下は少し照れた。

 

「そ、そう言われると悪い気はしませんね」

 

ツキがニヤリと笑う。

 

「単純」

 

森下は少し考える。

 

「確かに」

 

「認めるんだ!?」

 

軽井沢が即座にツッコむ。

 

森下は真顔で続ける。

 

「褒められて嬉しいのは正常です」

 

ツキも頷く。

 

「人類」

 

森下は腕を組む。

 

「本日二回目の人類認定ですね」

 

「そんな認定ないから!」

 

ツキがメモ帳を取り出す。

 

「記録しておきます」

 

「何の記録!?」

 

その時だった。

 

近くで手を挙げる老夫婦がいた。

 

一之瀬がすぐに駆け寄る。

 

「どうしましたか?」

 

老夫が申し訳なさそうに卵パックを持ち上げる。

 

「あのう……売店で買ったこの卵パックなんじゃが」

 

一之瀬は頷く。

 

「はい」

 

「割れないように保護できませんかね?」

 

場が静かになった。

 

一之瀬は数秒固まる。

 

ひよりも隣で瞬きを繰り返した。

 

「た、卵ですか……?」

 

「うむ」

 

老夫は真剣だった。

 

「十個入りなんじゃ」

 

「それは大切ですね……」

 

ひよりも困ったように笑う。

 

だが、その隣で老婦人が今度は保冷バッグを持ち上げた。

 

「ワシが買ったアイスも、このままじゃ溶けてしまうのう」

 

軽井沢が思わず叫ぶ。

 

「アイス!?」

 

「抹茶味なんじゃ」

 

「そこ重要!?」

 

老婦人は真顔だった。

 

一之瀬は苦笑する。

 

「申し訳ないですが、今は避難が最優先ですので……」

 

ひよりも頭を下げた。

 

「命には変えられません……」

 

軽井沢も申し訳なさそうに言う。

 

「ごめんね、おじいちゃん、おばあちゃん」

 

老夫婦は顔を見合わせた。

 

そして穏やかに笑う。

 

「いえいえ」

 

「無理を言ってすまなかったのう」

 

老夫はポケットを探る。

 

「その代わりじゃ」

 

取り出したのは小さな缶だった。

 

「ほれ」

 

軽井沢が受け取る。

 

「ん?」

 

「サクマドロップじゃ」

 

軽井沢は思わず吹き出した。

 

「あはは……ありがとう」

 

老夫は満足そうに頷く。

 

「みんなで食べるといい」

 

「卵より先にドロップ配るんですね……」

 

一之瀬が苦笑する。

 

ひよりも小さく笑った。

 

「優しい方ですね」

 

ツキが缶を覗き込む。

 

「ハッカ味だけ残る未来が見える」

 

老夫が真面目な顔で言う。

 

「ハッカも美味しいぞ」

 

「そっちなんですか?」

 

そしてまた。

 

「あ!」

 

小さな女の子が立ち上がった。

 

それをきっかけに、周囲の子供たちがぞろぞろ集まってくる。

 

一之瀬が首を傾げた。

 

「どうしたの?」

 

女の子は少し照れながら言った。

 

「じゃあ、あたしたちからも」

 

別の男の子も頷く。

 

「うん!」

 

そして全員で声を揃えた。

 

「がんばってるお姉ちゃんたちにプレゼント!」

 

軽井沢が目を丸くする。

 

「えっ?」

 

一之瀬も驚いた。

 

「私たちに?」

 

男の子はポケットを探る。

 

「ぼく、これ!」

 

差し出されたのは遊戯王カードだった。

 

少し角が曲がっている。

 

だが、子供にとっては大切な宝物なのだろう。

 

「すごく強いカードなんだ!デーモンの召喚!」

 

一之瀬は慌てて首を振る。

 

「えっ、いやいや、そんな大事なもの貰えないよ!」

 

「でも、お姉ちゃん頑張ってた!」

 

男の子は真剣だった。

 

一之瀬は困りながらも笑う。

 

「ありがとう。じゃあ少しだけ見せてもらおうかな」

 

「うん!」

 

今度は女の子が前へ出る。

 

「あたしはこれ!」

 

手にはポッチャマのキーホルダー。

 

青いペンギンのキャラクターがぶら下がっている。

 

ひよりは優しく受け取った。

 

「可愛いですね」

 

「でしょ!」

 

「大好きなんですか?」

 

「うん!」

 

ひよりは微笑む。

 

「私も好きですよ」

 

女の子は嬉しそうに飛び跳ねた。

 

「やったー!」

 

その横から別の女の子が前へ出る。

 

「あたしは……」

 

手の中を見つめる。

 

何も持っていない。

 

数秒考える。

 

そして。

 

「うーんとね」

 

地面を見た。

 

「これ!」

 

差し出されたのは泥団子だった。

 

しかもかなり本格的なやつだ。

 

軽井沢が吹き出す。

 

「泥団子!?」

 

女の子は真剣な顔で頷く。

 

「ぴかぴかになるまで磨いたの!」

 

確かに妙に完成度が高い。

 

森下も思わず感心した。

 

「すごいですね……」

 

ツキが冷静に言う。

 

「職人」

 

森下も頷く。

 

「間違いありません」

 

軽井沢が笑う。

 

「泥団子職人じゃないから!」

 

ツキは泥団子をじっと見つめる。

 

「これは一級品」

 

森下も真剣な顔になる。

 

「売れますね」

 

「売らないよ!?」

 

軽井沢が即座にツッコむ。

 

女の子は少し考えた。

 

「いくらになるの?」

 

森下も考える。

 

「難しいですね」

 

ツキが言う。

 

「市場価格が分からない」

 

「市場なんてないから!」

 

軽井沢はお腹を抱えて笑った。

 

ツキはさらに続ける。

 

「将来有望」

 

森下も大きく頷く。

 

「泥団子界のエースですね」

 

「そんな界隈聞いたことない!」

 

女の子は嬉しそうに胸を張る。

 

「やったー!」

 

軽井沢は笑いながら泥団子を受け取った。

 

「ありがと。大事にするね」

 

ツキがぽつりと言う。

 

「保険に入った方がいい」

 

森下も頷く。

 

「国宝候補です」

 

「どんどん価値上げないで!」

 

軽井沢は笑いながら泥団子を受け取る。

 

すると別の男の子が慌てて走ってきた。

 

「ぼくも!」

 

「まだあるの!?」

 

軽井沢が驚く。

 

男の子が差し出したのはどんぐりだった。

 

「ジャングルで拾った!」

 

「うん!」

 

「……ありがとう?」

 

軽井沢は受け取った。

 

森下が吹き出す。

 

「プレゼントの基準が自由すぎます」

 

一之瀬も笑っていた。

 

ひよりも笑顔を浮かべる。

 

老夫婦も微笑ましそうに見守っている。

 

子供たちは次々と、

 

折り紙。

 

綺麗な貝殻。

 

色鉛筆で描いた絵。

 

木の枝。

 

謎の石。

 

そんな宝物を持ってくる。

 

一之瀬、ひより、軽井沢は少し困りながらも、一つ一つ丁寧に受け取った。

 

「ありがとう」

 

「大切にするね」

 

「すごく嬉しいよ」

 

その言葉を聞いた子供たちは満面の笑顔になる。

 

避難所の空気が少しだけ明るくなる。

 

爆発も銃声も届かない場所。

 

そこには、ただ人を思いやる優しさだけがあった。

 

そして、その光景を見た避難民たちにも自然と笑顔が広がっていった。

 

ほんの少しだけ。

 

だが確かに。

 

張り詰めていた空気が和らいでいた。

 

だが、その奥で堀北は端末を見つめ、表情を引き締めていた。

 

坂柳も同じ画面を見ている。

 

麗華は研究施設の内部図を表示していた。

 

「南側搬入口の外部カメラが落ちたわ」

 

坂柳が言う。

 

「敵車列の一部は止まりましたが、徒歩部隊が施設へ向かっています」

 

堀北が問う。

 

「綾小路くんたちは?」

 

「研究施設へ接近中です。ただし、敵の第二波も港から出ています」

 

麗華は唇を噛む。

 

「施設内の防衛システムは観光施設基準よ。軍隊相手には時間稼ぎにしかならない」

 

堀北が言う。

 

「時間稼ぎでいいわ。その時間で綾小路くんたちが戻る」

 

麗華は堀北を見た。

 

「あなた、随分信じているのね」

 

堀北は少しだけ間を置いた。

 

「信じるしかない場面を、何度も越えてきたから」

 

麗華はその言葉を聞き、小さく頷いた。

 

「そうね」

 

その時、シェルター入口側で銃声が響いた。

 

尊徳が立っていた。

 

彩を背後に守りながら、敵の偵察部隊を制圧していた。

 

彼の動きは無駄がない。

 

敵の腕を取り、壁へ叩きつけ、銃を遠ざける。

 

もう一人が銃を構えようとした瞬間、尊徳は足を払い、床へ押さえ込んだ。

 

彩が息を呑む。

 

「尊徳さん……!」

 

尊徳は振り返らず、丁寧な口調で言った。

 

「彩様、こちらへは出ないでください。危険です」

 

「は、はい」

 

敵の一人が起き上がろうとする。

 

尊徳はその手首を押さえた。

 

「申し訳ありませんが、ここから先へは通せません」

 

声は丁寧だった。

 

だが、圧は強い。

 

敵兵は動けなかった。

 

彩は震えながらも、避難民の誘導を続ける。

 

「こちらです!第二シェルターへ進んでください!」

 

尊徳が横目で見る。

 

「彩様、その調子です。落ち着いていらっしゃいます」

 

彩は頷いた。

 

「はい……!」

 

「今の彩様は確かに皆様を支えています」

 

彩の目が少しだけ揺れた。

 

「ありがとうございます」

 

尊徳は敵を拘束しながら静かに答えた。

 

「礼には及びません。私は彩様をお守りするだけです」

 

その言葉は、いつもの苦労人めいた軽さではなかった。

 

昔とは違う。

 

今の尊徳は、彩の成長を見守る護衛であり、支える者だった。

 

研究施設南側。

 

綾小路、海斗、七瀬は施設外周へ到着した。

 

巨大な白い研究棟。

 

周囲には観光地らしからぬ高いフェンス。

 

監視カメラ。

 

カード認証ゲート。

 

だが、その一部は既に破壊されていた。

 

敵徒歩部隊が侵入を開始している。

 

海斗が顔をしかめる。

 

「やっぱり間に合ってねぇか」

 

七瀬が言う。

 

「まだ中枢区画までは到達していないはずです」

 

綾小路は施設の外壁を見た。

 

南側搬入口。

 

そこには大型シャッターがある。

 

敵が爆破装置を仕掛けていた。

 

「シャッターを破る気だ」

 

海斗がショットガンを構える。

 

「止めるぞ」

 

三人は同時に動いた。

 

七瀬が遠距離から爆破装置を設置していた敵の武器を撃ち落とす。

 

海斗は正面から突っ込み、ベレッタ二丁で敵を散らす。

 

綾小路は左側から回り込み、爆破装置の配線を撃ち切った。

 

敵が叫ぶ。

 

「抵抗勢力だ!」

 

「撃て!」

 

銃撃が始まる。

 

施設外周の白い壁に弾痕が刻まれていく。

 

綾小路は搬入口の制御盤を背にしながら、敵の進行を止める。

 

海斗はコンテナ型の機材ケースを盾にして撃ち返す。

 

七瀬は高所へ移動し、敵の足元と武器を狙う。

 

三人の連携は、即興とは思えないほど噛み合っていた。

 

海斗が叫ぶ。

 

「七瀬、右の奴!」

 

七瀬は即座に撃つ。

 

敵のライフルが弾かれる。

 

綾小路がその隙に前へ出て、敵を制圧する。

 

七瀬が言う。

 

「朝霧さん、左上です」

 

海斗は振り向きもせず、ベレッタを左上へ向けて撃つ。

 

敵の照明装置が砕け、周囲が暗くなる。

 

海斗が笑う。

 

「助かる!」

 

綾小路は制御盤を操作しながら言う。

 

「坂柳、搬入口の再ロックはできるか」

 

『こちらからは権限が不足しています。麗華さんの認証が必要です』

 

麗華の声が割り込む。

 

『送るわ。十秒だけシャッターを開けて、あなたたちを中に入れる。

その後、物理ロックをかける』

 

海斗が言う。

 

「敵も一緒に入りそうだぞ」

 

麗華は即答する。

 

『だから十秒よ』

 

綾小路が頷く。

 

「了解」

 

シャッターが重い音を立てて少しずつ開く。

 

敵もそれに気づく。

 

「中へ入れ!」

 

敵兵が殺到する。

 

海斗が前へ出る。

 

「通行止めだ!」

 

ショットガンの轟音。

 

敵の先頭が吹き飛ぶように倒れる。

 

七瀬が連続で撃ち、敵の武器を弾いていく。

 

綾小路は手榴弾を取り出す。

 

海斗が見る。

 

「どこ狙う?」

 

「床だ」

 

「またか!」

 

綾小路は敵の足元ではなく、搬入口前の排水グレーチングへ投げ込んだ。

 

爆発。

 

排水溝から土砂と水が噴き上がり、搬入口前が一瞬泥と煙に包まれる。

 

敵の足が止まる。

 

「今だ」

 

三人はシャッターの隙間へ飛び込んだ。

 

内側へ入った直後、シャッターが急降下する。

 

敵兵が滑り込もうとする。

 

海斗が足元を撃って止める。

 

シャッターが閉じた。

 

重い音。

 

内部ロック作動。

 

七瀬が息を吐く。

 

「ギリギリでした」

 

海斗が笑う。

 

「麗華らしい十秒だったな」

 

麗華の声が無線に入る。

 

『褒めているの?』

 

「褒めてる」

 

『ならいいわ』

 

綾小路は研究施設内を見る。

 

白い廊下。

 

青白い非常灯。

 

壁面に走るケーブル。

 

奥へ続く隔壁。

 

ここはリゾートの裏側だった。

 

観光客の目には触れない、島の心臓部。

 

麗華が言う。

 

『その先がエネルギーコアの保管区画よ。ただし、敵が別ルートからも侵入を試みている』

 

坂柳が続ける。

 

『港湾側の搬送トンネルです。コンテナ港へ繋がる地下通路があります』

 

海斗が顔をしかめる。

 

「結局、次は港か」

 

綾小路が頷く。

 

「ああ」

 

七瀬が言う。

 

「敵の本隊はコンテナ港にあります。

研究施設を守るには、港側の補給と指揮を叩く必要があります」

 

その時、施設全体が揺れた。

 

遠くで爆発。

 

照明が点滅する。

 

麗華の声が緊迫する。

 

『港側の隔壁が攻撃されています!』

 

堀北が言う。

 

『綾小路くん、港側の搬送トンネルへ向かって。

そこを突破されたら研究施設へ直通されるわ』

 

海斗が銃を構え直す。

 

「休む暇なしだな」

 

綾小路は静かに言う。

 

「今止まれば、敵が進む」

 

七瀬も頷く。

 

「行きましょう」

 

三人は白い廊下を走り出した。

 

その頃、コンテナ港。

 

巨大クレーンの上で、コマンダーが双眼鏡を覗いていた。

 

遠くの研究施設。

 

燃えるホテル。

 

黒いジャングル。

 

赤く染まる海。

 

彼は愉快そうに笑う。

 

「いいねぇ。島全体が動いてる」

 

部下が報告する。

 

「研究施設への南側侵入部隊、阻止されました」

 

「知ってる」

 

「港側トンネルを使いますか」

 

コマンダーは葉巻を咥え直す。

 

「当然だ」

 

「ジャンボーは?」

 

「森で遊んでる。あいつはあいつで楽しんでるだろ」

 

部下は黙った。

 

コマンダーは巨大なコンテナ港を見下ろす。

 

無数のコンテナ。

 

フォークリフト。

 

燃料タンク。

 

クレーン。

 

弾薬。

 

車両。

 

重火器。

 

ここは彼の領域だった。

 

ジャングルがジャンボーの森なら、コンテナ港はコマンダーの要塞。

 

彼は笑った。

 

「刑事さん、護衛さん、裏切りスナイパーちゃん。次はこっちだ」

 

巨大な重火器がコンテナの上へ運び込まれていく。

 

戦場はさらに大きくなる。

 

研究施設の搬送トンネル。

 

綾小路たちは港へ向かって走っていた。

 

長い地下通路。

 

天井のライトが点滅し、遠くから重い振動が響いてくる。

 

海斗が言う。

 

「この先、完全に敵の本拠地だな」

 

七瀬が頷く。

 

「コマンダーの主力がいます」

 

綾小路は前を見たまま言った。

 

「なら、ここで流れを変える」

 

海斗が笑う。

 

「いいねぇ」

 

「派手にやるか?」

 

綾小路は少しだけ間を置いた。

 

「ああ」

 

海斗はニヤリと笑った。

 

「珍しく分かってるじゃねぇか」

 

七瀬が小さく微笑む。

 

「では、派手に行きましょう」

 

背後では仲間たちが避難民を守っている。

 

麗華は研究施設を守っている。

 

堀北と坂柳は全体を見ている。

 

尊徳は彩を支え、彩は自分の役割を果たしている。

 

一之瀬、ひより、軽井沢、森下、ツキも戦っている。

 

武器を持つ者だけが戦士ではない。

 

全員が、それぞれの場所で戦っている。

 

だからこそ、綾小路たちは前へ進む。

 

次の戦場は、巨大コンテナ港。

 

要塞のような男、コマンダーが待つ場所。

 

搬送トンネルの先で、巨大な爆発音が響いた。

 

光が走る。

 

熱風が流れ込む。

 

海斗が銃を構えた。

 

「歓迎の花火か」

 

綾小路もガバメントを抜く。

 

「なら、返礼が必要だな」

 

七瀬がライフルを構える。

 

「援護します」

 

三人は爆煙の向こうへ踏み込んだ。

 

そして、次に始まるのは。

 

コンテナ港を揺るがす、最大級の銃撃戦だった。

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