週刊テラに生きる   作:ポイズンとかげ

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リンネ:二日目

 

現代人がテラに転送されたら、どうなるでしょうか?

今回も、引き続き検証していきましょう。

 

前回は、トラックに轢かれてしまった哀れな少女、リンネをアークナイツの記憶がない状態でテラに転送しました。

非常に臆病な性格の彼女は、荒野に飛ばされ、動かずに夜を迎え、鉱石病に罹患してしまいました。

あわや死を迎えそうになった時、奇跡的にロドスのオペレーターたちに命を救われたところでしたね。

 

どうやら、もうじきリンネが目を覚ましそうです。

それではリンネがどのように生き延びるのか、見ていきましょう。

 

 

 

 

リンネが目を開けた先には、清潔で無機質なベッドがあるようですね。きちんとロドスの医療を受けられたようです。

彼女の腕には何本ものチューブが繋がれ、鉱石病抑制剤が点滴されているようです。

 

(……胸も、そんなに痛くない。一体どうして……ここ、病院だよね…?)

 

清潔な雰囲気に安心したのか、リンネはため息をついています。彼女には現状を整理する時間が必要なようです。

しかし、彼女が目覚めた通知が行ったのか、すぐに整理の時間は終わります。

 

「気が付きましたか。」

 

扉を開けてやってきたのは、茶色いウサギの耳(あるいはロバ)を持った、年若い少女─────我らが、アーミヤCEOです。

その隣には、緑色の猫のような医師、ケルシーが腕を組んでリンネを見下ろしています。

 

「私の言葉が分かりますか?あなたはクルビアの荒野で倒れていたところを、私たちの調査隊が救助したんですよ。」

 

「(未知の言語)助けてくれたんですか。ありがとうございます……死んじゃうと思いました……」

 

「………アーミヤ。ここは私が訳そう。彼女は助けられたことに感謝しているようだ。」

 

アーミヤが優しく、しかし真剣な面持ちでリンネに語りかけます。リンネもその言葉に応えますが、どうやら喋っているのはテラの言葉ではなく、テラにおいては未知の言語のようですね。

 

「(未知の言語)も、もしかして、私の言葉が通じてないんですか?」

 

「私には通じている。受け答えはハッキリしているようだな。ここに来るまでの記憶はあるか?」

 

しかし、テラ最高峰の頭脳を持つケルシーであれば、未知の言語であっても訳せるようです。

ケルシーは淡々と、リンネに残酷な事実を伝えます。

 

「(未知の言語)……ありません。気がついたら、知らない荒野にいて…怖くて……」

 

「記憶障害、あるいは極度の精神的ショックによる言語障害か、あるいは……だが、君から検出されたデータは『異常』の一言に尽きる。」

 

リンネの肩が跳ねます。どうやら、「異常」という言葉に反応したようですね。

それもそうでしょう。彼女の記憶の中には、喀血し、倒れた自分があるのですから。不安にならない方がおかしいと言えます。

 

「第一に、君の着ている衣服の繊維。これはテラのどこにも存在しない物質で構成されている。無論、代替用品はあるが、源石に依らない物質────原料を測定したところ、[C10H8O4]n…有体に言えば、ポリエステルだ。」

 

「(未知の言語)オリジニウム……?」

 

「君の倒れていた荒野に生えていた、黒い結晶体の事だ。説明を続けるぞ。第二に、君の所持していた精密機械。源石回路が一切使用されておらず、リチウム由来の蓄電技術が使われている。非常に効率の悪い機器だ。」

 

(あれ、最新モデルなんだけどなぁ……)

 

事実として、リンネの所持していたスマートフォンは現代日本においては最新機でした。尤も、テラの大地は源石の影響から工業が非常に発展しています。

エネルギー伝導率含め、あらゆるパラメータが高水準ですから、現代技術の髄を凝らした機械であろうと、「非効率的」と見做されてしまいます。

 

「第三に……君の種族についてだ。身体検査の結果、君はテラに現存するどの種族とも異なることが判った。」

 

「(未知の言語)──────え。」

 

「尤も……ライオスやレインボー小隊、そしてあの囚人と呼ばれていた彼らと近い組成ではあるようだが。しかし、彼らと大きく違うのは源石への耐性だ。前述した彼らは、何らかの要因で耐性を獲得していた、あるいは感染が確認されていないが、君にはそれがなく、鉱石病も初期進行状態にある。」

 

「(未知の言語)それじゃあ……私は、なんなんですか……だって、おかしい……昨日まで、日本で、ただの学生だったのに……」

 

「……ニホン。聞いたことのない地名だ。ならば、ひとまず君の種族や境遇については不問としよう。肝要なのは、君がテラの人間ではなく、我々が保護すべき感染者であるということだけだ。」

 

ひとまず、リンネの身柄は安全になったようですね。

ある程度の世界情勢や常識などを学ぶため、ケルシーは本や情報端末を残して行ってくれました。また、アーミヤは可能な限りサポートをするようです。

 

さて、ここでリンネに祝福を与えましょう。

言語の習得は、通常一年以上かかります。しかし、100日間という制限の中で言語が使えないというのも彼女の選択肢を狭めてしまうでしょう。

なので、彼女がテラの言語をすぐに習得できるようにしました。

 

「まずは、あなたの名前を教えてくれませんか。」

 

「……り、リンネ。カミジマ・リンネです。アーミヤさん…?よろしくお願いします……」

 

「………!はい、よろしくお願いします!リンネさん!」

 

アーミヤは嬉しそうにリンネの名前を呼んでいますね。歳も近いですから、仲良くなれると良いのですが。

しかし、ここは過酷なテラの大地。友好を深めている暇はありません。リンネはただの患者となるためには、資金がありません。

ロドス・アイランドは製薬会社ですが、慈善団体ではありません。勤務可能な者は、働かなければなりません。

 

「文字を覚えられたのでしたら、もし良ければ私の仕事の手伝いをしてみませんか?この大地について、深く理解できると思うんです。」

 

「え、えと……お願いします。」

 

どうやら、リンネはニートに甘んじる気は無かったようですね。

どの道、寝たきりの患者であれば未知の検体として精密検査を受けるだけの生活になっていたでしょうから、幸運な選択と言えます。

 

「車椅子で移動しましょうか。お身体、失礼しますね。」

 

「た、立てます。大丈夫です、たぶん…」

 

「そうはいきませんよ。任せてください、こう見えても、意外と力は強いんですよ。」

 

「わ、」

 

アーミヤに抱えられ、車椅子に乗せられていますね。ここだけを見れば、健気な介抱の様子ですが、これから向かうのは仕事場です。

 

「ここが『後方支援部門』です。あとは他の支援オペレーターさんが案内をしますから、何か困ったことがあれば彼に尋ねてください。」

 

「ぁ、えと……ありがとう、ございます。」

 

「ロドスは皆の家ですから。あなたの新しい家にもなれたら嬉しいです。それでは。」

 

アーミヤが立ち去るのと同時に、気怠げなサンクタの男性が書類を抱えてやってきます。

彼は瞳の下に隈を作っており、眼鏡はよれています。

リンネはどうやら、テラで初めて見る男性にやや緊張しているのか、口をへの字に噤んでいますね。

 

「あー……君がリンネさんね。どうも、後方支援部門のイグゾーションです。君、パソコン触れる?」

 

「ぁ、ぅ………えと…はい。ある程度は……」

 

「そんじゃ都合いいや。膝借りるよ」

 

イグゾーションと名乗ったサンクタの男性は、リンネの膝に書類を乗せてから車椅子を押しはじめました。

彼に連れられて来たのは、パソコンが複数台並んだ場所です。テラの電子機械は、構造こそ違いますが機能は同じか、それ以上です。

リンネの能力は現代人としては平均的なので、問題なく遂行できるでしょう。

 

「とりま、起動したら『物資申請書』の数字と倉庫の在庫データが一致してるか確認しておいて。病み上がりなんだし、あんま期待はしてないからゆっくりね。」

 

「あ、はい……頑張ります。」

 

臆病らしく、リンネは言われた通りに与えられたデスクでしがみつくように作業を始めましたね。

現代日本でゲームや掲示板、軽いwebサイト制作をしていた彼女にとって、「データの照合」や「効率的なファイリング」は馴染みやすかったのか、少し楽しそうにしています。

 

「なんだか勢いで進んでる気がするけど……でも、あの荒野に戻るよりはマシ……」

 

リンネの性格上、慎重さというものは身に染み付いています。

それ故に、見落とされがちな計算ミスや、フォーマットの不備を指摘・訂正し、開始して僅か数時間で仕事を終わらせることに成功しました。

 

「ふぅ……終わりました。」

 

「んぉ、もう?早くない?どれどれ……本当だ。リンネさん、結構シゴデキタイプなんだ。やるね。これからお昼だけど、なんか買ってこようか?」

 

「せっかくですから、私も行きます。」

 

「あいよ」

 

褒められて気分が乗ったのか、イグゾーションに心を開いているようですね。

さて、彼らが食堂へと向かっている──────その最中。

 

ウゥゥゥ──────!!!!

廊下の天井にある警告ランプが激しく明滅し、鼓膜を劈くような警報音が鳴り響きました。

 

『緊急事態発生。緊急事態発生。本艦の前方において、大規模な敵性集団が展開中。戦闘可能なオペレーターは直ちに戦闘配備。その他オペレーターは、即座にセクター4へと退避してください。』

 

ドォォォン……!

地響きと共に、廊下の床が大きく揺れます。すぐ近くの外壁に、敵のアーツが着弾した衝撃です。

安全だと思っていたロドスの内部に、テラの「暴力」が迫って来ました。

 

「っ……来る、荒野が……来る……っ!!?」

 

「落ち着いてリンネさん……大丈夫。いざとなれば僕が守るから……」

 

リンネは完全にパニックに陥っています。

イグゾーションも守護銃を取り出しますが、その顔から平静は失われています。当然です。二人とも非戦闘員ですから、武装集団に襲われればひとたまりもありません。

 

「………っ、はぁ、そうだ……イグゾーションさん!重要書類を……」

 

「そうか────敵の狙いがそこにある可能性もある。分かった、リンネさん……重要書類の運搬は君に任せる。何があってもファイルを手放すなよ。」

 

彼らは急いでデスクに戻り、重要書類の入ったファイルを手にし、脱出を図ります。リンネも車椅子に乗っている場合ではないと思ったのか、立ち上がっていますね。

イグゾーションは弾薬を込め、二人でセクター4…避難シェルターへと向かう廊下に出ましたが、廊下は他の非戦闘員たちでごった返しています。

 

すると、前方から「ドゴン!!」という鈍い音がします。既に防壁は破られ、内部に侵入されているようです。

 

『警告。Cセクション通路に敵の別動隊が侵入。迎撃部隊の到着まで、あと3分──────』

 

「**ラテラーノスラング**!!もう入られたってのか…!どんだけ大規模なんだよ……」

 

イグゾーションがリンネの前に出るように立ち、単発式守護銃を構えます。

通路の向こうから、煙と共に現れたのは────ロドスの制服ではなく、ダブリン兵士の姿でした。その手には、返り血が付いています。その数は、およそ三人。

 

「ロドスのゴミどもめ……死ね!感染者ァッ!!」

 

敵の数は、総勢1000人以上。ダブリン残党の過激派が相手のようです。

彼らはロドス・アイランド、および感染者に強い殺意を向けており、狂乱しながら襲ってきます。

 

「下がってろ!」

 

イグゾーションの叫び声と共に、銃声が鳴り響きます。三人の敵のうち、一人が凶弾に倒れます。

眼球に一発。即死です。リンネは言われた通りに下がろうとしますが──────単発式ライフルを装填するイグゾーションに迫る、もう二人の兵士たちの姿を見てしまいました。

 

(このままじゃ、イグゾーションさんは死ぬ……そうしたら、私も殺される……!)

 

彼女は臆病ではありますが、腑抜けではありません。

 

「次だ────ッ!?」

 

「死ね!ロドスの狗!」

 

リンネはポケットに手を入れ、即座に手慣れた動作でスマートフォンを手に取ります。画面をスワイプし、コントロールセンターからフラッシュライトを狂ったように連打します。

現代の強力なLEDライトの光が、ダブリン兵士たちの視界を襲います。

 

「っ、何の光……!?」

「ぐわぁっ、目が!女がぁっ…!」

 

如何に強靭なテラ人であろうとも、突然のフラッシュ連打には凄まじい目眩しになります。ダブリン兵士たちは思わず目を覆い、突撃の足が止まります。

ヒトという種族である以上、フラッシュで身体が硬直するのは本能であるため、動けなくなるのは当然でしょう。

 

「よくやった……リンネさん。」

 

再び銃声。イグゾーションはその隙を逃さず、二発。ダブリン兵士たちはその場で即死します。

通路には硝煙の匂いと、静寂が戻ってきます。その場にかがみ込んでいた非戦闘員たちも徐々に起き上がります。

 

「はぁ……はぁ、ひと、し、死んで……うぷっ……」

 

リンネは目の前でまざまざと見せつけられた「死」を受け入れられないのか、涙を流し、緊張に歯を振るわせ、口を手で抑えています。

しかし、手に持ったファイルだけは離さなかったようですね。

 

「吐くなら避難してから。とにかく行こう。くそ、労災手当は出るんだろうな…?」

 

その後、二人は休むことなく走り続け、無事に避難シェルターまで逃げ延びることが出来たようです。

避難シェルター内の廃棄孔からは、小一時間ほどリンネの吐瀉物が流れた以外には、犠牲らしい犠牲はありませんでした。

 

「………ぅ、ふう……」

 

「収まった?」

 

「みんな、どうして……こうならないん、ですか。」

 

「……慣れちまったのさ。人の死ってやつにな。リンネさんはそうはならないといいな。」

 

しばらくして、ロドス本艦のオペレーターたちによって襲撃隊は全滅。ドクターの巧みな指揮により、根こそぎ処理され、艦内の安全が宣言されました。

 

避難が解除されたオフィスで、リンネが後生大事に守り抜いた重要書類は人事部のシニア職員へと手渡されました。

それを見ていたケルシーは、小さく頷き、リンネを手招きして呼びました。

 

「……救助されたばかりの君に、このような負荷を掛けてしまったのは申し訳ないと思っている。しかし、これで君も理解しただろう────テラの大地が抱える暴力という名の逃避に。君のいた世界とは異なり、この世界は常に争いが絶えない。それは、国の構造や文化が未成熟だからなのか?それとも、人類は普遍的に争わなければならない生物なのか?君の意見を聞かせてほしい。」

 

「……戦いなんて…誰も、したくないですよ。」

 

「──────そうか。いや、そうだったな……意見、感謝する。今日はゆっくりと休息を取るといい。」

 

その夜。

ベッドに横たわりながら、リンネは自分の手のひらを見つめています。

今日、彼女は自分の知恵と、現代の道具を使って「荒野」から生き延びました。しかし、スマートフォンのバッテリーはあと僅か。

そしてリンネの肺は、確実にこの世界に侵され始めています。

 

 

 

 

二日目は、ダブリン兵士による襲撃がありましたね。

リンネに安息の日は訪れないのでしょうか。ここから、彼女の「ロドス事務員としての本格的なサバイバル生活」が始まります。

次回も引き続き、リンネの行末を見守っていきましょう。それではまた来週。




【キャラクター紹介】
・イグゾーション
種族:サンクタ
性別:男性
所属:ロドス・アイランド
出身:ラテラーノ
年齢:26
部門:後方支援部門
外見的特徴:メガネ、隈、長髪、藍色の髪、赤い瞳
外見的印象:怠そうな事務職員
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