境界線PCU~多様性ワールドへようこそ~   作:トナカイ粉砕

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いつもお読みいただきありがとうございます。
本日から新章、第19話「聞こえなかった産声編」がスタートします!

賑やかでカオスな日常を謳歌するPCUの面々のもとへ、またしても国家の中枢から新たな任務が舞い込みます。
今回のターゲットは、戸籍を持たない「身元不明の女性たち」を巡る不可解な事件。社会のシステムからこぼれ落ちた命を弄ぶ、底知れない闇の正体とは……!?


境界線019
聞こえなかった産声編(前編)


 

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「うふふ……むにゃむにゃ……」

 

新宿、PCUの極秘アジト。

昼下がりのリビングで、金髪の少女リルがソファに寝転がりながら、顔をだらしなく高揚させていた。

 

「……スレイったら、いいんだよ。我慢しないで……」

夢の中で、上目遣いで漆黒の死神を見上げるリル。スレイはいつものように無表情だ。

「これで……挟んであげるね……えへへ」

自分の胸元を見下ろし、そこにある『はずのないもの』を見て、ひどく満足げな顔をしている。

 

【挿絵表示】

 

「……リル! リル! 起きなさい!」

マリアが、呆れ顔でリルの肩を激しく揺さぶる。

「……むにゃむにゃ……マリアのと同じくらいあるぞー……」

「何が私と同じくらいなのよ! 起きて、行くわよ!」

 

「おそらく、とても卑猥な夢でも見ているんじゃないかしら」

モニカが優雅にコーヒーを飲みながら分析する。

「昨夜、遅くまでエロゲ……じゃなくて、普通のゲームでもしてたんじゃないの〜?」

メイコが極彩色のネイルでスマホをいじりながら笑う。

 

「はっ!」

激しく揺さぶられ、リルがようやく目を覚ました。

「ね、寝てた! ……あれれ???」

リルは勢いよく自分の胸元に両手を当てる。

「……おっぱいがない!! 夢だったの!?」

 

「……どんな夢を見ていたのよ。そろそろ任務の準備しなさい」

マリアが深い溜め息を吐く。

「夢の中では、マリアと同じぐらいの巨乳だったのにー!!」

リルがソファの上でジタバタと暴れる。

「リル、諦めなさい……」

モニカが哀れみの目を向ける。

「うまれつきのものは仕方ないよー、リルたそ。それに、小ぶりなほうが動きやすくて暗殺には向いてるっしょ!」

メイコが謎のフォローを入れる。

「がーん! シクシク……」

 

スレイは、そんな騒がしい女子たちのやり取りを完全に無視し、無表情のまま安物のタバコをふかしている。

 

生まれながらの体型や素質は、どう足掻いても変えられないものがある。

だが、それがその人間の魅力のすべてではない。

……というような高尚な慰めを、スレイが口にするはずもなく、一行はただ黙々と裏の仕事の準備を整えるのであった。

 

 

――数時間後。

 

「今日はあっさりと終わったわね」

任務を終えてアジトに戻り、モニカがコートを脱ぎながら言った。

「ええ。ただのしょぼい反社だったわね。まぁ、怪我もなく早く終わってよかったわ」

マリアがPCを立ち上げながら同意する。

 

「むー! 私の幻のおっぱいが〜……」

リルはまだ夢の余韻を引きずり、自分の胸を揉みしだきながら唇を尖らせている。

「リルたそ、とりあえず牛乳飲もう! まだ成長期ならワンチャン可能性あるって!」

メイコが冷蔵庫から牛乳パックを取り出し、リルのコップになみなみと注いだ。

 

 

夜。

PCUの面々が、平和に夕食を食べている最中だった。

アジトの極秘回線から、首相感貞の重々しい着信音が鳴り響いた。

 

『――おお、メイコ! 元気でやっているかね〜?』

モニターに映し出されたのは、日本の大物政治家であり、メイコの父親でもある大物議員Aの暑苦しい笑顔だった。

「あー、パパ! さっき萌美総理から届いた宍道湖のしじみセットと高級ノドグロ、美味しく食べたよ〜! 今日はアジトに泊まるね〜」

メイコが、国家のトップからの(おそらく裏金で買われた)高級食材の差し入れにお礼を言う。

 

『そうかそうか、それは何よりだ。……実は、明日でいいので全員で感貞まで来てほしいのだ。君たちに、新たな依頼があるのだよ』

父親の顔から、政治家の顔へと切り替わる大物議員A。

 

「わかりました。明日お伺いします」

マリアが冷徹なオペレーターの顔に戻り、通信を終える。

 

「……やっぱり、暇にはならないわね」

モニカが、食後のワイングラスを傾ける。

「ちょっと忙しいくらいが、ウチらには丁度いいって言うしね!」

リルが、元気よく牛乳を一気飲みして立ち上がった。

 

スレイは無言で深く頷き、灰皿にタバコの火を押し消した。

次なる闇の気配に向け、最強の暗殺者たちの束の間の休息は終わりを告げようとしていた。

 

 

――翌日。首相感貞・極秘地下作戦室。

 

「……実は、女性の身元不明死体が連続して発見されるという事件が発生しているのよ」

円卓の奥で、環萌美総理が艶やかな顔を曇らせて言った。

 

「連続殺人? 何かニュースとかになってそうだけど、初耳っしょ」

メイコが首を傾げる。

「それが、実は世間には公にしていないのだ」

大物議員Aが、葉巻を手に重苦しい声で補足する。

「なぜなら、その被害者の女性たちというのが……『戸籍を持たない』人間なのだよ」

 

「……私もスレイも、海外の孤児院育ちで戸籍なんてあってないようなものだけど。そういう、社会のシステムからこぼれ落ちた人がターゲットということ?」

モニカが、自身の生い立ちを重ね合わせながらプロファイラーの目で問う。

「どういう経緯でターゲットになったのか、まったく不明なのよ」

萌美総理が深い溜め息を吐く。

 

「戸籍がなく、身元確認がとれない。だからこそ、表沙汰にして公の事件として大々的に捜査をすることができないのだ。警察の裏の顔である山田相姦部隊ですら、手を出しづらい状況にある」

大物議員Aが真剣な表情で補足を入れる。

「……そこで、俺たち(裏の掃除屋)の出番ということだな」

スレイが、漆黒のサングラスの奥で鋭い光を放った。

 

「ええ。その通りよ。期待しているわ」

萌美総理がいつもの妖しい笑顔に戻る。

「でも、被害者の身元がわからないのに、どうやって悪い人に辿り着けばいいんだろう?」

リルが不思議そうに尋ねる。

 

「山田相姦には、すでに鑑識の資料を一式、マリア君の端末に送るよう指示しておいた」

大物議員Aが頷く。

「ええ、受信を確認しました。一旦アジトに戻って、詳細な内容を洗い出してみます」

マリアがタブレットを閉じる。

 

「おそらく、その手口から犯人は同一人物(あるいは同一組織)と考えられるわ。ただの快楽殺人のサイコパスか、それとも組織ぐるみの闇のビジネスか……突き止めてちょうだい」

萌美総理が冷たく言い放ち、ふと、いつものような優しい(?)笑顔に戻った。

「そういえば、あなたたちのために特別なお弁当を用意したわ。持ち帰って食べてね♡」

 

 

――昼。新宿、極秘アジト。

 

「はーい! お味噌汁だけパパッと作ったよ! 総理に貰ったお弁当、みんなで食べよー!」

リルが、エプロン姿で元気よく味噌汁の椀を配る。

「流石リルたそ〜! いい匂い! いただきまーす!」

メイコが、豪華な重箱のような弁当のフタを開ける。

 

「……ちょっと待ちなさい」

マリアが、弁当の掛け紙を見て顔を引き攣らせた。

 

【挿絵表示】

 

「45451919色(シコシコイクイク)弁当って……何なのいったい!!」

「……何色になるのよ、いったい! っていうか、おかずの種類と見た目が明らかにおかしいでしょ!」

モニカも、重箱の中に詰まった、何かを強烈に暗喩しているような配置の奇妙なおかずに絶句する。

 

(……いったい何のオカズかわからんが、味はいい)

スレイは無表情のまま、ちくわに白いマヨネーズが詰められた謎のおかずを黙々と咀嚼していた。

 

そんな、最悪なネーミングの弁当をつつきながら、一行は事件の分析を始める。

 

「……現在わかっている被害者は2名。でも、どちらも若い女性だし、快楽殺人のサイコパスの線かなぁ?」

メイコが唐揚げを頬張りながら言う。

「はーい! 身元がわからないなら、まず遺体の付着物から追うしかないと思います!」

リルが真っ当な推理を口にする。

 

「ええ。山田相姦からの資料を見る限り、非常に不可解(不思議)な遺体ね」

モニカが、タブレットに映る鑑識結果を指差す。

「足の裏や、死体を包んでいたシートからは、屋外の土やカビ・バクテリアが検出されているわ。これは、遺体が捨てられた場所(あるいは運ばれた経路)のものね」

 

「しかし……不可解なのはここよ」

マリアが、さらに詳細なデータを拡大する。

「遺体の皮膚表面から、人間の皮膚に必ず存在するはずの日常の生活菌(常在菌)が一切検出されていない。……代わりに、エチレンオキシドなどの滅菌ガスに長時間曝露(ばくろ)されていた痕跡があるわ」

 

「体が無菌のきれーいな状態で、泥水みたいな汚いところを歩いたってこと?」

リルが首を傾げる。

「いや、歩かされた(あるいは運ばれた)のは死んだ後か、死の直前よ。……エチレンオキシドってことは、それ、医療用の滅菌ガスとかじゃないの?」

メイコの鋭い指摘に、全員の視線が集中する。

 

「そうね、それならば説明がつくわ。遺体が捨てられる前、彼女たちは完全に滅菌された特殊な環境(医療用の無菌室など)に長期間滞在していた。……だから、体のほうは無菌状態だったというわけね」

モニカのプロファイリングが、一つの答えを導き出す。

 

「……闇医者か何かか。しかし、資料を見る限り、臓器を抜き取られた形跡はない」

スレイが、解剖記録を見て低い声を出す。

「快楽殺人のサイコパスの場合、被害者の体の一部をトロフィーとして持ち去る傾向が強いわ。でも、二人とも欠損はない。……ここは、闇医者(ビジネス)の線が強いかもしれないわね」

マリアが分析する。

 

「うーん……とったのは臓器じゃないんじゃない?」

リルが、弁当の明太子を箸でつつきながら、ふと何気ない言葉をこぼした。

「臓器じゃなくて……例えば、『赤ちゃん』とか」

 

「…………ッ!!」

 

リルのその一言に、アジトの空気が一瞬で凍りついた。

 

「……代理出産、とか。そういう系かな」

メイコが、顔から血の気を引かせて呟く。

 

「……戸籍を持たない、若い女性。無菌室での徹底した管理。臓器の欠損はないが、腹部に執刀の痕(あるいは出産の痕跡)があるのなら……」

モニカが、震える声で推理を繋ぐ。

「しかし、違法な代理出産だとして……殺害までするとなると、証拠隠滅(口封じ)の線しかないわね」

マリアが、ギリッと奥歯を噛み締める。

 

「……マリア。山田相姦に連絡を入れろ」

スレイが、箸を置き、漆黒のサングラスの奥で冷酷な殺意を灯した。

「……被害者の遺体に、『妊娠・出産の形跡』がないか、もう一度徹底的に調べ直させろ。……すぐにだ」

 

身元なき女たち。滅菌された部屋。そして、奪われたかもしれない『命』。

裏の掃除屋たちは、このおぞましい事件の根底にある、現代社会の最も深い闇へと足を踏み入れようとしていた。




前編、お読みいただきありがとうございました。

山田相姦から送られてきた不可解な鑑識データと、リルの何気ない一言から、事件は「おぞましいビジネスの可能性」へと急展開を見せ始めます。

奪われた命と、滅菌室の謎。明日(木曜20時)の中編では、この現代社会の闇を暴くため、PCUの圧倒的なプロファイリングと探索が始まります。明日の更新もどうぞお楽しみに!
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