境界線PCU~多様性ワールドへようこそ~   作:トナカイ粉砕

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いつもお読みいただきありがとうございます。
第17話、中編です!

迎えた横田基地での演説当日。堂々たるスピーチを披露する総理の裏側で、厳重な警備の死角を突いて潜り込んだ暗殺者たちと、PCUとの息詰まる攻防が始まります。
リルやメイコたちの機転と、スレイの圧倒的な実力による「お掃除」をお楽しみください。しかし、追い詰められた敵が選んだのは、最悪の「力技」で……!?


ワールドイズノットイナフ編(中編)

一夜明け、横田基地での演説当日。

抜けるような春の青空の下、巨大な特設ステージの周囲は、異様なまでの熱気と、そして完璧な静寂に包まれていた。

 

会場を警備する日米の精鋭隊員たち。

彼らの配置、そして一糸乱れぬ息の合った動きは、まさに芸術の域に達していた。前日の環萌美総理による鬼軍曹(ハートマン)の直接指導を受けた彼らの顔には、今なお微かな恍惚が張り付いており、一人の例外もなく「美しき総理のために死ねる」という狂戦士のオーラを放っている。

 

これほどまでに士気が高く、鉄壁の防衛網を敷いた軍隊は、世界中探してもどこにもいないだろう。

だからこそ、チャイナマフィア『紅龍』は、正面からの武力衝突を避け、暗殺という裏の手段で攻め入るしかない。

 

やがて、日米の高官や多くのメディアが見守る中、環萌美総理がゆっくりとステージの演台に立った。

スレイはステージの上手に、リルは下手に、それぞれ警備スタッフのフリをして待機している。

 

「……本日、この歴史的な基地に立てることを、誇りに思います」

 

萌美総理が口を開く。

エルフとゴブリンを語る変態オタクの顔も、隊員をウジ虫呼ばわりする鬼軍曹の顔も、完全に封印されている。

ただひたすらに凛と胸を張り、国家のトップとして堂々と語りかける、完璧な名宰相の姿がそこにあった。

 

「日米の同盟は、かつてなく強固なものです。そして、我々が直面しているチャイナリスク……アジアの安全保障と、裏社会による経済の不当な搾取について、日本は決して妥協しません」

 

国民にも、そして世界にも理解しやすい単語を的確に選び、誰の用意した原稿でもない『自分の言葉』で力強くメッセージを伝えていく。その見事な演説に、会場は静まり返り、誰もが彼女のカリスマ性に引き込まれていた。

 

(……見事なものね。昨日のアレが嘘みたいだわ)

基地の管制室をハッキングし、大量のモニターの前で監視網を敷いていたマリアも、思わず感心したように息を吐く。

 

「……メイコ。おそらく敵が攻撃してくるとしたら、この後よ。注意して」

モニカがインカム越しに通信する。

『うん、わかった。大体場所も予想つくしね。アタシの目でしっかり見ておくっしょ!』

管制室の別のモニター前で目を凝らすメイコが、力強く返事をした。

 

そして、萌美総理の演説も後半に入ろうとしている。その瞬間だった。

 

「——ッ!」

マリアの目の前にあるモニターの一つ……ステージのサーモグラフィーと赤外線センサーの数値(波形)に、ごくわずかな『温度のブレ』の動きあり。

 

「リル!! ステージ下手よ! 動きあり!!」

マリアがインカム越しに鋭く叫ぶ。

 

「了解っ!!」

マリアの指示と同時。

ステージの袖に控えていたリルが、小柄な身体を弾丸のように弾ませた。

 

『大型スピーカーの中だね~、たぶん!』

メイコの視覚による報告が重なる。

「ええ。大方の予想通り、鉄壁の警備をすり抜けて内部に入り込むには、『事前のステージセットの中』に潜むしかないでしょうね」

モニカが敵の潜伏ルートを完全にプロファイリングしていた。

 

 

――時計の針を少し戻し、前日の深夜2時。

 

在日米軍・横田基地の特別VIP宿泊棟は、水を打ったような静寂に包まれていた。

PCUのメンバーたちは、一部屋に集まって最終的な作戦を練っていた。

 

「おそらく、マフィアが正面から入り込むことは不可能だ」

スレイが、テーブルに広げた基地の見取り図を指す。

「あれだけしっかりしたセキュリティだもんね、難しいよ。ドMのバーサーカーさんたちもいるし!」

リルが頷く。

「そうなると……機材の荷物の中に隠れて運ばれるか、またはすでに『ステージセット内』に潜伏しているか、ね」

モニカが推測を立てる。

「えーっ? あんな狭いところに何時間も隠れてられるの?」

メイコが驚く。

 

「……中国雑技団とか、体操の選手みたいな暗殺者だね!」

リルがぽんっと手を叩いた。

「ええ、それ以外にはこの鉄壁の基地内に忍び込む方法がないわ」

マリアも同意する。

 

つまり、敵の暗殺者は、すでに演説ステージのセット内のどこかに隠れているということだ。

昼間は、必ず総理の近くにはSPと軍のセキュリティが張り付いている。

だからこそ、彼らが狙ってくるのは……演説の最中だ。総理が一人で演台に立ち、SPたちがカメラの枠に入らないように離れるその瞬間。総理の周りにポッカリと空洞(死角)ができる、そこを狙ってくるはずだ。

 

「ここのセキュリティの顔と配置は、全部アタシの目で覚えたよ!」

メイコが頼もしく胸を張る。

「おそらく、ステージの組み立ての時にネズミがすでに入り込んでいるはずよ」

モニカが静かに言う。

 

「……よし。どうせ見つけても別の手で来るだけだ。こちらが気づかないフリをして泳がせてあげましょう」

マリアが冷酷な笑みを浮かべる。

「でも、ただ待つだけじゃつまんないし、何か『罠』をはっておいたほうが面白いよ!」

リルが、PCUとしての血を疼かせて悪戯っぽく笑った。

 

敵の暗殺者は、決して屈強なタイプではない。

極限まで体を折りたたむ軟体で、長時間の断食に耐え、体温と呼吸を極限の死の淵にまで抑えられる『潜伏特化』のタイプのはずだ。

 

PCUの面々は、その推測の元に、敵が潜むであろうステージ下手の巨大な「特注の木製大型スピーカー」の中へと、事前にある罠を仕掛けていたのである。

 

 

――そして、現在。

 

下手の大型スピーカー。その硬いネットの隙間から、ステージの袖にいる総理を狙って、小柄な女暗殺者が音もなく這い出ようとする……!

しかし。出ようとしても出られない。何かが体にべったりとへばりついて、完全に身動きが取れなくなる。

 

「……!? なんだこれは!? 動けない!」

女暗殺者が、中国語の訛り混じりにパニックの声を上げる。

無理もない。なぜなら、PCUの面々が深夜の間に、スピーカーの内部に超強力なとりもちを大量に塗布しておいたのだ。

 

「暗殺者さーん、ニーハオ! ローションじゃなくて、とりもちでごめんね!」

リルが、満面の笑みでスピーカーの網目に顔を近づける。

そして、手にしたスタンガンの出力をMAXにして、身動きの取れない女暗殺者の鼻面に押し当てた。

「はーい! バチバチでーす!」

 

『バチバチバチバチィッ!!!』

「ギャアアアアアアアッ!!!」

 

高圧電流が体を駆け巡り、下手に潜んでいた暗殺者は白目を剥いて完全に気絶した。

 

「……上手(かみて)のほうのスピーカーにも、確実に動きがあるはずよ! スレイ、注意して!」

マリアの鋭い声がインカムに響く。

「でも、本命はたぶん別のはず。アタシの目で見てるけど、ステージ周辺には登録されていない顔(警備員に化けた暗殺者)は一人もいないよ」

メイコが全体の監視を続ける。

「……ええ。とりあえず、部隊にも連絡するわね。そろそろ『始まった』って」

モニカが、日米の指揮官に合図を送る。

 

一方、上手(かみて)に控えていたスレイは、同じく巨大なスピーカーのネットの横に立っていた。

中からは、息を殺しているはずの暗殺者のかすかな『焦り』の気配が感じ取れる。

 

「……おい、ネズミ。聞いているか」

スレイが、漆黒のサングラスの奥で冷たく言い放つ。

「お前がいるスピーカーのネット周辺は、とりもちだらけだ。自力では絶対に出られないぞ」

 

中には、小柄で異様に体が柔らかい男の暗殺者が、蜘蛛のように丸まって待機していた。

「ぐぬぬぬ……ッ!」

 

「……とはいえ。これを掃除するために俺の手が汚れるのは困る」

スレイは無表情のまま、サイレンサー(消音器)を装着したハンドガンを構え、スピーカーのネット越しに銃口を押し当てた。

「だから、そのままそこで眠っていろ」

 

【挿絵表示】

 

『プスッ! プスッ! プスッ!』

スレイが、致命傷にならないように配慮しつつ、両手両足の関節を正確に撃ち抜く。

「グワァァァァァッ!!」

 

「……こちらスレイ、リル。大型スピーカー内のネズミは、左右ともお掃除完了だ」

二人の死神が、あっけなく前座の排除を報告した。

 

その報告と同時に、モニカから日米の警備部隊にも連絡がいった。

暗殺者が動き始めたことを察知し、部隊も一斉に動き始め、基地内の空気が一気に物々しいものへと変わる。

 

萌美総理は、あらかじめ決めていた手順通りに演説を途中で切り上げ、既にSPたちに守られてステージから退避していた。

そして、その避難の動線上にメイコが合流し、総理を安全なマリアたちのいる管制室へと誘導し終えていた。

 

「ふぅ~、やっぱり演説中にきたわね~。助かったわ、メイコちゃん、ありがとう」

総理が優雅に汗を拭う。

「上手と下手のネズミは掃除完了! でも、絶対にどこかに本命がいるはずよ!」

マリアがモニターを睨みつける。

「恍惚部隊はステージに注意して!」

モニカが、インカムで警備側へ警告を発した。

 

次の瞬間。

総理が先ほどまで立っていた演台の左右、ステージの床下から、目眩しの巨大な煙幕弾が炸裂した。

 

「な、なんだ!?」

「煙だ!! 総理を守れェェェッ!!」

白昼のステージを瞬く間に覆い尽くす、分厚い白煙。

恍惚の狂戦士たちが血走った目で一斉に銃を構え、会場は悲鳴と怒号に包まれて大パニック状態に陥った。

 

しかし。視界が完全に奪われたその白い闇の中で、ただ一人、一切の焦りもなく動く死神がいた。

(……見え透いた陽動だ)

スレイは、漆黒のコートを翻し、煙幕の発生源であるステージの床下へと真っ直ぐに向かった。

チャイナマフィアの狙いは、煙でSPの視界を奪い、その混乱に乗じて床下から飛び出し、総理の命を奪うことだったのだ。

 

「……スレイ! 総理の安全は確保したわ! そっちは!?」

マリアが通信を入れる。

「煙まみれになって見えないけど、大体場所はわかるよ!」

リルがスレイの背中を追う。

「おそらく、この煙幕が陽動にして本命のつもりだったんでしょうね」

モニカが言う。

 

スレイが床下に近づくと、演台の左右の床板がガタガタッと音を立てて、誰かが中から出ようとしているのがわかった。

 

「はーい! ステージの下から出たいんだろうけど……昨夜、表側から大量の釘で補強しておきましたー!」

リルの言う通り、何重にも釘を打ち付けて補強されているため、中から出ようにも出られないのだ。軟体暗殺者の最大の弱点である。

 

「リル。床板に穴をあける。そこからドローンを突っ込め!」

スレイがアサルトライフルで床板を乱射し、直径20cmほどの穴を開ける。

「ほいほーい!」

リルが手元のタブレットを操作し、ミニドローンを数機、その穴から床下空間へと突入させる。

そして、ドローンに積まれていた超強力な催涙ガスを、狭いステージの床下に限界までばらまいた。

 

「うわああッ! 目がぁぁぁ!」

「ゴホッ! ゲホッ! うぎゃー!」

ステージの下から、男たちの情けない悲鳴が聞こえてきた。

 

「……動かなくなったかしらね。スピーカーもステージも、もう破壊していいわよ」

管制室にいる萌美総理の許可が出たため、恍惚部隊の軍人たちがハンマーや斧でスピーカーとステージを破壊し始めた。

中からは、暗殺者とは思えないほど鼻水と涙で顔をぐしゃぐしゃにした、情けない男たちが合計5人、芋蔓式に引きずり出された。

 

「……予想通り、正面突破の銃撃戦じゃなくて、雑技団タイプの潜伏型ね」

モニカが呆れたように言う。

 

しかし。スレイは未だ晴れない煙幕の中で、サングラスの奥の瞳を鋭く細め、周囲の気配を極限まで探っていた。

「……おそらく、ステージ周辺のネズミの掃除はこれで完了だ。だが……これで終わりじゃない。……追い詰められた奴らは、自暴自棄になってくるぞ」

 

「裏がダメなら、表から力技で来る敵さんだね!」

リルがスタンガンを構え直す。

「……マズいっしょ。何か、外からすごい音が聞こえるよ」

メイコがモニターの切り替えを急ぐ。

「奴ら……まさか、力技(正面突破)で来るんじゃないの!?」

マリアの言葉の直後。

 

本命であった裏の刺客が沈黙した、その数秒後だった。

 

『ガシャァァァァンッ!!!!』

 

横田基地の西側の巨大なフェンスが、装甲を施した大型ダンプカーによって派手に突き破られた。

暗殺の失敗を悟ったチャイナマフィア『紅龍』の別働隊が、完全に捨て身の力技へとシフトし、何台もの武装車両と共に、怒涛の勢いで基地内へとなだれ込んできたのだ。

 

「全隊員に告ぐ!! 絶対防衛陣形を展開!! ネズミ一匹近づけるな!!」

管制室から、萌美総理が基地の通信網をジャックし、全隊員に向けて鋭く怒号を飛ばす。

 

『「「Sir, Yes Sirォォォォォッ!!」」』

 

「フザけるな!! タマ落としたか!!!」

その、美しくも苛烈な通信を聞いた瞬間。

総理の周囲を取り囲んでいた日米の精鋭隊員たちの目に、血走った異様な狂気が宿った。

 

「我らの! 美しき総理に!! 汚い手を触れさせるかァァァッ!!」

「俺たちはウジ虫だ!! 偉大なる総理の盾となる、無敵のクソだァァァッ!!」

 

「ウジ虫以下の下等生物! 両生類のクソかかき集めた価値しかない!! 私のために死ね!!」

総理のドS全開の煽りが、さらに通信網を駆け巡る。

 

彼らは、総理に罵倒され、そして総理を守るという至上の喜びに打ち震え、文字通り肉の壁となって一糸乱れぬ完璧な防衛網を構築した。

彼らの瞳は完全にイッており、その圧倒的な恍惚のオーラを前にしては、いかなるテロリストも気圧されて一歩も動けないだろう。

 

「暗殺がダメなら、全員殺せェ!! あの女総理の首をよこせェェェ!!」

チャイナマフィアの幹部が怒号を上げる。

武装した数百人規模の構成員たちが、アサルトライフルを乱射しながらステージの方へと殺到してくる。

その圧倒的な数の暴力。

普通の警察やSPならば、確実に蹂躙され、大惨事になっていたはずの光景だ。

 

 

——しかし。

彼らがなだれ込んだ先に待ち構えていたのは、普通の警察などではなかった。

 

「……なんだ、アイツら……?」

マフィアの先陣を切っていた男が、思わず足を止めて呆然と呟く。

 

チャイナマフィアの軍勢の前に立ち塞がっていたのは。

美しい環萌美総理を守るため、瞳孔を開き、口の端から泡を吹き、アサルトライフルを構えながら深い恍惚の笑みを浮かべる、日米の精鋭隊員たち(狂戦士)だった。

 

「……我らが総理を狙うウジ虫ども」

「美しき総理の靴でも舐めて死ね……ッ!!」

「「「ヒャッハァァァァァァァッ!!!!」」」

 

「ヒィッ……!? な、なんだコイツら、目が完全にイッてるぞ!? ぎゃぁぁぁぁぁっ!!」

 

そこから先は、ただの地獄だった。

圧倒的なモチベーション(性癖の解放)と、世界最高峰の軍事訓練を受けた日米の狂戦士たちの前では、裏社会のチャイナマフィアなど、文字通りただの雑魚の群れでしかなかった。

 

数に勝るマフィアの構成員たちは、狂気すら帯びた隊員たちの完璧な連携と圧倒的な暴力の前に、一瞬で制圧され、文字通り完膚なきまでに蹂躙されていく。

 

「すごーい! あの数のマフィアが、どんどんやられていく!」

リルが、手出しする隙もなく目を輝かせる。

(……日米の精鋭部隊。強い部隊だとは思っていたが、ここまで強いのか……!)

スレイも、アサルトライフルを下ろして呆然と戦場を見つめるしかなかった。

 

かくして。

アジア最大の裏社会『紅龍』による国家元首暗殺計画は、最強の暗殺者の研ぎ澄まされた直感(事前掃除)と、麗しき変態総理が生み出した『恍惚の防壁』によって、完全なる敗北(壊滅)を迎えたのであった。




中編、お読みいただきありがとうございました。
正面突破を試みた巨大マフィアを待ち受けていたのは、世界最強の武力と「純度100%の性癖」で完全統率された狂戦士たちでした。あの光景は一生のトラウマになりそうですね……。

とにもかくにも暗殺計画を完膚なきまでに叩き潰したPCU。
しかし、彼らの任務はこれで終わりではありません。
いよいよ明日は金曜日! 後編(20時更新)では、さらにスケールアップした「世界的な大舞台」での警護へと向かいます。そこには、思いもよらない「同盟国の重鎮」が待ち受けていて……!? 明日の夜も見届けに来てください!
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