ザ・ダイハード・マスターピース   作:EXTERMINATION

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第91話 最上甲板決戦

船は、さらに大きく揺れ始めていた。

 

通信室を出た綾小路清隆、朝霧海斗、七瀬翼、

そしてジャンボーの四人は、最上甲板へ続く通路を駆け上がっていた。

 

足元から伝わる振動は、波の揺れではない。

 

船内上部で起動し始めた爆薬。

 

撤収用とコマンダーは言った。

 

だが、船内のどこに何が仕掛けられているか分からない以上、

それは事実上の自爆装置と変わらない。

 

廊下の照明は赤く点滅し、警報音が響いている。

 

壁のスピーカーからはノイズ混じりの船内放送が流れ続けていた。

 

『非常事態。乗客は――』

 

その案内は途中で途切れ、コマンダーの声へ変わった。

 

『さあ、最終ラウンドだ!』

 

陽気な声だった。

 

船が爆薬で揺れている状況に、あまりにも似合わない。

 

『刑事さん!護衛さん!裏切りスナイパーちゃん!それから森の王様!』

 

海斗が走りながら顔をしかめる。

 

「森の王様ってお前のことだぞ」

 

ジャンボーは無言だった。

 

ただ、両手に持つM60を軽く持ち直す。

 

海斗はそれを見て、少しだけ引いた。

 

「その二丁、本当に持ったまま上まで行くのかよ」

 

ジャンボーは短く答える。

 

「……必要だ」

 

「そりゃ必要かもしれねぇけどな」

 

七瀬が後方を確認する。

 

「敵の追手が来ます」

 

綾小路が足を止めずに言う。

 

「前にもいるはずだ」

 

その言葉通り、上層ラウンジへ続く廊下の先に敵が展開していた。

 

盾持ちが二人。

 

その後ろにアサルトライフル。

 

さらに奥には機関銃座。

 

狭い廊下を完全に塞ぐ陣形だった。

 

敵の指揮官が叫ぶ。

 

「撃て!」

 

銃撃が廊下を埋めた。

 

綾小路、海斗、七瀬はすぐに左右の壁際へ飛び込む。

 

だが、ジャンボーは止まらなかった。

 

一歩前に出る。

 

M60二丁を構える。

 

海斗が叫ぶ。

 

「おい待て!」

 

ジャンボーは低く呟いた。

 

「……道を開ける」

 

次の瞬間、二丁のM60が火を噴いた。

 

廊下の空気が震えた。

 

弾丸の嵐が敵の盾を叩き、金属製の廊下に火花が飛び散る。

 

盾持ちは必死に耐えようとしたが、二丁分の連続射撃はあまりにも重かった。

 

盾が歪み、後退し、やがて片方が床へ倒れた。

 

敵の機関銃座も応戦するが、ジャンボーは壁際へ半歩ずれながら撃ち続ける。

 

銃弾が天井の配管を破裂させ、蒸気が噴き出す。

 

廊下の照明が次々と砕け、赤い非常灯だけが残る。

 

海斗がコンテナ港で見た時以上の火力に呆れる。

 

「味方っぽくなると頼もしいな!」

 

綾小路が言う。

 

「巻き込まれなければな」

 

七瀬は蒸気の隙間から敵の機関銃手を狙い、照準器を撃ち抜いた。

 

海斗はジャンボーの弾幕が作った隙間を走り、盾の後ろにいた敵の武器を弾く。

 

綾小路は右側から入り、倒れた敵を拘束しながら前進する。

 

数十秒で廊下の封鎖は崩れた。

 

ジャンボーは銃撃を止める。

 

床には薬莢が山のように散らばっていた。

 

海斗が肩をすくめる。

 

「掃除が大変だな」

 

ジャンボーは低く言う。

 

「……船が掃除する」

 

「どういう意味だよ」

 

「沈めば流れる」

 

「物騒な掃除だな!」

 

綾小路は上層へ続く階段を見た。

 

「急ぐぞ」

 

無線に坂柳有栖の声が入る。

 

『最上甲板に複数の熱源反応。爆薬は三箇所。

船尾ヘリポート、中央プールデッキ、通信マスト基部です』

 

堀北鈴音が続く。

 

『三箇所同時に処理する必要があるわ。

どれか一つでも爆発すれば、船の制御が大きく失われる』

 

麗華の声が緊迫する。

 

『船尾ヘリポートの爆薬が一番大きい。

おそらくヘリを使った撤収と同時に爆発させるつもりよ』

 

海斗が顔をしかめる。

 

「コマンダーらしい派手な逃げ方だな」

 

綾小路は短く言う。

 

「逃がさない」

 

七瀬が問う。

 

「三箇所、どう分担しますか」

 

綾小路は一瞬で判断する。

 

「七瀬は通信マスト基部。遠距離から爆薬の起爆装置を狙える」

 

「はい」

 

「ジャンボーは中央プールデッキ。敵の火力が一番多い場所を突破してくれ」

 

ジャンボーは頷く。

 

「……壊す」

 

海斗がすぐ言う。

 

「爆薬は壊すなよ」

 

ジャンボーは少し沈黙した。

 

「……少し壊す」

 

「少しも駄目だ!」

 

綾小路は続ける。

 

「オレと海斗は船尾ヘリポートへ向かう。コマンダーはそこにいる可能性が高い」

 

海斗がベレッタを確認する。

 

「決着か」

 

「少なくとも、ここで止める」

 

階段を上がると、最上甲板へ出た。

 

夜風が叩きつける。

 

そこには、豪華客船らしい華やかな空間が広がっていた。

 

中央には巨大なプール。

 

周囲にはデッキチェア、バー、ステージ、照明装置。

 

船尾にはヘリポート。

 

前方には通信マスト。

 

その全てが武装兵と爆薬で埋め尽くされていた。

 

海の向こうでは島が燃えている。

 

ホテルの残骸。

 

コンテナ港の炎。

 

ジャングルの黒い影。

 

そして、船上では最後の戦いが始まろうとしていた。

 

甲板の敵が四人に気づく。

 

「来たぞ!」

 

「撃て!」

 

銃撃が一斉に始まった。

 

夜の甲板に火花が散る。

 

プールの水面が弾丸で跳ね、デッキチェアが粉砕され、バーの酒瓶が次々と割れる。

 

ジャンボーが中央へ進む。

 

二丁のM60を構え、敵の弾幕へ正面から弾幕を返す。

 

敵の銃座が沈黙する。

 

バーのカウンターが吹き飛び、照明塔が火花を散らして倒れる。

 

ただし、ジャンボーは爆薬の近くを撃たない。

 

意外なほど慎重だった。

 

海斗が走りながら言う。

 

「お、意外と分かってるじゃねぇか!」

 

ジャンボーは撃ちながら低く返す。

 

「……少しだけだ」

 

「それ気に入ったのかよ!」

 

七瀬は通信マスト側へ走る。

 

敵が追う。

 

彼女はデッキチェアを蹴って滑り込ませ、敵の足を止める。

 

そのまま階段を駆け上がり、通信マスト基部が見える位置へ移動する。

 

そこには爆薬が設置されていた。

 

起爆装置には赤いランプ。

 

遠隔起爆式。

 

周囲には敵が二人。

 

七瀬は一人目の武器を撃ち落とし、二人目の足元を撃つ。

 

すぐに爆薬へ狙いを向ける。

 

だが、起爆装置を撃てば誘爆する可能性がある。

 

無線で麗華が叫ぶ。

 

『七瀬さん、赤いランプの下にある小型受信機を狙って!爆薬本体じゃない!』

 

「了解」

 

七瀬は呼吸を止めた。

 

海風。

 

船の揺れ。

 

遠くの爆発。

 

照明のちらつき。

 

その全てを読み、引き金を引く。

 

一発。

 

受信機が砕けた。

 

赤いランプが消える。

 

『通信マスト爆薬、無力化!』

 

坂柳の声が響く。

 

七瀬はすぐに次の敵を狙う。

 

「こちらは完了。援護に移ります」

 

中央プールデッキでは、ジャンボーが敵の主力を引き受けていた。

 

盾持ち。

 

銃座。

 

ロケットランチャー。

 

敵の火力が集中する。

 

ジャンボーは二丁のM60を撃ちながら、プールの縁へ移動する。

 

敵がロケットを構えた。

 

海斗が遠くから気づく。

 

「ジャンボー、右!」

 

ジャンボーは横目だけで見る。

 

ロケットが発射された。

 

彼は片方のM60でロケットの軌道近くの照明支柱を撃った。

 

支柱が折れ、ロケットの進路へ倒れ込む。

 

ロケットは支柱に当たり、プール上空で爆発した。

 

水柱が噴き上がる。

 

爆風でプールの水が甲板へ溢れ、敵兵たちが足を取られる。

 

ジャンボーは濡れた甲板をものともせず前進し、残ったM60で銃座を制圧した。

 

「……水は悪くない」

 

海斗が遠くから叫ぶ。

 

「森じゃなくてもいいのかよ!」

 

「……少しだけだ」

 

「便利だな、それ!」

 

綾小路と海斗は船尾へ向かっていた。

 

ヘリポートには、黒いヘリが一機。

 

ローターはまだ止まっているが、起動準備中だった。

 

その周囲には敵兵。

 

そして、ヘリの前にコマンダーが立っていた。

 

両手にはショットガンと大型拳銃。

 

背後には巨大な爆薬装置。

 

赤いランプが点滅している。

 

コマンダーは二人を見ると、嬉しそうに笑った。

 

「来たな、刑事さん。護衛さん」

 

海斗がベレッタを構える。

 

「待たせたな」

 

「待ってたぜ。パーティーの主役が遅刻するなよ」

 

綾小路は爆薬装置を見る。

 

「それを止める」

 

コマンダーは肩をすくめる。

 

「止めてもいい。ただし俺を抜けたらな」

 

海斗が低く言う。

 

「最初からそのつもりだ」

 

コマンダーは笑った。

 

「いいねぇ。じゃあ最後くらい、正面からやろうぜ」

 

次の瞬間、コマンダーが撃った。

 

ショットガンの轟音。

 

海斗は右へ飛び、綾小路は左へ滑る。

 

ヘリポート上で銃撃戦が始まった。

 

海風が強い。

 

甲板は水で濡れている。

 

背後では中央プールデッキの戦闘音。

 

遠くでは七瀬の狙撃音。

 

ジャンボーのM60の轟音。

 

その全てが混ざり合う中で、綾小路と海斗はコマンダーを挟むように動く。

 

コマンダーは大柄なのに速い。

 

ショットガンで海斗を牽制し、大型拳銃で綾小路の進路を潰す。

 

海斗はベレッタ二丁で反撃するが、コマンダーはヘリポートの設備を盾にする。

 

綾小路はガバメントで足元を狙うが、コマンダーは必ず半歩ずらす。

 

ただの重火器馬鹿ではない。

 

戦場を知り尽くした男だった。

 

コマンダーが笑う。

 

「どうした!さっきまで港を滅茶苦茶にした勢いは!」

 

海斗が叫ぶ。

 

「船ごと壊すわけにいかねぇんだよ!」

 

「遠慮するな!俺は気にしねぇ!」

 

「こっちが気にするんだよ!」

 

綾小路はヘリポートの爆薬装置へ近づく隙を探る。

 

だが、コマンダーが必ず射線を塞ぐ。

 

爆薬の周囲には起爆ケーブルが三本。

 

赤、黄、黒。

 

どれか一本を切れば止まる、という単純な構造ではない。

 

麗華の声が無線に入る。

 

『綾小路くん、爆薬装置を見せて!』

 

綾小路は小型カメラを向ける。

 

銃撃を避けながら数秒だけ映す。

 

麗華が息を呑む。

 

『複合起爆式……遠隔、時限、衝撃の三重構造よ』

 

坂柳が言う。

 

『雑に壊すと爆発しますね』

 

海斗が叫ぶ。

 

「最悪じゃねぇか!」

 

堀北の声。

 

『解除には直接操作が必要よ。誰かが近づくしかない』

 

コマンダーが笑う。

 

「その誰かを俺が撃つわけだ!」

 

海斗は歯を食いしばる。

 

「本当に面倒な奴だ!」

 

綾小路は海斗を見る。

 

言葉は少ない。

 

だが、それで十分だった。

 

海斗が頷く。

 

「オレが引きつける」

 

「無理はするな」

 

「お前が言うな」

 

海斗はベレッタ二丁を構え、コマンダーへ正面から突っ込んだ。

 

「コマンダー!」

 

「なんだ護衛さん!」

 

「休暇中くらい休めよ!」

 

コマンダーは一瞬だけ目を見開き、次に大笑いした。

 

「俺の台詞を取るな!」

 

「返してやるよ!」

 

二丁拳銃が火を噴く。

 

コマンダーはショットガンで応戦する。

 

海斗は濡れたヘリポートを滑るように移動し、弾丸を紙一重で避ける。

 

ショットガンの散弾がヘリの脚部を削り、火花が散る。

 

海斗はその火花の中を抜け、コマンダーの懐へ入る。

 

蹴り。

 

肘。

 

銃身での打撃。

 

コマンダーは受ける。

 

重い。

 

だが海斗は止まらない。

 

その隙に綾小路が爆薬装置へ向かう。

 

七瀬の声が無線に入る。

 

『綾小路先輩、ヘリポート左上、敵狙撃手』

 

綾小路は避ける。

 

同時に七瀬が撃った。

 

敵狙撃手のライフルが弾かれ、海へ落ちる。

 

「援護します」

 

「助かる」

 

綾小路は爆薬装置へ到達した。

 

麗華が即座に指示する。

 

『まず赤いカバーを開けて。中の白い端子を外す』

 

綾小路が操作する。

 

コマンダーが気づく。

 

「させるか!」

 

彼は海斗を力で押し返し、綾小路へ銃を向ける。

 

その瞬間、ジャンボーのM60が遠くから火を噴いた。

 

弾丸がコマンダーの足元を叩き、進路を塞ぐ。

 

ジャンボーはプールデッキ側から撃っていた。

 

「……邪魔だ」

 

コマンダーが叫ぶ。

 

「お前、完全にそっち側かよ!」

 

ジャンボーは答える。

 

「……船を止める」

 

海斗が笑う。

 

「ちょっと味方どころじゃなくなってきたな!」

 

ジャンボーは一瞬だけ海斗を見る。

 

「……少しだけだ」

 

「まだ少しかよ!」

 

麗華の声。

 

『次、黄色のロックを解除!でも黒いケーブルには触らないで!』

 

綾小路は慎重に操作する。

 

船が大きく揺れる。

 

爆薬装置の赤いランプが点滅を早める。

 

坂柳が言う。

 

『残り一分を切りました』

 

堀北の声が強くなる。

 

『綾小路くん、落ち着いて』

 

「分かっている」

 

海斗はコマンダーと撃ち合いながら叫ぶ。

 

「こっちは落ち着いてねぇぞ!」

 

コマンダーが笑う。

 

「俺もだ!」

 

ヘリポートの戦闘はさらに激しくなる。

 

コマンダーがショットガンを連射。

 

海斗はベレッタで応戦。

 

七瀬は遠距離から敵増援を抑える。

 

ジャンボーは中央デッキの敵をM60で釘付けにする。

 

綾小路は爆薬を解除する。

 

その全てが同時に進んでいた。

 

突然、ヘリのエンジンが起動した。

 

ローターが回り始める。

 

風圧がヘリポートを叩く。

 

コマンダーが笑う。

 

「時間切れだ!ヘリも爆薬も動く!」

 

海斗が叫ぶ。

 

「欲張りすぎだろ!」

 

ローターの風で綾小路の手元が乱れる。

 

爆薬装置のカバーが震え、工具が滑りそうになる。

 

七瀬がヘリの制御パネルを狙うが、角度が悪い。

 

ジャンボーの位置からも遠い。

 

海斗はコマンダーを押し返し、ヘリへ向けてベレッタを撃った。

 

弾丸がヘリのライトを砕く。

 

だが、エンジンは止まらない。

 

コマンダーが大口径拳銃を抜き、海斗へ向ける。

 

「終わりだ、護衛さん!」

 

その瞬間、綾小路が爆薬の黄色ロックを外した。

 

「海斗、伏せろ!」

 

海斗は反射的に伏せる。

 

綾小路は外した黄色ロックを、ヘリのローター下に向けて投げた。

 

小さな金属部品が風に巻かれ、ローター付近の補助機構へ吸い込まれる。

 

火花。

 

ヘリの回転が乱れる。

 

コマンダーが振り返る。

 

「おいおい!」

 

その隙に七瀬が撃った。

 

ヘリの尾部制御装置に命中。

 

ヘリが大きく傾く。

 

ローターがヘリポート脇の照明塔に接触した。

 

火花が散る。

 

照明塔が折れ、ヘリは横滑りしながらデッキへ激突した。

 

ヘリが爆発した。

 

巨大な火球が船尾を包み、爆風がヘリポート全体を揺らす。

 

海斗とコマンダーは吹き飛ばされるように転がり、

綾小路も爆薬装置の前で姿勢を崩す。

 

七瀬が叫ぶ。

 

『綾小路先輩!』

 

麗華の声。

 

『まだ解除は終わってない!

最後の黒い安全ピンを手動で抜いて!でも衝撃を与えないで!』

 

爆炎が背後で燃えている。

 

ヘリの残骸から火が広がり、爆薬装置へ近づいている。

 

綾小路は起き上がる。

 

手は少し震えている。

 

だが、動きは正確だった。

 

黒い安全ピン。

 

ゆっくり引き抜く。

 

赤いランプがさらに速く点滅する。

 

一秒。

 

二秒。

 

三秒。

 

ピンが抜けた。

 

ランプが消えた。

 

麗華が叫ぶ。

 

『解除成功!』

 

坂柳の声。

 

『船尾爆薬、無力化確認!』

 

海斗は床に倒れたまま息を吐いた。

 

「……十割か?」

 

麗華の声が震える。

 

『十割よ!』

 

堀北も安堵したように言う。

 

『よかった……』

 

だが、コマンダーはまだ立ち上がった。

 

ヘリの爆発で傷だらけになりながらも、笑っていた。

 

「はは……やっぱり最高だな」

 

海斗もゆっくり立ち上がる。

 

「まだやるのかよ」

 

コマンダーは拳銃を拾おうとした。

 

だが、その手が止まる。

 

船尾の爆薬は解除された。

 

通信マストも止めた。

 

中央デッキもジャンボーが抑えた。

 

彼の撤収計画は崩れた。

 

それでも、コマンダーは笑っていた。

 

「負けたな」

 

海斗が銃を向ける。

 

「素直だな」

 

「でも、つまらなくはなかった」

 

綾小路はコマンダーを見た。

 

「投降しろ」

 

コマンダーは肩をすくめる。

 

「考えとく」

 

その瞬間、船体が大きく揺れた。

 

別の爆発音。

 

中央下層。

 

麗華の声が緊迫する。

 

『待って……まだ熱源がある!船底側に残りの爆薬!』

 

坂柳が言う。

 

『予備の爆薬です。最上甲板は囮でした』

 

堀北の声が鋭くなる。

 

『船が沈む危険があるわ!』

 

海斗がコマンダーを睨む。

 

「おい」

 

コマンダーは少しだけ驚いた顔をした。

 

「……俺じゃねぇ」

 

綾小路はその表情を見る。

 

嘘ではない。

 

コマンダーも知らない爆薬。

 

七瀬が言う。

 

「敵の別働隊……あるいは、高円寺側の仕掛け?」

 

その時、船内放送に別の声が入った。

 

優雅で、どこか楽しげな声。

 

高円寺六助だった。

 

『実に面白い展開だねぇ』

 

全員の空気が変わる。

 

高円寺の声は、まるで観劇を楽しむ観客のようだった。

 

『だが、楽園を守るには、最後の試練が必要だ』

 

海斗が低く言う。

 

「高円寺……」

 

綾小路も目を細める。

 

高円寺は続けた。

 

『さあ、君たちは本当に全員で帰れるかな?』

 

 

船底から響いた爆発音は、最上甲板の空気を一瞬で変えた。

 

ヘリポートには、まだ炎が残っている。

 

黒いヘリの残骸が燃え、煙が夜空へ昇り、

甲板の床には弾痕と破片が散らばっていた。

 

船尾爆薬は解除した。

 

通信マストも止めた。

 

中央プールデッキの敵もジャンボーが押さえ込んだ。

 

エネルギー干渉装置も停止した。

 

それなのに、船はまだ揺れている。

 

高円寺六助の声が、船内放送を通じて優雅に響いていた。

 

『実に素晴らしい。まさかここまで来るとはねぇ』

 

海斗が燃えるヘリを背に、無線機を睨む。

 

「お前、どこで見てやがる」

 

高円寺の声は笑っている。

 

『安全な場所、とだけ言っておこう』

 

コマンダーが肩を回しながら舌打ちした。

 

「俺の撤収プランにまで横槍か。いい趣味してるぜ」

 

綾小路清隆は高円寺の声ではなく、船体の振動を聞いていた。

 

爆発は下層。

 

船底側。

 

しかも一度ではない。

 

小さな爆発が連続し、船の区画をじわじわ壊している。

 

沈めるためではなく、追い込むための爆破。

 

逃げ道を制限し、進路を誘導するためのもの。

 

「高円寺は最初から、最後の舞台を用意していた」

 

堀北鈴音の声が無線に入る。

 

『どういうこと?』

 

「この船を敵の拠点として使わせた上で、

最後にこちらも敵も巻き込む仕掛けを残した。目的は単純な破壊じゃない」

 

坂柳有栖が続ける。

 

『試験、というわけですね。相変わらず悪趣味な方です』

 

麗華の声は怒りを含んでいた。

 

『冗談じゃないわ。船にはまだ人がいる。敵兵も含めて、沈めれば大惨事よ』

 

高円寺の声がまた響く。

 

『安心したまえ。すぐに沈むような仕掛けではない。

だが、放置すれば船は制御を失い、最終的に危険な状態になる』

 

海斗が吐き捨てる。

 

「何が安心だ」

 

『君たちが本当に全員で帰るつもりなら、証明してみせたまえ』

 

船内放送が切れた。

 

同時に、坂柳の端末解析が進む。

 

『船底側に三つの爆薬反応。

第一機関区、バラスト制御室、下層貨物区画です』

 

麗華が息を呑む。

 

『バラスト制御室を壊されたら船の姿勢が崩れるわ。

貨物区画には敵の弾薬や燃料も残っているはず』

 

堀北が即座に整理する。

 

『三箇所を止める必要がある。でも全員で行く時間はない』

 

七瀬翼がライフルを背負い直した。

 

「分担しましょう」

 

海斗がコマンダーを見る。

 

「お前、まだやる気か?」

 

コマンダーは笑った。

 

「当たり前だろ。俺の戦場を勝手に試験会場にされたんだ。気に入らねぇ」

 

彼は腰の装備から大型ナイフを引き抜いた。

 

重く、厚く、軍用というより鉈に近い刃だった。

 

月明かりと炎を受けて、鈍く光る。

 

コマンダーはそれを肩に担ぎ、口元を歪めた。

 

「こんなに燃える戦いは、ベネットとやり合った時以来だぜ」

 

海斗が呆れる。

 

「誰だよベネット」

 

「昔の知り合いだ。最高にしつこい奴だった」

 

「お前にしつこいって言われるの、相当だな」

 

コマンダーは豪快に笑った。

 

「違いねぇ!」

 

その時、中央プールデッキ側から金属音が響いた。

 

ジャンボーが歩いてきた。

 

両手に持っていたM60機関銃は、銃身から煙を上げている。

 

だが、もう撃たない。

 

弾切れだった。

 

ジャンボーは二丁のM60を甲板に落とした。

 

重い音が二つ響く。

 

そして、腰の布を引き抜く。

 

赤黒いハチマキだった。

 

彼はそれを頭に巻き、きつく縛った。

 

無言。

 

だが、その姿だけで空気が変わる。

 

次に背中から取り出したのは、愛用の弓。

 

矢筒。

 

巨大なサバイバルナイフ。

 

海斗が言う。

 

「機関銃の次は弓かよ」

 

ジャンボーは低く答えた。

 

「……森に戻る」

 

「ここ船だぞ」

 

「静かに狩る」

 

「静かにできるなら最初からしてくれ」

 

ジャンボーは海斗を見る。

 

「……騒がしい」

 

「またそれか」

 

綾小路は全員を見た。

 

「分担する。バラスト制御室はオレと海斗。船の姿勢を守る」

 

七瀬が頷く。

 

「私は貨物区画へ行きます。弾薬と燃料があるなら、

狙撃で起爆装置を止められます」

 

ジャンボーが短く言う。

 

「……機関区」

 

コマンダーが大型ナイフを回しながら笑う。

 

「じゃあ俺も機関区だな。森の王様と刃物勝負ってのも悪くねぇ」

 

海斗が眉をひそめる。

 

「お前ら二人で行かせて大丈夫なのか?」

 

コマンダーは笑う。

 

「安心しろ。今は船を沈められちゃ困る」

 

ジャンボーも低く言った。

 

「船が沈めば、森へ戻れない」

 

「理由が自然派だな」

 

坂柳の声が入る。

 

『各区画への最短ルートを送ります。ただし、敵の残存部隊も下層へ動いています。

彼らも爆薬を回収、あるいは利用しようとしているようです』

 

堀北が言う。

 

『誰か一人でも遅れたら危険よ』

 

麗華が続ける。

 

『解除手順は私が指示する。無茶な破壊はしないで』

 

海斗がコマンダーとジャンボーを見る。

 

「聞いたか?壊すなよ」

 

コマンダーが肩をすくめる。

 

「俺は紳士だぜ」

 

ジャンボーが短く言う。

 

「……少し壊す」

 

海斗が即座に叫ぶ。

 

「だから少しも駄目だって!」

 

最上甲板から、四方向へ分かれて走る。

 

船内は混乱していた。

 

警報。

 

揺れ。

 

敵兵の怒号。

 

スプリンクラーの水。

 

消えかけた照明。

 

下層へ行くほど、空気は重く、熱くなっていく。

 

綾小路と海斗は、バラスト制御室へ向かう階段を駆け下りた。

 

途中、敵の残存部隊が待ち伏せていた。

 

海斗がベレッタを抜く。

 

「まだ残ってるか」

 

敵が撃つ。

 

綾小路は手すりを利用して身を低くし、足元を撃つ。

 

海斗は壁を蹴って横へ跳び、敵の武器を弾く。

 

狭い階段で銃声が反響する。

 

敵の一人が手榴弾を抜こうとする。

 

綾小路が即座に撃った。

 

手榴弾ではなく、敵の手首の近くの壁。

 

弾丸が火花を散らし、敵が驚いて手を止める。

 

その隙に海斗が接近し、銃床で武器を叩き落とす。

 

「船内でそれ使うな!」

 

敵を制圧し、二人はさらに下へ走る。

 

バラスト制御室の前に着くと、扉が半分歪んでいた。

 

中から水音。

 

配管が破損している。

 

麗華の声が入る。

 

『そこよ。中に爆薬と制御端末があるはず』

 

海斗が扉を蹴る。

 

開かない。

 

「硬ぇな」

 

綾小路は扉のヒンジを見る。

 

「爆薬は使えない」

 

「なら?」

 

「力で開ける」

 

「珍しく根性論だな」

 

二人で力をかける。

 

扉が軋む。

 

船が再び揺れる。

 

奥で爆薬の警告音が鳴る。

 

海斗が歯を食いしばる。

 

「開けよ!」

 

扉が開いた。

 

中は水浸しだった。

 

床に水が溜まり、配電盤から火花が散っている。

 

制御端末はまだ生きているが、赤い警告表示が点滅していた。

 

爆薬は制御盤の裏。

 

その起爆装置がカウントダウンを刻んでいる。

 

麗華が叫ぶ。

 

『まず制御盤の電源を落として!水に電気が流れたら危険よ!』

 

海斗が周囲を見る。

 

「どれだ!」

 

綾小路が端末を確認する。

 

「右のブレーカー」

 

「了解!」

 

海斗が撃とうとする。

 

麗華が叫ぶ。

 

『撃たないで!』

 

海斗が止まる。

 

「危ねぇ」

 

綾小路が手動レバーを下ろす。

 

火花が消える。

 

次に爆薬解除。

 

赤、青、白の配線。

 

麗華が指示する。

 

『白を外して、次に青。赤は最後まで触らないで』

 

海斗が見張りながら言う。

 

「こういうの毎回心臓に悪いな」

 

綾小路は配線を外す。

 

「落ち着け」

 

「お前は落ち着きすぎだ」

 

その時、背後の通路から敵が突入してきた。

 

海斗が振り向く。

 

「来たぞ!」

 

狭い制御室で撃ち合いは危険。

 

海斗はベレッタを撃たず、敵へ突っ込んだ。

 

銃口を逸らし、壁へ押し付ける。

 

もう一人が入る。

 

海斗が膝で止める。

 

「綾小路、急げ!」

 

「あと一本」

 

赤い配線。

 

最後に解除ピン。

 

船が揺れる。

 

手元がずれる。

 

綾小路は息を止め、ピンを抜いた。

 

カウントが止まる。

 

麗華の声。

 

『バラスト制御室、解除成功!』

 

海斗が敵を床へ押さえ込みながら息を吐く。

 

「十割だな」

 

綾小路は頷く。

 

「ああ」

 

一方、下層貨物区画。

 

七瀬は一人で走っていた。

 

貨物区画は広い。

 

積まれたコンテナ。

 

木箱。

 

燃料缶。

 

弾薬ケース。

 

敵が持ち込んだ装備が乱雑に積まれている。

 

その奥に爆薬反応。

 

七瀬は高所のキャットウォークへ上がり、スコープを覗いた。

 

敵兵が三人。

 

爆薬を回収しようとしている。

 

七瀬は一発目で敵の通信機を撃ち抜く。

 

二発目で武器を弾く。

 

三発目で照明を落とす。

 

暗闇。

 

敵が混乱する。

 

七瀬は静かに移動する。

 

「こちら七瀬。貨物区画に到達しました」

 

坂柳が答える。

 

『爆薬は奥の燃料コンテナ横です。非常に危険です』

 

麗華が続く。

 

『そこは撃たないで。起爆受信機だけを狙える?』

 

七瀬はスコープを調整する。

 

燃料コンテナの横。

 

小さな受信機。

 

船の揺れ。

 

暗い照明。

 

障害物。

 

狙撃には最悪の条件だった。

 

七瀬は呼吸を整える。

 

「狙えます」

 

敵が彼女を見つけた。

 

「上だ!」

 

銃撃。

 

弾丸がキャットウォークを叩く。

 

七瀬は伏せたまま動かない。

 

一秒だけ待つ。

 

敵の弾が止まる瞬間。

 

引き金を引く。

 

弾丸は狭い隙間を抜け、受信機を撃ち抜いた。

 

赤いランプが消える。

 

坂柳の声。

 

『貨物区画爆薬、遠隔起爆停止』

 

だが、麗華が叫ぶ。

 

『待って、時限装置が残っている!直接解除が必要!』

 

七瀬は即座にキャットウォークから降りる。

 

敵が迫る。

 

彼女は拳銃へ持ち替え、敵の武器を撃ち落としながら爆薬へ走る。

 

残り三十秒。

 

七瀬は爆薬の前に膝をつく。

 

麗華が指示する。

 

『緑の安全ピンを抜いて、黄色いスイッチを押して』

 

七瀬が操作する。

 

だが、スイッチが硬い。

 

動かない。

 

敵が背後から迫る。

 

七瀬は歯を食いしばる。

 

その時、無線から森下の声が響いた。

 

『七瀬翼、頑張ってください。スイッチに負けないでください』

 

ツキがすかさず言う。

 

『藍ちゃん、精神論だけで爆薬解除はできない。

けれど今回は少しだけ役に立つかもしれない』

 

少し沈黙。

 

『なるほど』

 

『理解した』

 

『どっちなんですか』

 

『両方』

 

『便利な評価ですね』

 

『曖昧さは人類の強み』

 

『深いです』

 

森下は続ける。

 

『つまり私の応援は役に立たないけど役に立つんですね』

 

『その通り』

 

『量子力学みたいです』

 

『たぶん違う』

 

『難しいですね』

 

『難しい』

 

綾小路は額を押さえた。

 

「誰かあの二人を止めろ」

 

『藍ちゃんは今、とても前向き』

 

『褒められました』

 

『褒めてはいない』

 

『では前向きでした』

 

『それも少し違う』

 

七瀬は思わず笑った。

 

『……まあ、ありがとうございます』

 

『役に立った』

 

『少しだけ』

 

『少しだけでも勝ちです』

 

『勝ちです』

 

ひよりの声が優しく入る。

 

『七瀬さん、落ち着いてください。きっとできます』

 

一之瀬も続く。

 

『大丈夫。みんな繋がっています』

 

七瀬は息を吐いた。

 

「はい」

 

もう一度、力を込める。

 

スイッチが沈む。

 

カウントが止まった。

 

『貨物区画、解除成功!』

 

七瀬はその場で一瞬だけ目を閉じた。

 

だがすぐに立ち上がり、敵の追撃を振り切るため走り出した。

 

そして第一機関区。

 

そこは灼熱だった。

 

巨大なエンジン。

 

配管。

 

蒸気。

 

油の匂い。

 

警告灯。

 

爆薬はエンジン制御部の近くに仕掛けられている。

 

ここが爆発すれば、船は完全に動力を失う。

 

そこへ、ジャンボーとコマンダーが入った。

 

奇妙な組み合わせだった。

 

ジャンボーは弓を手にしている。

 

頭にはきつく縛ったハチマキ。

 

コマンダーは大型ナイフ。

 

銃声ではなく、刃と矢の戦場。

 

敵兵が二人を見る。

 

「撃て!」

 

ジャンボーは弓を引いた。

 

矢が飛ぶ。

 

敵の銃を弾き飛ばす。

 

二本目。

 

照明を砕く。

 

三本目。

 

爆薬近くの敵の手元を射抜くように武器だけを止める。

 

海斗が見ていれば「器用すぎるだろ」と言っただろう。

 

コマンダーは大型ナイフを構え、笑いながら前へ出る。

 

「銃がなくても戦場は楽しいな!」

 

敵が撃つ。

 

コマンダーは配管の陰へ入り、距離を詰める。

 

大型ナイフの背で敵の武器を弾き、肩で押し倒す。

 

「悪いな。今は殺し合いじゃなく、船を止める仕事だ」

 

ジャンボーが低く言う。

 

「……うるさい」

 

「お前ももうちょい喋れ!」

 

「必要ない」

 

「だろうな!」

 

二人は奇妙に噛み合っていた。

 

コマンダーが敵を引きつけ、ジャンボーが弓で武器と装置を狙う。

 

ジャンボーが仕留め損ねた敵をコマンダーが押さえ、

コマンダーが雑に突っ込んだ隙をジャンボーの矢が補う。

 

敵兵たちは混乱した。

 

さっきまで敵だったはずの二人が、今は同じ方向を向いている。

 

爆薬の前に到達した時、麗華の声が入る。

 

『機関区の爆薬は衝撃に弱い!絶対に叩かないで!』

 

コマンダーがナイフを止める。

 

「先に言ってくれて助かったぜ」

 

ジャンボーは弓を下ろし、爆薬を見た。

 

「……細かい」

 

「お前、解除できるのか?」

 

ジャンボーは首を横に振る。

 

「壊すのは得意だ」

 

「今回は駄目だって言われてるだろ!」

 

麗華が急いで指示する。

 

『コマンダー、右側のカバーを外して。

ジャンボーは左側のワイヤーを押さえて。強く引かないで』

 

コマンダーが笑う。

 

「俺に指示するとはいい度胸だ、お嬢様」

 

麗華は即答する。

 

『黙ってやりなさい』

 

「はいよ」

 

ジャンボーが少しだけコマンダーを見る。

 

「……従順」

 

「うるせぇ」

 

作業が始まる。

 

敵の残存兵が入ってくる。

 

ジャンボーは片手でワイヤーを押さえたまま、もう片手で弓を引く。

 

矢が敵の足元へ突き刺さり、進路を止める。

 

コマンダーはカバーを外しながら大型ナイフを構え、敵の銃を弾く。

 

「忙しいな!」

 

麗華が叫ぶ。

 

『あと少し!黒い端子を抜いて!』

 

コマンダーが手を伸ばす。

 

だが、端子は奥にある。

 

指が届かない。

 

ジャンボーが無言で矢尻を使い、端子を引っ掛けた。

 

慎重に。

 

ゆっくり。

 

端子が外れる。

 

カウントが止まった。

 

『機関区爆薬、解除成功!』

 

コマンダーは息を吐いた。

 

「弓矢で爆弾解除か。初めて見たぜ」

 

ジャンボーは短く言う。

 

「……静かだ」

 

「いや、十分派手だったぞ」

 

三箇所の爆薬が止まった。

 

第二シェルターから歓声が上がる。

 

一之瀬が安堵した声で言う。

 

『よかった……!』

 

軽井沢も叫ぶ。

 

『やったじゃん!』

 

森下が興奮して言う。

 

『皆さんすごいです、綾小路清隆も朝霧海斗も七瀬翼もジャンボーもコマンダーも』

 

ツキが言う。

 

『森下藍、敵味方リストが完全に崩壊したね』

 

森下は少し考えた。

 

『崩壊ではありません』

 

『違う?』

 

『大統一です』

 

『なるほど』

 

『みんな頑張りました』

 

『確かに』

 

『なら全員褒めてもいいはずです』

 

『平和的』

 

『平和的です』

 

ツキも少し考える。

 

『では私も褒めます』

 

『誰をですか』

 

『ジャンボー』

 

『理由は?』

 

『大きい』

 

『確かに』

 

『コマンダーも褒めます』

 

『理由は?』

 

『燃えていた』

 

『確かに』

 

『藍も褒めます』

 

『理由は?』

 

『元気』

 

『ありがとうございます』

 

『どういたしまして』

 

尊徳も少し笑ったように言う。

 

『まあ、今だけでも助かったならありがたい。彩様、こちらも大丈夫です』

 

彩が明るく答える。

 

『はい!』

 

だが。

 

その安堵は長く続かなかった。

 

船内放送が再び入る。

 

高円寺の声。

 

『見事だ。実に見事だよ』

 

綾小路と海斗はバラスト制御室で顔を上げた。

 

七瀬も貨物区画で立ち止まる。

 

ジャンボーとコマンダーも機関区で動きを止める。

 

高円寺は続ける。

 

『これで最後の試練は終わりだ。君たちは確かに、船を沈めずに止めた』

 

海斗が無線へ怒鳴る。

 

「だったら出てこい!」

 

『それはまたの機会にしよう』

 

「逃げる気かよ」

 

『退屈は十分に満たされた。だが、まだ物語には終幕が必要だ』

 

その瞬間、船外で爆発音が響いた。

 

クルーズ船の周囲に残っていた敵の高速艇が次々と爆発したのだ。

 

船を囲むように炎が上がる。

 

逃走艇が消えていく。

 

坂柳が叫ぶ。

 

『外部退路が破壊されています!』

 

麗華が言う。

 

『でも船は沈んでいない。まだ動かせるわ!』

 

堀北が即座に判断する。

 

『船橋を確保して、島へ戻す必要がある』

 

コマンダーの声が機関区から入る。

 

『船橋なら俺が知ってる。案内してやるよ』

 

海斗が警戒する。

 

「信用できるか?」

 

コマンダーは笑う。

 

『今さら船と一緒に沈む趣味はねぇよ』

 

ジャンボーが低く言う。

 

『……森へ帰る』

 

海斗は少しだけ笑った。

 

「分かりやすいな」

 

綾小路は立ち上がる。

 

「全員、船橋へ向かう」

 

七瀬が答える。

 

『了解』

 

コマンダーも言う。

 

『最終目的地だな』

 

ジャンボーも短く。

 

『……行く』

 

戦いは終わりに近づいている。

 

だが、まだ船は海上にある。

 

炎に囲まれた海上の城を、島へ戻さなければならない。

 

綾小路と海斗は再び走り出した。

 

船橋へ。

 

最後の操作室へ。

 

本当の帰還のために。

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