境界線PCU~多様性ワールドへようこそ~   作:トナカイ粉砕

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いつもお読みいただきありがとうございます。
第15話、中編です!

深夜の「ダイバーシティ美術館」へと潜入したPCUの面々。
しかし、そこに飾られていた名画の数々は、マリアとモニカの頭を抱えさせるほど強烈なラインナップでした……。
気を取り直して調査を進める彼らは、チート頭脳と圧倒的なプロファイリングによって、怪盗が残した「わずか12グラムの誤差」と、その鮮やかな手口の謎に迫ります!


本当に盗まれたもの編(中編)

夜の上野公園。

 

「しっかし、あの世界的歌姫のシルビア姉ちゃんが、スレイの生き別れた実のお姉ちゃんだったとはマジで驚いた~!」

「ほんとだよ~! 実のお姉ちゃんなのに、スレイに思いっきり手を出そうとするんだもん! わたしっていう正妻がいるのに!」

「ブラコンすぎ~、ばいや~! でもやっぱり、スレイのお姉ちゃんは生きてて大物だったね!」

 

メイコとリルが、他愛もない(しかし内容は極めてアウトな)会話を弾ませているうちに、一行は巨大な『ダイバーシティ美術館』の前へと到着していた。

 

一般客が完全に引いた、深夜の静寂。

萌美総理の超法規的権限によって裏口のロックを解除したスレイたちは、まずは前庭の調査から開始した。

 

「あははっ! 見て見てスレイ! ロダンの『考える人』のマネー!」

入り口の前庭に設置された巨大なブロンズ像を見上げながら、リルが階段に座り込み、顎に手を当てて真剣な顔を作って見せる。

「あー、それ絶対考えてないっしょ。どうせエロいこと考えてる人だ~!」

メイコがケラケラと笑いながら、極彩色のネイルでリルを突っついた。

 

(……静かに潜入しろと言っているだろうが)

スレイが漆黒のサングラスの奥で呆れ返っていると、ブロンズ像の台座の銘板をライトで照らした凄腕プロファイラーのモニカが、スッと目を細めた。

 

「……メイコ。あなたの言う通りかもしれないわ」

「え?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「この彫刻のタイトル、オーギュスト・ロダン作……感じる人になってるわ」

 

「はぁっ!?」

マリアが素っ頓狂な声を上げる。

「ちょっと、いつの間に世界のロダンがそんな最低な名前に改ざんされたのよ!? 『考える人』でしょうが!!」

どうやらこのダイバーシティ美術館は、建物の外側からすでに、総理や大物議員Aの『多様性(シモネタ)』の毒牙に完全に侵されているらしい。

 

「……先が思いやられるな。中に入るぞ」

スレイは深い溜め息を吐きながら、総理から預かったマスターキーで美術館の重厚な扉を開け放った。

 

――深夜の館内。

 

広大なフロアには、歴史的な価値を持つ(はずの)有名な絵画がズラリと飾られている。

夜間警備の監視カメラや赤外線センサーの類は、マリアの事前のハッキングと総理の権限によって、スレイたちが通るルートだけ完全に無効化されていた。だが、問題はそこではない。

 

「……マリア。絵画を壁に吊るしている『フックのデータ』を調べろ」

スレイが漆黒のコートのまま腕を組み、精巧な贋作にすり替えられたという絵画の裏側を鋭く見据える。

 

「えっ? 壁のフック? そんなの記録してるの?」

リルが不思議そうに首を傾げた。監視カメラの映像を消されたなら、すり替えの犯行時刻などわかるはずがない。

 

「あー、記録してるよ。美術品を守るための『免震システム』だよね」

メイコが、花弁大学の講義で得たのか、それとも持ち前のチート頭脳によるものか、極めて専門的なセキュリティの知識を口にした。

「絵画を吊るしてるワイヤーやフックには、地震の揺れを逃がすためのセンサーがついてて、常に『重さ(張力)』のデータがサーバーに送られてるんだよ。つまり、本物を外して偽物を掛けた瞬間の『ミリ単位の重量変化のズレ』を見れば、犯行の正確な時刻が割り出せるっしょ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……その通りだ。よく知っているな」

スレイがメイコの意外な賢さに感心しながら、マリアへと視線を促す。

しかし、手元のタブレットで館内の展示データにアクセスしたマリアは、顔を引きつらせ、ひどく言いづらそうに口を開いた。

 

「……スレイ。ごめんなさい、思ったよりもずっと難しい現状かもしれないわ」

 

「どうしたの、マリア? セキュリティが相当厳しい?」

モニカが怪訝そうにマリアの手元を覗き込む。

「……違うわ。データ云々じゃなくて……この美術館の『展示物そのものの問題』よ」

 

マリアが、震える指でフロアに飾られた「すり替えられた名画」のラインナップを指差した。

 

スレイとモニカが、その視線の先にある額縁のタイトルプレートに目を向ける。

そこに飾られていたのは、美術の教科書で誰もが一度は目にしたことのある、超有名な名画の数々――の、はずだった。

 

一つ目。両手を頬に当てて橋の上で叫ぶ、あの有名な男の絵。

エドヴァルド・ムンク作――【 喘ぎ 】。

 

二つ目。夕暮れの農村で、三人の農婦が地面に落ちた麦の穂を拾う絵。

ジャン=フランソワ・ミレー作――【 落穂エロい 】。

 

三つ目。フランス革命を主題とした、女神が民衆を導くあの壮大な絵。

ウジェーヌ・ドラクロワ作――【 民衆を誘惑する痴女の女神 】。

 

「「「…………」」」

 

深夜の美術館に、絶望的な沈黙が降り積もった。

 

「…………マリア。念のために聞くが」

スレイが、ピクピクと引き攣るこめかみを抑えながら、地の底から響くような低い声で尋ねた。

「俺たちが血眼になってドイツのマフィアから奪還しなければならない『国家の威信に関わる本物の名画』というのは……この、頭のおかしいパロディ絵画たちのことなのか?」

 

「……ええ。総理と大物議員Aが、数十億円の国家予算をつぎ込んで『多様性アレンジ』を加えた、世界に一つだけの最高傑作(最低な改悪)らしいわ」

マリアが頭を抱えてしゃがみ込む。

 

「『落穂エロい』って何よ!! 名画に対するリスペクトが微塵もないじゃないの!!」

「そもそも、『民衆を誘惑する痴女』の絵なんて、盗まれたままにしておいた方が絶対に国家の威信は保たれると思うのだけれど……!」

ツッコミ役のマリアとモニカが、絵画の前で交互に悲鳴を上げた。

 

(……ドイツのマフィアも、よくこんなふざけた絵を盗む気になったな)

 

最強の暗殺者は、美術的価値とシモネタの狭間で深く、深く胃を痛めながら、これまでにないほどモチベーションの上がらない奪還作戦のスタートを切るのであった。

 

首相感貞・特別地下室。

ダイバーシティ美術館での現地調査を終え、裏の掃除屋たちは再び重厚な円卓へと戻ってきていた。

 

「はい、胸をもっと寄せてー! エロい顔してー!」

「こんな感じ? 『民衆を誘惑する痴女の女神さま』のポーズ!」

巨大なメインモニターの前では、リルがドレスの胸元を大胆にはだけさせて痴女のポーズをとり、メイコが面白がってスマホのシャッターをパシャパシャと切っている。

 

(……本当に、こいつらには緊張感というものがないな)

スレイは漆黒のサングラスの奥で深々と溜め息を吐きながら、ソファーに重い腰を下ろした。

 

「……確認したわ。モネやルノワールといった『淫象派(いんしょうは)』の作品群など、他の展示エリアは無事のようね」

円卓の奥で、環萌美内閣総理大臣がタブレットをスクロールしながら妖艶に微笑む。

「ああ。『汁(しる)レアリスム』の作品も、すり替えられずに残っているようだ」

大物議員Aも、腕を組みながら重々しく頷いた。

 

(……淫象派に、汁レアリスム。……日本の美術界はもう終わりだ)

スレイ、マリア、モニカの三人組は、国家のトップ二人が真顔で口にする絶望的な美術史(パロディ)の単語に、一斉にこめかみを押さえて胃痛に耐えた。

 

「……コホン。解析の続きをするわよ」

マリアが、気を取り直してメインコンソールを操作し、美術館の免震システムからぶっこ抜いてきた張力(重量)データをモニターに展開する。

「日本は地震の多い国だから、微小な揺れによる数値のブレがあるかもしれないけれど……フィルターをかけてノイズを除去してみるわ」

 

波形がクリアになり、一本の赤い線が浮かび上がる。

「……出たわ。ビンゴよ」

モニカが、その波形の『一瞬の谷』を鋭く指差した。

 

「2週間前の火曜日、午後19時15分。……絵画を吊るしているワイヤーにかかる重量が、『数秒だけ』完全にゼロになっているわ」

 

「あーっ! その間にすり替えたんだ~!」

リルが痴女のポーズのまま、無邪気にぽんっと手を叩く。

「目にも留まらぬ早業! 萌美総理の得意技のすり替えマジックみたいだね!」

「あははっ! もし総理がすり替えてたら、絵画じゃなくて全部エロ同人誌になってるっしょ!」

メイコの鋭い(そして的確すぎる)ツッコミに、スレイたちは一瞬だけ「あり得る」と思ってしまい、背筋に冷たい汗をかいた。

 

「……だが、問題はその直後のデータだ」

スレイがモニターの波形を睨みつけながら、低い声で決定的な違和感を指摘する。

「重量がゼロになった直後……元の絵画の重さに対して、+12グラムだけ数値が増加して固定されている。……盗まれた絵画のデータを一つ一つ調べたが、すべて手口は同様だ」

 

ミリ単位の重量を検知する免震システムが捉えた、わずか12グラムの誤差。

これこそが、壁に飾られているのが本物ではなく『贋作』であるという、動かぬ物理的証拠であった。

 

「……なるほど。見た目やサイズ、キャンバスの質感まで完璧にコピーした精巧な贋作を用意したのだろう」

大物議員Aが、感心したように顎を撫でる。

「しかし、使われている現代の顔料と、本物の歴史的な油絵具の『比重(密度の違い)』までは、どうしてもコピーしきれなかった」

萌美総理が、赤いルージュの唇を歪めて冷徹な笑みを浮かべた。

「その顔料のわずかな質量の差が、+12グラムという誤差を生み出したのね」

 

「……マリア、その時刻の監視カメラの映像はどうなっている?」

スレイの問いに、マリアが即座に映像データを呼び出す。

「午後19時15分……これね」

 

再生された映像。無人のフロアを映していたカメラの視界が、ふっと『数秒だけ』ブラックアウトし、次に映像が復旧した時には、絵画はすでに(+12グラムの)贋作へとすり替わっていた。

 

「……数秒の暗転、か」

スレイが、漆黒のコートの懐で静かに拳を握りしめた。

 

監視カメラの映像をハッキングして数秒間だけループ(あるいは暗転)させ、赤外線センサーの網の目を躱し、元の絵画をフックから外して、同じサイズの贋作を寸分違わず掛け直す。

それを、たったの『数秒』で完了させたのだ。

 

「……まさか、この数秒だけですり替えたのか。しかも、複数枚の絵画を同時に」

モニカが信じられないといった顔で息を呑む。

「ええ。事前のハッキング技術もさることながら、現場で動いた実行犯の『身体能力』と『手際の良さ』は異常よ。ただの泥棒じゃないわ」

マリアも、見えない敵の技術力に戦慄を覚えたように画面を見つめた。

 

(……相当な手練れだな)

スレイはサングラスの奥で、まだ見ぬ怪盗の影を鋭くプロファイリングする。

軍隊やマフィアの力押しではない。完全に計算し尽くされた、芸術的ですらある『完璧な泥棒(ケイパー)』の手口。

 

世界最高峰のセキュリティを誇る(展示物は最低だが)ダイバーシティ美術館を出し抜いた、凄腕の犯罪組織。

最強の暗殺者の静かな闘志に、熱い火が灯ろうとしていた。

 

首相感貞・特別地下室。

モニターに映し出された「+12グラムの誤差」と「数秒のブラックアウト」という事実を前に、スレイが静かに立ち上がった。

 

「……もう一度、上野の美術館に向かいたい」

スレイは円卓の奥に座る萌美総理を真っ直ぐに見据え、言葉を続ける。

「監視カメラが暗転した数秒で、どうやってあの巨大な名画をすり替えたのか。その物理的なトリックを暴かない限り、敵の尻尾は掴めない。……壁から直接絵を外して、裏側を見たい」

 

「なるほどね。でも、いくら私たちが裏の掃除屋だからって、国立美術館の展示物を勝手にワイヤーから下ろすわけにはいかないわね」

マリアがハッキングの限界を口にする。

セキュリティを一時的に切ることはできても、美術品そのものに触れるとなれば、後で表の警察や文化庁を巻き込む大問題になりかねない。

 

「だからこそ、総理、あんたにも来てほしい。さすがに『総理権限』がないと、それはできない」

スレイの要請に、環萌美内閣総理大臣は艶やかな唇にふわりと笑みを浮かべ、優雅に立ち上がった。

「いいわ。私の『多様性』の結晶である名画をコケにした泥棒猫のトリック……暴いてやろうじゃないの」

 

――その日の深夜。

 

再び上野の『ダイバーシティ美術館』へとやってきたスレイたちは、萌美総理の絶対的な超法規的権限(と顔パス)により、堂々と展示フロアの奥へと足を踏み入れていた。

 

「よし、ワイヤーの電子ロックを解除したわ。下ろして」

マリアの合図と共に、スレイが壁に掛けられていた『喘ぎ』(ムンクのパロディ)の贋作を、慎重に壁から下ろして床に置いた。

 

「……モニカ。どうだ」

「ええ。裏を見せてほしいわ」

モニカが、ペンライトを片手に絵画の裏側――キャンバスの木枠や、フックの周辺を丹念に調べ始める。

 

「あっ、ねえねえ! なんかここ、ビニール? 薄いシール? みたいなのが端っこにちょっとだけ残ってついてるよ!」

リルが、木枠の隅に付着していた透明な極薄のフィルムの欠片を指差した。

 

「はぁ? なにそれ。絵画にコンドームなんているの?」

すかさず、メイコが極彩色のネイルを光らせながら、この場に一切そぐわない最低のシモネタ(多様性)をぶっ込んでくる。

 

「……メイコ、真面目にやりなさい。でも……」

マリアが呆れ顔でメイコをたしなめつつ、リルの見つけたフィルムの痕跡に顔を近づけた。

「確かに、額縁の裏側、上部のあたりに『強く擦ったような痕』が一直線に残っているわね」

 

その事実を聞いた瞬間、萌美総理の怜悧な頭脳が、怪盗の鮮やかな手口を完全に読み解いた。

 

「……なるほどね。よくできたトリックだわ」

総理が感心したように、赤いルージュの唇を歪める。

「犯人は、あらかじめキャンバスの表面に『極薄のフィルムにプリントされた精巧な贋作』を貼り付けておいたのよ。そして、監視カメラが暗転した数秒の間に……そのフィルムだけを壁に残し、本物のキャンバスを下に向かって一気に引っ張り抜いたのね」

 

「……なるほど」

スレイが、漆黒のサングラスの奥で鋭く目を細めた。

「額縁を壁から外す手間すらいらない。下から本物だけを引き抜く。……それなら、確かにあの『数秒』で複数の絵画をすり替えることができるな」

 

「あーっ! 手品で、カードとかお札をシュって一瞬で変えるみたいなやつだ!」

リルが無邪気に手を叩いてはしゃぐ。

「んー? それって、テーブルクロス引きとは違うの? ばいやー」

メイコが小首を傾げる。原理としてはまさにその通りだった。

 

世界最高峰のセキュリティを、極めてアナログかつ大胆な「手品(マジック)」で出し抜いた怪盗。

その手口の鮮やかさにスレイたちが唸っていた、その時だった。

 

『――ガタッ』

 

静まり返った深夜の展示フロアの奥から、微かな物音が響いた。

スレイの研ぎ澄まされた暗殺者の耳が、その音を見逃すはずがない。即座にコートの懐のハンドガンに手を伸ばし、音のした暗がりへと鋭い殺気を放つ。

 

しかし、そこに「逃げる気配」はなかった。

足音を隠すこともなく、普通に歩いて近づいてきたのは……美術館の制服を着た『清掃員』と『セキュリティ(警備員)』の二人組だった。

 

「……おや。こんな深夜に、どうなさいましたか?」

年配の清掃員が、モップを手に不思議そうな顔で尋ねてくる。隣の警備員も、怪訝そうにスレイたちを見つめていた。

 

「……あ、ああ。夜分に迷惑をかけてすまん。総理の特命で、少し絵画の調査をしていてな」

スレイは即座に殺気を消し、ハンドガンから手を離すと、極めて自然な動作で「表の人間」としての愛想笑いを浮かべた。

「ご苦労様です」

スレイはそう言って、近づいてきた清掃員、そして警備員と、労うように順番に握手を交わした。

 

「いえいえ、お気になさらず。我々も夜間見回りですので」

二人のスタッフはぺこりと頭を下げ、そのまま何事もなかったかのようにフロアの奥へと歩き去っていった。

 

(……スレイ?)

モニカだけが、握手を終えたスレイの口元から、微かに冷たい笑みが漏れたのを見逃さなかった。

 

スレイが見逃す訳がない。

ただの美術館の清掃員とセキュリティの手に、長年重火器を扱い続けたプロの傭兵にしかできない射撃熟練者特有の痣、マメ、タコがある訳がないのだ。

 

(……見つけたぞ。泥棒猫ども)

 

最強の暗殺者は、去っていく二人の背中を、漆黒のサングラスの奥から死神のような眼差しで静かに見送るのであった。

 

深夜のダイバーシティ美術館。

 

暗闇へと消えていった清掃員と警備員の背中を見送った直後、凄腕プロファイラーのモニカが、スレイの口元に浮かんだ微かな笑みを見逃さずに囁いた。

「……スレイ?」

「……奴らは一味だ」

 

スレイは漆黒のサングラスの奥で鋭い光を放ちながら、声のトーンを極限まで落として答えた。

「モニカ、清掃員と警備員の手に、長年銃器を扱い続けたプロ特有のマメとタコがあった。間違いなく実行犯(手練れ)だ。……リルとメイコとマリアにもこっそり伝えてくれ。決して悟られるなよ。俺は、総理に報告してくる」

 

モニカが真剣な表情で小さく頷くのを確認すると、スレイは環萌美内閣総理大臣の腕を無言で引き、監視カメラの死角となっている、人気のない巨大なオブジェの裏側へと連れ込んだ。

 

「……あら、スレイ。こんな暗がりに呼び出して、どうしたの?」

「さっきの清掃員とセキュリティが、泥棒猫の正体だ」

 

スレイは周囲の気配を警戒しながら、奴らの指先にあった『射撃熟練者の痕跡』について手短に報告した。

それを聞いた萌美総理は、妖艶な笑みを深めて、赤いルージュの唇に指を当てた。

 

「……なるほどね。清掃員と警備員という『美術館の内部スタッフ』に扮して潜り込んでいたのね。それなら、監視カメラの配置も死角も熟知していて当然だわ。……片方が監視カメラの視界を清掃用具などで隠し、もう片方が絵画の引き抜き(テーブルクロス引き)を行った」

スレイが静かに頷く。

「……息を合わせて、まるでマジックショーのように鮮やかに実行するのね。しかし、まだ謎は残っているわ」

「あぁ。犯人たちは、引き抜いたあの巨大な名画のキャンバスを、一体『どうやって』美術館の外へ運び出したのか……」

 

スレイの疑問に、総理は一瞬だけ目を伏せ、美術館の構造と厳重な警備システムを脳内で高速処理した。

そして。

 

「…………なるほど……わかったわ。そういうことね」

萌美総理はくるりと踵をかえし、真剣な表情のまま、そしてあやしく艶やかに微笑んだ。

 

――数分後。美術館のロビー。

 

オブジェの裏から戻ってきたスレイと総理は、待機していたマリアたちと合流した。

モニカからすでに「清掃員と警備員がクロ」という情報を共有されていたメンバーたちは、微かに緊張の糸を張り詰めている。

 

「……状況を整理するわ」

総理が凛とした声でチームの面々を見回す。

「少なくとも、この美術館の中にはネズミ(実行犯)が『2匹』潜んでいる。そして、奴らが引き抜いた本物の絵画がどこにあるのかは、今のところ不明よ」

 

「……逃げられないように、今のうちにあの二人を拘束しますか?」

スレイがコートの懐のハンドガンに手をかけて問う。

 

「いいえ。泳がせなさい」

総理が即座に制止した。

「実行犯を捕まえても、絵の隠し場所がわからなければ国家の威信は取り戻せないわ。それに、私の推理が正しければ……絵はまだ、『この敷地内』にあるはずよ」

総理の不敵な笑みに、マリアやモニカがハッとして息を呑む。

 

「……今日はここまでね。山田相姦の部下を美術館の周囲に極秘で待機させなさい。ネズミの出入りを完全に監視するのよ。……私たちは一度、首相感貞に戻って作戦を練り直すわ」

 

萌美総理の完璧な指揮により、裏の掃除屋たちは次なる「奪還作戦」の準備を進めるべく、夜の上野公園を後にするのであった。




中編、お読みいただきありがとうございました。
誰もが知る歴史的名画を、ここまで躊躇なくパロディ化(改悪)できるのは、間違いなくあの総理と大物議員Aの仕業ですね。

最新のセキュリティを「数秒」で出し抜いた、怪盗の驚くべきアナログなトリック。しかし、スレイの暗殺者としての目は、すでに暗闇の中に潜む「ネズミ」の正体を捉えていました。
いよいよ明日後編(20時更新)の解決編では、萌美総理の直接指揮のもと、PCUが仕掛ける痛快な罠と、スレイの圧倒的なバトルシーンをお届けします。ぜひ見届けに来てください!
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