装甲歩兵テイヘンズ TS転生・労働生命体カーニャ 作:水辺ロープ
「前方及び左前方! 右からもだ! 未確認レーダー反応あり!」
ルイスの怒鳴り声が響いた。神聖クメソ王国のパトロールに出くわしてしまったようだ。
「戦闘配備! 砲撃戦用意! スワネル、トクネル、聞こえたな! 引きつけろ、よく狙え!」
私がわめくと同時に砲撃が来る。旗艦キャネルをかすめて水柱が高く上がり、艦が激しく揺れた。威嚇射撃だ。いい狙いをしている。
『……停止せよ! こちら神聖クメソ王国第七パトロール艦隊。所属不明の船舶に告げる、我が領域を侵犯中だ……』
警告と誰何(すいか)を発する無線と拡声器の声。
パニックに陥った貨物船に偽装した応答を返す背後で、私は攻撃の準備を命じる。
「そうだ、そのままゆっくり進め……!」
次は威嚇ではなく沈めに来る、その前に先手を打たねばねらない。じりじりする時間だ。
原作では、まっすぐこの先のダナモ寺院に着いた。川沿いの古い寺院を中心にした街で、神聖クメソ王国軍とゲリラの偽装基地だ。原作のカニュー大尉はそこを通り過ぎずに上陸し、故意に戦闘を起こして壊滅させる。隠密作戦が完全に露見する瞬間だった。
しかしこの世界線では、街に入る前にパトロール艦隊と遭遇し、既に作戦が露見する流れへと変わってしまっていた。
「攻撃開始!」
私の号令で、一気に「びっくり箱(ばぁ!)」を開けた。
前大戦でイギリス海軍がドイツ潜水艦に対して行った偽装船(Qボート)戦術のように、偽装カバーを跳ね除けるやいなや、ガンボートと装甲歩兵の火力が一斉に爆発する。敵パトロール艦の砲塔や操舵室へ向けて、総攻撃が火を噴いた。相手に次の発砲を許せばこちらが吹き飛ぶ。強烈な緊張感が走る。
正面の敵艦へ、ルイスのシュペール・トレーガーから放たれた光弾──ミサイルが尾を引いて飛び、砲塔を爆炎に包み込んだ。
ウッズマンの代名詞「電ノコ」──ガトリング砲が、敵艦の甲板をまとめて舐めてゆく。曳光弾混じりの『ドラゴンの一吹き』が煙と炎を巻き上げて甲板を走り、砕け散った鉄片が飛び散る。
サロ・サリアの狙撃による曳光弾が操舵室や砲塔へ一直線に伸び、狙われた部位が次々と炎を上げる。
こちらの攻撃で敵の反撃を撃ち漏らさず沈黙させてくれ……という祈りも虚しく、敵船の砲撃が至近に水柱を上げ、艦体が大きく傾いた。
「敵は外したぞ! こちらは当ててやれ!」
キャネル、スワネル、トクネルの三隻が備える40ミリ砲とミサイル、そして装甲歩兵の50口径(12.7ミリ)ヘビィマシンガンが敵船に火線を飛ばし続ける。上空では敵の戦闘ヘリだった塊が、炎を上げて川面へと墜落していった。
「我々も、たった三隻の殴り込み艦隊だ。いずれ地獄で会おうぜ、兄弟」
私は炎上する敵艦へ、今更ながら独り言で名乗りを返した。
だが、敵の小型ボートや装甲歩兵が依然として前進し、闇の中に火線を走らせてくる。
あちこちで火柱をやり取りしながら、私はエッセンシャル基地本部へ報告を飛ばした。
起きていたらしいクルツ司令が、すぐに無線に出てきた。
「閣下! カーニャであります!! 敵パトロール艦隊と遭遇、交戦中! 敵を無力化しつつあり!」
『何だと! 愚か者め、敵に発見されたのか! ……その位置……先にはダナモ寺院があるな?』
「ダナモ寺院は敵の軍事基地化しているはずです!」
先に述べた通り、原作でのカニュー大尉は無理やりダナモ寺院へ上陸した上、係留してあった敵船を銃撃して撃沈するという、寝た子のいる火薬庫に火を放つような挑発をかまして大戦闘へ発展させた。
敵の物資について詰問するカニュー大尉と僧侶の会話──
『僧侶と信者たちは酒盛りもするのか?』
『……いえ、神殿の、供え物に……』
『ここの神は呑兵衛と見えるな』
この名台詞は、底辺野郎どもの骨身に染み付いているはずだ。
原作知識を持つ私は迷っていた。ここで故意に虎の尾を踏んで秘密作戦を台無しにし、この先の三日月湖で待ち受ける刺客(スーパー・ソルジャー率いる部隊)と泥沼の戦いに入るか。それとも、しれっと通り過ぎて泥沼の戦いを先に延ばすか。
答えは、目の前の戦闘状況と、酔っ払ったクルツ司令が決めてくれた。
『特殊部隊はそのまま前進! ダナモ寺院を襲撃、占領せよ!(ヒック!)』
うわあ……。
原作ではカニューが独断でやらかす隠密作戦ぶち壊しのダナモ寺院襲撃を、この現実ではクルツ司令自らが「やれ」と命じてきた。通信の奥でしゃっくりが聞こえた気がする。
エッセンシャル基地がクメソ国内でほぼ唯一の拠点として敵の集中攻勢を受けかねないストレスから、深夜に深酒していたな?
パトロールとの遭遇戦はこちらのせいにされたが、原作のようにダナモ寺院攻撃について叱責される筋合いはなくなった。何しろ、ダナモ攻撃はクルツ司令自らの命令だ。通信はバッチリ録音してある。
だいいち、神聖クメソ王国第七パトロール艦隊の残党との戦いは、こちら優勢とはいえまだ終わっていない。敵の発進拠点であろうダナモ寺院を叩くのは、状況を打破する『適切かつ妥当な解決策』とも言える。……まあ、たった三隻の殴り込み艦隊だけどな。
「ダナモ寺院攻略のため、エッセンシャル基地からの航空支援を要請します!」
私はクルツ司令に畳みかけた。
『……わかった。確実に落とせ。失敗は許さんぞ』
「は! 適切かつ妥当に(=適当に)処置します!」
前向きな言葉(建前)で誤魔化してクルツ司令との通信を切ると、すぐさま私的なホットラインへと繋ぐ。話は一瞬で繋がった。……あとは、我々殴り込み艦隊の腕次第だ。
「聞こえたか、いたずら坊主ども! 校長先生が、敵基地ダナモ寺院を攻略しろとのご命令だ! せいぜい臨時ボーナスを分捕ってやろう。寺院の塔の最上階には砲台がある。最優先で集中砲火を浴びせて潰せ。弾をケチらず、ぶちかますぞ!」
「「「了解!!」」」
深夜に飛び込みタスクを命じられた男たちが、狂乱の野声で応える。
ダナモ寺院からは更なる装甲歩兵とボートが接近し、寺院の上層からは原作通り砲台が気まぐれな砲撃を撒き散らし始めた。
艦からの集中砲火、ルイス機からのミサイル、ウッズマン機のガトリング掃射、サロ・サリアの50口径狙撃──各自の猛射にもかかわらず、ダナモ寺院とその塔からの砲台はなかなか沈黙しない。防御が異常に頑丈なようだ。
『こちらブルー・ライオン。ホワイト・ラビットへ、敵拠点を攻撃する』
待ち望んだ連絡が届いた。クルツ司令との裏ラインで手配した、シンの航空部隊が到着したのだ。超低空で侵入した戦闘機群が、ミサイルと爆弾を古い石造りの寺院へ叩き込み、猛烈な爆炎が上がる。前世の報道映像で見た、チリの大統領宮殿がクーデター軍に爆撃されたシーンのようだ……などとふと思う。
だが、ダナモ寺院の守備兵も勇敢だった。特に最上階の砲台を担当するチームは。寺院のあちこちが炎に包まれても、砲撃をやめようとしない。早めに逃げてほしい反面、頭が下がるあっぱれな奴らだ。
その時、ジョルジョの機体が敵装甲歩兵のロケットランチャーをひっつかんで奪い取った。そのまま、塔の最上階を目掛けて三連射!
最上階が炎を上げる。ジョルジョは容赦せず、さらに二発を叩き込んだ。これで最上階の兵員は全滅。砲撃はついに機能を停止した。
「装甲歩兵隊、上陸!」
艦からの砲撃とシンの航空部隊による爆撃で崩壊していくダナモ寺院の敷地へ、装甲歩兵たちが弾丸を撒き散らしながら雪崩れ込む。
続いてキャネル、スワネル、トクネルの三隻が砲撃を加えながら接近し、ボートで歩兵が上陸を開始した。
抵抗はまばらだった。ノルマンディーのような地獄絵図にもならず、上陸部隊はダナモ寺院を確保していく。敵兵は降伏するか、ジャングルの奥へ逃げていく。
神々の住処たる寺院(?)はガレキの山へと変わり、戦闘は収まっていった。
「これで一段落だな……」
原作なら、ここで一旦仕切り直しになるはずだ。
我々特殊部隊は補給を受けて再出発し、神聖クメソ王国側はダナモ寺院陥落の報告を受けて、侵攻予想ルートの三日月湖にスーパー・ソルジャー(プルートゥ)率いる部隊を潜ませる。
直接対決までは、多少の猶予があるはずだった。
……そうなるはずだったのだ。
「隊長! レーダー反応です! 恐らく装甲歩兵の第二波が来ます、敵襲!!」
ルイスが怒鳴ると同時に、ジャングルからロケット弾の光線が奔った。我々装甲歩兵部隊と、砲口を寺院側に向けたまま停泊していた味方艦へと一直線に突進してくる!
「隊長! ゼロ方向から敵航空部隊、接近!!」
ルイスの不吉な警告が止まらない。
「上だと!?」
ウッズマンが「電ノコ」を上空へ向け、火柱を吹き上げる。
だが次の瞬間、味方艦スワネルが頭上からのミサイルを喰らって炎上した。空飛ぶ豚──PIG戦闘機の急降下爆撃だ! ミサイルを放った機体が、衝撃波とともに超低空を駆け抜けていく。
ジャングルからは新手のリヴォルティング・タートルどもが雪崩れ込んできた。その中には……絶対に見たくなかった「青のカミツキガメ」と「赤のカミツキガメ」まで混じっている!
つまり、三日月湖での待ち伏せを待つまでもなく、スーパー・ソルジャーのプルートゥとディアナが直々に揃い踏みで襲いかかってきたのだ。
再びの急降下爆撃! 今度はもう一隻のトクネルが火を噴いた。先にやられたスワネルは艦底まで貫かれたのか、半ば沈みながら炎と煙を上げている。
やりやがったな、マクレガー!
あの容赦ない急降下爆撃は、元ナメルキャ空軍にして現神聖クメソ王国軍の傭兵──かつて我々の側で戦ったこともあるガリー・マクレガー中尉の十八番だ。これも急降下爆撃を得意とする味方航空部隊のシンが、自分の得意技を目の前で披露されて意地に火がついたか、マクレガーのPIG部隊を激しいドッグファイトで追撃していく。
ジャングルからの激しい火線──敵装甲歩兵部隊の集中砲火を浴び、我々の「足」である三隻のうち、残るキャネルまでもが爆炎を上げた。
やりやがったなはこれで何度目だ!
三日月湖を待たずして、ダナモ寺院で我々特殊部隊とスーパー・ソルジャー二人、さらには互いの航空部隊が全開で激突する大混戦。
原作と状況が違いすぎるだろ!!
【テイヘンズ補足小事典】
●キャネル、スワネル、トクネル
某『めぐり合い』の白い悪魔に全滅させられてしまう艦隊のオマージュ。
●ここの神は呑兵衛と見えるな
一部隊が優に一か月は食って飲める量が保管されていたそうでした。
フランコが後で「吹き飛ばすんじゃなかった!」と悔やんだとか
●チリの大統領宮殿がクーデター軍に爆撃されたシーン
1973年、CIAに支援されたクーデター軍が自国の大統領宮殿を爆撃。
アジェンデ大統領は自決しています
●前の章タイトルより 「Oh, let me stand next to your fire!!」
英文としてはおかしいかもですが駄洒落です。某ジミの「Fire」が「犬が当たらせてくれない暖炉の火」→「情熱の炎」みたいな洒落なら、「解雇」にかけても良いじゃない?