境界線PCU~多様性ワールドへようこそ~   作:トナカイ粉砕

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いつもお読みいただきありがとうございます。
児童誘拐編、いよいよ解決編となる後編です!

北の小屋へ突入するスレイとリル。
そして、身代金1億円の受け渡しに向かったマリアたち。
果たして、総理が用意したボストンバッグの中身とは……?

(※アクションシーン等の挿絵を入れています。挿絵表示でお楽しみください)


境界線007-児童誘拐編(後編)

青森県境へと続く、静まり返った国道241号線。

スレイの操る大型のオフロードバイクは、背中にリルを乗せたまま、木々が鬱蒼と生い茂る山林のワインディングロードを警戒を怠ることなく進んでいた。

 

そして、翌日昼頃。

新宿のアジトと、被害者である有力議員の端末に、ついに犯人からの新たなビデオメッセージが届いた。

 

『身代金の準備はできたか。これからは電話でリアルタイムに指示を出す。……まずは、東北自動車道の「佐野サービスエリア」へ向かえ』

 

動画に映っているのは、目出し帽を被った一人の男だけだった。

 

「……なるほど。犯人は完全に二手に分かれたわね」

アジトのモニターを睨みながら、モニカが鋭くプロファイリングする。

「動画に映っているのは一人だけ。一人は身代金の受け取りと指示出しのために南へ向かい、もう一人は子供たちの『見張り役』として、二戸の小屋に残っているはずよ」

 

「ええ。朝方までなかなか連絡が来なかったのは、受け取り役が岩手から佐野周辺まで移動していたためね」

マリアもキーボードを叩きながら同意する。

 

その時、アジトの重厚な扉が開き、環萌美総理がSPも伴わずに一人で入ってきた。

彼女の細い腕には、不釣り合いなほど巨大でズッシリと重いボストンバッグが提げられている。

 

ドサッ、と総理がテーブルの上にそのバッグを放り投げた。

少しだけ開いたジッパーの隙間から、真新しい一万円札の帯封がぎっしりと覗いている。正真正銘、現金1億円の身代金である。

 

「持っていきなさい。私の『嫌いなもの』が、沢山詰まっているわ」

萌美総理は、さも汚らわしい汚物でも見るかのように、日本の最高紙幣の山を冷ややかに見下ろした。彼女にとって、こんな紙切れよりも、恍惚部隊の屈強な男たちの悲鳴や、エルフが蹂躙される同人誌の方がよほど価値があるのだ。

 

「恩に着るわ、総理」

マリアがボストンバッグを引き寄せると、すぐさま犯人側へとメッセージを返信した。

 

『身代金は用意した。佐野サービスエリアへ向かう。だがその前に、子供の声を聞かせろ。無事が確認できない限り、一円たりとも渡さない。小さい音では聞こえないからな』

 

犯人の片割れが佐野にいるということは、見張りのいる二戸の小屋の正確な場所を特定する、これが最後のチャンスだ。

 

数分後。

犯人から、苛立った様子で新しいビデオメッセージが送られてきた。

『パパぁ……! 助けてぇ……っ!』

画面の奥で、手足を縛られた子供たちが泣き叫ぶ声が、はっきりと大音量で響き渡る。

 

「モニカ!」

「ええ、分かっているわ! 子供の声の後ろにある『環境音』を極限まで抽出して!」

 

モニカの指示を受け、マリアが音声解析のイコライザーを極端に操作する。

子供の泣き声と、犯人の舌打ちの音を削り落とし、背景のホワイトノイズだけを増幅させていく。

 

「……ザーッ、という、かすかな音が一定の周期で聴こえるわ。風の音じゃない。これは……『水の音』よ!」

マリアの解析結果に、モニカの目が鋭く光る。

 

「ウルシの木が群生する二戸周辺の山林で、かすかに滝のような水の音が響く場所……」

モニカは瞬時に頭脳の地図を検索し、一つの答えを導き出した。

 

[b:「マリア、スレイに伝えて! 国道241号線から外れた旧道沿いにある、『姉滝大明神』の付近よ! そこに犯人のアジトの小屋があるわ!!」]

 

「完璧よ、モニカ!」

マリアは即座にインカムを開き、北の山林を走るスレイのナビゲーションに、姉滝大明神のピンポイントの座標データを叩き込んだ。

 

『……ああ、受信した。これより突入する』

バイクのエンジン音の向こうから、獲物を完全に捕捉した暗殺者の、低く冷酷な声が返ってくる。

 

「さて、それじゃあ私たちも『お使い』に行きましょうか」

マリアが1億円の詰まった巨大なボストンバッグを肩に担ぎ上げる。

「ええ。ふざけた誘拐犯に、多様性の素晴らしさを教えてあげないとね」

モニカも不敵に微笑み、車のキーを指で回した。

 

二戸の小屋へ向かうスレイとリル。

そして、身代金を持って佐野サービスエリアへと向かうマリア、モニカ、さらには後方支援として合流する山田警視総監が率いる裏の警察部隊。

 

子供たちの命を救い、身の程知らずの誘拐犯を確実に追い詰めるための、完璧な包囲網が今、静かに作動し始めたのであった。

 

青森と岩手の県境、国道241号線から外れた鬱蒼とした旧道。

スレイはオフロードバイクのエンジン音を極限まで殺し、姉滝大明神の付近を這うように、かつ素早く慎重に進んでいた。

 

僅かな人工物の痕跡や、木々の間に隠された小さな小屋も見逃さないよう、鋭い視線を巡らせる。

やがて、背中にしがみついていたリルが、スレイの肩をトントンと叩き、前方の地面を指差した。

 

「スレイ、轍(わだち)はっけ〜ん! こんな森の奥深くに、普通の車なんて通らないよ」

 

リルの言う通り、ぬかるんだ土の上に、真新しいタイヤの跡が奥へと伸びていた。

スレイは無言で頷き、少し離れた茂みにバイクを隠すと、二人は音もなく徒歩で轍の先へと接近した。

 

木々の隙間から、ひっそりと建つ古びた木造の小屋が見えた。

スレイが死角で待機する中、リルはキャリーケースから極小の『無音ドローン』を取り出し、小屋の窓の隙間へと滑り込ませた。手元のモニターに、屋内の映像が鮮明に映し出される。

 

「……いた。誘拐された子供が二人と、見張りの男が一人」

リルが小声で報告する。

 

スレイはサングラスの奥で、小屋の構造と犯人の位置を瞬時に計算した。

(強行突破でドアを蹴り破れば、驚いた犯人が咄嗟に子供を盾にするか、危害を加える恐れがある)

 

一気に制圧することは造作もないが、何よりも子供たちの安全が最優先だ。

スレイが別の作戦を思案しようとした矢先、リルが「任せて!」とばかりにウインクをし、無防備な足取りで小屋の正面ドアへと歩いていってしまった。

 

コンコンコンッ。

 

「すいませ〜ん! 友達とはぐれて、道に迷っちゃったんですけどー!」

リルは、いかにも頭の軽そうな、困り果てた遭難者の少女を完璧に演じきり、明るい声でドアをノックした。

「誰かいませんか〜?」

 

突然の来訪者に、小屋の中の男がギクリと動揺するのが気配で分かる。

足音が近づき、警戒した犯人が、ドアをほんの数センチだけ、薄く開けた。その隙間から、目出し帽の奥の濁った瞳がリルを覗き込む。

 

「……あァ? なんだお前は……」

 

犯人が油断し、ドアのロックを外して顔を近づけた、まさにその瞬間だった。

リルは満面の笑みを浮かべ、明るく言い放った。

 

「すいません、お届けものです♡」

 

「……えっ?」

 

【挿絵表示】

 

 

犯人が間抜けな声を漏らし、思考が停止したコンマ一秒の隙。

リルの背後の死角から、漆黒のコートを着た190センチの巨躯が、まるで瞬間移動のようにドアの真正面へと躍り出た。

 

ドゴォォォォォォォンッ!!!!!

 

木製のドアごと、スレイの巨大で無慈悲な鉄拳が、犯人の顔面に深々とめり込んだ。

「ガァッ!?」

すさまじい破壊音と共にドアがへし折れ、吹き飛ばされた犯人は、小屋の中の壁に激突して無様な音を立てて崩れ落ちた。

 

悲鳴を上げる間も与えない。スレイは静かに小屋の中へ踏み込むと、うずくまる犯人の無防備な脇腹に、巨象の踏みつけのような強烈な蹴りを叩き込んだ。

「ゴハァッ……!!」

肋骨が複数本へし折れる嫌な音が響く。そしてトドメとばかりに、スレイは容赦なく靴の裏を犯人の顔面に叩き込み、一瞬にして完全に失神させた。

 

圧倒的な蹂躙。時間にして、わずか三秒の出来事である。

 

「ひっ……!」

「うわぁぁん……!」

 

部屋の隅で手足を縛られていた幼い兄妹は、突如として現れ、大男を瞬殺したこの『黒尽くめの巨大な死神』のような男を見て、恐怖のあまりガタガタと震え上がってしまった。

 

無理もない。どう見ても悪役のビジュアルである。

スレイが少しだけ困惑して立ち尽くしていると、後ろからひょっこりと顔を出したリルが、怯える子供たちに駆け寄り、とびきり安心させるような笑顔でウインクをした。

 

「大丈夫だよ! わたしたち、性戯の味方だから! もう安心だよ〜!」

 

(……漢字が違う)

 

スレイは心の中で静かにツッコミを入れながら、縛られた子供たちのロープを解くために、ゆっくりと膝をついたのであった。

 

 

 

その頃、マリアとモニカたち「受け渡しチーム」は、東北自動車道の佐野サービスエリア付近へと到着していた。

 

車内には、被害者である有力議員の両親も同席している。警察が裏で包囲網を敷いていることが犯人に少しでもバレれば、子供たちの命はない。あくまで「親が自ら身代金を持ってきた」という体裁を完璧に保つ必要があった。

 

『……着いたか』

 

有力議員のスマートフォンに、犯人からの非通知着信が入る。

『料金所を抜けた先、施設の裏手にあるゴミ箱の後ろにボストンバッグを置け。……もしサツの犬が少しでも動いたり、変な真似をすれば、子供の命の保証はないぞ』

 

指示を受け、顔面を蒼白にした両親が震える手で巨大なボストンバッグを抱え、指定されたゴミ箱の後ろへとひっそりとそれを置いた。

 

車内からその様子を監視していたマリアとモニカは、息を殺して周囲を見渡した。

(……犯人は必ず近くで見張っている。ここで一気に突入して取り押さえるか!?)

暗殺チームの司令塔として、武力制圧のシミュレーションがマリアの脳裏をよぎる。しかし、二戸の小屋にいる子供たちの安全が完全に確保されたという確証がない以上、こちらの受け取り役を刺激するのはあまりにもリスクが高すぎる。

 

その葛藤の中、マリアの端末に首相感貞で待機している環萌美総理から通信が入った。

 

『マリア、聞こえるかしら』

「ええ、総理。バッグは指定の場所に置かせたわ。……どうする? 泳がせるの?」

『ええ、そのまま放っておきなさい。あなたたちは感貞に戻ってきてちょうだい』

 

「……えっ!?」

マリアは思わず素っ頓狂な声を上げた。

「そのまま何もしないで帰るの!? 1億円が入ったバッグごと犯人を逃がすってこと!?」

 

『いいから、指示通りにしなさい。……フフッ』

通信の向こうで、絶対的な権力者がひどく妖しく、そして底意地の悪いドSな笑い声を漏らす。

(……萌美総理のことだ。絶対に『何か』とんでもないことを考えているに違いない)

マリアは釈然としない疑問と一抹の不安を飲み込み、「……了解したわ」と車のエンジンをかけ、その場から撤退した。

 

――それから数十分後。佐野サービスエリアから少し離れた、人気の無い道。

 

「……よし! 追っ手はいないな」

 

ゴミ箱の裏から巨大なボストンバッグを回収した犯人(受け取り役の男)は、盗難車で逃走しながら、何度もルームミラーを確認した。

警察の尾行も、怪しい車の追跡もない。完全犯罪の成功を確信し、男は下品な笑い声を上げた。

 

「チョロいもんだぜ、金持ちの政治家なんてよ! さあて、1億円のご尊顔を拝ませてもらおうか!」

 

男はハンドルから片手を離し、助手席に置いた巨大なボストンバッグのジッパーを勢いよく全開にした。

ぎっしりと詰まった、真新しい一万円札の帯封。

……しかし、男の笑顔は、札束の『印字』を見た瞬間に完全に凍りついた。

 

「……んっ?」

 

男は慌てて札束の一つを手に取り、目を擦った。

諭吉の顔があるべき場所には、可愛らしい動物のキャラクターがプリントされ、ご丁寧に太い文字でこう書かれている。

 

『子供銀行券』

 

「……は!? こ、子供銀行の券じゃないか!! ふざけるなァ!!」

 

男は血相を変え、「下の方に本物の札が隠してあるはずだ!」と、バッグの中をガサゴソと必死に漁り始めた。

 

【挿絵表示】

 

だが、バッグの底から出てきたのは、現金でも発信機でもなく、分厚く束ねられた『大量の同人誌(雑誌)』だった。

 

「なんだ、これは……?」

男が震える手でその雑誌の表紙を取り出すと、そこには筋骨隆々の男たちが全裸で絡み合う、極めて濃厚なイラストと共に、こんなタイトルがデカデカと躍っていた。

 

 

『漢たちのロマン〜大肛海時代』

『薔薇革命〜ムキムキさんの下心』

『ナイスヒップ〜肛事現場の男たち』

 

 

それは、環萌美総理の極めて個人的な趣味であり、そして彼女が最も愛してやまない大量のホモ雑のコレクションだったのである。

 

1億円の身代金だと信じて命懸けで奪い取ったバッグの中身が、子供銀行券と大量の「大肛海時代」。

男は絶望と混乱のあまり、助手席で「ヒィッ……!?」と情けない悲鳴を上げたのであった。

 

 

佐野サービスエリアでの極度の緊張を強いられる任務を終え、マリアとモニカは急いで首相感貞(かんてい)の特別地下室へと戻ってきた。

そこには、優雅に紅茶を啜る環萌美総理の姿があった。

 

「……総理。指示通り、そのままバッグをお渡しして犯人を逃がしましたが」

マリアが、納得のいかない険しい表情で問い詰める。

「本当に、それでよかったのでしょうか?」

 

「ええ。そもそも、あのバッグにはお金など一円も入っていないわ。私の『嫌なもの』がたっぷり詰まっているんだから」

萌美総理は、さも可笑しそうにクスリと笑った。

 

「なっ……!? それでは、中身を確認した犯人が激昂して、二戸の小屋にいる子供たちの命が危ないのでは!?」

マリアが血相を変えて身を乗り出す。相手は凶悪な誘拐犯だ。身代金が偽物(しかも大量のホモ雑誌)だとバレれば、どんな報復に出るか分からない。

 

しかし、日本の最高権力者は余裕の笑みを崩さなかった。

「ええ、大丈夫よ。つい先ほど、北に向かったスレイから連絡があったわ。……無事に子供たちを確保し、見張りの犯人を完膚なきまでにブチのめしたという、最高に気分のいい報告がね」

 

「……っ! よかった……!」

「さすがはスレイね。完璧なタイミングだわ」

マリアとモニカは、心底ホッとしたように深く息を吐き出し、胸を撫で下ろした。

 

「ふふっ。そろそろ、警察が部下を率いて、あのマヌケな受け取り役を綺麗に押さえている頃よ。あの有名スポーツブランド『アセックス(ASEX)』の特注ボストンバッグには、極めて精巧な発信機が縫い込んであるからね」

紅茶のカップを置きながら、萌美総理が妖しく微笑む。

 

だが、モニカにはまだ一つ、ロジカルな疑問が残っていた。

「……しかし、発信機をつけていたのなら、なぜわざわざ佐野から泳がせたのですか? サービスエリアに現れた瞬間に、警視総監の部下たちに直接確保させれば早かったはずです」

 

その問いに対し、萌美総理は美しい顔に絶対的なドSの笑みを浮かべ、冷酷に言い放った。

 

「決まっているでしょう? 罪もない子供を誘拐するような人間のクソには……たっぷり『罪状』を追加して、社会的に完全に抹殺してやらないとね!」

 

――その頃、佐野から離れた逃走ルート上。

 

「ヒィィィッ!? なんだよこれ、ふざけんなァァァッ!!」

 

『大肛海時代』をはじめとする極限のBLホモ雑誌と子供銀行券を前に、車内でパニックに陥っていた受け取り役の男は、前後を完全に封鎖するように急発進してきた山田警視総監率いる警察の特殊部隊に、あっという間に包囲されていた。

 

「動くな! 警察だ!!」

「ひぃっ、ち、違うんです! 俺はただの運び屋で……!」

 

完全に退路を断たれ、男は無様に両手を上げて車から引きずり出された。

助手席には、中身が散乱したアセックスのバッグと、筋骨隆々の男たちが絡み合う激しすぎる表紙の同人誌が、白日の下に無惨に晒されている。

 

そして、この男には萌美総理の思惑通り、地獄のような容疑がかけられることとなった。

 

主犯格としての『営利略取および誘拐罪』。

さらに、大量の海賊版同人誌を所持・運搬していたことによる『著作権法違反』。

偽札による『偽造通貨収得罪』『偽造通貨行使・提供罪』。

そして誰かさんの同人誌を盗んだことによる『窃盗罪』。

極めつけは、公道(車内)で極めて過激なBL雑誌を大々的に広げていたことによる『わいせつ物陳列罪』。

 

凶悪な誘拐犯としてはあまりにも情けなく、そして屈辱的すぎる罪状のフルコースを読み上げられ、男は「違う、俺の趣味じゃないぃぃぃっ!」と涙と鼻水を垂らして泣き叫びながら、無様に連行されていったのであった。

 

青森と岩手の県境、二戸の森の奥深く。

スレイとリルは、恐怖に震える幼い兄妹を無事に保護すると、すぐさま二戸市内の警察署へと送り届けた。警視庁の息がかかった裏のルートを通じて、子供たちは極秘裏に、そして安全に東京へと移送されていく。

 

その日の夜。二戸市内の静かなホテルの一室。

 

事後のまどろみの中、リルはスレイの広い胸にすっぽりと収まり、嬉しそうに微笑んだ。

「えへへ……。子供たち、助かって本当によかったねー」

「……ああ」

スレイはリルの金髪を優しく撫でながら、静かに目を閉じた。

「俺はただの、ゴミ掃除をしただけだ。……あの場所を特定できたのは、お前やマリアたちのチームのおかげだ」

 

暗殺者としての冷徹な顔の裏にある、仲間への絶対的な信頼と感謝。

リルは「えへへ、正妻の力だよ!」と誇らしげに笑い、そのまま安心したようにスレイの腕の中で眠りについた。

 

――翌日。東京の安全な施設。

 

「パパぁっ! ママぁっ……!」

「ああ、無事でよかった……! 本当によかった……っ!」

 

誘拐されていた二人の子供は、涙を流して駆け寄ってきた有力議員の両親の胸へと勢いよく飛び込んだ。

顔をぐしゃぐしゃにして抱き合う親子の姿を、少し離れた場所から見守っていたマリアとモニカは、心からの安堵と共に優しく微笑んでいた。

 

「やあ、本当にお疲れ様だったね」

そこへ、満足げな笑みを浮かべた大物議員Aが歩み寄ってくる。

「見事な手際だったよ。本当に、君たち『裏の掃除屋』のチームは素晴らしい。……うちの愛娘のメイコも、今回は大いに役に立っただろう?」

親バカ全開で自慢してくる大物議員Aに、マリアは苦笑しながら「ええ、彼女の記憶力には助けられたわ」と頷いた。

 

一方で、マリアの脳裏には、この事件を完璧にコントロールしていたもう一人の「怪物」の顔が浮かんでいた。

環萌美、内閣総理大臣。

本当に、恐るべき女である。

 

(……法改正が間に合わないようなクソ野郎には、強引に屈辱的な『罪状』を追加して、社会的に完全に抹殺すればいい。あの人のやり方には反吐が出るほど感心するわ)

 

ちなみに、萌美総理が身代金のダミーとして大量のホモ雑誌(大肛海時代など)を使用し、彼女が一番愛読している『エルフがゴブリンやトロルに蹂躙される本』を絶対に使わなかった理由は、ただ単に「名作すぎて、あんなクソ野郎の罠に使うのは勿体ないから」という、極めてオタク的で理不尽な理由であった。

 

さらに言えば、萌美総理が佐野サービスエリアで犯人を即座に確保させず、あえて泳がせた最大の理由はもう一つあった。

彼女は、スレイが北の二戸の小屋に到着する『時間』すらも、完璧に予測して計算に入れていたのだ。

 

(……私が佐野で動かなくても、北の小屋の方では、スレイが確実に『最悪の制裁』を下してくれているはずだからね)

 

総理のその悪魔的な予測通り、子供たちの見張りをしていた誘拐犯の片割れは、スレイの無慈悲な鉄拳と顔面蹴りによって見事な『複雑骨折』を負い、文字通り二度と立ち直れないほどの物理的な地獄を見ることとなったのである。

 

マリアがそう言いかけながら、首相感貞の正面ゲートを抜け、ふと東京の空を見上げた時だった。

彼女の視線の先、感貞のすぐ近くにある一等地にデカデカと掲げられた、現在の与党(萌美総理の所属政党)の巨大な看板が目に入った。

 

そこには、やたらと爽やかな洗練されたフォントでこう書かれていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

『――日本の未来を共にイカせる。 自 淫 党(じいんとう) 』

 

「…………」

「…………」

 

自ら淫する党、と書いて、自淫党。

そんな頭の狂った政党名が、白昼堂々、日本の中心に巨大看板として掲げられているのだ。

 

(……野党の連中は、政治資金問題とかを追求する前に、まず突っ込むべきところを完全に間違えているんじゃないのか)




【お知らせと次回予告】

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
誘拐事件、これにて一件落着(お掃除完了)です。

スレイの情け容赦ない物理的な制裁と、萌美総理のえげつなすぎる社会的な抹殺の鮮やかなコンボ、いかがだったでしょうか。
そして最後に判明した、現在の日本の与党のヤバすぎる名称。
この国は今日も多様性(カオス)に向かって爆走しています。

次回からは、また新たなターゲットを相手にした新事件が幕を開けます。
引き続き、PCUの活躍(と悪ふざけ)にご期待ください!


『境界線PCU~多様性ワールドへようこそ~6月は毎日20時更新』
6月は毎日20時に最新話を公開していきます。明日の20時もぜひお待ちしております!

▼イラスト・設定資料について▼
劇中の挿絵や、キャラクターの詳細な設定資料をPixivにて公開しています。
【Pixiv】https://www.pixiv.net/users/124951524

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