境界線PCU~多様性ワールドへようこそ~   作:トナカイ粉砕

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いつもお読みいただきありがとうございます。
水曜日は新たな事件の幕開け!
今回は、池袋の裏社会で起きている「半グレ連続殺人事件」です。

そして今回も、環萌美総理に負けず劣らずヤバすぎるネーミングの国家権力(警察トップ)が登場します……。

(※今回も挿絵表示にて現場の様子をお楽しみください!)


境界線008
境界線008-枯れた木に咲く花編(前編)


 

【挿絵表示】

 

――お昼時。いつもの新宿の極秘アジト。

 

「あーっ、また負けた! メイコちゃん強すぎっしょー!」

「あははっ! リルたそ、そこはガードしてから反撃しないと! はいもう一回!」

平和な休日の昼下がり。リビングの大型モニターの前では、いつものように遊びに来ているギャル大生のメイコが、金髪の少女・リルと賑やかに格闘ゲームに興じている。

 

「あー、この俳優さん、最近よく出てるわね。演技がわざとらしいけど嫌いじゃないわ」

天才ハッカーのマリアは、ソファでくつろぎながら最近ハマっているドロドロの昼ドラ(タイトルは『半沢淫樹』という最低なパロディドラマだ)を眺め。

「もうすぐ焼き上がるわよ。紅茶のお湯、沸かしておいて」

凄腕プロファイラーのモニカは、鼻歌交じりにキッチンで甘い香りのする手作りクッキーを焼いている。

 

そんな喧騒と甘い匂いの中で、スレイは一人黙々と、手元にあるコンバットナイフの刃を砥石で研いでいた。

『シャッ……シャッ……』と、冷たい鋼が削れる音が静かに響く。

長年、数え切れないほどの悪党の肉と骨を断ち切ってきたそのナイフは、見た目にもかなり使い込まれており、刃こぼれや黒ずみも目立つ。

マリアには「そろそろ買い替え時じゃない?」と言われているが、手に馴染んだこの重さと重心は、そう簡単に新しいものへ乗り換えられるものではなかった。

 

――ピピピッ。

その時、アジトの空気を引き締めるように、暗号化回線の着信音が鳴り響いた。

 

「……お呼び出しね」

マリアがリモコンでドラマを消し、コンソールに向かう。モニターに映し出されたのは、首相感貞からの招集サインだった。

 

――数十分後。首相感貞・特別地下室。

 

「……やあ諸君、よく来てくれた!」

重厚なマホガニーのテーブルの奥から、葉巻を咥えた大物議員Aが立ち上がり、満面の笑みでスレイたちを出迎える。

 

「さて、山田くん。……こちらが例の、環萌美総理の命を救い、議員の誘拐事件を解決してきた、最強の裏社会チームだ」

大物議員Aが、得意げなドヤ顔でスレイたちを紹介する。

 

「ほう。彼らが噂の……」

議員Aの隣に座っていた、仕立ての良いスーツを着た白髪交じりの初老の男が、鷹のような鋭い視線をスレイたちに向けた。

その顔つきは厳格で、いかにも「日本の治安のトップ」という威厳に満ち溢れている。

 

「スレイ君。紹介しよう。彼が、日本の警察機構のトップに君臨する男……」

大物議員Aが、男の肩をポンと叩き、仰々しくその役職名を読み上げた。

 

「警視庁『相姦(そうかん)』の、山田だ」

 

「「「…………」」」

 

スレイとマリア、そしてモニカの三人は、ピタリと動きを止めた。

 

「……ええと。今、議員」

モニカが、引きつった笑顔で確認する。

「警視庁『総監(そうかん)』……ですよね? 全てを監督する、トップの……」

 

「ノーノー。相姦の『相』は相互の相、『姦』は姦(かしま)しいの姦……つまり、男女が交わるという意味の相姦だ!!」

大物議員Aが、なぜか胸を張って言い放った。

 

「……初めまして。山田だ。日本の治安と、多様性を守るために日々尽力している」

山田相姦(そうかん)が、重々しく頷きながら手を差し出してきた。

 

スレイは無言でその手を握り返しながら、男のワイシャツの袖口からチラリと覗いた『腕時計』に目を留めた。

そこには、先日総理から贈られてきたのと同じ、最高級ブランドの限定モデル『Omec〇』の文字が、燦然と輝いていた。

 

(……こいつも、ダメなやつだ)

 

 

円卓に集まったスレイたち5人の前に、数枚の凄惨な遺体写真と、豊島区の住宅街の地図が広げられた。

 

「豊島区の、かなり老朽化したボロアパートの敷地内で、死体が発見されたわ。……これで今月、2人目よ」

赤いルージュを引いた環萌美総理が、冷たい声で事の次第を告げる。

 

「被害者の身元は?」

モニカがプロファイラーの顔つきで尋ねると、大物議員Aが手元の資料を読み上げた。

 

「表の警察の捜査で確認された身元は、池袋周辺を縄張りにしている半グレのチーム『EEE(トリプルイー)』のメンバーだ。1人目も、今回見つかった2人目もな」

 

「半グレの連続殺人……。これは、別の不良チームとの抗争じゃないかと疑われているっしょ?」

メイコがチート級の記憶力を引き出し、界隈の勢力図を思い浮かべながら言う。

 

「ああ。警視庁トップの山田相姦としては、周辺の警備やパトロールの強化はするだろうが、ヤクザや半グレ同士の殺し合いなら『勝手に潰し合ってくれればいい』というスタンスだ。警察組織として、それ以上の積極的な介入はできない」

 

しかし、遺体の写真をじっと見つめていたスレイが、不意に口を開いた。

「……ただの若い半グレ同士の抗争なら、殺し方が『綺麗』すぎる」

 

スレイの言葉に、モニカも頷いて遺体の損傷箇所を指差した。

「そうね。1人目の被害者は、横からの強い殴打で体勢を崩された直後、刃物で正確に『アキレス腱』を切断されて機動力を奪われている。その後、反撃も逃走もできない状態で致命傷を与えられ、出血多量で死んでいるわ」

「……えぐっ。確実に仕留めるための、エグい手順だね……」

リルがブルッと身震いする。

 

「2人目も同じよ。背後から組み付かれ、首を下から上へ向けて正確に突き刺されている。……頭蓋骨という硬い骨を避け、頸動脈を確実に一撃で切断するための角度。こちらも、無駄な抵抗を許さず出血多量で死に至らしめているわ」

 

マリアが検死報告書を読み上げ、スレイは自分の腰に差した古いナイフにそっと手を当てた。

「最近の半グレどものように、金属バットで集団でメッタ打ちにしたり、素人がナイフを振り回して滅多刺しにしたような痕じゃない。……アキレス腱を狙うのも、首の動脈をピンポイントで狙うのも、確実に『仕事』をこなすための暗殺の定石だ」

 

スレイはサングラスの奥で目を細め、低い声で結論を吐き出した。

 

「……死因と手口からすると、殺しに熟練した『古い人間(ベテラン)』が動いているようだな」

 

「古い人間……プロの殺し屋が、半グレの抗争に雇われたってこと?」

リルの疑問に、マリアがキーボードを叩いて池袋の裏社会の相関図をモニターに表示した。

 

「疑われるのは、被害者の所属するEEEとバチバチにやり合っている、半グレチーム『FFF(トリプルエフ)』ね。……長年、この二つのチームはシマを巡って不仲を続けているというのは、界隈では有名な話よ」

 

若く暴力的な半グレたちが蔓延る街で、突如として姿を現した「古い殺しの作法」。

チームFFFが、敵対するEEEを壊滅させるために、裏社会の底で眠っていた『枯れた木』のような老練な殺し屋を雇い入れたのか。

 

「……血の匂いがするな」

 

スレイが安物の百円ライターをカチャリと鳴らし、紫煙を吐き出す。

古びたナイフの刃が導く新たな闘いの幕開けに、裏の掃除屋たちは静かに狙いを定めるのであった。

 

【挿絵表示】

 

 

――東京都豊島区、某所。

 

首相感貞でのブリーフィングを終えたスレイたちは、ただちに遺体が発見された現場へと足を運んでいた。

 

彼らは警察のような表の探偵ではない。しかし、PCのデータだけではなく、自分の足で現場を歩き、そこで『感じたこと』が、標的の息の根を止めるための決定的な直感(ピース)になることを、最強の暗殺者であるスレイは誰よりも熟知していた。

 

現場となったのは、入り組んだ住宅街の奥にひっそりと建つ[b:『ほほえみ荘』]という名前の木造アパートだった。

築年数は相当なものだろう。外壁の塗装は剥がれ落ち、鉄骨の階段は赤茶色に錆びついている。

いわゆる絵に描いたようなボロアパートだ。

雨風を凌いで暮らす分には問題なさそうだが、見た目は「次に大きな地震が起きたら間違いなく倒壊して危ない」と思わせるほど、全体がひどく歪んで老朽化していた。

 

スレイが周囲の空気を探る中、金髪の少女・リルとギャル大生のメイコが、アパートの住人や管理人に聞き込みをして回る。

 

ここ『ほほえみ荘』の住人たちは、見事に社会の底辺に吹き溜まったような人々ばかりだった。

連れ合いに先立たれて身寄りもなく、細々と年金で暮らしている孤独な老人たち。

生活保護を受けながら、狭い部屋で身を寄せ合って生きている母子家庭の貧困層(なぜか子供の数は少なくはない)。

そして、何らかの身体的・精神的な障害を抱え、表の社会からドロップアウトしてしまった人間たち。

ここは、華やかな大都会の影に忘れ去られた、弱者たちの最後のセーフティネットのような場所だった。

 

「スレイ、聞いてきたよー!」

アパートの入り口にある古びた管理室から戻ってきたリルが、スレイの元へ小走りで駆け寄ってきた。

「管理人のお爺さん、柴田(しばた)源五郎(げんごろう)っていうんだって! いろいろ教えてくれたよ!」

 

「あの爺ちゃん、片足が不自由みたいでずっと杖ついてたけど、なんか『昔の日本の男』って感じでクールだぜ!」

メイコも、少し気難しそうだが味のある管理人のお爺さんの態度を思い出し、ケラケラと笑いながら親指を立てた。

スレイも遠目にその管理人の姿を確認したが、深く刻まれた皺と、杖に縋るようにして歩く不自由な足取りからは、ただのしがない老人の哀愁しか感じられなかった。

 

一方、アパートの敷地の裏手――2人の半グレの遺体が遺棄されていた現場を調べていた女性陣が、小さな痕跡を見つけ出していた。

 

「……スレイ、こっちよ。地面に、何かを『引きずった跡』があるわね」

凄腕プロファイラーのモニカが、しゃがみ込んで土の表面を指差す。警察の鑑識も気づかなかった、あるいは気にも留めなかったであろう微かな凹みだ。

「ええ。方向としては、あっちの駐輪場のほうかしらね。……遺体を車から降ろして、ここまで運んだ形跡ね」

天才ハッカーのマリアが、その跡が途切れている方向を目で追う。

 

しかし、モニカがプロファイラーの目を光らせて周囲をくまなく探すも、それ以外の痕跡――犯人の足跡や、凶器から垂れたはずの血痕、あるいはタイヤの痕などは、綺麗さっぱり消し去られていた。

 

「……見事なものね。ただの半グレがパニックになって死体を捨てに来たのとは、わけが違うわ」

モニカが感心したようにため息をつく。

 

これほどボロいアパートだ、今時のマンションのように防犯監視カメラなど到底設置されているはずもない。

夜になれば人通りも途絶え、住人たちも物音に怯えて外に出ようとはしない。ここは、プロの殺し屋にとって「死体処理場(捨て場所)」として最適のブラインドスポットだったのだろう。

 

「……古い人間による、正確な殺し。そして、一切の証拠を残さない死体遺棄」

スレイは、腰の古いナイフの柄を撫でながら、静かに紫煙を吐き出した。

 

被害者は、池袋の半グレチーム『EEE』のメンバー。

そして、彼らと長年シマを巡ってバチバチにやり合っている敵対チーム『FFF』。

プロの老練な殺し屋(枯れた木)を雇い、こんな辺鄙なボロアパートに死体を捨てさせた依頼主は、果たしてどちらの組織なのか。

 

「……まずは、連中の動向を探る。半グレチーム『EEE』と『FFF』、両方を洗う必要がありそうだな」

「了解。マリア、ハッキングの準備よ。両チームの資金源と、最近の不審な金の動きを洗い出すわ」

「ええ、アジトに戻りましょう」

 

足の悪い老管理人が見守る古びたアパートを背に、裏の掃除屋たちは、池袋の闇を牛耳る半グレ組織の抗争のど真ん中へと、静かに足を踏み入れていくのであった。

 

――新宿の極秘アジト。

 

現場検証を終えて帰還したスレイたちは、休む間もなくPCルームに集まり、池袋周辺を根城にする二つの半グレ組織の洗い出しを始めていた。

一つは、死体が遺棄されていたボロアパート『ほほえみ荘』の周辺を縄張りにしてデカい顔をしているチーム『EEE』。

もう一つは、そこから少し離れた地区だが、決して遠くはない場所で幅を利かせている敵対チーム『FFF』だ。

 

マリアが、彼らの裏口座やSNSの通信ログを凄まじい速度で吸い上げていく中、モニカが、淹れたてのコーヒーをテーブルに置きながら、ふと真剣な顔つきで口を開いた。

 

「……現場で、一つだけ強い違和感があったわ。綺麗に消されていた死体遺棄の『痕跡』じゃない。……あのボロアパートの住人たちが、みんな『笑顔』だったことよ」

 

モニカの言葉に、マリアがキーボードから手を止めて頷いた。

「言葉は悪いけど、あそこに住んでいるのは社会の底辺層……行き場をなくしたセーフティネットの人々ね。普通なら、もっと殺伐としているはずだわ」

 

「でも、みんな笑ってたし、すっごく楽しそうだったね!」

金髪の少女・リルが、現場で見た光景を思い出しながら無邪気に言う。

「確かに~管理人の源(げん)爺さんとか、トキばーちゃんとか呼び合ってて、住人皆が家族みたいに仲良さげだったっしょ!」

ギャル大生のメイコも、アパートの敷地内で交わされていた温かい会話を振り返って同意した。

 

普通、社会の底辺層でその日暮らしをしている人間というのは、未来を悲観し、暗い顔でしみったれた空気を纏っているものだ。

しかし、彼らは違った。『ほほえみ荘』という名前も、決してただの皮肉ではなく、嘘ではないようだ。住人たちが何か犯罪的な秘密を隠しているような様子もない。

ただ純粋に、社会の弱者である住民同士が上手く助け合い、笑顔で生きているだけなのだろう。

 

「……平和なのはいいことだが、連続殺人の死体捨て場の空気じゃないな」

漆黒のコートを着たスレイが、安物のタバコを吹かしながら低く呟いた。

 

「ええ。引き続き解析を進めるわ」

マリアが再びタイピングを開始し、モニカが隣でプロファイラーの目を光らせてデータを精査していく。リルとメイコも、持ち前のチート能力(直感と記憶力)を駆使して、裏掲示板の書き込みなどを色々と見ていく。

 

しかし、数十分後。

「うーん……見事に『何もない』わね」

マリアが首を横に振った。出てくるのは、くだらない縄張り争いの小競り合いや、キャバクラの女を巡るチンピラ同士のしょうもない因縁ばかりだ。プロの殺し屋を雇ってまで血で血を洗うような、決定的な引き金が見当たらない。

 

「……少し気になるのは、この二つの半グレどもに『接点』が全くないことね」

モニカが、二つのチームの資金源をモニターに並べて指摘した。

 

「接点がない? シマが隣同士なのに?」

リルが首を傾げる。

「ええ。EEEの主なシノギは、おそらく違法薬物などの『運び屋』よ。そしてFFFのシノギは、違法風俗や振り込め詐欺。……利益を奪い合うような、業界の競合が全く起きていないのよ」

 

シマが隣接しているとはいえ、ビジネスモデルが違うのなら、わざわざ大金をはたいて凄腕の老殺し屋(枯れた木)を雇い、死体を転がしてまで抗争を起こす理由がない。

 

――いったい奴らは、何を争っているのだろうか?

そして、なぜ決まってあの『ほほえみ荘』に死体が捨てられるのか。

 

スレイが眉間を寄せ、銀色のジッポライターを弄っていたその時。

マリアのPCに、警視庁トップ・山田相姦の裏回線から緊急の速報アラートがけたたましく鳴り響いた。

 

「……スレイ! モニカ!」

マリアが血相を変えてメインモニターの映像を切り替える。そこに映し出されたのは、赤色灯が点滅する夜の住宅街の映像だった。

 

「……3人目の遺体が発見されたわ。場所はまた、あのボロアパート『ほほえみ荘』のすぐ付近よ!」

 

「なんだと……ッ」

スレイがガタッと椅子から立ち上がる。

交わらない二つの悪党と、笑顔の絶えないボロアパート。その不気味なアンバランスの中で、古い殺意の刃は、休むことなく新たな血を啜っていた。

 

裏の掃除屋たちは、連続殺人の凶行を食い止めるため、再び夜の街へとコートを翻して飛び出していくのであった。

 

 

【挿絵表示】

 




【お知らせと次回予告】

導入編いかがだったでしょうか。
山田相姦という最低な役職名から始まり、舞台は池袋のボロアパート『ほほえみ荘』へ。

プロの殺し屋の痕跡と、のどかで温かい住人たちという不気味なアンバランス。
明日の中編では、いよいよ容疑者の半グレアジトへ潜入(物理)します!


『境界線PCU~多様性ワールドへようこそ~6月は毎日20時更新』
6月は毎日20時に最新話を公開していきます。明日の20時もぜひお待ちしております!

▼イラスト・設定資料について▼
劇中の挿絵や、キャラクターの詳細な設定資料をPixivにて公開しています。
【Pixiv】https://www.pixiv.net/users/124951524

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