「う〜ん……。なかなか手がかりないねー」
リルが、何十個もの防犯カメラの映像が分割表示されたモニターを睨みながら、大きく背伸びをした。
サヨリが朝に歩いていたはずのルートをローラー作戦で洗っているが、死角が多く、決定的な瞬間が掴めない。
「でも、あの子、SNSでファンに向けて隠しメッセージを出していたし、何かしらの手がかりは残しそうだけどね」
モニカが、サヨリの過去の行動パターンを分析する。
「なんか、縦読みの投稿とかしてたものね。意外と機転が利くっていうか、芯が強いっしょ」
メイコも、アイドルのしたたかさを評価して頷いた。
「ええ。だから、今のところカメラからは見つからなそうね」
マリアが、早送りの映像をスクロールさせていた、その時だった。
やはりここは、自分の足で現場に向かい、己の目と手と直観を信じるしかない。
スレイ達5人は、サヨリのルートと思われる公道にやってきた。
ここで、2手のルートに分かれることにした。
自宅から向けて事務所側へ向かう、リルとメイコ、そしてスレイ。
逆に、事務所側から自宅へ向かう、マリアとモニカ。
―― 自宅 → 事務所ルート
「ここから歩いていけば、マリアとモニカにぶつかるはずだね」
「そこまでに何か手がかりになるものがあればいいけど」
リルとメイコが前を歩き、スレイは無言のまま後ろからついていく。
「この辺は人も多いし、カメラもありそうだね」
リルが周囲の防犯カメラを見上げる。
「誘拐するにはリスクが高いね〜。たぶん、もう少し行ったとこでしょ」
メイコがチート級の視力で周囲をスキャンしながら、そのまま事務所のほうに向かって進んでいく。
―― 事務所 → 自宅ルート
「さて、私達も事務所側から自宅のほうに辿っていきましょう」
「そうね。ここには辿り着いていないはず。どこかにポイントがあるはずよ」
モニカとマリアが、そのまま自宅側に向かって進んでいく。
「そこまで遠い訳ではないけど、歩くと距離があるわね。そして、あやしいのは『公道を外れた地点』ね」
モニカがプロファイラーの視点でルートを絞る。
「えぇ。監視カメラを意識しない誘拐犯はまずいないでしょう」
マリアも同意する。
「そうなると、この少し先のとこね。あやしいのは」
そして更に進み、公道から外れ、監視カメラのないゾーンに達した。
「……ん?」
マリアの足がピタリと止まり、ある路地裏の地面を凝視した。
荒いコンクリートの地面。そこに、キラリと銀色に光る小さな四角い金属が落ちている。
「……これ。私が昔、スレイに贈った(そしてスレイが5年前にサヨリが拾った)ジッポライターじゃない……!」
マリアが驚きの声を上げる。
「故意に落としたんじゃないかしら。山田相姦に指紋を調べてもらいましょう」
モニカが冷静に拾い上げる。
「あれ~、マリアとモニカだ! やっぱりここ辺りじゃないかなぁ」
そこへリルとメイコたちが合流してきた。
「このタイヤ痕、急カーブした跡だよね~って見てたら」
メイコが路地のタイヤ痕を指差す。
「マリアとモニカがいた!」
リルが手を振る。
PCUチームが合流した地点。ここが誘拐の現場と思われる。
マリアが、スレイに例のジッポライターを見せる。
「……同じ型のはあると思うが……偶然か?」
スレイが怪訝な顔をする。
「偶然ではなさそうね。サヨリちゃんが落としたのよ、意図的にね」
マリアが断言する。
「サヨリちゃんの指紋がついているか、そこだけ一応確認しましょう」
モニカが促す。
「多分だけど、サヨリちゃんの思考からすると『助けて → スレイ → パパ(大物議員A)』だったんじゃない?」
リルが無邪気に推測する。
「やだ~、パパの推し活が役に立ってる~!」
メイコが笑う。
ジッポライターを山田相姦の部隊に預け、新宿アジトに戻るPCUメンバー。
アジトに戻ると、マリアがジッポライターが落ちていた路地裏の周辺のNシステムと監視カメラへ、一気にハッキングを掛けた。
「例のタイヤ痕だけど、カーブして東のほうの道路に向かったんじゃないかな」
メイコが証言する。相手は空き巣ではなく、プロの誘拐犯だ。相手も反社だ、簡単には尻尾を出さないだろう。
「東の公道のカメラを洗ってみましょう。おそらくマジックミラーにしているはず」
モニカが指示を出す。
「マジックミラー号だ! 総理が何か言ってた車だ!」
リルが変な知識を披露する。
「それは多分意味が色々と違うんじゃないかなぁ」
メイコが呆れてツッコミを入れる。
マリアの神がかった検索アルゴリズムが、路地を抜けた先の大通りのカメラ映像に、不自然な動きをする黒いワンボックスカーを捉えた。
「ばいやー! 完全にこの車あやしいっしょ!」
メイコのチート級の動体視力が、運転席から覗く後部座席の少女(サヨリ)を見逃さなかった。
マリアが映像をコマ送りにして拡大する。
「顔はわからないけど、縛られている時点でおかしいよね!」
リルが声を上げる。
「無駄かもしれないけど……ナンバーを割り出して」
モニカの冷静な指示に、マリアが即座に画像解析をかける。
「……偽装ナンバーね。盗難車よ」
マリアが悔しそうに唇を噛む。
「盗難車が、逆に誘拐の証左と言えるな。そしてストーカーじゃない。複数いる。完全にプロの手口だ」
スレイが、別のジッポライターをカチャリと鳴らし、絶対零度の殺気を漂わせた。
「まずは、大物議員Aに報告するわ」
モニカが暗号化回線を開き、事の顛末と、サヨリが反社組織と思われる集団に拉致された確たる証拠をパトロンへと伝えた。
『……っ!! 許さん……私のサヨリたんに指一本でも触れてみろ……!!』
モニターの向こう側で、大物議員Aは顔面を土気色にし、国を動かす権力者の顔と、狂信的なオタクの顔を悪魔合体させて絶叫した。
『スレイ君! とりあえず犯人は、問答無用で死刑にしてほしいと、私が法務大臣に直接裏から手を回しておく!! 』
(……相変わらず、この国の上層部は法治国家の概念がバグっている)
スレイは心の中で呆れつつも、考えることがあった。
プレゼントBOXの窃盗に、複数による拉致。
アイドルの私物を狙う変態ストーカーの犯行にしては、規模が大きすぎるし、手際が良すぎる。
「……奴らには、何か見られてはまずいものがあったのか」
スレイの低い呟きに、全員がハッと息を呑んだ。
「そうね、誘拐ばかりに気をとられていたわ」
マリアが同意する。
「プレゼントBOXの中に、反社組織にとって致命的な爆弾(証拠)が紛れ込んでいたのだとしたら」
スレイが推測する。
「そして、それをサヨリちゃん本人が持っていなかったとしたら……」
モニカがその先を言葉にする。
「当然、奴らが次に狙うのは、プレゼントを管理している本丸だよね」
メイコが気づく。
「事務所が危ない? どうする、私達も張り込む?」
リルが拳を握る。
「……山田相姦」
スレイは即座に警察トップの裏回線を繋ぎ、地鳴りのような声で指示を飛ばした。
「……サヨリの事務所に、人を数人(武装した特殊部隊を)当てておいてくれ。……ネズミ共が、もう一度そこへ嗅ぎ回りに来るぞ」
消えた手紙の行方と、囚われたアイドルの命。
スレイの先読みにより、裏の掃除屋たちは反社組織を迎え撃つための冷酷な罠を張り巡らせるのであった。
――新宿アジト。
マリアが猛烈な勢いで、市内の監視カメラをリレー方式で追いかけていた。
「どうマリア、どこまで追えそう?」
モニカが尋ねる。
「……板橋区の工業エリアまでは足取りを掴めたわ」
マリアが、キーボードを叩く手を止めて悔しそうに画面を睨む。
「しかし、完全にカメラのないゴーストエリアまで行ったわね……。あそこは廃工場や不法投棄のスクラップ置き場が密集していて、これ以上は追跡できないわ」
「ここまでかな……。でも、エリアは絞れたわね」
モニカが、冷めた紅茶のカップを置きながら冷静に状況を整理する。
「どうする? 今からみんなで板橋に行く?」
ポテトチップスをかじりながら、リルがスレイの顔を見上げて首を傾げた。
板橋の工業地帯をしらみつぶしに探すとなれば、骨の折れる作業になる。
「うーん、でもさ」
スマートフォンでネイルをいじっていたメイコが、ふと思いついたように顔を上げた。
「相手もプロのワルでしょ? そろそろ、事務所になんか連絡きそうじゃない?」
メイコのチート級の直感は、見事に的を射ていた。
――多様性坂69の所属事務所。
スレイの指示通り、事務所の周辺および内部には、警視庁トップ・山田相姦の部隊が完全武装で息を潜めて張り込んでいた。
しかし、そのただならぬ気配(警察の包囲網)に気づいた反社組織の人間は、愚直に事務所へカチコミをかけるような真似はせず、安全な場所から一本の電話をかけてきたのだった。
『ジリリリリリッ!』
静まり返った事務所で、代表電話がけたたましく鳴り響く。
山田の部下が逆探知のシステムを起動し、青ざめた顔のマネージャーに無言で頷いて受話器を取らせた。
「……はい、多様性坂69の事務所です」
『――おたくのサヨリを、預かっている』
スピーカー越しに響いたのは、ドス黒い裏社会の泥水をすすってきたような、ボスの低くしゃがれた声だった。
「……はい……っ」
マネージャーが震える声で答える。
『指定の場所に、昨日のイベントのプレゼントBOXごと全部持ってこい。……ちなみに、警察を呼んで尾行させたり、箱にGPSをつけたりした場合も、人質の命はないと思え』
「わ、わかりました……っ。サヨリには手を出さないでください……!」
『ああ、手荒な真似はしねぇよ。ただし、条件がある』
ボスの声が、さらに一段低く、冷酷な響きを帯びた。
『箱の中にある手紙に、一つでも開封の跡があれば殺す。中身を読んで、似たような別の封筒に差し替えていても殺す』
なぜ、そんなピンポイントな見分けがつくのか。
その答えを、ボスは残忍な笑い声と共に告げた。
『……ターゲットの封筒には、俺たちが昨日沈めたネズミの血痕がこびりついているからな。どの封筒か、こっちには一目でわかるんだよ』
逃走中、手傷を負っていたジャーナリストのAAAが、命がけでプレゼントBOXにねじ込んだウサギのレターセット。その端には、彼の血がべっとりと付着していたのだ。
『……そういうことだ。夕方までに準備しておけ』
一方的に通信が切れる。
「……流石ボスです!」
板橋の廃工場で、下っ端の男がゴマをするように身を乗り出した。
ボスは葉巻の煙をふぅと吐き出し、縛られて震えているサヨリを一瞥して鼻で笑った。
「交渉ってのは、こうやるもんだ。……だからこそ、人質には最後までキレイでいてもらわないとな」
――一方、事務所の盗聴ライン。
「……ダメです。通信元はプリペイド式の飛ばし携帯(電話)。基地局を経由していて、逆探知不可です」
ヘッドフォンを外した山田の部下が、苦々しい顔で報告する。
『……なかなかやるわね。こちらの動きを読んで、的確に先回りをしてくるじゃない』
不意に、警察の極秘通信ラインとスレイたちのインカムの両方に、凛とした透き通るような女の声が割り込んできた。
「えっ!?」
いつの間にか、この国の最高権力者である環萌美総理が、どこからともなく通信を傍受して会話に混ざっていたのである。
相手は、サヨリの命を盾に取り、警察の動きを完全に封じ込める狡猾な反社組織。
血塗られたレターセットを巡る、息詰まる駆け引きが始まろうとしていた。
急いで事務所は、下請け会社からまだ検閲中だったサヨリのプレゼントBOXを取り寄せる手配をかけた。
通信越しにボスの脅迫電話を聞いていた環萌美総理は、赤いルージュの唇を冷ややかに歪めて鼻で笑った。
「賢いつもりのバカね。今の会話で、先日の隅田川のフリージャーナリストの件、自分たちの犯行だと確定したようなものね」
その総理の辛辣なツッコミに、新宿アジトいた女性陣も次々と同意する。
「確かに〜! 昨日沈めたネズミとか、ハッキリ言ってたよね」
リルがケラケラと笑う。
「マジそれ。わざわざ自分から自供してやんの〜。ウケるっしょ」
メイコも、相手のボスの脇の甘さに呆れ果てていた。
「これで、先日の握手会サイン会の監視カメラ映像から、奴らの顔と組織に目星がつけられそうね」
モニカが、すぐさま次の捜査の道筋を立てる。
「ええ。誘拐に加えて殺人の罪状が追加されそうね。……よし、スレイ、一旦首相感貞に向かいましょう」
マリアがノートパソコンを閉じ、チームは素早く行動を開始した。
まずは、作戦本部となる首相感貞・特別地下室に全員で集まることにした。
問題のプレゼントBOXについては、事務所に届き次第、現場で張り込んでいる警視庁トップ・山田相姦が直接中身を確認し、こちらへ連絡してくる手はずになっている。
数十分後。首相感貞。
ジッポライターの指紋はやはりサヨリのものだと判明した。
「うわぁぁぁぁん! 私のサヨリたぁぁぁん……っ!!」
円卓の端では、愛する推しが殺人犯の手に落ちた恐怖と絶望で、大物議員Aが顔を両手で覆い、滝のような涙を流して号泣していた。
そのあまりにも見苦しい国家権力者(オタク)を完全に無視し、萌美総理はホログラムモニターの前に立ち、凛とした声で宣言した。
「先日のフリージャーナリストAAA殺害事件との関連性があると判断しました。マリア、例の映像を」
「了解」
マリアがキーボードを叩き、イベントホールの監視カメラ映像をメインモニターに映し出す。
膨大な数のファンがひしめく映像をチェックしていくと、やがて、サヨリのレーンに並ぶフリージャーナリスト・AAAの切羽詰まった姿が確認できた。
そして、その後ろには、明らかに周囲のファンとは異質のオーラを放つ、黒スーツ姿の反社と思われる男たちがぴったりと張り付いている。
「マリア。フリージャーナリストの手元を拡大して」
総理の指示で、AAAがプレゼントBOXに手紙を放り込む瞬間の映像が極限まで拡大された。
粗い画質の中、彼が握りしめていた可愛いウサギのレターセットの端に、どす黒い染み――血痕がついているのがはっきりと見て取れた。
「なるほど。これが奴らの追い求めているものね」
萌美総理が、獲物を見定めた鷹のように目を細める。
「顔認証システムと警察のデータベースを照合したわ。……おそらく、指定暴力団の連中で確定ね」
マリアが、AAAの後ろに並んでいた男たちの身元を素早く特定した。
「この血のついた手紙の中に、何が入っているのかな?」
リルがモニターを不思議そうに見上げる。
「手紙だし、中に入っているのはデータそのものじゃなくて、隠し場所かなんかじゃないかな」
メイコが、限られた封筒のサイズと現場の状況から推測する。
「ええ。おそらくHDDやSDカードなんかの、決定的な証拠が隠されている場所ね」
モニカが、プロファイラーとしてその推論を裏付けた。
ジャーナリストが命と引き換えに遺した、血塗られた手紙。
間もなく届くであろうその手紙の中身が明らかになれば、反社組織を壊滅させるためのすべてのピースが揃う。
裏の掃除屋たちは、いよいよサヨリ奪還に向けた反撃の準備を整えていくのであった。
――東京都内、板橋区。薄暗い廃工場の地下室。
「んーっ、んーんー……っ!」
猿轡を噛まされ、太いロープで椅子に縛り付けられたサヨリが、恐怖と絶望の中で微かに呻き声を漏らした。
周囲には、タバコを吹かしながら下卑た笑いを浮かべる反社組織の男たちが、獲物が網にかかるのを今か今かと待ち構えている。
(……スレイさん、助けて)
薄暗い視界の中、サヨリは心の中でたった一人の男の名前を必死に叫び続けていた。
6年前、中学校の屋上で自分の命と尊厳を救ってくれた、あの漆黒のコートを着た不器用で優しい大男。
(必ず助けてくれる……スレイさんなら、絶対に私を助けてくれる……ッ!)
サヨリは、自らが落としたあの銀色のジッポライターが、彼をここまで導いてくれることを信じて、痛む手首の縄の感触に耐えていた。
――一方、首相感貞・特別地下室。
現場で張り込んでいる警視庁トップ・山田相姦から、待ちに待った報告が入った。
『……総理。下請け会社から、サヨリのプレゼントBOXが事務所に到着しました。例の「血痕のついた手紙(可愛いウサギのレターセット)」も発見しました。そして幸い、まだ未開封のままです』
その報告を受け、円卓を囲んでいた女性陣が即座に状況を確認する。
「今回は、別の手紙を用意して中身をすり替える、すり替え作戦は使えないね~」
リルが、残念そうに唇を尖らせる。
「確かに〜。相手にあの血痕までバッチリ見られているしー、偽物を用意したら一発でサヨリちゃんが危ないっしょ」
メイコが、シビアな現実を突きつけた。
「相手の狙いについての推測だが……。大方、麻薬の受け渡しか何か、決定的な犯罪の瞬間を撮られたのでしょうね」
モニカが、腕を組んで冷徹に分析する。
「そして、これほどまでに躍起になって証拠を消そうとしているところを見ると、ただのチンピラではなく、どこかの偉い人か表向きの社長クラスの人間がその現場に同席していたとかでしょうね」
環萌美総理が、ルージュの唇を撫でながら、裏社会の構造を見透かしたように嘲笑った。
その時、再び事務所の代表電話に反社からの通信が入った。山田の部下がその音声を即座にこちらへ転送してくる。
『……準備はできたか。指定の場所を教える。足立区の新神谷橋の下に、箱ごと置け』
ボスの低い声が響く。新神谷橋。足立区ではあるが、先ほどマリアが特定した板橋区の工業エリアのすぐ近くだ。
『……そして、人質の命のことを忘れるなよ。手紙に細工がないことを確認次第、アイドルは解放してやる』
一方的に通信が切れ、タイムリミットが設定された。
「赤外線で中身を確認している時間がないわね……。」
モニカが思考を巡らせる。
「……マリア。例のジャーナリストの動向は追えている?」
モニカの問いに、マリアが、キーボードを叩く速度をさらに上げた。
「ええ。彼がプレゼントBOXに手紙を入れる前の足取りを、逆再生で追っているわ」
「逆に考えれば、彼は警察に証拠を見つけてもらいたかったんだから、監視カメラを避けないよね」
リルの鋭い指摘に、メイコがポンッと手を叩く。
「そうそう! 見つけてもらいたい側だものね、堂々と映りにいくっしょ」
「……いたわ。イベントホールの近くの、ショッピングモールに入る映像よ」
マリアがモニターに映像を展開する。逃走中のジャーナリスト・AAAが、息を切らしながら書店に飛び込み、多様性坂69のCDとかわいいレターセットを買う姿がはっきりと映し出された。
「……おそらく、この直前だ」
ずっと黙って映像を睨んでいたスレイが、低く呟いた。
「ええ。……カメラのついている場所……あそこよ。自販機ね」
モニカが、書店の外の通路に設置された自動販売機を指差した。
「最近の自販機は、防犯用に小型カメラつきが当たり前だものね」
マリアがすぐさまその自販機のネットワークに侵入し、記録映像を引っ張り出す。
モニターに、ショッピングモール入口の自販機の前に立つジャーナリストの姿が映った。
彼は背後を気にしながら、飲み物を買うふりをしてしゃがみ込み、自販機の下(隙間)に向かって、血の滲んだ指を何度も、何度も必死に指差していた。
まるで、画面の向こう側にいる誰かに、「ここに隠したぞ」と強烈にアピールするように。
「……見つけたわ。何かの隠し場所よ」
マリアが会心の笑みを浮かべた。
「上出来よ。証拠の回収は山田の部隊にやらせなさい」
萌美総理が、立ち上がりざまに絶対的な号令を下す。
「スレイ、あなた達は今すぐ板橋(新神谷橋)に向かって! ……あのおぞましいネズミ共を、一匹残らず駆除するのよ」
「……了解した」
スレイは、漆黒のコートを翻し、サヨリの祈りが待つ暗闇の底へと向けて、静かに歩みを進めた。