冷たい番号編、いよいよ解決編となる後編です!
奪われた証拠をエサに、黒幕を逆探知するための罠を張るPCU。
元締めからかかってきた一本の電話に対し、受話器を託されたリルの“無邪気すぎる応対”が、敵の脳細胞を完全に破壊し尽くします!
(※後半のバカンス回で複数の挿絵をご用意しています。挿絵表示でお楽しみください!)
首相感貞の特別地下室。
下落合の雑居ビルから押収したPCと書類を解析していたマリアが、ふう、と息を吐いてメインコンソールのモニターを見上げた。
「……ダメね。このコールドウォレットの『送金先』は不明だわ」
マリアが画面に映し出したのは、『0x71C...』から始まる無機質で長大な文字列だった。
「相手の宛先は、この暗号資産特有のウォレットアドレスしかわからない。これだけじゃ、どこの誰の口座なのか、物理的な身元までは絶対に特定できない仕組みになっているのよ」
「ならば、どうするか」
スレイが漆黒のコートの懐で腕を組み、静かに思考を巡らせる。
答えは、極めてシンプルだった。
「待てばいいのだ。……何日も着金しなければ、必ず焦った元締めから『実行部隊』へ連絡がくるはずだ」
スレイの言葉に、情報屋のモニカが頷く。
実は先ほど、下落合で捕まえた末端の男たちを容赦なく痛めつけて吐かせた際、彼らは震えながら一つのプリペイド式携帯電話を差し出していた。
『れ、連絡はこのプリペイド式の携帯にかかってくるだけなんだ……! こっちからかける手段はない!』と。
その安っぽい使い捨ての携帯電話を円卓の上に置き、裏の掃除屋たちは静かに「蜘蛛の糸」が震えるのを待った。
すると、環萌美内閣総理大臣が妖艶な笑みを浮かべ、金髪の少女へと視線を向けた。
「……リルちゃん。その電話がかかってきたら、あなたが出なさい。そして、相手が戸惑うように『好き勝手』言いなさい」
「わかったー!」
「なるほど、その通話を引き延ばしているうちに、私が電波を『逆探知』するという訳ね」
マリアが総理の悪魔的な采配を理解し、逆探知プログラムのスタンバイを完了させる。
――そして、数時間後。
円卓の上に置かれたプリペイド式携帯が、無機質な着信音を鳴らした。
「あっ、きたきた!」
リルが元気よく電話を手に取り、通話ボタンを押して、明るく元気な声で言い放った。
「はい! こちらスタジオズブリです!」
(((……どこのアニメ制作会社だ!! 絶対に子供に見せられない最低なパロディだろ!!)))
スレイ、マリア、モニカの三人は、一瞬にして脳の血管が切れそうになるのを必死で堪えた。
しかし、電話の向こうの犯人は、そんな日本の多様性(パロディ)の業など知る由もない。
『……あぁ? お前、誰だ? なぜお前がこの電話に出る?』
いかにも裏社会の幹部らしい、低くドスの効いた男の声が響く。だが、数億円という大金が絡んでいるため、男はすぐに本題へと切り込んできた。
『……まあいい。おい、指定したウォレットにいつまで経っても 着金(ちゃっきん)しないけど、いったいどうなっている!?』
男の怒声に対し、リルは不思議そうに首を傾げた。
「え? 着床(ちゃくしょう)? ……確かに、なかなかしません!」
「…………ッ!!?」
その場にいたスレイたち大人の顔面から、一気に血の気が引いた。
『……は? なにを言っている。着床じゃねえ、着金だ! カネの話だ! ちゃんと送金の手続きはしているんだろうな!?』
『はい! 危険日にビューってしてますが、なかなか着床しません!』
「ぶふぅっ!!」
横で聞いていたギャル大生のメイコが、耐えきれずに吹き出して崩れ落ちる。最強の暗殺者であるスレイは、頭を抱えてその場にうずくまりたくなった。
電話の向こうの犯人も、完全に思考回路がショートしたようだった。
『…………お、おい。それは、何かの暗号か? 危険日? ビューってなんだ!? 警察の隠語か何かか!?』
『暗号ではないです! よく、環萌美総理がスレイに向かって言ってます!』
『……意味がわかんねぇ!! なんだその女は!!』
「(……総理、お前はリルに普段どんな教育をしているんだ……!!)」
スレイが声なき絶望の叫びを上げる中、萌美総理だけは、自分の「最適解」が完璧に機能している様子を見て、肩を震わせてクスクスと笑っていた。
相手の思考を物理的ではなく精神的な混乱で埋め尽くす、リルという名の純真無垢なDDoS攻撃。犯人が「着床」と「危険日」の意味不明な言葉の羅列に完全に焦り、通話を切るタイミングを見失っている間に。
「……よし! 捕まえたわ!!」
マリアがキーボードをターンッ!と勢いよく叩き、勝利の声を上げた。
「電波の逆探知、完了よ! 相手の発信元と、隠し持っていた暗号資産のネットワークの終着点を完全に突き止めたわ!」
マリアのモニターに、一つの巨大な企業ロゴと、詳細な所在地が映し出される。
「……IRリゾート会社だわ! カジノや複合観光施設を運営している巨大企業よ!」
モニカがその企業名を見て、即座にプロファイラーとして点と点を繋ぎ合わせた。
「なるほどね……。カジノの莫大な現金の動きに紛れ込ませて、裏金の『マネーロンダリング(資金洗浄)』を行っていたのね。会計士は、そのカジノ関連の不自然なカネの流れ(冷たい番号)に気づいてしまったから、消されたんだわ!」
リルによる無邪気なシモネタ暗号がもたらした、奇跡の逆探知。
ついにスレイたちは、会計士の命を奪った巨悪の正体である「カジノの闇」へと辿り着くのであった。
――数十分後。
マリアの逆探知によってIRリゾート会社の裏の顔(マネーロンダリング)が完全に暴かれた直後、環萌美内閣総理大臣は優雅に紅茶のカップを置き、満足げに微笑んだ。
「ご苦労さま。これで解決ね。……あとは表の警察トップである山田が、カジノの裏組織ごと綺麗に片付けるわ」
「よかったわ。今回は血の海や地獄絵図になるようなことはなくて」
マリアがホッと胸を撫で下ろす。
しかし、その横でプロファイラーのモニカが、ふと疑問に思っていたことを口にした。
「ところで、マリア。あの東中野のロッカーに戻したUSBに、一体何を仕込んだの? 位置情報の特定以外にも、絶対何かえげつないウイルスか何かを入れたんでしょ?」
「ふふっ。さっきも言ったけれど、私が仕込んだのはウイルスの類じゃないわ」
マリアが少しだけ誇らしげに、メインコンソールのモニターを指差す。
「……コールドウォレットの『宛先のウォレットアドレス(例:0x71C...のような長い文字列)』を、こっそり書き換えておいたのよ。USBが犯人のPCに挿し込まれ、ネットワークに繋がった瞬間に、別の宛先へ自動で全額送金されるようにね。だから、犯人側の手元にはいつまで経っても着金していなかったの」
「えっ、着金? 着床じゃないの?」
リルがまたしても無邪気に首を傾げるが、スレイは軽く咳払いをしてそのシモネタをスルーし、極めて冷静な推論を導き出した。
「……ということは、もともとあのUSBに入っていた数億円の暗号資産は、犯人の口座ではなく『どこか別の場所』に漏れた(送金された)はずだ。一体どこへ送ったんだ?」
スレイの問いに対し、萌美総理が艶やかな唇に弧を描いた。
「鋭いわね、スレイ。……あのUSBに入っていた数億円のうち、1割は被害者である『会計士の残された家族の口座』へ。そして残りの9割は、全国の恵まれない『孤児院』に寄付されるように、匿名でバラバラに送金設定しておいたわ」
「えっ……!」
その事実を聞かされたマリアが、驚きに目を見開く。
「私は総理から渡されたアドレスの文字列を入力しただけだったけれど……まさか、送金先がそんなところだったとは……」
裏金として洗浄されるはずだった、血塗られた数億円。
それをただ没収するだけでなく、命を懸けて不正を暴こうとした死者の遺族と、未来ある子供たちのために躊躇なくばら撒く。日本の最高権力者である環萌美の手腕は、決して常軌を逸した変態性や恐怖政治だけではない。彼女の中には確かに、弱者を思いやる『気高き正義』が存在しているのだ。
(……やはり、食えない女だ)
スレイは静かに口角を上げ、円卓の前に一歩進み出た。
――それから数日後。8月、某日のプライベートビーチ。
「わぁぁーっ! 海だー! すっごく綺麗ー!」
「イェーイ! 夏休みマジ最高っしょ!」
抜けるような青空と、エメラルドグリーンに輝く透き通った海。
白い砂浜で、リルとメイコが、新調した『新作の水着』に身を包んでキャッキャと水を掛け合っていた。
「……ふう。冷たい事件の後は、やっぱり夏の海に限るわね」
パラソルの下で、モニカが優雅にトロピカルジュースを傾ける。彼女が着ているのは、大人の色気を最大限に引き出すエレガントな赤いビキニだ。
「そうね。ここ最近はずっとPCモニターと睨み合っていたから、いい息抜きになるわ」
その隣では、マリアが、大胆なカッティングが施されたセクシーな青い花柄の水着姿で、豊満な胸元に日焼け止めを塗っている。
そして、そのさらに隣の特等席のビーチベッドには。
「……ふふっ。波の音が心地いいわね」
なぜか、日本の最高権力者である『環萌美内閣総理大臣』が、布面積が国家の危機レベルに少ない、刺激的すぎるマイクロビキニ姿で優雅にくつろいでいた。
「……あの、総理。なんであなたまで一緒にバカンスに来ているんですか」
マリアがジト目で尋ねる。
「あら、いいじゃない。このプライベートビーチ、先日あなたたちが壊滅させた『IRリゾート会社(カジノ組織)』の元社長の隠し資産だったのよ。不正な裏金で買われた土地だから、サクッと『国の所有物(没収)』にしておいたの」
「(……つまり、自分の権力で職権乱用してタダで遊んでいるだけね)」
マリアとモニカは呆れたように顔を見合わせたが、まぁこのドS総理のおかげで最高のバカンスができているのだから、口には出さないでおいた。
「あははっ! マリアたちも早く海に入ろうよー!」
波打ち際から、フリルがたくさんついた可愛らしい水色のワンピース水着を着たリルが大きく手を振る。
「ええ、今行くわ」
マリア、モニカ、そして総理の三人が、ゆっくりと立ち上がって波打ち際へと歩み寄った、その時だった。
「…………あっ」
リルの動きが、ピタッと止まった。
眩しい太陽の下。
歩いてくるマリアとモニカの、豊満で柔らかな胸の谷間。
そして、隣でビーチボールを持っているメイコも、ギャルらしい派手赤いビキニから、健康的な美乳を惜しげもなくアピールしている。
極めつけは、萌美総理の、歩くたびにこぼれ落ちそうになる規格外の爆乳である。
リルは、四人の見事な『山脈』を見つめ……そして、ゆっくりと視線を落とし、自分の今回買ったマイクロビキニの『平野』を見た。
「…………」
ポスッ、と。
リルの手からビーチボールが滑り落ち、砂浜を転がっていく。
「……ど、どうしたのリル? 急に黙り込んで」
マリアが不思議そうに覗き込む。
しかし、リルはわなわなと肩を震わせると、砂浜に両手をついてガックリと膝から崩れ落ちた。
「……ひどい……。神様は……不公平だ……っ!」
「えっ?」
「私だけ……私だけ、何にもない……っ! これが……これが日本の残酷な『格差社会』なのねぇぇぇっ!!」
「ちょっ、リル!? 泣かないで!?」
突然、胸の圧倒的な格差(ボリュームの違い)に直面し、絶望のあまりシクシクと泣き崩れてしまったリル。
「あははっ! 大丈夫だよリルたそ! これからいっぱい牛乳飲めば育つっしょ!」
「そうよ、あなたはまだ若いんだから!」
メイコとマリアが慌てて慰めるが、リルのショックは想像以上に大きかったようだ。
「うわぁぁぁん! スレイぃぃぃ!」
リルは泣きじゃくりながら、少し離れたヤシの木陰に設営されたテントへと走っていった。
そこには、こんな真夏の海辺にまで来ておきながら、水着に着替えることもなく、漆黒のコートとサングラス姿で安物のタバコを吹かしている最強の暗殺者・スレイが座っていた。
「……スレイ! 慰めてよ! 私だけおっぱいがないんだよぉぉぉ!」
「…………」
突然の理不尽な号泣クレームに対し、スレイは死んだ魚のような目で、サングラスの奥からリルの「平野」を無言で一瞥した。
そして、タバコの紫煙を細く吐き出し、低くしゃがれた声で、真顔のままこう告げた。
「……気にするな。被弾面積が小さい分、スナイパーには狙われにくい。立派な長所だ」
「……そういうことじゃないもんッ!! バカーッ!!」
ズザザァァッ!!
リルが怒りに任せて砂を蹴り上げ、スレイの黒いコートが真っ白な砂まみれになる。
「あははははっ! スレイの慰め方、マジでばいやー!!」
「……本当に、あの男は女心が全く分かっていないわね」
メイコが腹を抱えて笑い転げ、マリアとモニカがやれやれと肩をすくめた。
萌美総理はビーチベッドで寝そべりながら、そのドタバタ劇を極上のリゾートカクテルのように楽しんでいる。
冷たいカネと死の連鎖を断ち切った裏の掃除屋たち。
過酷な任務の合間に訪れた、騒がしくも平和な夏のバカンスは、残酷な胸の格差社会と共にもう少しだけ続いていくのであった。
(↓結局、海で遊ぶことになった。ウホッ!)
――一方その頃。
まばゆい太陽が降り注ぐ海辺から遠く離れた、東京の地下深く。
警視庁の極秘尋問室では、ひどく冷たく、不気味な静寂が重く垂れ込めていた。
「……すべては、HOLの教義のため」
「我々の魂は、大いなる光によって救済される……」
薄暗い尋問室の中央。
先日、巨大フェス『サルーンソニック』の会場でスレイに捕獲され、山田相姦の部隊に引き渡された二人の男(PAブース前でJAFの映像を見てパニックになっていたHOLの信者)が、焦点の合わない虚ろな目でブツブツとうわ言を繰り返していた。
山田の部下である屈強な捜査員たちが、何時間にもわたって激しい尋問を繰り返しても、彼らはまるで壊れたテープレコーダーのように狂信的な言葉を吐き出すだけで、組織の全貌やアジトの場所を一切吐こうとはしなかった。
「……ダメです、相姦。完全に洗脳されています。これ以上の尋問は時間の無駄かと」
マジックミラー越しにその異常な光景を見つめていた部下が、忌々しそうに報告する。
「ああ。狂信者の口を割らせるのは、プロの殺し屋を口を割らせるよりも骨が折れるからな」
表の警察トップである『山田相姦』は、腕を組み、冷徹な眼差しで男たちを見つめていた。
しかし、その鋭い警察トップの慧眼は、尋問の言葉尻ではなく、手元に届けられた『一枚の報告書』に向けられていた。
「……だが、人間は嘘をついても、肉体(データ)は嘘をつかない」
山田相姦は、男たちの調書と、直近で行われたメディカルチェック(身体検査)の報告書を並べ、そこにある『強烈な矛盾』に目を細めた。
「調べによれば、この男たちはギャンブル等で多額の借金を抱え、社会からドロップアウトした『極度の貧困層』だ。その日食べるものにも困窮していたはずの人間だ。……それにも関わらず、なぜだ?」
山田の指先が、報告書のカルテをトントンと叩く。
「この2人の腹部には、極めて高度な最新医療による『腎臓摘出』の手術痕が残っている。それも、裏医者の雑な仕事ではない。超一流の執刀医による完璧なオペの痕だ」
「……た、確かに。臓器を売って借金を返したのでしょうか?」
「それだけではない。彼らの血液からは、富裕層しか手を出せないような『超高価な最新の免疫抑制剤』の成分が検出されているのだぞ」
山田相姦の言葉に、部下がハッと息を呑む。
「……金のない末端の狂信者が、なぜ数千万単位の高度な医療ケアを継続的に受けている? まるで、その肉体を『大事に管理・保存』されているように」
山田の脳内で、バラバラだったピースが最悪の形を持って繋がり始める。
狂信的な洗脳。借金に喘ぐ貧困層。最新医療による臓器摘出。そして、何十万人という観衆を集めた巨大フェスでの『サブリミナル洗脳』による大規模な勧誘。
「……いや、逆だ」
山田相姦が、地獄の底を覗き込んだような低い声で呟いた。
「HOLという宗教は……ただの信仰団体などではない。奴らは借金で首が回らない者や、身寄りのない孤独な弱者を言葉巧みに洗脳し、己の臓器を喜んで差し出す『臓器のドナー(生きた家畜)』として管理・飼育しているのだ」
フェスでのサブリミナル洗脳。
それも、単なる信者の獲得などという生易しい目的ではなかったのだ。
「あれは……新鮮な臓器の仕入れを目的とした、『大規模な人間狩り』の罠だったということか……ッ!」
背筋が凍るような最悪の推論。
冷たいカネの事件の背後に潜んでいた、さらなる漆黒の闇。
HOLとは一体、どれほど巨大で恐ろしい組織なのか。
「……スレイ。どうやらお前たちには、もう少しこの厄介な国のために働いてもらう必要がありそうだ」
山田相姦は、マジックミラーの向こうで不気味に笑い続ける狂信者たちを睨みつけながら、静かに、そして確かな殺意を込めてそう呟いた。
真夏の熱気の中で芽吹いた、狂気と臓器売買の影。
裏の掃除屋たちを待ち受ける次なる戦いは、すでにすぐそこまで迫っていた――。
これにて冷たい番号編、お掃除完了です!
褒美バカンス(水着回)!
圧倒的な胸の格差社会に絶望するリルちゃんでした。
ですが……最後に明かされた、フェスで暗躍していたカルト宗教「HOL」の本当の恐ろしさ。この国に蠢く闇は、想像以上に深く、冷酷なようです。
【お知らせと次回予告】
『境界線PCU~多様性ワールドへようこそ~6月は毎日20時更新』
6月は毎日20時に最新話を公開していきます。明日の20時もぜひお待ちしております!
▼イラスト・設定資料について▼
劇中の挿絵や、キャラクターの詳細な設定資料をPixivにて公開しています。
【Pixiv】https://www.pixiv.net/users/124951524
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