装甲歩兵テイヘンズ TS転生・労働生命体カーニャ 作:水辺ロープ
それぞれの望み、それぞれの運命(さだめ)。
人のいない現場で当然のごとく増えていく仕事の山。
慣れない派遣を二人羽織で回し、彼ら彼女らを帰した後に、仲間たちの間でせめぎ合う帰宅と休息への欲望。そして絡み合う縁。
その過重労働をくぐり抜けたとき、突然現れた一刻の安らぎ。
病んで見る自室の窓に沈みゆく夕陽。そこにはただ、一人の影が映る。
だが、その思いは、かかってくる電話によって切なくすれ違う。
「39度超えして死ぬから一週間は寝ていろって……今回も医者が大袈裟だよね! あと何日で出て来れるの!? お願いだから頼みますよ、いつもみたいにさ!」
次回「触発され錯綜する遡行 3 チケット・プア(可哀そう)で買えた人生の片道切符」
夜の闇が、「立てなくなっても一人」の現実を隠す。
空からは「空飛ぶ豚野郎」PIG21の編隊。ジャングルと川からはリヴォルティング・タートルを率いた青と赤のスーパー・ソルジャー──プルートゥとディアナ。
『第二次インパール・ジンギスカン作戦』を敢行したたった三隻の殴り込み艦隊は、船をすべて沈められ、ただの「陸戦隊」へと成り下がってしまった。
押されている感覚はある。だが、怯まず取り組み続ければ、また潮目は変わるはずだ。
「食らいやがれぇッ!」
迫るリヴォルティング・タートルの火線に向け、ウッズマンが怒りの唸りを上げて前に出た。自慢の「電ノコ」──50口径ガトリング砲が激しい咆哮を上げる。
「お前ら、俺のボーナスになりやがれ!」
もうもうと立ち込める硝煙に包まれるリヴォルティング・タートル。
だが、青のプルートゥと赤のディアナが駆るカスタム機『ストーキング・スナッパー』は、その猛掃射をあっさりと躱し、ジャングルや寺院の影へと滑り込んでいく。
ルイスのシュペール・トレーガーの肩口から、ミサイルが火を噴いて飛ぶ。直撃を受けた敵装甲歩兵が、内部から爆風を噴き出しながら沈黙した。
サロ・サリアのボーリング・ビートルが精密に狙いを定め、狙撃型ヘビィマシンガンを無慈悲に撃ち込む。要所を撃ち抜かれた敵機体が、次々と動きを止めていく。
敵から奪ったロケットランチャーを使い回すジョルジョは、敵機が重なった瞬間を狙って叩き込む。敵の兵器を現地調達して使っていれば、こちらの弾切れは遅くなる。実に賢い立ち回りだ。
敵も怯まず、ヘビィマシンガンとロケット弾を撃ち返してくる。
「上空! またレーダー反応!」
ルイスの怒鳴り声が響く。
戦闘機からまとめて屠られないよう、私たちは一斉に散開し、川の中やジャングル、崩れた寺院の影へと飛び込んだ。
衝撃、爆音、そして襲い来る煙と炎。
ジャングルの陰から、ルイス機のミサイルが空へ向けて放たれる。
衝撃波とともに通り過ぎようとしたPIG戦闘機とミサイルの進路が重なり──PIG一機が黒煙の尾を引いて大空へ消えていった。
「やるじゃねえか、ルイス!」
「おう!」
ウッズマンの叫びに、頼もしい応答が無線に入る。
私はPIGの爆撃を避けるため川へ飛び込んだ。だが、そこにもリヴォルティング・タートルが待ち構えていた。
眼前の緑の一機へヘビィマシンガンを連射。擱座した機体からハッチが開き、脱出した兵士が川へと飛び込む。だがその背後から、凄まじい水陸両用推進で肉薄してくる青い一機──スーパー・ソルジャーであるプルートゥの乗るカスタム機ストーキング・スナッパーだ!
原作の知識とこれまでの推移からすれば、青のワニガメ野郎(プルートゥ)はジョルジョと衝突するはずだった。
一番キツいところは一番打てるジョルジョに任せ、自分は少し離れた場所から推移を観察しつつ援護する。ディアナは何とか爆撃を合わせて行動不能にし捕獲。ヤバいプルートゥは原作無視でジョルジョに「無力化」させ、あわよくばこの場で仕留めてくれたら最高だな──と思っていた時期が自分にもありました。
無理ですね!
殺意と執念をモロ出しにしたプルートゥの青いワニガメを引きつけ、周囲の攻撃を受け止めるヘイト集めが、完全に私の役割になってしまっていた。
ヤバいプルートゥを任せるはずだったジョルジョは、ディアナを追い始めたのか姿が見えない。私は回避行動を取りつつ、ジャングルの遮蔽物を駆使して撃ちまくりながら逃げ惑う。
私の『ホワイト・ラビット』には全身から弾着の衝撃と金属音が響き続け、コクピット内にも破片と火花、強烈な熱が飛び散る。対SSプログラムを起動していても、相手の凄まじい反応速度に抗しきれず、七三か八二くらいで押されまくっている。
だが、怯まず反撃し続けろとジョルジョも手の内を明かしていたし、『撃ち返すのをやめたらそこで試合終了だ』とチキン屋のサンダース軍曹?みたいな見た目と名前のコーチも言っていた気がする!
狙われる私を「餌」にして、プルートゥの足跡を追うウッズマンのガトリング砲が唸りを上げると、ジャングルが広範囲に粉砕されていく。しかしプルートゥの機体はその弾幕の嵐をことごとくすり抜け、毎回別の位置から正確に発砲してくる。
ルイス機からミサイルが飛んで爆炎を上げ、サロ・サリアも身を隠して狙撃を試みているようだが捉えきれない。フランコやグエン、もちろん私も奴が現れそうな場所に弾を撃ちまくり続けるが、倒れるのはジャングルの樹木ばかりだ。
開けた空き地へ飛び出し、一気に走り抜けさせようとしたその時──
「隊長! 包囲されています! 早く退避を!」
「まだだ!」
囮として踏ん張って身を晒すホワイト・ラビットへ、周囲のゲリラから一斉に銃撃が集中する。だがそれを逆手に取り、射線を辿ったウッズマンの「電ノコ」、サロ・サリアの狙撃、ルイスのミサイル、フランコとグエンのヘビィマシンガンが次々とゲリラを黙らせていく。
じっと我慢し、遮蔽物へ移動させようとした途端、背部に激しい被弾!
「ヤツだ! 出たぞ!」
ウッズマンの叫び。青い機体が私に向かって流星のように突進してくる!
「うわああッ!?」
カメラ視界に発射光が見えた瞬間、自分は死んだと思った。だが、衝撃の中で生きていることを悟る。
視界にダメージ報告。ホワイト・ラビットの左肘から先が吹き飛んでいたが、それがコクピット直撃を防ぐ盾になってくれたらしい。回避行動も虚しく何発か被弾し、交差ざまの激突でヘビィマシンガンを破壊され、地面へと転倒した。
「おおおっ!?」
対SSプログラムのまま機体を転がして立たせるが、再び被弾。幸運にも弾倉交換に入ったストーキング・スナッパーへ、起きた勢いのまま突き進む。高周波ブレードの山刀(マチェット)を抜き打ち!
手応えあり──だが、奴は手にしたロケットランチャーで山刀を受け止めていた!
即座にひしゃげたランチャーを振り回して襲いかかってくる青い機体。こちらは山刀を振り回して応戦するが、1回掠らせる間に2回まともに殴られる計算だ。
「こう接近してちゃあ狙えねえ!」
ウッズマンの悲鳴のような怒鳴り声。
膝へ斬りつけてやると頭部へ強烈な打撃が走り、コクピットハッチが歪んで火花が散った。蹴りを食らってよろめくところへ横殴りの胴打ち。機体に食い込んだロケットランチャーを手放した奴は、そのまま火薬式パンチ(アームパンチ)を頭部に叩き込んできた。
カメラがイカれ、私も衝撃で頭部をシートへ叩きつける。
ペダルを踏み込み、全力で体当たりしながら斬りつけると、手首を弾かれて山刀が吹き飛んだ。構わず歪んだ手をストーキング・スナッパーの頭部へ回し、カメラを潰しにかかる。その間にも、胴部へ容赦ない火薬式パンチが繰り返し叩き込まれる。
度重なる激痛と衝撃で視覚ゴーグルが吹き飛び、私は口から「キラキラしたエフェクト(吐瀉物)」をぶち撒けていた。
振り回す腕でこちらも火薬式パンチを叩き返したが、次の瞬間にはその腕を絡め取られ、肘を圧し折られた。膝を蹴り上げてやり返すが、胴部を横から殴られてハッチが無理やりこじ開けられる。
さらに体当たりをかけたが倒しきれず、露出した私へストーキング・スナッパーの火薬式パンチが狙いを定める──くそっ!
「撃て! 私ごと撃てぇッ!」
再び爆風と衝撃。満身創痍のホワイト・ラビットは転倒し、完全に操作を受け付けなくなった。
何が起きたのかと思えば、突進してきたボーリング・ビートル──フランコ機がストーキング・スナッパーと組み合っていた。さらに飛び込んできた巨体(ルイスのシュペール・トレーガー)が、背後から致命的なパイルドライバーを狙う。
青い機体はフランコ機を蹴り飛ばすと、腕を掴んで振り回そうとするルイスの機体と激しく交錯。重さとパワーを利用して振り回されそうになった瞬間、その動きを利用して一気に距離を取った。
ゲリラの援護射撃が周囲で再開する中、青い機体はジャングルの闇の中へと姿を消していった。
──その時、ジャングルから空へ向けて一発のロケット弾が撃ち上げられた。
何でこんなタイミングで無駄弾を……? と思っていたら、頭上でドッグファイト中だったPIG戦闘機へ一直線に突っ込み、避けきれずに命中した。戦闘機は激しい煙と炎を上げて消えていく。
……恐らくジョルジョだ。当て勘の化け物め、奪った誘導なしのロケットランチャーで戦闘機を撃ち落としやがった。それをこっちのワニガメ戦でやってくれよ!
立ち上がれないホワイト・ラビットの対SSプログラムディスクを破壊し、私は機体を破棄した。サブマシンガンとナイフ、非常用ザックを持ち出せたのは上出来だ。
ジャングルの中を、神聖クメソ王国軍を避けながらダナモ寺院方面を目指して歩く。方角は……たぶん合っているはずだ。私が方向音痴でなければ。
やがて、樹上にぶら下がる人物とパラシュートを見つけた。枝とコードが絡まって苦戦している。ジョルジョかルイスに落とされたPIG戦闘機のパイロットだ。
サブマシンガンを突きつける。ヤツか。
「久しぶりだな、マック。ここで降伏して、私のボーナスになってくれ」
「……プルートゥに狙われて、まだ生きていたのかあんたは。変わっていないな」
口からキラキラエフェクトを垂らした私を見て、マクレガーは乾いた笑いを漏らした。
「このパズルから解放してくれ」
絡まったパラシュートコードと枝をナイフで切り離し、髭面の男を下ろすのは一苦労だった。
マクレガーの手首をコードで縛り、所持していた拳銃とナイフを取り上げる。余ったコードを切り取り、非常ザックへ放り込んだ。
戦闘音や流れ弾を避けながら移動を続け──
「……悪いが」
あるものを見つけた私は、マクレガーの手をジャングルの太い枝へ結びつけた。
サブマシンガンを構え、その「あるもの」へ近づく。
「エッセンシャルNo.10、カーニャ大尉だ。そこを動くな!」
なぜかジャングルを生身で歩いていたロングヘアの女性──スーパー・ソルジャーであり、ジョルジョに追われていたディアナだった。恐らく、ジョルジョの追撃とシンの爆撃の合わせ業で機体がイカレて脱出したのだろう。
彼女の手首もコードで縛り、ジャングルの行軍を再開する。
しかし、ディアナとマクレガーの二人を同時に捕獲できるとは!
原作で捕獲できるのはディアナだけで、そのカニュー大尉にジョルジョが襲いかかってタイマンになり、カニューは大流・激流へ投げ込まれる。これを俗に『カニューの川流れ』と底辺野郎どもは笑っていた。
いつその事態が起きるか分からないし、敵がうろついている以上、私はサブマシンガンを手放さない。
かくれんぼを続けながら移動していると、すっかり夜になってしまった。私は非常ザックから携帯コンロを取り出す。
コンロでビーフシチューを温める。途中で摘んだ野草もぶち込んでカサ増し済みだ。さらにレーションを合体させ、スパゲッティ・ミートボールを作る。
「私の分を分けるしかない状況だ。虐待だとか言わないでくれよ」
某カリオストロではルパンと相棒の帽子のガンマンがスパゲッティを取り合っていたが、私は隊長権限で分配する。先に私が毒味(試食)してから、ディアナとマクレガーへ。
スプーンを渡すと武器にされかねないので、私が手ずから食べさせる。「口を開けろ」と「あーん」をさせながら。
「……不思議だ。喰えるんだな」
マクレガーが感心したように漏らす。
「大丈夫だ、ちょっとしたコツなんだよ」
前世の残業帰り、公園の野草やドクダミを摘んで野菜不足を補っていた私の「生存スキル」が今回も冴え渡った。
ついでにマクレガーの携帯小瓶からウィスキーを一口頂戴する。こやつ、サトウキビのラム酒を使ってウィスキーと言い張るこの地の改造品ではなく、輸入品の本物の麦ウィスキーを飲んでいやがる。
「本物のウィスキーだな」
「……わかるのか?」
マクレガーが意外そうな顔をする。はっはっは、前世からの社畜体験を舐めるなよ! 残業帰りの夕食(深夜1時〜3時)に、ポテチと魚肉ソーセージを世界中の酒で流し込む国際的ディナーを嗜んできたのだからな! このご馳走は「料理のおにいさん」リュウジにも、『世界の料理ショー』グラハム・カーにも、負けてはいまい(?)。
しかし、原作ならジョルジョとディアナの「二人きりの初めての甘い夜」になるはずの場面だ。なぜ私とディアナとマクレガーなんだ……? 谷の底の自称神よ、この脈絡のないトリオで何をしろと? この捕虜への甘い?「あーん」三人プレイが狙いだったのか?
「美味しかったです。お礼を言います、ありがとう」
「大雑把に混ぜ合わせただけなのに、不思議と美味いな」
二人の言葉に、カーニャシェフは胸を張る。
「ちょっとした塩梅と、空腹がなせる技だな」
「自慢になっていないぞ」
ほっとけ。
──ドオン、と遠くで砲撃音が響いた。
「まずいな。生身で巻き込まれたくはないぞ」
装甲歩兵の15ミリ程度の鋼板一枚でもあるかないかで、生存率はダンチなのだ。
手早く荷物をまとめて移動を開始したが、戦闘音はみるみる近づいてきた。すぐそばに着弾する50口径とロケット弾。
現れたのは、プルートゥ率いる装甲歩兵隊と、ジョルジョらエッセンシャル部隊の激突だった。生身の私にとって、カオスすぎる戦場はコントロール不可能だ。
ジョルジョは対SSプログラムの成果か、プルートゥと互角近くまで渡り合っていたが、いかんせん多勢に無勢。緑のエキサイテッド・ドッグが倒れ込んだところへ、青い機体が突進して蹴りを叩き込む。横倒しになったハッチが開き、半ば意識を失ったジョルジョの姿が見えた。
ディアナの姿を認めたジョルジョが呟く。
『ディアナ……最期に、一目でもお前に会えて、良かった……』
ディアナが棒立ちになる。
「あ……あ……」
あ。これ、ジョルジョを認識して、今まさにプログラムが上書きされたな!
事故でSSプログラムの前にジョルジョを見てしまったディアナにとって、ジョルジョは「絶対存在」なのだ。これまでは敵対していたが、目の前で声をかけられたら一発で落ちる。
するりと動いたディアナは、撃破されたタートルが落としたロケットランチャーへ近づいた。砲口が、ジョルジョを狙う敵機へ向けられる。
「やめろ!」
ディアナの意図を悟ったマクレガーが叫ぶ。だがディアナは迷わず引き金を引こうとする。「ジョルジョ」を認識した彼女は、彼を守るためだけに動くマシーンと化す。かつての仲間だろうが関係ない。
生身で装甲歩兵の重火器を使うこのシーン、原作にもあったな……って、待て!
ジョルジョとプルートゥもディアナの奇行を見て動きを止めている。
──ズドン! ディアナが発砲した!
「危ない!」
ランチャーが激しく震え、敵機の腕ごと吹っ飛ばす。だが発射の反動でディアナが後ろへ跳ね飛ばされた!
……反射的にディアナを抱きとめた「私」は、玉突き事故のように一緒に後ろへ吹っ飛ばされた。
必死でバランスを取り直した私と、振り向いたディアナの驚愕の目がバッチリ合う。マクレガーは大口を開けて私を見ている。なぜかジョルジョとプルートゥのカメラまで私にフォーカスしている。
よし、ディアナを守り、体勢も立て直した。これで何とかなった──
はずだったのだが。
次の瞬間、凄まじい連続着弾とミサイル爆発の衝撃が襲いかかった! 体勢を立て直したはずの私は、増水した激流の川へと豪快に吹き飛ばされた!
弾着の火線の先には……我がエッセンシャルの装甲歩兵たち。煙を上げるヘビィマシンガンを構えたフランコ機と、ミサイルポッドから煙を吹くルイス機の姿が見えた。
ル、ルイスぅぅ! 貴様かぁぁッ!
ジョルジョの危機は仲間の乱入で回避されただろう。だが、ディアナを庇ってガンぺリーから落ちたミハルのように吹き飛ばされ、濁流に飲まれた私はどうなる!?
上下左右すら分からぬ激流の中、何かに叩きつけられながら流されていく。
「助けてくれ! タスケテクレーイ!!」
◆ ◆ ◆
「(第二次)ジン、ジン、ジンギスカン(作戦)♪」
歩き回り7日目のカーニャ大尉であります。
さすがは原作で『無能生命体』の異名をとった私だ。濁流を生き延び、ゲリラに追われながらも、足跡を偽装し、罠を仕掛け、はぐれたゲリラを一人一人仕留めて物資を奪い生き延びている。ゲリラは敵でありながら、食料や薬を届けてくれるボーナスみたいなものだ!
「うわあぁっ!」
今も仕掛けた刺し罠を踏み抜いたゲリラが悲鳴を上げる。背後から飛びつき、首を絞めて落とした。手早く装備を漁る。ビタミン剤、ちまき、水筒、痛み止め。
殺してはいない。人道主義からではなく、負傷者を出せば手当や搬送のために複数のゲリラが脱落するからだ。追っ手の数を効率よく減らす『現地調達・第二次ジンギスカン作戦』は大成功である! 補給部隊(敵)が追尾してくれる、安心安全で笑顔の絶えない現場です(?)
原作のカニュー大尉の記録(3日)を超える7日間、私はジャングルを歩き続けていた。途中でニシキヘビに襲われたが返り討ちにし、ワニは咄嗟に頭を踏みつけて顎を開かせないようにしたら、睨み合った末に去っていった。
視界の悪いジャングルで同じ場所をぐるぐる回っていた気もするが、決して方向音痴だからではない!
睡眠は1日3時間前後。前世のデスマーチ期なら30連勤、40連勤とやってきたのだ。まだ7日、60連勤でも10年でもやってやろうじゃないか!
体が軽い。笑顔と万能感が湧き上がってくる。幸せだ! かつての前世の深夜残業ハイ(クライマックス)のようだ! 小野田少尉の記録に挑戦してもいいぞ!!
……きゅる……きゅる……
物を擦るような奇妙な音が響いた。
追跡してきたゲリラたちが警戒しながら静かに移動していく。次の瞬間──悲鳴と、倒れ込む音。え? 何だ? ニシキヘビか? ワニか? ヒョウか?
私もゆっくり遠ざかろうとした、その時。
「隊長殿」
「わをひっ!?」
通り過ぎた木の陰から声をかけられ、私は飛び上がった。そこには山刀(マチェット)を構えたルイスが立っていた。
あまりの恐怖に尻餅をつく。じっちゃんの名にかけて謎は解けた。奴の故郷クエルト星で巨大生物「砂シャコ」を狩る手法に、ゲリラと私がまとめて引っかかったのだ!
「……る、ルイス、お前か……お前だけは、来てくれると思って……」
だが、そこから言葉が出なくなった。
山刀を下げたルイスは(おめでとうございます! ざまあポイントが満額貯まりました!)とか言って、いま私を闇に葬ろうとしていないだろうな……? 誰もいないジャングルで一対一、条件は整いすぎている。
「大丈夫ですか?」
大柄な体が近づいてくる。血の匂いが漂う山刀を揺らして。
逃げろ、足。身を守れ、腕。……あれ? 言葉が出ない。さっきまであんなに軽かった体が動かない。顎から手足まで、全身がガタガタと激しく震え出した。
「お……お……」
痛み止めと熱冷ましが切れたのか。安堵で脳内麻薬のドーパミンが底をついたのか。山刀を持つルイスの無表情な顔を見上げながら、私の意識は恐怖で凍りついていた。
それからのことは、思い出したくもない。
都合よく気を失うこともできず、赤ん坊のように震える背中を優しくさすられながら薬を飲まされたこと。シュペール・トレーガーまでおぶわれて移動する途中、全身の力が抜けて「何か」が漏れてしまい、『咳をしても洩れる、尾崎放哉も天を仰ぐわ』と心の中で虚しいジョークを飛ばしたこと。着替えもないままコクピットでルイスに抱っこされて移動したこと……その全てが鮮明に記憶に残ってしまった。
ルイスの話によると、ジョルジョと同意したメンバーはそのままサンジェルマン宮殿攻撃に向かったらしい。ディアナとマクレガーについてはすっとぼけられた。ルイス、フランコ、グエンの三人がダナモ寺院周辺を確保しつつ、私を捜索してくれていたようだ。
ピックアップのヘリに揺られて数十分。明け方の見慣れたエッセンシャル基地上空へとたどり着いた。
『夜明けが雷のようにやってくる』とラドヤード・キップリングが歌ったような東南アジアの朝焼け。それにも似た鮮やかな光を浴びて、ようやく私に精神的な力が戻ってきた。
過去の惨劇を振り払うように、私は独り言を漏らす。
「エッセンシャル基地よ……何故、私は帰ってきた……?」
どこぞのガンダム0083の裏ヒロイン?のポニーテール(アナベル・ガダルカナル・アイランド)のセリフをもじってみたが、伝わる人間などいるはずもない。衛生兵とフランコ、ルイスが怪訝な顔で私を見ている。ちなみに私は海兵隊のシーマ・イワシター派だ。「貴様らの命は神に捧げても、貴様らのケツは海兵隊のものだ!」センパー・フィディリス、ガン・ホー、ガン・ホー!
原作知識を持つ私には、カッサンドラのごとく今後の悲惨な展開が見えてしまう。……ホント、何で戻ってきちゃったんだろう。
基地の病院に叩き込まれ、丸洗いされ、輸血とブドウ糖と抗生物質の点滴フルコースを打たれる。ベッドの傍らでは、クルツ司令の「失望したぞ!」とシェーンベルクの「何たる失態だ!」というフルコースの説教を堪能させられた。
「次はないぞ!」
ああ、私にはまだ「次」があるんですね。
私が拝命した『第二次インパール・ジンギスカン作戦』は空中分解し、前世から過重労働は友達であり日常ですが。
ベッドに寝たまま、次の作戦説明を受ける。
原作通り、次は敵の本拠地サンジェルマン宮殿へ大空襲を仕掛け、その混乱に乗じて先遣隊(フランコ、ルイス、グエン、そして私)が空中投下で突入、スーパー・ソルジャーを捕獲する……。
来たか……片道切符そのものじゃないか。
勇躍突入した原作のカニュー大尉を尊敬するやら、状況判断の無さに呆れるやら。ペルシアの大軍を相手にするスパルタ軍(300)より勝ち目がなさそうだ。
重用していただくのは大変ありがたいのですが、わたくしめは皆様を失望させてばかりの無能な指揮官ですので、ここで解雇(クビ)にしていただいてもよろしゅうございますよ……?
【テイヘンズ補足小事典】
●インパール作戦・ジンギスカン作戦
長距離遠征を自給自足で……という、みなさんの方が詳しいアレですね。
●チキン屋のサンダース軍曹?みたいな見た目と名前のコーチの言葉
サンダース名誉大佐(カーネル)にも似た見た目の籠球部(バスケットボール部)の先生のお言葉。
●キャプテン・カーニャの現場の料理ショー
軽快にしゃべりながら野草を摘んで混ぜてレーションの栄養と量を嵩増し、最後は客席からお客を招待して一緒に食事をします……?
●小野田寛郎少尉の記録
29年だそうです。
●0083
某ガンダムの人気外伝。
大規模テロ作戦を起こそうとする敗戦国家の残党に対して、正ヒロインのシーマ・ガラハウさまと部下の海兵隊残党が命を張って潜入捜査を行い、阻止しますが手柄を奪われ逆上した主人公により殺されてしまう悲劇の物語です(偏った見方)。また後の外伝では某クワトロ氏のように「シーマさまは生きていた!?」という熱い展開も。「あんたら覚悟しいや!」
●センパー・フィディリス、ガン・ホー
某国海兵隊の標語。
Semper Fidelis、Gung Ho
ラテン語で「常に忠誠に励め」Semper fiとも。
もう一つは中国語由来のアメリカ語「協力して働け、闘魂」のような意味だそうですね
●人生の片道切符
チケット・プア(可哀そう)で買えます。