週刊テラに生きる 作:ポイズンとかげ
現代人がテラに転送されたら、どうなるでしょうか?
今回はそれを検証していきましょう。
知っての通り、テラの大地は厳しいものです。天災があり、差別があり、世界中に蔓延している不治の病があります。
そんな世界に行ってもらうのは、臆病な少女・リンネです。この赤い髪の小さな少女は運悪く、トラックに轢かれてしまいました。
リンネが生き残るためには、テラの大地に行き、100日間生き残らねばなりません。理屈はどうあれ、そうなっているのです。
リンネはこれからアークナイツに関する全ての記憶を消され、送り出されます。
それでは、彼女がどのようにアークナイツ世界で生存するのか、それとも死んでしまうのか、確かめてみましょう。
○
「う……ここは……」
リンネが最初に目覚めたのは、見渡す限りの荒野のようですね。地面からは源石結晶がびっしり生えています。
遠くには、奇妙な色の積乱雲が見えます。どうやら、天災が通った後の荒野に流れ着いたようですね。
「なんなんですか……ここ……なんでだれもいないんですか?」
少々パニックを起こしているようですね。
リンネの最後の記憶は轢かれる5分前で止まっていますので、体感では突然見知らぬ場所に飛ばされたことになります。
「地面から生えてる…石?尖ってるし、近づかないでおこう……」
幸運ですね。リンネは鉱石病に感染せずに済みました。本来ならば、テラ人でなければ感染しようがありませんが、今回は特別に種族は人間のまま、テラ人と同じにしました。
しかし、このまま荒野にいれば、源石粉末を吸い込み、感染してしまうことは確実です。早いところ、彼女が脱出できれば良いのですが。
「っ、携帯……はぁ、圏外か……そうだ、スターリンクなら……うう、駄目なの……警察も救急も繋がらないし……。」
当然ながら、テラの世界に4Gはおろか3Gも飛んでいません。あったとしても、天災に大きく揺らがされるため、使い物にはならないでしょう。
「無闇に動いても……駄目だよね。」
どうやら、リンネは動かないことを選んだようです。
彼女は怯えながら周りを見渡し、天災で崩れたと思われる岩の隙間を見つけたようです。大人一人がすっぽり収まるぐらいで、背の低いリンネならば安定したスペースを確保できるでしょう。
……三時間ほど経過しました。
リンネは体育座りのまま啜り泣きながら、誰かの気配をずっと待っています。
時刻は昼ごろ。日差しが強くなり、気温が容赦なくリンネの体力を蝕んでいます。やや喉が渇いているのか、唇が乾燥していますね。
「けほっ、けほ……なんだろ…胸に違和感が……」
源石粉末を少し吸い込んでしまったのでしょうか。何にせよ、早く動かなければ彼女はここで感染してしまうでしょう。
おっと、ここでリンネに近づく音があります。カサカサ、コツコツという硬い何かが地面を這う音とともに、数十の群れがやってきます。
「な、なに……貝?」
どうやら、オリジムシの群れだったようですね。オリジムシは、テラに生きる最も一般的な源石生物であり、一匹一匹は貧弱ですが、今のリンネにとっては脅威に他なりません。
「ひっ……!?」
どうやら、危機を察知したのかリンネは恐怖しているようです。必死に息を殺し、縮こまり、気配を消そうとしています。
幸いにも、オリジムシは刺激しない限りは人間を襲うことは殆どありません。結果的には、数匹嗅ぎ慣れない匂いに立ち止まったぐらいで、何事もなく危機を突破しました。
「………っ、はぁ、はぁっ……げほげほげほっ!?」
オリジムシが去ったことで安心したのか、大きく呼吸をしてしまったため、源石塵の混じる空気を吸い続けた結果、彼女の肺胞にはすでに相当量の源石微粒子が付着しています。
そもそも源石が血中に含まれているテラ人ならばまだしも、そうでないリンネの免疫システムは非常に危篤なダメージを負っています。
それからさらに時間が過ぎ、夜が訪れました。
中度の脱水状態にあり、呼吸のたびにリンネは顔を顰めています。
スマートフォンのバッテリーも55%と減ってきています。
「……この、ままじゃ…しんじゃう……」
リンネが最後の希望をかけて、岩の隙間から目を覗かせれば──────遥か遠くから、不自然に動く巨大な光の群れが見えてきます。
それは、サーチライトをいくつも照らし、時速数キロで大地を進む「移動都市」です。ここからでは、どの国家のどの都市かは分かりませんが、そこに行けば「水」も「医療」も「人間」もいるでしょう。
しかし、同時に選択を迫られます。移動都市の遥か手前に、不気味な車両数台と、灯りを灯したテントの群れが見えます。
どうやら、サルカズ傭兵か野盗のどちらかのキャンプのようです。
「行くしか、ない……」
蹌踉めく足で、移動都市を目指すことに決めたようです。
すでに太陽は沈み、テラの荒野は殺人的な寒さへと変貌しました。リンネのTシャツに薄い上着といった服装では、彼女の体力はどんどんと奪われていきます。
「あの人たち、武器を持ってる……マトモじゃない……」
キャンプを迂回することを決めたらしく、焚き火の周りで武器を磨きながら豪快に笑う角の生えた人……サルカズ傭兵を見て、警戒心を高めているようですね。
唯一の灯りをつけられる機械であるスマートフォンをポケットにしまい、足元の黒い鉱石を避けて進む姿は、まるで哀れな小動物のようです。
その甲斐もあってか、傭兵たちに悟られることなくキャンプの脇を通り抜けることが出来たようです。
(あとは……あの大きな光に、向かうだけ……)
しかし、限界はすぐに訪れます。
水分不足、極寒……そして何よりも、重度に進行した鉱石病。
迂回のために余計に歩いたことで、呼吸の回数が増え、胸の痛みが耐え難いものへと変わります。
「ゔ、ごほ、げほ、がはっ……」
咳き込んだリンネの手のひらには、黒くなった血がべったりとくっ付いています。
テラにおける不治の病、鉱石病の初期症状です。現代人の脆弱な肉体は、源石の融合スピードに耐えきれず、急速に結晶化プロセスに移行しています。
「う、ゔ………ま、って……いか、ないで……。」
遠くに見える移動都市。しかしいくら歩けども、その差が縮まることはありません。移動都市は常に時速数キロで動いています。
徒歩の、それも病に冒された現代人の足では追いつくことは出来ません。
「い、やだ……こんな、死にかた……」
膝がガクガクと震え、ついにリンネは冷たい砂の上に倒れてしまいます。
指先が冷たくなっていき、彼女が無念の中で意識を手放しかけた……その時でした。車の音が、リンネの背後の闇から聞こえてきます。
ざり、ざり、と野盗や傭兵にしては静かで、統率の取れた音です。
「う………」
リンネが薄く目を開ければ、奇妙なガスマスクを被った数人の集団が、彼女を見下ろしていました。彼らの肩には、三角の中に塔が一本立つマーク────ロドス・アイランド製薬のマークが刻まれています。
彼らは移動都市の周辺で天災の調査、及び感染者の救助を行っていたロドス・アイランドの調査隊のようです。
「隊長、まだ息があります。生存者です!しかし、なぜこんな軽装で……耳も角もない。未登録の先民でしょうか?」
「アーツの残滓は……ない。よし、バイタル確保急げ!鎮静剤もだ、急げ!」
どうやら、彼らはリンネを見捨てることはしないようです。そのおかげで、リンネの命は助かるでしょう。
○
一日目は奇跡的に生存できましたね。
一時はどうなるかと思いましたが、リンネが臆病な性格だったおかげで生き延びることが出来たようです。
次回も引き続き、リンネの行末を見守っていきましょう。それでは、また来週。
【キャラクター紹介】
・リンネ
本名:上嶋 凛音(カミジマ リンネ)
年齢:15
性別:女
死因:突き飛ばしによるトラック事故。轢死。
性格:臆病
外見的特徴:低い背丈、赤い髪、灰色の瞳
外見的印象:貧相な子供