装甲歩兵テイヘンズ TS転生・労働生命体カーニャ   作:水辺ロープ

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急変と思惑2 全土攻勢

カーニャ大尉である。

 

予想はしていた。

心のどこかで。

大轟音の奔流と衝撃と震動、熱と光を。

叫び。圧倒してくるそれらに対し、我々はどこにも逃げ場がない。

 

エッセンシャルNo.10基地はワーカー・ゲリラと神聖クメソ王国軍の大夜襲を受けていた。

空襲、砲撃にミサイル、地上軍、少人数の侵入破壊工作。

対してエッセンシャルの対地砲撃、対空砲撃、迎撃する戦闘機。基地内での迎撃。

 

基地と街の前に前進陣地網を作ったので、「来た!」という確認と交戦の報告に合わせて長距離砲撃と航空部隊の対地攻撃を叩き込む。

ワーカー・ゲリラ側は地上部隊の前進と合わせ、エッセンシャル側の航空部隊を自分たちの航空部隊で迎撃。地上では双方の後続部隊が迂回して回り込もうとしては阻止し合う。

 

連携するクメソ全土の基地からの連絡も引っ切り無しだ。急襲で押されているだの、余剰兵力での救援を求むだの、各地からそんなマイナスの情勢が入ってくる。

 

前世で自分の周りのタスクに目処がついたら他のヘルプに回ることが毎日毎夜毎週毎月毎年で、「いやこのタスク量、組織全体でなんとかしてください」という声も虚しく何も変わらなかった、あの「自分が何人もいたら!(部署に同等かそれ以上の人材を増やしてくれ!)」という状態そのままだ。

 

TS転生してもしごとの山と戦うムーブが変わらないのは何故だ?

我が基地とボイコツの街への攻撃も、どこまで食い止められているのか分からない。

 

クルツ司令、早く帰って来てください。煙臭い根性の悪いパワハラの酔っ払いだとか、出来る限り陰でしか本音は言わないようにしますから!

 

前世で見た原作では、基地攻撃を囮にボイコツの街へ本攻撃があり、基地防衛からボイコツ救援に戦力を割く判断を迫られたカニュー大尉が「その隙に基地がやられたらどうする!? お前らにその責任が取れるのか!?」と余裕なく叫ぶシーンが強烈な小物っぽさで笑えたけれど、いざ自分がその立場になると切実だし、全く笑えない。あれ以上のムーブなんてできるものか!

 

原作の流れ対策はしたが、ホントにこれで合ってるのかも分かりはしない。

市民が住むボイコツの街なんかよりも、砲撃陣地に航空部隊、装甲歩兵部隊も持つエッセンシャルNo.10基地の方が神聖クメソ王国軍にとっては叩き潰したい脅威のはず。

原作のカニュー大尉の混乱の悲鳴も納得する。あのときのカニュー大尉は流れを見切ってからボイコツ救援に動いて「あのバカ、今頃来やがった⋯」なんて言われていたけれど。

 

原作知識がある私(カーニャ大尉)は先にボイコツでの迎撃に多くの戦力を配置してしまった。そしてもう、実際はどう進行しているのか分からない。胃のあたりが締め付けられるように痛くて、吐きそう。サロ・サリアは上手くやっているか? 市内防衛に遣ったジョルジョとフランコは上手くやっているか?

 

そして我が基地は。ボイコツの街を守っても、基地が落とされたら今後が後手後手だ。私は生き延びることが出来るか?(ナレーション、永井一郎)

 

責任を取れない⋯いや、私に留守を任せたクルツ司令に、是非とも全責任を取ってもらおう!

 

各地からの情報では一応、基地や街の周りに配置した前進基地の防衛ライン、その範囲内で敵の大軍を留めているらしい。

ウィンズロウの砲兵部隊の砲撃の衝撃振動が響く。シンの航空部隊は基地で弾と燃料を補充してはまた飛び上がる。彼らの弾や燃料が尽きませんように。私はアラモのデビー・クロケットになりたくはないんだ!

 

◆ ◆ ◆

 

「全土攻勢」と後に呼ばれるこの大攻勢を仕掛けたパリス・サンジェルマン第四王子は、ほぼ思惑通りの戦果を確認して苦笑いを浮かべていた。

 

この全土攻勢とナメルキャ連邦からの圧力で、王国政府を追い込んでゆくはずだったというのに。

ナメルキャ連邦がサンジェルマン王子ら神聖王国派から、王国派に鞍替えするという情報が来たのは攻勢直前で、寝耳に水の出来事だった。ナメルキャは目先の利益のために、これまで構築してきた価値ある組織や関係すら平然と投げ捨てる。それはいまサンジェルマンが敵対しているクメソ王国政府も同じだ。

 

クメソの近代化と発展。そのためには政権に協力的な大企業を伸ばせば有利だ。特に動乱期には。だが効率化や合理化をはき違えて何にでも当てはめ、大企業組織を作り担うはずの人を買いたたき、コストの名分で削り、人も未来の組織を作る割合も抑えることは致命的な弱点にもなり得ることは、低迷期を見た国家の歴史パターンにも見られるマイナスの可能性、リスクでもある。

問題はこの効率化と合理化の考えをはき違えて適用しすぎてしまうことではないか。物事に絶対はあり得ないというのに、世間の人々にもこの考えが広まり、信仰的なはき違えが暴走していないか――それがサンジェルマンの「感想」だった。

 

大企業はより拡大し強くなり、人々を削り、大勢の現在と未来の人材と組織の背骨を浪費してしまう。この不遇の層をクメソ王国政府への嫌がらせでナメルキャ連邦政府が支援し、反政府運動がやがて内戦にまで発展してしまった。

はき違えた効率化・合理化を信じるクメソ王国政府と、改善を要求するサンジェルマンら神聖クメソ王国(ワーカー・ゲリラ)、そして惑星ナメルキャ連邦政府とが複雑に絡み合う。バカバカしくても簡単に片付くはずがない。

 

ワーカー・ゲリラも神聖クメソ王国も一枚岩ではない。過激派もはき違えた合理化派もいる寄り合い所帯だ。そしてサンジェルマンはクメソ王国政府だけでなく、味方陣営の神聖クメソ王国内でもサバイバルしなければ人々を導くことが出来ないのだ。近代化と改善を望みながら内戦でインフラを破壊し、未来を支える人材と世代を破壊し、望みであるクメソの近代化を阻害している。対立の創造と固定化――どうしてこうなった? しかし不利の中でも諦めず人々を支え続けなければならない。諦めたら試合終了だ。

 

ともあれ全土攻勢。まさに全土で形勢が神聖クメソ王国のものになりつつあった。これで人々がサンジェルマンたち神聖クメソ王国に従うことはなかろうが、ナメルキャ連邦政府が再びサンジェルマンたちの支持に回る可能性はある。これまで彼らは利益次第で動いてきたのだから。

 

全土攻勢で進捗していない作戦地区の中に、対エッセンシャルNo.10作戦があった。先にサンジェルマンが刃を交えた女軍人がいる作戦地区だ。防備が厳しい基地には主力をぶつけず、基地を支えるボイコツの街を攻略する。基地を先細りさせて落とす意図だったのだが。

 

牽制の基地攻撃はもちろん、本命のボイコツの街の攻略に向かった主力も、目標に近づけずに足止めされ、兵力をすり潰されている。まるでサンジェルマンの意図が読めているかのような対策と配置。

 

サンジェルマンを支援するまた別の一派⋯ナメルキャ連邦軍内の独自組織(宗教を軸にしているらしい)のギンズボーロや、スーパー・ソルジャーのプルートゥなどは「あの女軍人の奇妙な勘と読み」だと考えていたが、サンジェルマンはそうは考えない。恐らくは優秀なスパイ網をワーカー・ゲリラや神聖王国内に侵食させているのだろう。

いや、胸を盛った下に子ども下着をつけて戦場に出てくるような人間に、そんな統率能力はあるまい。彼の情報網によれば、エッセンシャルNo.10には元・彼の近くにいた熱い友、サロ・サリアがいた。あの男は有能だった。サロ・サリアがいて彼がスパイ網も把握していれば、全土攻勢前に手を打つことは可能だろう。

 

ならばだ。この地区で急遽、予定にはないイレギュラーな動きをして、慌てて反応するだろう彼らのスパイ網をあぶり出してやろう。サンジェルマンには使える手持ちの駒があった。秘密結社が連れてきた3人目のスーパー・ソルジャー、ラーダ・ラディノワ。この女のスーパー・ソルジャーは調整不足で「敵」への攻撃心が過剰に出る癖があるため、サンジェルマンはプルートゥやディアナより低い評価をしていたし、セルジュ・ギンズボーロも手を焼いていたが、こんな場面で起爆剤に使うのは面白いかも知れない。

 

丁度よく、ギンズボーロは秘密結社の部隊を彼女につけて投入することを自ら名乗り出てくれた。彼らはサンジェルマンが愛する、今と未来のクメソを支える国民ではない。皮肉にも敵のエッセンシャルNo.10と同じ外人部隊に過ぎない、使い勝手が良い外注戦力に過ぎないのだから。

 

◆ ◆ ◆

 

胃が痛む。一応、私はワーカー・ゲリラの攻勢前から原作準拠の対策をした。

他の基地からは劣勢の悲鳴のような連絡や情報が入る中、不安が喉を、胸を、締め付ける。

 

「私の対策が当たっていてこのまましのげるのか? それともこれから、他の基地のような嵐が襲い来るのか?」

 

私はエッセンシャル基地の司令室で、地図と情報をみながら、輸血にブドウ糖に抗生物質の点滴を受け、ついでにコーヒーを飲んだ。このクメソの地は優秀なコーヒーの産地でもある。

 

ストレス下で素面ではやっていられない。

前世記憶にあるベトナム派遣のアメリカ兵が「緑の錠剤(戦意高揚の覚醒剤)」を支給されていたり、あの某第三帝国の菜食主義の国家元首も重圧対策で薬物を多用していた逸話が思い出される。

私、カーニャ大尉も過重労働から来る低体脂肪からつながる不調で、覚醒剤の代わりに鎮痛剤その他は手放せない生活だ。

 

前世と変わらない生活の気がするのは気の所為ですか?(気の迷いによる多重表現)。

 

と思っていたら――凄まじい砲撃、爆撃が来た。これまでよりさらに激しく、点滴を受けて椅子に座りながら身体が揺れる。

来たか!と思う間もなく、超低空で侵入してきた複数の装甲歩兵揚陸艇が現れた。

 

基地内への強制着陸に成功しやがった。こんな流れは「テイヘンズ」原作にはないぞ!

 

私は思わず椅子から立ち上がる。

 

揚陸艇から出てきたのは⋯「テイヘンズ」本編で「謎の秘密結社」が使っていた軽量装甲歩兵、「コボルト」たちだった。武装は軽いが高速で動き回り、火線を撒き散らし始める。

 

そしてその中に紛れて、滅茶苦茶はっちゃけた動きをする重量級の装甲歩兵。お前は何しにエッセンシャルへ!?

「テイヘンズ」外伝「ビッグ・ギャンブル」で登場するスーパー・ソルジャー専用機「エクリプス」で、中には攻撃性過剰でルールも守れない、ダザイも吃驚な恥多き人生を送る軍人失格なラーダ・ラディノワとかいうスーパー・ソルジャーだった。クメソなんかにゃ来ても良いことはねーぞ! 未来にナメルキャのアコバーの街で地上戦艦に乗れば、ジョルジョとルイスが地獄へ面倒見てくれるから、おとなしく帰れ!(戦意を示す?泣き言)

 

「大尉殿っ!!」

私の傍らについていた、絹のスカーフにチョビ髭の色男グェン軍曹が叫ぶや、私の襟首と腕を引っ張って伏せさせた。

 

爆発と衝撃。

司令室内に砲弾。

あたりは壊れて煙で視界が制限される。

爆風と死を運ぶ小人(コボルト)どもに、影のような幻(エクリプス)が破壊を撒き散らす。司令室にも周りの建屋にもコボルトどもが取り付いて走り回っている。そして凶悪な人相?に、巨大な鉤爪を装備した、「いかにも私は悪役です!」と主張する異形なデザインのエクリプス。

こんなの原作にありはしない。特攻同様の強襲作戦で基地内に装甲歩兵を突入させるとは!

 

対スーパー・ソルジャー・プログラムを乗せた機体は⋯まだ私のボーリング・ビートル「ホワイト・ラビット」しかない。心のどこかでまた、帽子を被ったクマ公が「山火事を防げるのはカーニャ大尉、お前だけだ! Only you!」と声にならない声で語りかけて来る。お前の錆びた眼差しは見飽きたのだが。

 

「グェン軍曹! 格納庫へ行くぞ! 装甲歩兵で奴らを叩きながら、基地の指揮を執る!」

 

私は点滴針を引き抜いて走り出す。勢いで「奴らを叩く」とか言ったけれど、ルイスに処刑されるまでもなく、ここで私は一足先に死んで自由になりかねないな!




【テイヘンズ補足小事典】

●全土攻勢
まるでベトナム戦争のターニングポイントとなった、あの某大攻勢のごとし。

●カーニャとサンジェルマンの「労働・経済観」
現場と国家という規模の違い、そして立場の違いで敵対しているものの、本質的な思想(労働観)は似た者同士。悔しさと、声にならない痛みの呻きが聞こえてくる…。

●「ビッグ・ギャンブル」の「ラーダ・ラディノワ」
「NOだ!」何故かこんなところに。「ビックリ・ギャンブル」な、恥の多い生涯を送って来ている軍人失格な人生の途中。しかし人生を狂わせたのは、ジョルジョも所属していた「ラスト・ショルダーズ(錆びた肩部隊)」による郷里の大殺戮による。

●コボルト
「謎の秘密結社」が採用している軽量級装甲歩兵。原作では砂漠で戦い、今回はクメソのジャングル、エッセンシャル基地直撃の空挺作戦にも大活躍。

●エクリプス
「謎の秘密結社」が広い伝と技術力で開発したスーパー・ソルジャー向けに調整された重量級装甲歩兵。片手にピストル、片手に花束。ではなく片手に内蔵銃とパイルドライバー、片手は巨大な鉤爪。

●クメソ=コーヒー産地
まるでベトナムあたりのよう。
「カーニャが飲む、司令室のコーヒーは甘くて濃い」
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