ザ・ダイハード・マスターピース   作:EXTERMINATION

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第87話 コンテナ港の戦い 前編

搬送トンネルの奥から、爆発音が響いていた。

 

研究施設とコンテナ港を繋ぐ地下搬送路。

 

本来なら、新技術関連の大型機材や資材を運ぶための専用ルートだった。

 

白い壁。

 

無機質な照明。

 

床に埋め込まれた搬送レール。

 

その整然とした空間は、今では火薬の匂いと煙で満たされていた。

 

天井のライトは点滅し、ところどころでスプリンクラーが誤作動している。

 

奥の隔壁はすでに破られかけていた。

 

港側から、敵が爆薬と重機を使って押し込んできている。

 

綾小路清隆、朝霧海斗、七瀬翼の三人は、その搬送トンネルを駆けていた。

 

海斗はアサルトライフルを肩にかけ、両腰のベレッタを確認する。

 

「ここを抜けたらコンテナ港か」

 

綾小路は前方を見たまま答える。

 

「ああ」

 

七瀬はスナイパーライフルを背負い直した。

 

「港は敵の主拠点です。正面から入れば集中砲火を受けます」

 

海斗が笑う。

 

「じゃあ正面から入るしかねぇな」

 

七瀬が少しだけ目を丸くする。

 

「そういう結論になるんですか?」

 

綾小路が淡々と言う。

 

「敵は正面以外を封鎖している。なら、正面突破が最も情報を得られる」

 

七瀬は一瞬だけ黙り、それから小さく頷いた。

 

「分かりました」

 

海斗が横目で見る。

 

「慣れた方がいいぞ。こいつ、だいたいこういう無茶を合理的って言う」

 

綾小路は否定しない。

 

「合理的だ」

 

「ほらな」

 

無線に坂柳有栖の声が入る。

 

『搬送トンネル出口付近に敵部隊がいます。数は十数名。

固定機関銃が二基。さらに港側のコンテナ上に狙撃手らしき反応があります』

 

七瀬が即座に反応する。

 

「狙撃手はこちらで見ます」

 

『お願いします。七瀬さんの位置取りが鍵になります』

 

堀北鈴音の声も続いた。

 

『綾小路くん、無理に港を制圧しようとしないで。

目的は敵の進行阻止と研究施設へのルート遮断よ』

 

「分かっている」

 

『本当に?』

 

「港全体を制圧するには戦力が足りない」

 

『そういう意味ではなく、あなたが無茶をするかどうかを聞いているのだけれど』

 

海斗が笑う。

 

「堀北、安心しろ。無茶する時はオレも一緒だ」

 

『安心できる要素がないわ』

 

七瀬が小さく吹き出しそうになった。

 

綾小路は少しだけ表情を緩める。

 

「戻る」

 

堀北は短く答えた。

 

『ええ。戻ってきなさい』

 

次に麗華の声が入った。

 

『海斗』

 

「十割だ」

 

『まだ聞いていないわ』

 

「先に答えた」

 

『なら、もう一つ。七瀬さんも連れて戻ってきて』

 

海斗は七瀬を見た。

 

七瀬は一瞬驚いた顔をする。

 

海斗は軽く肩をすくめた。

 

「だそうだ」

 

七瀬は静かに頷く。

 

「……はい」

 

綾小路は搬送路の先を見た。

 

重い金属音。

 

敵が隔壁を破ろうとしている。

 

溶断機の光が扉の隙間から漏れていた。

 

火花が床に散る。

 

隔壁の向こうから敵兵の声が聞こえる。

 

「もう少しだ!」

 

「研究施設側へ抜けるぞ!」

 

「抵抗が来る前に突破しろ!」

 

海斗はベレッタを抜いた。

 

「来てるんだよなぁ」

 

綾小路は手榴弾を一つ取り出した。

 

海斗が横目で見る。

 

「どこに投げる?」

 

「扉の向こうではない」

 

「じゃあ?」

 

「上だ」

 

綾小路は天井近くの搬送レール固定部を見た。

 

そこには古いメンテナンス用の荷吊りフックが残っている。

 

そのすぐ横には、敵が溶断中の隔壁を支える補助フレーム。

 

「敵が扉を開けた瞬間にフレームを落とす」

 

七瀬が頷く。

 

「視界と進路を同時に塞ぐんですね」

 

「そうだ」

 

海斗が笑う。

 

「相変わらず嫌な使い方するな」

 

「効く」

 

「褒めてる」

 

「そうか」

 

隔壁が破れた。

 

敵兵が押し込んでくる。

 

その瞬間、綾小路が手榴弾を天井へ向けて投げた。

 

爆発。

 

爆風で天井の補助フレームが歪み、荷吊りフックごと落下した。

 

重い鉄骨が隔壁前へ落ち、火花を散らしながら敵の進路を塞ぐ。

 

同時に粉塵と煙が一気に広がった。

 

敵兵たちは足を止める。

 

「なんだ!?」

 

「視界が――」

 

七瀬が煙の隙間から撃った。

 

一発目で固定機関銃の照準器を破壊。

 

二発目で反対側の銃座の弾帯を撃ち抜く。

 

海斗は右へ飛び出し、ベレッタ二丁で敵の武器を弾き飛ばす。

 

綾小路は左から進み、敵の足元と腕を狙って戦闘不能にしていく。

 

搬送トンネル内に銃声が反響した。

 

狭い空間で音が何度も跳ね返る。

 

弾丸が壁を削り、火花が散る。

 

煙と水蒸気の中、三人は前へ進む。

 

敵は数で押そうとするが、狭いトンネルでは一度に展開できない。

 

綾小路はその制限を利用していた。

 

海斗が前へ出て圧をかける。

 

七瀬が後方から敵の射撃を封じる。

 

綾小路が隙間を縫って制圧する。

 

海斗が叫ぶ。

 

「七瀬、奥のライト!」

 

七瀬は即座に撃つ。

 

奥の強い照明が砕け、敵の視界が暗くなる。

 

綾小路が言う。

 

「海斗、右の消火配管」

 

「了解!」

 

海斗がショットガンで配管を撃つ。

 

高圧の水が噴き出し、敵の足元を滑らせる。

 

敵兵が体勢を崩した瞬間、綾小路が一気に距離を詰めた。

 

一人、二人、三人。

 

最短で倒す。

 

七瀬が息を整えながら言う。

 

「トンネル内の敵、ほぼ制圧」

 

海斗は奥を見た。

 

「出口が見える」

 

搬送トンネルの先。

 

巨大なシャッターの向こうから、夜の港の光が漏れていた。

 

赤、青、白。

 

コンテナ港の作業灯。

 

燃える車両の炎。

 

敵の探照灯。

 

巨大なクレーンの警告灯。

 

その全てが混ざり合い、出口の向こうを異様な色に染めていた。

 

坂柳の声が入る。

 

『出口の先、敵部隊が広く展開しています。三人が出た瞬間に集中砲火が来ます』

 

海斗が銃を構え直す。

 

「じゃあ出た瞬間にこっちも派手にやるか」

 

綾小路は床を見る。

 

搬送レールの上に、まだ動く小型搬送台車が一台残っている。

 

その上には金属ケース。

 

中身は空だが、盾にはなる。

 

「搬送台車を使う」

 

七瀬がすぐに理解する。

 

「移動遮蔽物ですね」

 

海斗が笑う。

 

「港へ特攻カートかよ」

 

「名前はどうでもいい」

 

「言い方って大事だろ」

 

「生き残る方が大事だ」

 

「正論だな」

 

綾小路は搬送台車を起動する。

 

台車が低いモーター音を立てて前へ動き出した。

 

三人はその後ろに身を低くする。

 

シャッターが開く。

 

港の夜風が一気に流れ込んできた。

 

潮の匂い。

 

燃料の匂い。

 

鉄の匂い。

 

火薬の匂い。

 

そして、すぐに銃声。

 

敵の集中砲火が搬送台車へ浴びせられた。

 

金属ケースが火花を散らし、へこみ、破片を飛ばす。

 

三人は台車を盾にしながらコンテナ港へ飛び出した。

 

目の前に広がるのは、巨大な鋼鉄の迷宮だった。

 

赤、青、緑、黄色のコンテナが山のように積み上げられている。

 

何十メートルもある巨大クレーンが何基も立ち並び、その上で警告灯が点滅している。

 

フォークリフト。

 

コンテナトレーラー。

 

燃料タンク。

 

貨物列車用のレール。

 

港湾管理棟。

 

岸壁。

 

沖合の大型船。

 

すべてが敵の要塞として使われていた。

 

海斗が叫ぶ。

 

「でけぇな!」

 

綾小路もコンテナの配置を見る。

 

「視界が悪い。遮蔽物は多いが、敵にも有利だ」

 

七瀬はすぐに高所を見た。

 

「私は上へ行きます」

 

海斗が驚く。

 

「この状況でか?」

 

「狙撃手は高い場所が必要です」

 

綾小路は頷く。

 

「コンテナ上を取れ。敵狙撃手を潰してくれ」

 

「了解」

 

七瀬は横のコンテナに設置された作業用梯子へ走った。

 

敵が撃ってくる。

 

海斗がその射線を遮るように前へ出る。

 

「行け!」

 

七瀬は一瞬だけ振り向き、それから梯子を駆け上がる。

 

綾小路と海斗は搬送台車を蹴って敵の方へ押し出した。

 

台車は弾丸を浴びながら前進し、敵のバリケードへ突っ込む。

 

その瞬間、海斗が台車の金属ケースに向けて撃つ。

 

中に残っていた小型バッテリーが火花を散らし、敵が積んでいた予備燃料缶へ引火した。

 

港の入口で爆発が起きた。

 

火球が上がり、黒煙がコンテナの壁を舐めるように広がる。

 

爆風で敵の隊列が崩れた。

 

綾小路と海斗はその隙に左右へ散る。

 

海斗は赤いコンテナの陰へ。

 

綾小路はフォークリフトの影へ。

 

敵の銃撃が追いかける。

 

コンテナの壁に弾痕が並び、金属音が鳴り響く。

 

海斗がベレッタを抜きながら叫ぶ。

 

「綾小路、左に機関銃!」

 

「見えている」

 

港湾管理棟の二階。

 

窓から固定機関銃がこちらを狙っている。

 

綾小路は直接撃たない。

 

近くのフォークリフトを操作し、積まれていた空コンテナを少しだけ持ち上げる。

 

敵の機関銃が火を噴く。

 

弾丸がフォークリフトを削る。

 

綾小路は身を低くしながらレバーを倒した。

 

持ち上げられた空コンテナが前方へ倒れる。

 

コンテナは港湾管理棟の窓の前に落下し、機関銃の射線を完全に塞いだ。

 

海斗が笑う。

 

「豪快なブラインドだな!」

 

「使えるものを使った」

 

「今のは結構好きだぜ!」

 

「そうか」

 

その時、海斗の背後から敵兵が二人飛び出す。

 

海斗は振り向きざまにベレッタを撃つ。

 

一人の武器を弾き、もう一人の足元に弾を撃ち込む。

 

さらに接近し、肘で一人を倒し、もう一人をコンテナへ叩きつけた。

 

「後ろからは趣味が悪いな」

 

敵が呻く。

 

海斗はそのまま敵の無線を拾う。

 

そこからコマンダーの声が聞こえた。

 

『おいおい、もう港に来たのか?

早いな、刑事さん、護衛さん、裏切りスナイパーちゃん!』

 

海斗が無線へ向かって言う。

 

「観光の続きだ」

 

『いいねぇ!港湾エリアは当リゾート自慢のアトラクションだ!

コンテナ、クレーン、爆薬、重火器、なんでも揃ってるぜ!』

 

「ろくでもねぇ土産物屋だな」

 

『土産は鉛弾でどうだ?』

 

「返品する」

 

『送料はそっち持ちだ!』

 

海斗は無線を投げ捨てた。

 

「会話すると疲れる」

 

綾小路が横から言う。

 

「相性は悪くない」

 

「最悪だって言ってるだろ」

 

七瀬はコンテナ上へ到達していた。

 

港全体が見える。

 

敵の配置。

 

銃座。

 

車両。

 

クレーン上の狙撃手。

 

彼女はすぐに伏せ、ライフルを構えた。

 

距離は長い。

 

風は海側から強く吹いている。

 

コンテナ港の熱気で空気が揺らぎ、照明が視界を乱す。

 

だが、七瀬の呼吸は静かだった。

 

一発目。

 

クレーン上の敵狙撃手のスコープが砕ける。

 

二発目。

 

別のクレーンにいる敵の銃座の弾帯が切れる。

 

三発目。

 

遠くの照明車のライトが破裂する。

 

港の一角が暗くなる。

 

敵が混乱する。

 

「狙撃だ!」

 

「上だ!」

 

「どこから撃っている!?」

 

七瀬はすぐに位置を変える。

 

一箇所に留まれば狙われる。

 

コンテナの上を低く走り、次の射撃位置へ移動する。

 

坂柳の声が無線に入った。

 

『七瀬さん、港湾東側のクレーン上に敵狙撃手がもう一人います。距離はかなりあります』

 

七瀬はスコープを向ける。

 

確かに、遠い。

 

港の端から端。

 

風もある。

 

照明が逆光になっている。

 

だが、敵は綾小路と海斗を狙っている。

 

撃つしかない。

 

七瀬は息を止める。

 

心拍を落とす。

 

引き金を引いた。

 

銃声。

 

弾丸はコンテナ港の夜を裂き、遠くのクレーンへ飛んだ。

 

敵狙撃手のライフルが弾かれ、銃はクレーンの足場から落下する。

 

七瀬はすぐに次弾を装填した。

 

「綾小路先輩、朝霧さん。高所の狙撃手、無力化しました」

 

海斗が無線で返す。

 

「助かる!」

 

綾小路も言う。

 

「そのまま高所を押さえてくれ」

 

「はい」

 

七瀬の超長距離狙撃により、港の制圧バランスが少しずつ崩れ始めた。

 

敵は地上の綾小路と海斗を撃ちたい。

 

だが、高所にいる七瀬を放置できない。

 

七瀬を狙えば、綾小路と海斗が前進する。

 

綾小路と海斗を狙えば、七瀬が銃座や装備を潰す。

 

三人だけで、敵の港湾部隊を広範囲に揺さぶっていた。

 

海斗は青いコンテナの陰から飛び出し、アサルトライフルを短く撃つ。

 

敵の銃座が下がる。

 

綾小路はその隙にコンテナ間の通路を走り、敵の側面へ回り込む。

 

敵が気づいて振り向く。

 

遅い。

 

綾小路は銃を撃つより早く接近し、敵の腕を取って体勢を崩す。

 

もう一人が銃口を向ける。

 

海斗のベレッタが先に撃ち抜く。

 

敵の武器が手から飛ぶ。

 

海斗が叫ぶ。

 

「借りは返したぞ!」

 

綾小路が答える。

 

「まだ借りた覚えはない」

 

「細かいな!」

 

その時、港の奥から低いエンジン音が響いた。

 

重い。

 

複数。

 

コンテナの間から武装トラックが現れる。

 

荷台には重機関銃。

 

さらに後ろにはフォークリフトを改造した即席装甲車。

 

海斗が顔をしかめる。

 

「港らしい歓迎だな!」

 

綾小路は周囲を見る。

 

コンテナの積み上げ。

 

クレーンの可動範囲。

 

燃料ドラム。

 

トラックの進路。

 

「クレーンを使う」

 

海斗が横目で見る。

 

「まさかコンテナ落とすのか?」

 

「落とす」

 

「いいねぇ、派手だ」

 

綾小路は港湾操作端末へ走る。

 

敵が撃ってくる。

 

海斗が正面で応戦し、七瀬が高所から援護する。

 

端末はロックされていた。

 

綾小路が無線を入れる。

 

「坂柳、クレーン制御を開けられるか」

 

坂柳の声が返る。

 

『港湾システムは敵に一部奪われています。麗華さん、高円寺側のバックドアは?』

 

麗華の声が続く。

 

『あるわ。ただし、使えば敵にも一瞬こちらの経路を読まれる』

 

坂柳が答える。

 

『一瞬で構いません』

 

堀北が言う。

 

『その一瞬で何をするつもり?』

 

綾小路は巨大クレーンの位置を見る。

 

「コンテナを落とす」

 

少し沈黙。

 

麗華が呟く。

 

『……分かったわ。十秒だけ制御を渡す』

 

海斗が笑う。

 

「麗華の十秒、今日多いな!」

 

麗華が無線越しに言う。

 

『有効に使いなさい』

 

「任せろ!」

 

端末が起動した。

 

巨大クレーンの一基がゆっくり動き始める。

 

鉄の巨人が夜空で目を覚ましたようだった。

 

吊られていた赤いコンテナが、武装トラックの進路上へ移動する。

 

敵が気づく。

 

「クレーンが動いている!」

 

「止めろ!」

 

敵が端末へ撃ってくる。

 

綾小路は弾丸を避けながら操作を続ける。

 

海斗が敵を抑える。

 

七瀬がクレーン操作室を狙う敵を撃ち抜く。

 

十秒。

 

短い。

 

だが、十分だった。

 

綾小路は最後のレバーを倒した。

 

赤いコンテナが落下する。

 

コンテナは武装トラックの前に叩きつけられ、道路を完全に塞いだ。

 

トラックは避けきれず横転する。

 

荷台の銃座が弾け飛び、積んでいた弾薬が散乱する。

 

海斗がすぐに叫ぶ。

 

「下がれ!」

 

横転したトラックが爆発した。

 

火球がコンテナの壁を舐め、黒煙が港の照明を飲み込む。

 

爆風で隣のコンテナがずれ、積み上がったコンテナ群が不安定に揺れた。

 

七瀬がコンテナ上で体勢を崩す。

 

「くっ……!」

 

綾小路が無線で言う。

 

「七瀬、そこから離れろ」

 

「はい!」

 

七瀬が隣のコンテナへ飛び移る。

 

その直後、彼女がいた場所に敵の銃撃が集中した。

 

金属音が激しく鳴る。

 

海斗が舌打ちする。

 

「敵も本気だな」

 

綾小路は港の奥を見る。

 

まだ本隊は崩れていない。

 

むしろ、こちらへ集まってきている。

 

コンテナ港の中央。

 

巨大クレーンの下。

 

そこに一人の男が現れた。

 

コマンダーだった。

 

黒い戦闘服。

 

肩に大型ランチャー。

 

腰に拳銃。

 

背中に予備弾薬。

 

重機関銃は前回のホテル戦で壊れたはずだが、彼はさらに別の重火器を持っていた。

 

まるで移動要塞だった。

 

「よう!」

 

彼の声が港全体に響いた。

 

「刑事さん!護衛さん!裏切りスナイパーちゃん!」

 

海斗がコンテナの陰から顔を出す。

 

「毎回声がでけぇんだよ!」

 

コマンダーは大笑いした。

 

「港じゃ大声出さねぇと聞こえないだろ!」

 

「聞きたくねぇんだよ!」

 

綾小路は冷静に銃を構える。

 

「ここで止まってもらう」

 

コマンダーは楽しそうに肩のランチャーを持ち上げた。

 

「それはこっちの台詞だぜ、刑事さん」

 

七瀬がスコープで狙う。

 

だが、コマンダーはさりげなくコンテナの影を使っている。

 

大柄に見えて、動きは雑ではない。

 

撃ちづらい位置にいる。

 

坂柳の声が入る。

 

『注意してください。コマンダーの周囲に複数の熱源。おそらく重火器部隊です』

 

その直後、コマンダーの背後から敵部隊が現れた。

 

携行ロケット。

 

機関銃。

 

盾持ち。

 

狙撃手。

 

港湾中央が一気に火力で埋まる。

 

海斗が笑う。

 

「こりゃ要塞だな」

 

綾小路が言う。

 

「コマンダー本隊か」

 

コマンダーは葉巻を咥え直す。

 

「ようこそ、俺の港へ」

 

そして、ランチャーを撃った。

 

綾小路と海斗の間に爆発が起きた。

 

二人は左右へ吹き飛ばされるように退避する。

 

爆風でコンテナの扉が外れ、鉄板が宙を舞う。

 

七瀬が上から援護射撃を入れるが、敵盾部隊がそれを防ぐ。

 

コマンダーが笑う。

 

「いいねぇ!まだまだ行くぞ!」

 

次々とロケット弾が発射される。

 

コンテナが爆ぜる。

 

フォークリフトが炎上する。

 

燃料ドラムが吹き飛ぶ。

 

港全体が爆炎と銃声に包まれる。

 

海斗はコンテナの隙間を走りながら叫ぶ。

 

「火力が相変わらずイカれてる!」

 

綾小路も走る。

 

「正面からは無理だ」

 

「じゃあどう崩す!」

 

綾小路は巨大クレーンを見る。

 

先ほどの爆発で、クレーンの基部に亀裂が入っている。

 

さらにその下には燃料タンク。

 

近くにはコンテナの山。

 

「クレーンを落とす」

 

海斗が一瞬だけ黙る。

 

「本気か?」

 

「既に基部が損傷している。倒す方向を制御すれば敵本隊の進行を遮れる」

 

「制御できんのかよ」

 

「やるしかない」

 

海斗はニヤリと笑った。

 

「最高に派手だな」

 

七瀬の声が無線に入る。

 

『私が基部のワイヤーを狙います』

 

綾小路が答える。

 

「海斗、燃料タンク周辺の敵を散らせ」

 

「了解」

 

「オレがクレーン操作端末へ戻る」

 

海斗が叫ぶ。

 

「また十秒か?」

 

麗華の声が割り込む。

 

『今度は五秒が限界よ!』

 

海斗が笑う。

 

「短くなったな!」

 

坂柳が続ける。

 

『敵が港湾システムを警戒しています。五秒以上は逆探知されます』

 

綾小路は即答する。

 

「五秒でいい」

 

堀北の声が入る。

 

『本当に?』

 

「十分だ」

 

『あなたの十分は信用できないわ』

 

「戻る」

 

堀北は少しだけ間を置いて言った。

 

『……分かったわ』

 

作戦が始まった。

 

海斗はコンテナの陰から飛び出し、ベレッタ二丁で敵の注意を引く。

 

「おいコマンダー!」

 

コマンダーが振り向く。

 

「なんだ護衛さん!」

 

「港の景色、ちょっと変えてやるよ!」

 

「いいねぇ!模様替えか!」

 

「大規模にな!」

 

海斗は燃料タンク近くの照明を撃ち砕き、敵の視界を乱す。

 

そのままアサルトライフルに持ち替え、敵盾部隊の足元を撃つ。

 

敵が崩れる。

 

七瀬は高所からクレーン基部の補助ワイヤーを狙った。

 

一発目。

 

ワイヤーの留め具に命中。

 

二発目。

 

反対側の固定金具が弾ける。

 

三発目。

 

基部の制御ケーブルが切れる。

 

巨大クレーンが低く軋んだ。

 

港全体に嫌な音が響く。

 

敵兵がざわつく。

 

「クレーンが傾いている!」

 

「離れろ!」

 

コマンダーが上を見る。

 

「おいおい、マジかよ」

 

声は楽しそうだった。

 

綾小路は銃撃の中を端末へ走る。

 

敵が彼を狙う。

 

だが、海斗がその射線を潰す。

 

七瀬が高所から援護する。

 

綾小路は端末に手を伸ばした。

 

麗華の声。

 

『今よ!』

 

端末が起動する。

 

五秒。

 

綾小路は迷わずレバーを操作した。

 

一秒。

 

クレーンの旋回モーターが動く。

 

二秒。

 

巨大なアームがわずかに向きを変える。

 

三秒。

 

吊られていた空コンテナが揺れ、重心がずれる。

 

四秒。

 

基部の亀裂が広がる。

 

五秒。

 

端末がブラックアウトした。

 

その直後。

 

クレーンが傾いた。

 

巨大な鉄の塔が、夜空を切り裂くようにゆっくり倒れ始める。

 

海斗が叫ぶ。

 

「全員、離れろ!!」

 

七瀬もコンテナ上から飛び降り、隣の低い屋根へ転がる。

 

綾小路は端末から離れ、フォークリフトの影へ飛び込む。

 

コマンダーは倒れてくるクレーンを見上げ、大笑いした。

 

「最高だなぁ!!」

 

次の瞬間。

 

巨大クレーンが港中央へ崩れ落ちた。

 

地面が揺れた。

 

鉄骨がコンテナを押し潰し、積み上げられた貨物が雪崩のように崩れていく。

 

赤いコンテナが落ち、青いコンテナが横転し、黄色いコンテナが燃料タンクへ激突した。

 

燃料が噴き出す。

 

火花が走る。

 

そして。

 

巨大な爆発が港を飲み込んだ。

 

火柱がクレーンの残骸を包み、黒煙が夜空へ噴き上がる。

 

爆風でコンテナが数メートル滑り、クレーンのワイヤーが鞭のように跳ね、

港の作業灯が次々と砕け散った。

 

海面にまで衝撃が伝わり、岸壁の水が大きく波打つ。

 

敵本隊は完全に分断された。

 

港中央に、巨大な鉄と炎の壁ができた。

 

海斗は爆風で転がりながらも立ち上がる。

 

「……派手すぎるだろ」

 

綾小路も煙の中から立ち上がった。

 

「進行は止まった」

 

「感想それかよ」

 

七瀬も少し離れた場所から合流する。

 

「クレーン崩壊、成功です」

 

海斗が呆れたように笑う。

 

「成功って言葉で済ませていい規模じゃねぇな」

 

綾小路は燃える港中央を見る。

 

炎の向こう側に、コマンダーの姿は見えない。

 

だが。

 

笑い声が聞こえた。

 

「はは……」

 

低く。

 

楽しげに。

 

そして、ますます昂ぶった声。

 

「はははははははは!!」

 

炎の向こうから、コマンダーが現れた。

 

服は焦げ、肩のランチャーは壊れている。

 

だが、まだ立っている。

 

そして笑っている。

 

「やってくれるじゃねぇか、刑事さん!」

 

海斗が呟く。

 

「タフすぎるだろ……」

 

コマンダーは壊れたランチャーを投げ捨てた。

 

そして、コンテナの残骸から新しい重火器を引きずり出す。

 

「まだ前半戦だ」

 

綾小路はガバメントを構える。

 

海斗はベレッタ二丁を抜く。

 

七瀬はライフルを構え直す。

 

炎と黒煙の向こうで、コマンダーが笑う。

 

「後半戦、行こうぜ」

 

コンテナ港の戦闘は、まだ終わらない。

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