連勤の疲れが幻想を生むのか。
終わりじまいのしごとの果てに定時を見るのが幻想に過ぎないことは、
ブラック勤めの誰もが知っている。
だが、あの時計の数字が、針の震えが幻だとしたら。
そんなはずはない。
ならば、この世の全ては幻想に過ぎぬ。
では、目の前の26時(深夜2時、連勤10日オーバー)という表示は何だ。
次回「再会 会ったこともない人よ!」
劇的なるものが牙をむく。
ザンム村の村民たちの安全圏への移動は、抵抗されて全く埒が明かない。
もう死なれるよりはマシということで、装甲歩兵(AT)の威圧や歩兵部隊の暴力・圧力も辞さず、村民たちを無理やり大型輸送ヘリへ押し込んでピストン輸送を開始した。
これ、ロシアン・ルーレットを一人一人に強制した原作のカニュー大尉と、どちらが印象悪いかねえ……。
ヘリの離着陸を狙われないよう、我々装甲歩兵隊――ボーリング・ビートルに、ジョルジョの旧型エキサイテッド・ドッグ、ルイスのクエルト星の重装甲歩兵シュペール・トレ―ガーなどの機体が展開して厳重に警戒に当たっていた。
しかし、ワーカー・ゲリラのプルートゥ率いる装甲歩兵部隊の動きは一向にない。原作のような襲撃はなくて終わるかもしれない……などと、軟弱な安堵に逃げようとしたその時だった。
「ルイス! レーダーに反応はあるか!? あの崩れかけた寺院のあたりだ!」
「隊長殿、ビンゴです! レーダー反応、おそらく装甲歩兵多数、急速接近!」
ルイスが即答したと同時に、崩れかけた寺院の陰からロケット弾の群れが尾を引いて飛来した。事前に行なった砲爆撃の被害で、おとなしくこの場から退いてくれれば良いものを!
ヘリが撃ち落とされないよう、こちらも弾薬を惜しみなく叩き込み返していく。
「ジョルジョ! 前進して敵の注意を逸らせ! 左右からも回り込ませる!」
凄まじい砲火を背に、ジョルジョと3機の装甲歩兵が勢いよく前進し、遅れて左右から他の装甲歩兵隊が進撃する。
恐らくジョルジョはこの先でプルートゥと交戦し、ディアナだと勘違いしてそのまま敵基地まで追いかけて潜入するはずだ。
私は村民たちを護衛しながら、あらかじめ規定した通り、部隊の被害を最小限に食い止めるため、ジョルジョたちの交戦エリアから早急に距離を取る。
――私の頭の中では、山火事予防のマスコットキャラ「スモーキー・ベア」が、ジョルジョを力強く指さしながら「Only you!(敵地に潜入するのはお前だけだ!)」と叫んでいる絵が浮かんでいた。
不安定な流れは何度かあったが、これでジョルジョを置いて撤退すれば、原作通りのログは完了する。
あとは異能生命体ジョルジョが勝手にディアナを求めて敵基地内へ潜入し、また脱出してきたところをレスキューが拾うだけだ。被害は少なく、情報まで手に入る。
……はずだったのだが。
「あれは、何だ……?」
ジョルジョたちに追い込ませた戦闘方向とは全く別のジャングルの中に、怪しい影が蠢くのが見えた。大きさからして、敵の装甲歩兵――リヴォルティング・タートル。
「敵だ! いたぞ! カメラが光った!」
私を含む4機のボーリング・ビートルで、その周辺を一斉に掃射した。
白煙が上がり、巨木やジャングルの葉が激しく飛び散り倒れる。
いま最後のヘリに村民たちを乗せている最中なのだ。ヘリを狙わせるわけにはいかない。
ジャングルの中で一つ、大きな炎と白煙が広がった。一機撃破したようだ。我々は撃ちながら前進し、敵を後退させようとする。
だが、ジャングルの深緑から一筋の火線が切り裂くように伸ばされ、傍らの機体を直撃した。そのまま沈黙する。胴体ハッチが勢いよく開き、中の兵士が転がり出てきた。
私は大型ロケット弾を構え、3発立て続けに叩き込んだ。激しい爆炎が上がる。どうだ!?
しかし、その炎の中から再び火線が伸び、もう一機の僚機を捉えた。まとめて5発ほど撃ち込まれたボーリング・ビートルが派手にひっくり返る。運良くこちらも、パイロットは間一髪で脱出に成功した。
ヘリが最後の離陸を果たし、空へと上昇していく。
「撃ちまくれ! ヘリは何としても守り切れ!」
私は残る一機と共に弾丸を惜しまず、火線が伸びてくるジャングルへ牽制射撃を叩き込んだ。そこから飛び出してくる敵装甲歩兵、リヴォルティング・タートルの集団。2機、3機が炎に包まれて動かなくなる。
そして――。
「やめてくれ……」
絶対に見たくないものが、視界に飛び込んできた。
スラロームを描き、こちらの射線を巧みに外しながら猛スピードで突っ込んでくる――「青」のリヴォルティング・タートル。
そして、もう一機――「赤」のリヴォルティング・タートル(!?)。
ちょっと待て! 話が違うぞ!!
青はプルートゥのストーキング・スナッパーだ。奴はジョルジョを狙ってジャングル奥深くに引き込み、いま密林で凄惨なタイマンを演じているはずですよ!? 何でいま、目の前にいるんですか!?
さらに「赤」! 原作ログにも無いし、こんなの聞いてない!
もう一人のSS(スーパー・ソルジャー)、ジョルジョが追いかける女SS「ディアナ」が乗るストーキング・スナッパーが、いまここに突っ込んでくるなんて!
プルートゥ一人でもお腹いっぱいなのに、ディアナまでセットのお買い得プライス。2人のSS夢の競演、ご一緒に一般機をもう3機いかがですか? って、バカか!
しかもジョルジョではなく、「私」の方に突っ込んで来ている! 原作にもない完全アディショナルサービスですよ!!
こんな不当なファミリー・パックかハッピー・ミールがあるか!!
新たに現れたゲリラの装甲歩兵隊は、機体が焦げたり歪んだり部品が外れたりしていて、どうやら先ほどの砲爆撃の予備攻撃を間一髪で生き延びた生き残りのようだ。そのためか、動きの一つ一つにこちらへの猛烈で獰猛な怒りが滲み出ている。
我々はヘリを落とされないよう、射線が重ならないポジションへと移動しながら必死に撃ち返し続ける。ヘリさえいなければ、とっくに逃げ出しているところだ。
再び青と赤以外の敵機が炎上する。
しかし、青と赤は恐ろしい速度のスラロームで距離を詰めてくる。私は慌てて、コクピット内のディスクスロットへ対SS用回避プログラムのディスクを叩き込んだ。
その間にも、私の僚機が被弾。すぐ前に割り込み、援護に撃ちまくる。だが、左右に分かれた青と赤が完璧な交差射撃を繰り出してきた。僚機が再び被弾し、両腕と脚部から黒煙を吹き上げる。
「ダメだ、隊長!」
「脱出しろ!」
悲鳴を上げたパイロット、グェン軍曹の回線に怒鳴りつける。ハッチが弾け飛び、首回りに白い絹のスカーフを巻いた伊達男が地面へ転がり落ちた。
私は擱座した僚機から敵を引き離すように、自機をバックさせる。
ヘリはすでに遠ざかり、機影は小さくなっていた。いまから撃ち落とされる心配はないだろう。
だが――敵との戦力差は、いまや4対1。
向こうは事前砲爆撃の復讐戦のつもりなのか、凄まじい勢いでこちらを追い詰めてくる。しかも敵4機のうち2機は、神経を改造された人間兵器が操るフルチューンマシンだ。
それがどう見ても本編主人公のジョルジョではなく、脇役のはずの「私」カーニャ大尉を執拗に狙っている。絶対逃さないというロックオンされた殺気を感じる。このバグ、どうしてこうなった!?
私は射線を必死にかわし、ボーリング・ビートルに致命的な被弾をさせないようギリギリの操作を続けながら、味方集団――ジョルジョが交戦していると思われる方向へ近づこうとした。
……が、近づかせてもらえない!
どんどん味方から隔離され、ジャングルの奥深くへと追い込まれていく!
対SS用回避プログラムを入れたとは言え、多勢に無勢。我が愛機、何代目かのボーリング・ビートル「ホワイト・ラビット」は、またしても全身に弾丸を浴びまくり、もはや大破は免れそうにない。こんなウサギ狩りは嫌だ!
ドカンッと激しい衝撃と共に、被弾した左腕が肩から外れて落ちた。
遮蔽物の陰に飛び込む前に機体の左脚が撃ち抜かれ、回避運動に深刻な支障が出始める。
さらに右腕も撃ち抜かれ、右肘から先がヘビィマシンガンを握りしめたまま地面へ転がり落ちた。これで飛び道具による反撃手段が完全に途絶えた。
畳みかけるようにまた被弾。私の頭のすぐ横を弾丸が通過して装甲に風穴を開け、コクピット内に金属片が激しく飛び散る。
「ひっ!?」
身体が硬直し、喉が引きつった音を立てる。
涙と鼻水とよだれは私の顔中に垂れ流しだ。ガチガチと震える口の中には、嫌な血の味と鉄の臭い。
シートのお尻とブーツの中を、機体から漏れ出た謎の液体がじわじわと濡らしていく。
――言っておくが、私から出た液体ではない。
体温くらいの温かさ、これは機体のポリマー・リンゲル液で間違いない! 私から漏れ出たポリマー・リンゲル液のようなものでは絶対にない! 断じてだ!!
青い機体が、こちらの右脚を狙いすまして正確に撃ち抜いた。
左脚に続き右脚も制御不能となった「ホワイト・ラビット」は完全にバランスを崩し、スピンしながら激しく転倒する。
四肢を潰され、反撃もままならず、猫がネズミを嬲るように確実に追い詰められていく。
寝たまま撃ち抜かれないよう、機体を必死に転がして立ち上がらせようとした瞬間――凄まじい速度で突進してきていた赤い機体が、間髪入れないハイタックルで交差した。
鮮やかすぎる連携。
我がホワイト・ラビットは、背中から泥水の中へ叩きつけられた。
――ガツンッ!!
激しい衝撃で、脳が揺れる。
「青葉区決戦」で眉毛のない総帥が『圧倒的不利じゃないかね、我が軍は』と自虐のパロディを披露する幻覚が視界をよぎった。
「おっ、おっ……!?」
背中を激しく強打したせいか、うまく息が吸えない。
外部映像を投影するゴーグルの視界の中に、青と赤の機体が突きつけてくるヘビィマシンガンの巨大な銃口が映し出された。
いまハッチを開けて飛び出し、拳銃を抜いてストーキング・スナッパーのカメラを撃ち抜くまでに、私は50口径の連射を食らってただの肉塊に変えられるだろう。
――詰み、だ。
ここまでか。
それでも私はなお、必死で呼吸を調えながら、シートベルトを外してハッチを開ける操作を開始した。
「あんたは、人間のクズだな!」なんて竪穴の底に放り込まれて「ざまあ」されないよう、必死で頑張ってきたんだけどなあ……。
【テイヘンズ補足小事典】
●赤のSS専用機、ストーキング・スナッパー
SS(スーパー・ソルジャー)ディアナの専用機。青のプルートゥ専用機と並び、エッセンシャル基地の損害を激増させている元凶。しかし『テイヘンズ』原作(およびボトムズ原作ログ)では、このタイミングの襲撃には参加していないはずの「不確定要素(バグ)」であった。
●ご一緒にもう3機いかがですか?
SS専用機2機に一般機も3機ついてくる、ワーカー・ゲリラ怒りのファミリー向けパック、または豪華おまけ付きハッピー・ミール(ハッピーセット)。絶望的なフルセットを押し付けられたカーニャとしては、どこぞの転売屋ごと滅んでもらいたいところである。