「終わったら、帰ってイイです」
「やったぜ! さっさと終わらせて遊んで帰るぜ!」
終業26時(午前2時)
「明日(?)もお願いします!」
など
あと書き溜めたものを一週間三回に分けて出すつもりが、
「なんかもういいです」
と今夜全部投稿します
次は多分また一か月後
カーニャ大尉だ。
原作なら主人公ジョルジョが、ライバルであるスーパー・ソルジャー『プルートゥ』に捕まって敵基地へ拉致されるはずだった。
だが——予測不能のバグが発生した。
いざ戦闘が始まると、なぜか原作にない流れになり、狙われたのはジョルジョではなく、この私、カーニャ大尉。
脇役に過ぎない私がスーパー・ソルジャー2人がかりで執拗に狙われ、敵(プルートゥ)に徹底マークされ、おまけに原作にもないもう1体のスーパー・ソルジャー『ディアナ』まで参加してきた。
ボコボコに乗機を破壊された挙句、「生かして情報を絞り出す」として拘束され、ゲリラの根拠地の牢獄へ連行されてしまったのだ。
「いや、なんでだよ! 原作通りジョルジョを捕まえろよ!」
私は前日から夜襲の対応、即座に敵出撃拠点の村の攻撃と働きづめだ。
なんでそこからの『虜囚』という連勤までさせられてるんだよォォォォ゙ッ゙!!
そして完璧なはずだった私の事前命令。
『万が一、兵員の行方不明者(=ジョルジョ)が出ても構わず撤退する。仮に私がMIA(行方不明)になってもだ! その場合はサリア、貴様が指揮を執って部隊を撤退させろ。フランコとジョルジョには気をつけろ』
これでジョルジョが勝手に消えても捜索の手間が省けるし、定時撤退の口実ができて、私は責められない!
私が捕まるはずはないから完璧な命令のはずだった……なのに。
私が捕まり、私の原作に沿った根回しが裏目に出て、誰も助けに来ない流れか!
『ナメルキャは、戦争で人口の四分の三が死んだよ……だから、あと一人くらいどうということはない』
頭の中に銀河万丈氏の声が響く。
続いて永井一郎氏の声が受けて続ける。
『私は、生き延びることができるのか?』
◆ ◆ ◆
エッセンシャルNo.10の兵士たちは狼狽えて叫び、右往左往していた。
敵を追い払い戦闘終結、集結地点に来てみれば、味方機複数の残骸があり、指揮官のカーニャ大尉が行方不明になっていたのだ。
「大尉は!?」
生き延びたグェン軍曹らの話では、襲撃してきた青と赤のリヴォルティング・タートル率いる装甲歩兵部隊に対して、大尉は村民たちを乗せたヘリを守り、最後は部下たちを巻き込まないよう敵部隊をジャングルへ誘導したまま応答がなくなったという。
「青と、赤だと……?」
サリアは眉を寄せた。
「なるほど……」
ジョルジョのつぶやきが聞こえ、装甲歩兵のハッチが閉まる音が響く。
敵、神聖クメソ王国軍が使う装甲歩兵。その青と赤に塗られた『リヴォルティング・タートル』は、『ストーキング・スナッパー』の名で識別されている敵のスーパー・エースだった。
エッセンシャルNo.10の損害を高めてきた青と赤の死神が、両方揃っているとは……。
「まずいな。生きて居ると思うか?」
サリアはボソリと、誰に問うのでもなく漏らした。
「いーや、やられたろうな。相手が悪い。名うてのワニガメ、青と赤の死神がそろい踏みだぜ。こいつらと、他にも敵を相手にしたら、オレでもわからねえ」
ウッズマンが首を振りながら唸るように言う。
「いつもの隊長殿の勘が、こんな時にも当たるとは……。ただしレーダーに金属反応はいくつかある。捜索も、追撃もできるはずだ」
巨漢のクエルト人、ルイス・オラトリアが選択肢を付け加えた。
サリアの脳裏に、あの強制収容所の生き残りみたいに痩せて目を凹ませたカーニャ大尉の声が蘇る。
『私になにかあった時はサリア、お前が代わりに指揮を執れ。私は、明日のクメソを担う人々を死なせたくないのだ。私がやられても、必ず、村人たちを守って安全圏まで送るように……!』
(※戦闘で混乱した記憶による捏造が入っています)
夜襲の場で偶然居合わせた上に、村でも出くわした彼の幼馴染メリッサに対しても、カーニャ大尉はなぜか体を張って死なせないようにしていた。
「で? 隊長代理、どうしますかい? 俺としては、この辺りの敵を『探し回って、滅ぼす』作戦行動を提案したいんですがね? 隊長が見つかるかもしれねえし、こんなナメた真似をした敵をぶっ叩いてやりてえ。こいつは戦場の掟、復讐戦だ!!」
フランコが提案してくるが、こいつは軍の組織行動を無視して、止められてもやる気だ。既にコクピットで起動と武装のチェックを始めている。
そう言えば、カーニャ大尉は『フランコとジョルジョには気をつけろ。何をしでかすかわからん』とサリアに警告していた。
「ジョルジョ。お前の意見は?」
返答はなかった。
「?」
先ほどまでいたはずのジョルジョ・デ・キリコと、乗機の装甲歩兵『エキサイテッド・ドッグ』は姿を消していた。
まさに『フランコとジョルジョには気をつけろ。何をしでかすかわからん』の通りだった。
◆ ◆ ◆
私は神聖クメソ王国軍(ワーカー・ゲリラ)の前進基地の一つに拉致された。
クメソ王国政府軍の将校としての待遇を要求したが、即座に拒否された。
クメソ王国と神聖クメソ王国。国を割った内戦で互いに相手を非合法勢力扱いしている上に、我がエッセンシャル基地は半官半民の傭兵部隊。派遣や外国人派遣労働者は立場が弱いようなものだ。
牢には何人か捕まっていたが、会話する間もなく私以外は外へ連れ出されていった。
湧き上がる歓声。
しばらくして、冷凍マグロを電ノコで真っ二つにしたような物体が幾つも運び込まれてきた。
先ほどまで生きていた、牢の捕虜たちだった。
(まずい……知っているぞ。鎌槍による決闘だ!)
クメソ王国に伝わる古い武術だ。原作では、プルートゥが捕虜にしたジョルジョをゲリラたちの前でボコボコにする。トドメの時にディアナが代わり、仕損じたフリをしてジョルジョを助けるのだが……。
私に声がかからなければよいと願っていたら、すぐに私も呼び出された。
そこは古い石造りの寺院を改修し、軍事施設をつなげた基地だった。
「プルートゥ……ディアナ……」
私は思わず呟いた。
原作『テイヘンズ』での主人公のライバル、プルートゥ。青の戦闘服に、貴公子然とした金髪長髪のアスリート型ハンサム男子。
「貴様、我々のことを知っているのか? 私たちの情報は漏れていないはずだが…」
一目見て思わずつぶやいた私の声に、プルートゥは訝しげな声を上げた。
そうですね。こちらは前世の画面で見たことがあるが、あんたは(私も実物には)初対面ですよね。
そしての左右には。
人間兵器としてのプログラム前にジョルジョを見てしまい、バグが出た美人スーパー・ソルジャーのディアナ。赤の戦闘服に、栗色の長髪をまとめたアスリート型の美女。
隣にいる神官服の男は、スーパー・ソルジャーをメンテナンス調整するセルジュ・ギンズボーロ司祭。最終決戦でジョルジョに追い詰められ、「くっ! 殺すなら、殺せ!!」と叫び、「それで済むなら、とうにそうしている」とジョルジョに返されるシーンは、元祖『くっころ』として女性ファンの間で大人気だった男だ。
そして長身の険しいハンサムヒゲ男、パリス・サンジェルマン第四王子。国の近代化の方向性と政局から神聖クメソ王国を立ち上げた快男児だ。親友であった近衛部隊のサロ・サリアに討たれることを望み、「お前を、愛していた」と言い残して死ぬシーンで、また世の女性ファンを中心に(以下略)。
今回、私は先のザンム村を焼き討ちした憎い奴ということで、ワーカー・ゲリラや神聖軍正規軍の前でボコボコにされてしまうらしい。
いきなり鎌槍(真剣)を手渡された。
私は一応、前世で薙刀、短剣道、銃剣道をほんの少し経験したことがある。だが、これは無理だ。ブランクがある上に相手は日頃練習している達人クラス。仮に私にできたとしても、今後の原作展開を破壊する重要人物たちを殺すわけにはいかない。縛りがきつすぎる!
長身の険しいハンサムヒゲ男、パリス・サンジェルマン第四王子とまず手合わせをした。
この人、脳神経と身体を改造したスーパー・ソルジャーに鎌槍で勝つバケモノですよ!? 勝てるわけがねー!
……のだが、足を使って間合いから逃れ、防御に鎌槍を手繰って弾いたりとにかくいなす。時々鋭く牽制。前世の記憶と今世の訓練で「待ち剣」的に咄嗟に対応したところ——相手は真剣部分を使わずに「全力を出して」きた。裏目に出たわ。
ガツガツと石突き部分でボコボコにされる私。
「殿下——ッ!! 殿下——ッ!!」
生サンジェルマンの凄まじい身のこなしを見て、観客の軍人やゲリラどもは大熱狂。プロ野球の7回の応援じゃないんだぞ。ボコボコにされる私の身にもなって欲しい!
そして選手交代。女性戦士同士、ディアナとの対決。
栗色の長髪をまとめたアスリート美女に、やっぱり石突き部分でボコボコにされました。当て方にサンジェルマンより容赦がない! まるで原作でカニュー大尉をボロボロに追い詰める脚本家のカセア・ツコのごとし。
必死で足を使い、両腕で鎌槍を操り、おまけに足やら手やら胴やら、庇ったけれど頭も打たれて、追い込まれて息も上がってヘロヘロですよ。
「へえ、へえ……」
大歓声の中、情けなく息をついている私の前に、貴公子然とした金髪長髪、アスリートハンサムが立った。
「最後のとどめは、私が刺してやろう」
プルートゥ。達人が交代で相手をしてヘロヘロにしたうえで、やっぱり達人が仕留めに来た。
私は鎌槍を上げた。来るッ! 鋭い突きや斬撃に、どんどん追い込まれる。「こんなのかわせねー!!」……と競パンの男子が踊っている。
そして、プルートゥのとどめの一撃が私の胸に入った!
避けきれず刃が胸を切り裂き、私は転がり倒された。倒れたままとどめを刺されるのは嫌だ! 私は……ぴょこんと起き上がった。
「あれ……?」
プルートゥの鎌槍は、確実に胸を切り裂いて私を仕留めたはずだった。私自身にも、なぜ生きているのか状況がわからない。
「何だとォ!? ヌンッ!!」
2撃目が入るが、私はまたぴょんと起き上がることができた。
プルートゥがちょっとパニックになっている。
「何故だ! 何故立ち上がる! ん何故だッ!!」
3撃目! 倒されてまたぴょんと立ち上がった私は、胸元を見下ろし理由を悟った。
「あ……」
「何だとぉ……」
私の軍服の胸部が大きく裂け、愛用の耐衝撃・防刃パッド入り下着が切れてぶら下がっていた。例の『胸ガード下着』のチカラだ!
そしてさらにその下からは、うさちゃんミシフィープリントのスポブラが剥き出しになっていた。今回のは特別お気に入りで、うさぎの傍らには「ぴょん!」の文字も入っている……。
熱くなっていたプルートゥが半口開けてまじまじと私を見ていた。急速に冷めて行っている。彼は刃を収めた。
「やめだ! ……いや、3回も致命的な攻撃を生き延びたヤツをいたぶり続けることは誇りが許さん。地下牢に入れておけ!」
連行される私とすれ違いざま、胸元を見たボンキュッボンのディアナが、優越感と憐れみの眼で「フフン!」と鼻で笑ってボリュームのある胸を反らした。
私を倒せなかったプルートゥが、「……真っ平らな胸で子ども下着を着けて、うさぎが『ぴょん!』だと……」とか呟いた……ような気がしないでもない。
だが、良いじゃないか!
自分を癒すゲン担ぎのうさちゃんミシフィー下着が、まさに命を救ったのだ。
『白いうさぎ(下着)でも黒いうさぎ(下着)でも、役に立つなら良いうさぎ(下着)なのだ』と、かつてこの国の宰相タンシャオピンまでもが言っていた(言ってない)。
うさぎは幸運の運び手なのだ! 自分を癒すゲン担ぎのうさちゃんミシフィーで命まで救った、私の選択を評価したい! わかるか、諸君!!
……生き延びた安堵だけでなく、何かに負けた悔しさが共に我にあり……は否定しないが。
ディアナめ、ちょっと胸を張って「フフン!」だとさ……!
◆ ◆ ◆
一方、ディアナの気配(あるいは妄想)を察知したジョルジョは、「ディアナを探す」という一心でゲリラ基地へ凸していた。
ジョルジョは「青と赤のストーキング・スナッパーが現れた」と聞いた時点でエキサイテッド・ドッグを起動させ、エッセンシャルの部隊から単身離脱して戦闘の痕跡を追跡していたのだ。
「ふん……」
鼻を鳴らす。見つけた。
カーニャの心配など1ミリもせず「ディアナの気配」だけを追って、勝手に敵地を進んでゆく。まさにカーニャの「何をするかわからん」が最悪の形で的中していた。
エキサイテッド・ドッグを隠し、敵の荒地走行車(バギー)を確保し、追跡対策にあちこちへとブービートラップ(爆弾)を仕掛けてゆく。特殊部隊の生き残りの技能をフルに使っている。
しかし基地内の事前情報はない。マップのわからないストーカー、「うろつく不審者」と化して、行き当たりばったりにディアナを探し続けた。
迷子になったジョルジョが適当に開けた扉の先で鉢合わせた見張りを倒し、配電盤を壊し、ゴミ捨て場や炊事室や大浴場や更衣室にも出現したり、兵舎の個室を次々と点検したり。怪しんでくる者は無視したり「無力化」したり。
ゲリラ基地全体に警報が鳴り響き始めた。
「謎の特殊部隊による大規模強襲」と誤認して、連鎖反応で大パニックに陥る。
デイヴィッド・マレルの小説『一人だけの軍隊(映画ラムボー)』ならぬ、『一人だけの不審者』なのだが……。
「……」
ジョルジョは、次の目的地に向かう!(ナレーション、銀河万丈氏)
◆ ◆ ◆
「明日は処刑だ。しっかり見張っておけ!」
「三日三晩、眠らずに見張ってやります!」
監視の兵どもは牢で鎖に縛られた私を殴ったりしていたが、一人を置いてどこかへ出て行った。
明日は処刑か。なのに三日もこやつはナニを見張るんだろう? と思ったのだが……一人残された二等兵は三日どころか5分も経たずに寝落ちし始めた。勢いしかないポンコツだ。
その牢の前に、ぬっと現れる不審者がいた。
ジョルジョ。ジョルジョだ! なんでここに!?
驚きで口をパクパクさせ、咄嗟に言葉が出ない私に対して、ジョルジョは平然としていた。
「……いたのか。カーニャ大尉。何でこんなところに」
「いや、囚われてな……」
「そうか」
ジョルジョはそのまま素通りして、距離を取った。別の通路へ行こうとしている可能性が大だ。
(こいつ! 『愛しのディアナ』以外頭にないな!?)
このままマジで置いて行かれる危険がある。咄嗟に私はヤツの意識をハックする言葉を発した。
「待て! 私の鎖を外して牢から出せ!【潮時だ、脱出するぞ】」
ジョルジョは近寄ってきた。
「仕方がないな。……『このまま眺めているのも良いか』……とも思ったんだが……」
「最低かお前は!? 囚われた味方の『鎖を外して解放するのが良いか』と考えろ!」
自由になった私は、眠りこけていた監視の兵、更に現れた士官を捉えて命令する。
「貴様ら、服を脱げ!」
「何をするんだ」
不審者ジョルジョめが、私の行動には文句をつけてくる。
「軍服を奪って、偽装する」
今更戦時国際法もあるまい。敵の軍服を奪って偽装してやるのだ。この世界でも正規の武装をした者同士が代表して争い、それ以外への武力行使は違法というルールがあるし、捕まえた正規軍人には正当な扱いがある。
だが、神聖クメソ王国軍とワーカー・ゲリラどもは、武装していない弱い立場や民間人への攻撃・殺戮も平然と行ってきた。
しかも惑星ナメルキャの国際連邦を後ろ盾に「戦時国際法? それが『正しい』我々に何の関係がある?」としらばっくれてきた組織だ。先ほどの私への扱いにもそれが出ている。こちらだけがルールを守る不利を、地の底谷の底に棲む神とやらに異議申し立てを要求しても構うまい。
しかもエッセンシャルNo.10の傭兵たちは、クルツ司令をつないでクメソ政府に雇われた半官半民のグレーゾーン。どうせ敵がまともに扱ってくれるわけもないのだ。
奪った軍服を着て、神聖クメソ王国軍の急造偽軍人2名が完成した。
「しかし貴様、何で貴様が少尉で、私が二等兵なんだ!」
「何故だろうな」
私の文句に、少尉の階級章をつけたジョルジョは表情も変えずに答えて歩き出した。
「どこへ行く!?」
不審者めは私の言葉を、録音を再生するかのようにオウム返しに繰り返した。
「『潮時だ、脱出するぞ!』。俺は脱出用に荒地装甲車を用意した。その先には俺のエキサイテッド・ドッグが隠してある。俺が歩き回った基地全体にも、逃亡ルートにも仕掛け爆弾が設置してある。敵に損害を与えながら追跡を遅らせることができるはずだ。まあ、大尉なんかではなく、俺のディアナと脱出するつもりだったんだが」
「憧れの彼女でなくて悪かったな! それも良いが、格納庫に向かう。そこで奴らの装甲歩兵を奪う。エキサイテッド・ドッグを使うまでもあるまい」
「そうか」
我々は、鹵獲したリヴォルティング・タートルを扱う訓練もしていた(深夜残業で)。それが今、活かされるべきだ。
ジョルジョが平然と将校然とした態度で格納庫に入り、二等兵の階級章をつけた私が後に続く。居合わせた兵士らが怪訝な表情を見せる間もなく、殴り倒す。
リヴォルティング・タートルに乗り込む。起動。訓練通り、やれるはずだ。
騒ぎの中、手当たり次第に武装を手にして辺りを破壊した。追っ手を減らしてから走り出す。さらにはジョルジョの仕掛け爆弾が派手に連鎖爆発を起こした。
そのまま合理的に離脱するかと思えば、ジョルジョは短時間姿を消して、隠したエキサイテッド・ドッグに乗り換えてきた。
「何だ、そのこだわりは!」
「使い慣れてるのが良い」
「では、マップは確認できたか?」
「ああ。南東のジャングルを抜けたら川だ。仕掛け爆弾のあるルートと同じだ」
「良し、ジョルジョ、貴様が先に立て」
私はジョルジョの後を追いながら、味方への救援要請をした。無線が通じるか分からないが……。
「こちらホワイト・ラビット。ブルー・ライオン応答せよ」
『大尉、生きていたのか!』
返答あり! ノイズ混じりで航空部隊のシンにつながった。
救援要請をしながらリヴォルティング・タートルを走らせる。その方角には先のザンム村があり、さらに先は我々の影響圏だ。何とかなるはずだ。
背後からは爆発音や爆煙が上がる。ブービートラップが追っ手を少しは減らして遅らせていると思いたい。しかし——
「まずいな……」
まだ脱出時の破壊工作を逃れたらしいヘリによる索敵と地上攻撃が始まった。おまけに前方進路上には、パトロールしていたらしい神聖クメソ王国軍の部隊が展開していた。想定外だが、自力で脱出しようとしない限り生き延びることはできまい。
私とジョルジョのリヴォルティング・タートルは、彼らに攻撃を仕掛けた。
何というか、さすがは原作主人公。味方についてまともな動きをさせると、これほど頼りになるヤツは珍しい。悔しいことに、我々は実に息の合ったコンビだった。まるで「コーツ大佐とジェド・郷士」のごとし!あっという間に敵を蹴散らし、先に進む。
しかし、その先にもまた別の部隊が現れていた。警戒していた辺りの部隊が駆けつけているらしい。これも撃破しながら引き離したが、その先にもまた別の部隊が!
まずジョルジョのエキサイテッド・ドッグが、敵ヘリから撃ちまくられて歩みが遅れた。そこにナパームが来る!
足止めからのナパームは私が何度も利用した手をやり返された形だが、これはやられたら本当にイヤなものだな!
「走れ!」
私はリヴォルティング・タートルのパワーを活かし、エキサイテッド・ドッグを背後から無理やり炎上地帯の外へ押し出した。
私のリヴォルティング・タートルも炎に包まれる。いかに気密性が高くても、掩体壕も無しで直に焙られては数分も持つまい。幸運にも機体自体に引火はしていないが、旧式のジョルジョの機体は新鋭機より気密性が劣る。堪えたはずだ。だからいちいち旧型に乗り換えるなと言ったのに!
「ジョルジョ、生きているか!?」
「無事だ。だがマシンが動かなくなった」
私はジョルジョの機体の前に出て、ヘリや押し寄せる装甲歩兵、装甲車両、歩兵に向けて残弾を惜しまず撃ちまくる。
ジョルジョはナパームで燃やしても再生する特異な生き物だから良いが、再生するまでヤツというこちらの戦力が1枚減った時間に、「この私」がやられる可能性が高い。
だからとにかく、ジョルジョには無傷でいてもらいたいのだ。
仲間思いではなく、かなり利己的だが現実に即した思考で、ヤツを庇って戦い続けた。ヤツが健在なら一発逆転もできるだろう……と思いながらも、原作続編の『テイヘンズ・ファイル』でジョルジョの配属された分隊は、ジョルジョ以外全員戦死していたことも思い出したが。
エキサイテッド・ドッグを庇いながらこちらの機体も何発か被弾し、残弾数と全然減らない敵の多さを冷静に計算して(多勢に無勢、まずいかな……?)と弱気になった、その時だった。
飛来した戦闘機隊が、ヘリをまとめて撃ち落とした! 雑音交じりの無線が入る。
『こちらブルー・ライオン。ホワイト・ラビットか?』
「こちらホワイト・ラビット。識別信号を発信した。それ以外はみな敵だ。ボーナスタイムだ、全部葬ってくれ!」
『了解!』
持ちつ持たれつ。シンの航空部隊だった!
日頃から仲間に敵は作らないでおくものだ。シンは食券と敵撃破&味方救援のボーナスを得て、我々は命を助けられる。WIN-WINの関係というやつだな。
シンの戦闘機隊による攻撃と爆撃で、形勢はひっくり返った。先ほどまで優勢に我々を追い詰めていた敵が、どんどん撃破されて後退してゆく。
敵はほぼいなくなったが、私のリヴォルティング・タートルも繰り返し被弾してナパームに焙られ、動きに支障が出ている状態だった。乗り捨てて行った方がマシと判断する。
「ホワイト・ラビットよりブルー・ライオンへ。救援に感謝する。機体を捨て、徒歩で南東の味方勢力圏に向かう」
『了解した』
リヴォルティング・タートルから飛び降りると、先に機体を降りたジョルジョが待っていた。
「感謝しますよ、大尉」
不審者が殊勝なことをいきなり口にしたので、こちらの調子も狂ってしまう。こいつに私へ礼を言う脳みそと口が装備されていたとは。
「礼を言うのはこっちだ。貴様が来てくれなかったら、あの敵基地で私の命はなかった」
でも、もしかしたら私の方も、原作主人公に感謝するようなまともな対応はこれが初めてだったかもしれない。
「ヘイトを溜めたら、さようなら」のざまあ一直線と分かってはいたが、ヤツの普段の不敬と不審者ムーブに接したら、怒鳴りつける以外の反応ができなかったからな。
いくら主人公とはいえ、いや主人公だからこそ、傍若無人にならず真っ当に生きることこそ周りも読者も視聴者も変えると思うよ?
私たちはジャングル内のゲリラが使う道を歩き出そうとした。
「さて、脱出するぞ」
「動かないで」
途端に、聞き覚えのある女の声がした。
ジャングルから、自動小銃を構えた女ゲリラ——メリッサが現れた。
「よりによって、私がいる方角に逃げてくるなんて……」
メリッサはため息をついた。
「メリッサと言ったな。なぜここに? 安全圏へ避難させてやったはずだ」
「私も、脱出してきたからね。……安心しなさい。借りは返す。女と子どもは殺さない。私が乗ってきたボートを使いなさい」
私の台詞(映画『レオソ』からのパクりだが)で返された。
私は女? 前世はともかく、今は一応な。そして子ども……子ども? ジョルジョの不審者ムーブは小学生男子並みだから、「(精神年齢)子ども」で正しかろう。公共交通機関が子ども料金で使えるかは知らないが。
怪しい女と子どもだが、殺さないというのはありがたい。川に繋いだボートに我々を乗せたメリッサは、そっと私に囁いた。
「それから、サリアに伝えて。子どもの頃のこと、忘れたことはないって」
「……わかった、伝えよう」
夜の闇の中、私とジョルジョはボートを発進させた。メリッサの姿はすぐに見えなくなった。
私は安堵のため息をついた。
原作にはない想定外が続く中のギリギリの綱渡りの末だったが、原作の命綱につながり、原作の要点を押さえながら生き延びることができた。
危なっかしかったが、だいたい文句のつけようはない落としどころのはずだ。
◆ ◆ ◆
「逃げられたな」
スーパー・ソルジャーのメンテナンスを担当する司祭、セルジュ・ギンズボーロが声をかけた。
プルートゥは、半壊して騒動と後片付けに追われる基地を見つめていた。
エッセンシャル№10の謎の女指揮官。毎回、彼の潜伏プロットを完全に先読みし、ピンポイントで謎の先制砲爆撃を叩き込んでくる。
単騎の戦闘力でもあのエキサイテッド・ドッグ(ジョルジョ)に準じるレベル。
虜囚にしても一切動じない。
挙句の果てに、身内のディアナを狙う最強の不審者(ジョルジョ)を『別働隊』として根拠地に突入させ、自身は完璧なタイミングの攪乱と破壊工作と追撃対策をして、見事に脱出してみせた。
白刃を防いだ胸を盛っていた下着とうさちゃんミシフィー下着の件を考えると頭がフリーズするので、その部分はスルーだ
「あの指揮官は、我々の動きをすべてチェス盤の上のように見越して対応して来る。我々スーパー・ソルジャーには及ばないながら……あれは恐ろしい指揮官だ……!」
……謎の先制砲爆撃はただの原作知識からで、単騎の戦闘力は単に対SS用プログラムの効用。今回の攪乱工作は、大尉が必死に生き残ろうとした結果とジョルジョの暴走が噛み合っただけ。
愛しのディアナを追って潜入するという、異能生命体ジョルジョの常軌を逸した行動力が偶然生み出したドタバタに過ぎないことを、神ではない身の彼らが理解できるはずもなかった。
◆ ◆ ◆
私はジョルジョと交代でボートを操りつつ、緊張がほぐれてゆくのを感じていた。今更ボートがワニに襲われたり、大蛇に襲われるようなことも……あるまい。
今回の作戦は(今回の作戦も?)原作にはない流れとなり危なっかしかったが、だいたい文句のつけようはない落としどころ……そのはずだった。
私とジョルジョの乗ったボートが村に近づいた時、なぜか見慣れたエッセンシャルの兵士たちに迎えられるまでは、な。
そこで私は目を剥くことになった。
「隊長! ご無事で!」
何か消耗したサロ・サリアが、目に涙を浮かべて敬礼で迎えた。
「サロ・サリア! 貴様がついていながら、なぜ部隊を撤退させなかった! 貴様らなんでまだここにいるんだよ!」
私とジョルジョは、我がエッセンシャル基地の我が部隊に保護された。
こいつら、私の事前の命令に背いてザンム村に居残り、ワーカー・ゲリラと小競り合いを続けて弾薬を消費し続けていやがったのだ。マジか。
サリアに怒鳴ってから、私はそっぽを向いてボソリと続けた。
「……おかげで、助かった」
命令違反だが、救助されて強い文句も、礼も言いづらい。サリアが怪訝な顔で見つめてくる。
「……いや、おかげで助かった。感謝する」
私はそっぽを向いたまま、また呟いた。
「隊長殿! お声が聞こえませんでした!」
巨漢のルイス、「ざまあ」の私の死刑執行人に強要されて、私はビクンと震えた。決して恐れで迎合したわけではない、ちびってもいない、たぶん!
(エイシカタナイ、イウカ!!)
自棄になって開き直り、心の中に前世の外人派遣さんを召喚して叫ぶ。
「…… お陰でっ! 助かったと言ったんだっっ!! この命令違反の小学生男子ども、聞こえたか!? 貴様ら、命令違反はともかく、よく捜索してくれた! 我らがエッセンシャル№10の団結に、神の祝福があらんことをっっっ!!!」
一斉に歓声が上がり、連中に囲まれてどやされた。
苦楽を共にする現場の仲間、前世と同じ、戦友だ。何やら照れ臭いが、未来を放棄して今を生き延びる社畜仲間の仁義は、前世と同じだ。
掃討で敵をたくさん倒した成果にご満悦の筋肉男ティン・ウッズマン。誠実に仕事をしながら裏ではこちらの『ヘイト・ポイント』の勘定をしている大男の死神ルイス・オラトリア。洗っているかわからない手で握手を求めてくるジョルジョ・デ・キリコ。フランコは甘酸っぱい村の密造焼酎を持ってきて乾杯させてくる。そしてグェン軍曹、その他の面々。
私は冷静で理知的に見えて直情的な面もあるサロ・サリア、ヤツの耳元で囁いた。
「実は、メリッサに会ってボートを譲られて助けられた。お前にも改めて礼を言う。それから、彼女からお前に伝えてくれと頼まれた。『お前との子どもの頃の記憶は、忘れたことがない』とさ」
「伝言、感謝しますっ! 隊長っっ!!」
サリアは生真面目に力を込めた握手と敬礼を返してきた。
まあ、こういう漢が不幸になる目は見たくない。
我々はヘリに分乗し、破壊された村とジャングルを後にする。
中身が恐らく村の密造酒だろうポケット瓶を煽りながら、いつまでも上機嫌ではしゃぐのが止まらないフランコに、周りは疲れて引いてしまっている。
「隊長殿、俺たちゃお手柄だ! 臨時ボーナス間違いなしですね?」
「命令違反のロスでプラマイゼロだ! それからまだ気を抜くな。ボーナスも酒もアイスクリームも、生きて帰ったらの話だ!」
ヤツに怒鳴り返しながらも、私自身はいつしか寝落ちしていた。
◆ ◆ ◆
私は、基地の病院に収容された。
装甲歩兵でもやられたし、サンジェルマンやディアナやプルートゥにはあの鎌槍でど突き回された。監視の兵にも殴られた。全然、健康体ではないのだ。
しかし夜分、点滴を受けている私のところにクルツ司令がわざわざ出向いてきた。
口頭で状況を説明させられ、敵の虜囚となる失態と、命令違反をする部下への教育不足、その愚かな行動による弾薬や燃料のロス、敵掃討と航空支援のコストについてみっちりとお叱りを受けた。きつい酒と葉巻の臭いと体臭つきで。
彼が帰った後、私は病床で点滴を受けながら、休む暇なく報告書作成の残業に取り掛かった。
前世の医師の「死にますよ?」という呆れた声が、聞こえる気がする。
「全然、定時じゃねえぇぇ!!
残業なんかじゃない、私は自分の生活時間が欲しいっっっ!!!」
悔しいけれど、想定内だね!(歯ぎしり)
【テイヘンズ補足小事典】
● 「人口の四分の三が死んだよ……だから、あと一人くらいどうということはない」
某・最低野郎アニメのオマージュ。
原作アニメ放送当時、この直後に主人公が酷い拷問を受けるシーンに脳を焼かれたお姉さま方が、彼が酷い目に遭う展開を楽しみに毎週熱心に視聴した……のかもしれない。
● 「私は、生き延びることができるのか?」
宇宙世紀アニメのナレーションの次回予告における、お馴染みの決め台詞オマージュ。
● 『探し回って、滅ぼす』作戦行動
いわゆる「サーチ&デストロイ(索敵撃滅作戦)」。フランコ流の物騒な解決法。
● 「白いうさぎ(下着)でも黒いうさぎ(下着)でも、役に立つなら良いうさぎ(下着)なのだ」
カーニャ「元・中国最高指導者、鄧小平(タン・シャオピン)の名言『白猫黒猫論』だ!」(違います)
なお、うさちゃんミシフィーのスポブラを着けた大尉は、月に誓ったうさぎのパワーを宿らせる。致命的なはずの鎌槍で倒されてからの「ぴょん!」は、プルートゥを戦慄させた。その平坦さに魅了されたのか否かは不明。
● 一人だけの不審者
✕ ジョン・ランボー(映画『ファースト・ブラッド/たった一人の軍隊』)
◯ ジョルジョ・デ・キリコ
「戦場(前線)にいる時は100万ドル以上するスーパー・ソルジャー(ディアナ)に会わせてくれたのに、正規軍を脱走して傭兵部隊に入ったら会わせてもくれない!」と理不尽にキレて単身潜入した、ただの危険なストーカー。
● 「残業なんかじゃない、私は自分の生活時間が欲しいっっっ!!!」
植民地惑星の独立戦争を描いた鷹羽・資料輔監督の某・ロボットアニメ(ダ〇ラム)の切実な予告決め台詞。
“Not even justice, I want to get truth.(正義なんかじゃない、僕は真実が欲しい)”
……が、大尉の脳内をよぎったらしい。戦場で求めるものが「真実」ではなく「アフター5(自分の生活時間)」なのが悲しき社畜の性(さが)。