装甲歩兵テイヘンズ TS転生・労働生命体カーニャ   作:水辺ロープ

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コスパという流行で人を削り、人を育てず。
人材がいないからと言葉の通じない外国人派遣労働者で人数だけ揃える。
バブル期・氷河期から綿々と続く、愚かな行為。

ある者は悩み、ある者は職場に絶望する。
人は素直には育たず、組織も世代も素直には育たない。
だが、曲がった営みは絶えることなく続き、また誰かが罵る。

「お前が辞めても、代わりはいくらでもいる。
小遣い稼ぎにわざとダラダラ残業しやがって!」

しかし、底辺労働者は昨日も、今日も、明日も働き続ける。
ただ、生き延びることだけを信じて——。


次回、『急変と思惑 一思いにやってもらおう!』

顕現しない祈りが、神に届くことなどあるのか?


急変と思惑 一思いにやってもらおう!

● 急変と思惑1 一思いにやってもらおう!

 

さて。カーニャ大尉である。

 

敵前進基地からボロボロになって脱出した私は、基地内の軍病院へ入院していた。

 

前世で39度台の腎盂炎(じんうえん)で倒れた時、後からの申請で有給を使ったことを思い出す。なお、入院はせず動けるようになったら即出勤していた。使うことなく余る有給は、休日を「有給消化」扱いにされて給料に換算される買い取り式だったか。

……お金より生活時間が欲しかったな。

有給の買い取り、使えず消えるよりはまだマシだが、これも労働基準法違反か? どこでも普通にやっていそうだが、普通ではないのか?(バグが基本プログラムになっていて除去できない)

 

そして現在。

私は入院しながら勤務している。

フレックスタイムや在宅勤務よりも、一歩進んだ新しい働き方、『病床リモート』あるいは『点滴就労』である! 地の底の父なる神よ。他人には勧めませんが、大丈夫ます、カーニャ、頑張るます!(やけくそ)

 

クルツ司令が急遽、国際都市ザイゲンへ飛んでしまったため、留守を頼まれた私が司令不在の間の基地指揮を執る羽目になってしまったのだ。ベッドで点滴につながれ、包帯と絆創膏まみれの格好のままで。

 

軍事なんか前世の『テイヘンズ』の放送内容しか知らない(これ、軍事知識と呼んでいいのか?)私が、✕危地司令代理、いや 〇基地司令代理とは!!

 

「形だけだ。お前がやらなくてはならない仕事はないから、病床での留守番で大丈夫だ」

とクルツ大佐は言っていたが、そうはなるまい。そしてここには間違いなく大きく厄介な「イベント」が起きるはずだ。ひとつは……、そしてもうひとつは……。お前さんにはやれないことならば、私がこの手でやるしかなかろうと、前世の七人の警察特殊部隊セヴン・スター?も言っていた(かも知れない。違うかも)。

 

そして「お見舞い」と称してやってきては、点滴につながれた私の横で見舞い品を貪り食い、持ってきた酒(?)を飲み、果ては消毒用アルコールまで飲んで酔っ払うフランコたちが心底邪魔だった。

 

なんで! わざわざ私のところに来るのか!

 

しかも、入院患者の見舞いに酒を持ってきて。しかもそれを自分らで飲んでるし。

なので、次々に酒を勧めて酔い潰し、巨漢のルイスにお持ち帰りをさせた。

この病室はヤマトタケル伝説やヤマタノオロチ退治の現場じゃないんだぞ!

 

あと、真面目で酒も賭けもやらず、黙々と働きながらヘイトポイントを採点しているルイスも何故か顔を出すのは怖いです。こやつ、原作の最後で私を「あんたは、人間のクズだな!」と竪穴の底、ろくでもない神の元に投げ落とす処刑執行人だからな。

 

夜、クルツ司令に同行したセシリアと「アイスクリーム利権の商人ゴトー」から、内密の電話があった。

 

「ナメルキャ連邦政府が、神聖クメソ王国を見限って、我々クメソ王国政府側についた!?」

 

来た! クルツ司令が出向いた極秘会談の結果である。

 

惑星ナメルキャ内において、反体制側である我々クメソ王国政府。ナメルキャ連邦は我々への嫌がらせとして、クメソの反乱勢力である「神聖」クメソ王国とワーカーゲリラを密かに支援してきた。

クメソの王族も「政府側」と、神聖を名乗る「反乱側」の両派に分かれて対立しているのだ。

 

我々政府側が神聖王国側に攻勢をかけると、ナメルキャ連邦が様々な圧力や規制をかけてくる。それが制限となり、現場戦力では勝てても神聖王国に止めを刺すことができなかった。

そのナメルキャ連邦が「神聖」ワーカー側を切って我が政府側につくという大転換——これこそが今回の秘密会議、歴史の大分岐点である。

 

そして。

また電話が鳴った。

 

(なんでこの世界の電話は、全部ダイヤル式の黒電話なんだろうな……)

 

と思いながら、私は受話器を取った。

 

「こちら№10司令室、カーニャ大尉だ」

司令室というか病室なんだが。個室であることが救いである。

『大尉殿ですかい? 緊急の情報があるんでさあ!』

「お前か」

 

悪ぶったインテリ、デ・スタソの声だった。

元ワーカーゲリラの指揮官であり、ゲリラから脱した今も、戦争を商売にした生き方から抜け出せずにいる男だ。

 

『……とびっきりのネタですがね。俺も身の回りが危ねえ』

「何だ? ゲリラの大攻勢の裏付けか?」

『ドンピシャ! やつら【街の中】で蜂起して、外部からの攻勢を招き入れる計画でね。今日明日にも蜂起が起きる勢いでさあ!』

「街の乗っ取りか?」

『ズバリですよ。目障りな街の要人を一網打尽にして、従わなさそうな人間もリストアップしてある。まとめて処分して、進撃してくる神聖王国軍に街を明け渡し、全体を寝返らせる気だ。戦後を見据えた人選び、【大粛清】ですよ。これまでの拉致や脅迫、殺人は、すべてこの前段階だったようですな』

「……もうひとつ聞きたい。この大攻勢は、ボイコツとエッセンシャルに対してだけでなく、【クメソ全土での大攻勢】ではないのか?」

『……これは鋭い。全土で一斉蜂起が起こる可能性があり得ますな。ただ、俺の潜伏範囲じゃ確証は掴めませんでした。確実なことは、ボイコツでは今夜か明日、内部から攻撃が起きますよ』

「私からボイコツに指示を出しておく。よくやった、一杯奢らせてもらおう。そのためにも貴様は生き延びろ。基地に避難するか?」

『ありがてえ。まあ、街に潜んでますよ。生きてたらまたお役に立ちます』

「⋯それからな、私からもお前に情報を渡してやる。リタと言ったか?【女を疑うな】。今だけはな」

『はあ……それは?』

「今朝の占いだ」

 

ジスカール・デ・スタソ。

元ワーカーゲリラのよしみでかつての仲間に取り入り、ゲリラの作戦や組織情報を我々に売りつけている男。私もこの男が「この世界」にいるとは思いもよらなかった。

 

「原作」での彼は、神経をすり減らす過酷な生活の中、自分を信じて慕ってくれる女を「正体がバレたか?」と疑って殺してしまう。その後、雇い主に日の当たるポストを要求して、断られて雇い主も発作的に殺してしまう。

 

救いようのないダメ男だが、なぜか他人とは思えないものがある。

……守護神(ヒロ・セマサシと呼ばれる声優と、脚本からにじみ出る社畜臭)が同じなのかもしれない…?

 

◆ ◆ ◆

 

「大規模夜襲が迫りつつあり! 主目標ボイコツ。陽動作戦としてエッセンシャル基地。場合によっては全土の一斉蜂起もあり得る」

 

私は原作知識のアシストを受けて展開を読み、すぐさまクルツ司令へ緊急連絡を入れた。

クルツ司令からの命令で、ボイコツの街と基地には戒厳令を指示。砲兵隊や航空部隊にも連絡し、基地全体を総動員した。

 

街と基地の周囲には前進基地を構築し、襲撃に備えさせてある。クルツ司令に提出しておいた「改善提案」の賜物だ。

そういえば前世の某チームでは、改善提案の提出率で社内表飾を受けたことがあったっけ。最後にいた職場では「トップダウン以外認めない! 我々の指示を聞くだけでいい!」だった気がするが。

 

それにしても、ボイコツの市街地を標的にするなど、前世なら民間人攻撃の国際法違反ではないのか? 神聖王国とワーカー・ゲリラは、この民間人への死の脅しと恐怖で、支配に従順に従う民を作ろうとしている。やり切れないが、効果はあるだろう。

 

襲撃は原作通り読めていたため、戦力の主力はすでにサロ・サリアに任せて、敵主力が来るはずのボイコツの手前に配置してある。

 

「よし、サリア。部隊を前進させろ。敵部隊を発見次第、砲撃と爆撃を要請して先制で潰せ。少数は別働隊として街の中に残し、ゲリラの蜂起に対抗させろ」

『しかし大尉、これはクメソ全土の一斉蜂起の一端では?』

 

サリアも、私や情報屋のデ・スタソと同じ結論に至っていた。私のような原作知識などないのに、さすがは元正規軍将校、本職だ。

原作では主人公の周辺、つまり基地とボイコツの街への襲撃しか描かれていなかったが……。

 

「おそらく、ナメルキャが神聖政府を見限ったことで計画を前倒ししたのだろう。ボイコツへの攻勢は予想していた。街の内部からの呼応も、セオリー通りのやり方だな」

 

古くはトロイアの木馬の伝説と同じだ。

街に潜伏していた「ヘビ」の組織が内部から街を掌握する。支配地域で従わない人間はリストアップされ、余裕があれば「再教育キャンプ」という強制収容所でより分けられすり潰され、余裕がなければまとめて処刑虐殺されるだろう。虐殺と恐怖により従える、スムーズな「神聖クメソ王国」建設への道だ。効果はあるが、フェアではない。

 

先日までにぎやかに生活していた人々が、町はずれのジャングルから掘り起こされる針金で後ろ手に縛られた大勢の死者になる、縛られて川に浮かび沈み引き揚げられる大勢の死者になる、荼毘の煙、思わずその場から離れたくなる人々の泣き悼む声、におい…かつてのゲリラとの戦いの記憶のやりきれなさに、私は歯噛みしながら立ち上がる。

 

「あ……?」

 

興奮して熱くなったのが良くなかったらしい。

視界が揺れ、私の顔を硬い何かが叩いた。

 

(あ……打たれたのではなく、意識が遠のいて床に倒れたのか……)

 

前世から慣れ親しんだそんな思考を残し、意識は暗転した。

 

◆ ◆ ◆

 

電話を切らないまま、カーニャは貧血と立ちくらみで倒れてしまった。

 

だが——カーニャが敵の前進基地から生きて還ってきたこと、そして急な「戒厳令や命令の乱発」や「謎の暗号電話・電波」を警戒していた『軍情報部』が病室に踏み込んできた。

 

彼らは、口を開けて床で盛大に寝落ちしていたカーニャを「スパイ容疑」で拘束・拉致したのだった。

 

◆ ◆ ◆

 

気がつくと、椅子にがっちりと縛り付けられていた。

「ええっ!? これは、原作でジョルジョがやられて、ソッチ系が好きなお姉様方に絶大な人気を誇ったシーンでは!?  何で私が、ジョルジョの代わりに薄い本のターゲットみたいな目に!? やり直しを要求する!!」

 

私は傭兵基地であるエッセンシャルNo.10内にある正規軍の縄張り、情報部の尋問室にいた。

目の前には、見覚えのある伊達男が立っていた。

 

「……サヴィツキィ」

 

思わず名を呟いてしまい、相手はギロリと睨みつけてきた。

 

一介の戦闘部隊の大尉が、情報部のエースの顔と名前を知っているとは思わなかったのだろう。

原作には出て来ないが、目立つので知った。軍情報部、首都ザイゲンのノックダウン街10番地(政府)に近い男だ。仕立ての良いスーツに整えられた口髭、長身。皮手袋に帽子。しかもチャラ男ではなく苦労人、ふわっと幸水のような香水(洒落、たぶんシトラスか洋梨系の高級香水だろう)が香る。噛みしめるほどににじみ出る男くささ。う~ん、マソダム。メダカの水槽に入れた煌めく金魚みたいな存在だ。女性士官どもがキャーキャーする噂話にも上がっていた。

 

……サヴィツキィが帽子を外して手袋を直した。尋問開始だ。

 

「貴様にはスパイ容疑がかかっている。あの密談電話は何だ? 拉致されたゲリラ基地から、なぜ生きて還れた? 取引をしたのか? それとも最初からグルか? だいたい貴様は日頃から動きが怪しすぎる! 朝から深夜まで休暇も取らずに働きづめ、怪しい戦闘プログラムを開発し、休日にも基地や前線に顔を出す! どこに雇われた? ワーカーどもか? ナメルキャか? 両方か!?」

 

……クルツ司令がいない隙を突いて、好き勝手やってくれやがる!

脅し用に電極やら刃物やら警棒やら工具やらが出されたものの、皮手袋の拳でサンドバッグ代わりにされることも、薄い本のような展開になることもなく、延々と堂々巡りの問答が続くだけだったのは幸い?か。

あと「怪しい」と言われている動きは限界社畜の基本行動でしかありません。怪しくないです。仲良くしましょう?

 

「邪魔をするな、サヴィツキィ! 基地と街にワーカーどもの大攻勢が来るんだ! 迎撃させろ! 内通した『ヘビ』の組織が内部から首脳陣を一掃し、外部の敵を引き込むぞ! 街に入り込まれたら、市街地ごとぶち壊して解放するハメになってしまう! 復興にバカみたいなカネと歳月がかかるぞ!」

「街を壊すだと?  そうしなければ良いだけの話だ!」

「市街地に立てこもられたら、建物を砲撃と爆撃でひとつひとつ潰すしかないだろうが!」

「また砲撃と爆撃か! 記録通り、 貴様はいつもやり過ぎだ!」

「だから!! そうなる前に敵の計画を潰すと言っている!!」

「一介の戦闘部隊の大尉が、なぜそこまで敵の動きを知っている!? 尻尾を出したな! ナメルキャのイヌめ!!」

「それは……司令がブラックで、何でもかんでも私にやらせるから! イヤでも自然にイロイロ知ってしまうだろーが!!」

 

心の叫びが爆発した。

 

「戦闘プログラムの開発から、装甲歩兵の改善提案、作戦立案、現場の整備、補給部隊の代行、正規軍の護衛、新兵訓練、人員配置、洗剤入りの酒を飲んで緊急入院したり逮捕された兵隊どもの確認と身請け! 司令の吸う葉巻の買い出し!! 市民とのふれあい芋煮会イベントの屋台設営に司会に売り子まで!! 

リクルートポスターのキレイどころの端に写らされたら市民から『あんな痩せてクマができるような人がいる組織はブラック』とか噂が立つわ、頼まれて出たのに広報部から『あなたのお蔭でポスターが回収になった』と文句を言われるわ、朝から深夜まで、自室でもしごと、寝るのは明け方、さらに連勤! 有給はほぼ40日近く溜まったまま! おまけにスパイ疑惑! 『日頃から動きが怪しすぎる』と言われても、要求される日常の労働内容と量がおかしいだけだろうが!!」

 

……言っちゃった。

日頃の怒りとブラックな状態の告発を込めて、クルツ司令に全部責任転嫁して誤魔化すつもりが、自然にイロイロが早口の奔流となって止まらなかった。軍情報部! できれば労働基準法に基づきクルツ司令を取り調べて欲しい。

まあ、敵の襲撃を知っているのは100%原作知識なのだが、日頃からパワハラをかましてくるクルツ司令には、今回泥をかぶってもらうことにしよう。

 

「大体だな! 何年か前の私のビーチでの休暇の際、水着の胸の高さを測量したという噂が情報部から出たのは本当か? まさか貴様、私に気がある変質-」

「それはない」

 

思いきりかぶせて否定された。

 

「わざわざ私の休暇先のビーチまでストーキングして隠し撮り…」

「それはない! 断じてだ!」

 

私の申し立てをサヴィツキィは繰り返し否定したが、私の疑いは晴れない。先日の「軍事機密」に思い至って、頭がカッと熱くなる。

 

「いやもしかして、飲食店を探す私を尾行したり、先日にセシリアと赴いたビーチにもついてきて、職務の名目で盗撮…」

「もしそれが軍事的に必要ならば行う! しかし我々は、個人の趣味で貴様を『測量』するほど暇ではない! 我々を変態扱いすることだけは絶対に許さん!」

「本当かぁ? 情報部は我々と違って、かなり時間や予算の使い方に裁量が許されるのではないか? それに、口さがない兵隊どもが喜んで噂するような言葉を流して状況をコントロールするのは、情報部が得意とするところのはずだが?」

「それもない! 部外者の偏見、ひがみに過ぎん。そして口さがない兵隊どもの噂まで、我々のしごとの範疇ではない。が、妙に先を読んだおかしな動きをする貴様は、数年前から我々が目をつけていたことは事実だ。ナメルキャのスパイという疑いだ!」

 

 

ドンドン! ドンドン!!

突然、ドアが喧しく叩かれた。

 

『大尉! 俺たちを戒厳令で厄介払いしておいて、情報部の奴らと上物の酒を飲もうたってそうは問屋が卸しませんぜ!!』

 

うわぁ……フランコだ。情報部に押しかけて来やがった!

何故だ!? サリアと一緒にボイコツの防衛に出ているはずでは!? わたしはこんらんしている!

 

「酒だと……?」

突拍子もない突撃理由に、サヴィツキィの思考も追いついていない。

 

『探したんですがね、この部屋の他は! 病室にいい匂いがしてましたからね! 隠して飲んでたって無駄ですぜ!』

……それは、もしかしたら寝落ちしていた私を確実に大人しく拉致するための、麻酔薬の匂いではないだろうか。あるいは、情報部の伊達男のつけている香水のにおいとか。

 

サヴィツキィが一喝する。

「特別尋問中だ! 帰れ!」

 

静かになったかと思ってしばらくして——窓から何かが猿のように飛び込んできた!

フランコが、外壁をよじ登って窓から突入してきたのだ。ちなみにここは4階である。

 

「一盃いただきますぜ! 酒ぇぇぇっ!!」

 

あっけにとられる室内の真ん中で、フランコはテーブルにあったグラスを奪い取って煽った。

……中身はただの水である。

 

「貴様……4階の窓から何をしに侵入してきた……?」

サヴィツキィは頭を抱えて唸りを上げてため息をもらした。

 

私を助ける口実ではなく、ホントに隠れて飲んでる旨い酒があるはずと、酒欲しさに脳がバグって(いや、いつものことだ)狙ってきたなんて、そんなバカなことが…あり得るのが我がエッセンシャルだ! 自慢にならないけれど。

 

「え? 水? 酒は? ……てか大尉、なんで縛られてるんです?」

 

自慢にならないけれど、これが我がエッセンシャルなのだ!…大事なことなので繰り返しました。

 

そこへドアが解錠され、ジョルジョが入ってきた。ピッキングだな。ディアナを探して不法侵入ばかり繰り返している不審者の面目躍如である。

 

サヴィツキィが拳銃を抜いて突きつける。

「何だ貴様は! …ちょうどいい、ジョルジョ! 貴様、報告書に書いていないことがあるな!? 前進基地でのことだ。カーニャ大尉がなぜ殺されずに帰ってこられた!? あそこで何か取り引きをしていたのではないか?」

 

「ああ。あの時か。大尉は見せしめにサンジェルマンとかいう偉そうな男たちに鎌槍でド突き回されていた。敵がトドメを刺そうとした瞬間、寄せて上げて盛っていた下着が攻撃をガードしてギリギリ殺せなかったんだ。そして、裂けたガード下着の下から『うさぎ柄のお子様下着をつけた平らな胸』が出てきた。処刑人があまりの落差に呆気に取られて処刑が流れ、俺が基地を爆破して回っている隙に地下牢から救出した。……それだけだ。ところで、俺のディアナの情報を知らないか?」

 

ジョルジョは淡々と応じた。

 

サヴィツキィが、深ーく息を吐いた。

おそらく前進基地に潜ませていたスパイからの情報と、奇跡的に噛み合ってしまったのだろう。

 

「敵と通じたのではなく……本気の殺し合いの最中、盛っていた胸の下から真っ平らな胸と子ども下着が出てきて……情けなさで完全に白けて殺せなかったと!?」

「あの場ではな。俺が助けなければいずれ殺されていたさ。まあ……『このまま眺めているのもいいか』とは思ったが」

 

ショックで動きを止めたサヴィツキィの隙をつき、フランコが気にせず私の縄を解いている。

 

しかしジョルジョの奴、あの決闘という公開処刑で私が殺されそうになるのを「このまま眺めているのもいいか」していたんじゃないか!

 

更にはサヴィツキィの口が滑った「真っ平ら」「情けなさで白けた」という追撃の言葉。

私は激怒した。

必ずや、この邪悪な情報部の色男を「わからせ」ねばならぬと決意した。

私には諜報活動などわからぬ。けれども貧乳ネタという邪悪に対しては、人一倍に敏感であった!

睡眠不足で点滴を打ちながら病床で仕事をし、それすら中断させられた挙句、ボイコツの……いやクメソ全土の危機が迫る中で、貧乳だの何だのと好き勝手に言われてたまるか! 文句の100本も言い返して良いはずだ!!

 

「大体だな……誰が貧乳だコラァ!!」

「いや……『それ』だろう……」

 

問いつめられたサヴィツキィが、私の胸を見ながらぽろりと漏らした。

素で出た一言だけに、100%本音である。

 

「くっ……!!」

 

畜生め! 「わからせ」るつもりが「わからせられ」た! かくなる上は⋯っ! 私は激情に駆られて胸元をはだけ、今日も着用していた「うさちゃんミシフィーのスポブラ」を剥き出しにして叫んだ。

 

「くっ、殺せ! 私の負けだ、サヴィツキィ! 殺せ! ひと思いにやってもらおうッ!!」

「落ち着け大尉。貴様のくっころに欠片も需要は無い!!」

「まあそれはどうでもいいんですが、酒はどこにあるんですかい?」

「俺のディアナの情報がここにあると聞いたんだが……。知らないようだから、帰って寝ていいか……?」

 

カオスを極める尋問室に、慌てふためいた伝令が飛び込んできた!

 

『報告します! エッセンシャル基地およびボイコツ市街地に、ワーカーゲリラの大規模襲撃!!』

「「何だと!?」」

 

そうだ。何があっても仕事に対処するのが我が信条だ。

サヴィツキイに激怒していた私は、我を取り戻した。

「ボイコツの街の中で、すでにゲリラが呼応して蜂起を始めているはずだ! サヴィツキィ、協力しろ!」

 

私はすぐさま基地司令部へ移動した。スパイ疑惑だのいろいろは、なし崩しでうやむやである。

情報部の連中とジョルジョ、フランコはヘリに押し込み、ボイコツ防衛へ追いやった。

 

原作にある大攻勢イベントが起こり、そしてもうひとつ、ジョルジョ尋問イベントも起こった。何故かジョルジョではなく私が拉致されて尋問されていたのが解せないが。

 

……しかしその拉致もジョルジョとフランコのおかげで解放された。

ただし、ボイコツでゲリラを迎撃中のサロ・サリアが、わざわざ戦力を割いて彼らに私を助けに来させた……のではなく、「何をするか分からない問題児ふたり」を、私の方へ厄介払いしてきた疑惑が極めて濃厚なのだが——!?

当たっているだろうか?




【テイヘンズ補足小事典】

●顕現しない祈りが、神に届くことなどあるのか?
神も(警察も労働基準監督署も)まず情報が無いと動けません…。
「労働基準監督署です。先日の労働相談の件で確認したいことがございまして――」
誰かの告発があったのか、留守電に気が付くタイムカードを切って働く25時。翌日も休憩を取らず連勤なので、かけ返すことを忘れてそのままになったり(実体験ではない…と良いですね…)

●有給の買い取りは違法か? どこでも普通にやっていそうだが
仕方ない、とはいえ違法だし、「どこでも普通」ではないです。

●なんで! わざわざ私のところに来るのか!
野生動物、または野生の(精神年齢)小学生男子どもに理性的な行動を求めても無駄です。

●ジスカール・デ・スタソ
ワイアード・デ・スタソ、コール・デ・スタソとも。某植民地惑星のゲリラ幹部だったはずだが、ここでは元ワーカーゲリラの指揮官の一人であり、ゲリラから脱したあとは、ゲリラとのつながりを生かした密告屋、情報屋として生活している。
理想に敗れた闘士が、理想と現実を処理しきれず生き方に苦闘するパターンの体現。

●クメソ全土の一斉蜂起と、支配地域での従わない人間の選別・虐殺
クメソ全土で、カーニャが苦悩する以前の体験が再現されてしまう。ボイコツの街では果たして…?

●ヴァシリー・サヴィツキィ
軍情報部の鉄のような華々しいエリートで、地方の小貴族出身だが、実はたたき上げの苦労人である。この後、ボイコツ市内の戒厳令、クメソ全土への警報その他と対処に活躍。断じて!さび付いたりはしていないはずですが。

カーニャについての調査ファイルを再度チェックした際、チームの部下による「飲食店を探すカーニャを尾行したり(呼び込みに「お兄さん」と誤認して呼び掛けられる軍事機密)、セシリアと赴いたビーチの隠し撮り(平らな胸から若い男かと誤認したゲイのイケオジにナンパされる軍事機密)」を撮影したお笑いファイルを発見して、胃を押さえ頭を抱えることになる。

●「くっ、殺せ!…ひと思いにやってもらおうッ!!」
自暴自棄になったカーニャが胸を貫いて処刑・介錯してもらえることはなく、またいわゆる「くっころ」の需要も欠片もないと諭されてしまう、哀しい叫び。
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