装甲歩兵テイヘンズ TS転生・労働生命体カーニャ 作:水辺ロープ
エッセンシャルNo.10基地のカーニャ大尉であります。
毎週5%の兵員が生きて帰らず、5ヶ月で兵員が丸ごと入れ替わるような損害を出すここエッセンシャルNo.10基地。
そんな場所で、過重労働な扱いに不満や要望があれば自分が相談に応じる訳ですが……私の不満や要望はどうすれば良いのかわかりません。
◆ ◆ ◆
ボートで『第二次インパール/ジンギスカン作戦』に出撃する前のことだ。
敵の前進基地から脱出してきたり、エッセンシャル基地への奇襲を何とか乗り越えたり、捕虜にした敵の女性指揮官らと交流した大混乱の直後。
偽装した船で敵地奥まで潜入する『第二次インパール/ジンギスカン作戦』の準備に追われていた中で、基地のクルツ司令に呼び出された。
「閣下、カーニャであります」
「呼び出したのは他でもない。エッセンシャル基地の一般開放デイな、中止にせず予定通り実施することになった。というわけでしっかりとやるように」
「は! ……は!? お言葉ですが、自分たちは潜入作戦の緊急準備中でありますが!?」
クルツ司令は目を逸らし、葉巻を燻らせながら酒をあおっている。
葉巻の匂いで威圧して誤魔化そうとしていないか?
居合わせたクメソ軍情報部のサヴィツキィも、タバコに火をつけながら説明を足してくる。
スゴイな、我が基地司令室のタバコ消費量は。
私はタバコを持ち歩くが、自分では吸わない。現場でサバイバルの道具に使うためだ。住民から情報を聞き出す際に渡したり、水に浸けた有害液を虫やヘビ除けに使ったりする。
まあ、それはいい。サヴィツキィの言うことにはこうだ。
「先の全土攻勢では、クメソ王国政府側が押し込まれた。だが、数少ない優勢な我がエッセンシャル基地での住民交流イベントを、クメソ全土と惑星ナメルキャ内に放映することで、我々への国際的な支援をアピールするのだ。ノックダウン街のジンジャー首相の決定でもある。我がクメソ内のメディア、ナメルキャのメディアも招待する」
「……大事な作戦前にでありますか?」
決死の作戦前に、できれば全くやりたくねー。
「作戦前に支援を切られないためのアピールも兼ねている」
あ。ならばいい加減にやって愛想を尽かされれば、自滅行為の潜入遠征も無くなってくれませんかね?
……なんて都合の良いことができる訳もなく。
やりましたよ。
『砲兵の神の手』に、航空部隊、水上部隊、装甲歩兵隊の健在をアピールする短いパレードなどをこなしつつ、訪れる招待客や住民たちには簡単な屋台などで親しんでもらう段取り。
射的にお面やオモチャ売り、金魚すくい、焼き鳥やフォーにバイン・ミー、芋煮にドリンク、アイスクリームの手配準備などなど。
さらに段取りと準備に駆け回っていた前夜に、酔っ払ったクルツ司令が言い出した。
前夜になって余計なことを言い始める、前夜中年男性、なんちって。
「アピール面でなんか寂しいな……」
司令室のモニターには「ボイコツ市民祭り、千年前から続くうさぎ大魔神……」というニュースが流れている。
忙しさで頭の回転がハイになっていた私は、咄嗟に冗談を飛ばしてしまった。
「うさぎ大魔神の着ぐるみでも出しますか? アッハッハ!」
「それだ!!」
「……は?」
酔っ払いオヤジが激しく食いついてきた。
「うさぎ大魔神の着ぐるみマスコットだ! プロスポーツチームのマスコットのように、親しまれているボイコツとエッセンシャル基地を、うさぎ大魔神の着ぐるみでアピールするのだ! 動きやすく改造して、愛らしさをアピールしたり、ダンスしたり、バク転を披露したり、フリップ芸で毒を吐いたり、風船を飛ばす時に——」
サヴィツキィも深く頷いた。
「それだ! 軍隊だけでは武骨だしあり来たりだ。そこに土地の民話につながるマスコットがいれば、住民との懸け橋になる。情報部もメディアも、そういう絵面は非常に使いやすい。カーニャ大尉、貴様の提案を採用しよう」
うわあ……瓢箪から駒、上段から面を打たれたよう……いや、冗談からうさぎ大魔神が出た。
「今から着ぐるみやプロのアクターの確保ですが…間に合いますか?」
「問題ありません。情報部が何とかしましょう」
クルツ司令とサヴィツキィが携帯電話を取り出して何やら話し始め、その場は解散となった。私は宿舎に帰り、明け方にようやく眠りについた。
そして——激しくドアを叩く音で起こされた。
「大尉! 来てくれ!」
酔っ払いのクルツ司令の大声が廊下に響く。
私は寝巻きの短パンとTシャツの上から、大急ぎで作業着を羽織って出た。
「……何事でありますか?」
ドアの前には、澄ました表情のサヴィツキィと、ちょっと疲労したオシャレな男女、一物ありそうな表情の秘書セシリア。
そして、得意げに着ぐるみの頭を持った酔っ払いのクルツ司令がいた。オシャレな男女は急遽呼び出されたデザイナーだろう。
「名誉あるうさぎ大魔神『モッフィー』の初代スーツアクターは、カーニャ大尉、貴様に任せる! うさぎ好きの貴様に、その心得を説く必要はあるまい!」
口が勝手に応答していた。
「……は。謹んで、お受けいたします」
セシリアが笑いをこらえながら私を見ている。
自業自得。そう来たか……!
◆ ◆ ◆
そのまま数時間後、エッセンシャル基地の開放デイに突入した。
陸上・水上・航空・砲兵各部隊のパレードとアトラクション、軍楽隊、ついでにラーダたち捕虜集団の歌と演奏……その傍らに、急遽スーツ合わせをしてアクロバットなどの練習もこなしたうさぎ大魔神『モッフィー』の姿があった。
もちろん、私である。
クルツ司令、セシリア、サヴィツキィらの解説に合わせて、空や陸を指差したり、大袈裟に驚いた仕種をしたりとアドリブで動く。
「邪魔だ」「下手だ」「不真面目だ」などのクレームはごく少数で、大体は楽しんでもらえているようだ。
歩兵部隊のパフォーマンス——格闘術や、敵部隊を捕獲するデモンストレーションにも駆り出された。
相手役として投げられて受け身を取ったり、木銃でチャンバラしたり、逃げ回りながら兵士に関節技をかけてみせたり、取り押さえられたり。
兵士の手練れぶりに拍手し、見物の市民たちにアピールする。
……しかしこれ、まるで動物園の脱走対策訓練ではないか?
クルツ司令やセシリアと共に、メディアを引き連れて基地内を回る。
スーツ内部には冷却ファンと保冷剤が仕込まれ、案外動きやすく作られている。
……寝ぼけ頭でうさぎ大魔神『モッフィー』役を受けたのだが。
イイわ、これ。
老若男女に手を振り、ポーズを決める。
フリップで社畜ジョークを飛ばす。
返ってくる周りの屈託のない笑顔、笑顔、笑顔!
いつもの「痩せてやつれて目の下にクマを作った私」に対する態度や表情とはまるで違う。
老若男女が笑顔で手を振り返し、握手やサインを求められ、抱きつかれる。
前世で嗜んだパントマイム、ロボットダンス、そして今朝急遽練習したとんぼ返りやバク転も披露。
笑顔の人々と記念撮影をし、ちびっ子たちを抱っこすれば、大きな歓声と拍手が広がる。
(私はうさぎ……うさぎになるのだ! うさぎが私で、私がうさぎだ! ああ、まるで生まれ変わったような気分だ……!)
歓喜した私は心の中で叫び続けた。
広い基地のイベント広場に、今日は老若男女の笑顔と歓声が沸き起こる。伊達直人もびっくりだろう!
「あんた、装甲歩兵を降りてもスーツアクターで生活できるわよ」
隣を歩くセシリアが、「モッフィー」を抱きかかえてきながら囁いた。
私はいまカ-ニャではなくモッフィーだ。心理的距離も抵抗感もなくなるよね。
しかし。クルツ司令たちと訪れた屋台広場に、不満げな行列ができているのを見つけた。
「何だ、あれは?」
「ソフトクリーム屋台ね。故障したのかしら?」
近づいてゆくと……
私は人員配置をサロ・サリアに任せたはずなのだが、食品に近づけてはいけない男・ジョルジョが、コーンカップを手にソフトクリームを巻き始めていた。
一回転、二回転、三回転……ぐちゃぐちゃだ。
原作ではスーパー・ソルジャーすら倒してしまう無敵の男・ジョルジョはのたまう。
「ターンピックが冴えないな。それと制御系もおかしいようだ」
責任転嫁をするな! 冴えなくておかしいのは機械ではなくてお前だ!
ぐちゃぐちゃの失敗品を手渡されたフランコが応じる。
「だめだな、まるで客に出せるものにならねえ。こいつも俺たちが食うしかないか!」
周りからガメてきたクメソ・ウイスキーをドバッとかけて食い始める。
傍らには、顔を赤くしたエッセンシャルの装甲歩兵トップチームの面々。
失敗しては酒をかけて食べてきたのだろう。わざと失敗してみせて、酒をかけて食べまくっていたのかもしれない。これが装甲歩兵に乗せれば基地でも、国内でもトップの凄腕たちなのだが…ここではまるでダメではないか。
酔い潰れて寝ているのは、仕切りを任せたはずのサロ・サリアだ。
お前もお前もお前も、営倉入りだ!
「貴様ら! ナニをやっているか!!」
私は思わず飛び込んだ。
「うわっ! 大尉っスか!? どうも機械の調子が悪くて……」
追いついてきたクルツ司令が、ソフトクリームメーカーを指差して私に命じる。
「カーニャ、キサマがトライしろ!」
「着ぐるみで!? ダメですよ、それは!」
「構わん! カメラの前で不手際を見せるわけにはいかん、わかるだろうが! 私が命じる、急げ!」
酔っ払いの命令かよ!
隠し持った小瓶でチビチビ飲んでいたのを、私が気づいてないとでも思ったか!?
司令の命令で、着ぐるみのまま取り組むことになった私。
「これも白衣に手袋着用と見なしてもらえないかな……」と思いながら、全身に粘着ローラーをかけてアルコールで拭いてもらい、機械の前に立つ。
一回転、二回転、三回転……完成!
一本、二本とソフトクリームを巻き、セシリアに手渡す。
クルツ司令とサヴィツキィが覗き込む。
「どうだ?」
「器用に巻くわねー。町中のソフトクリーム売りでも通用するわよ」
「よし、続けろ!」
クルツ司令とサヴィツキィが、にこやかにカメラに応じながら短く命じ、セシリアが順番待ちの親子連れに笑顔でソフトクリームを手渡していく。
飛び込みでうさぎが巻いてくれたという特別感からか、大人の男女も子供も笑顔が広がる。
「いやホント、大尉殿、基地を辞めても食堂やテキ屋で通用しますぜ……」
「黙れ! 巻きは私がやる、その方が早い! 貴様らはお客様の整理とレジをやれ!」
バカを言っているフランコたちに激を飛ばし、私は猛然とソフトクリームを巻き始めた。
にこやかに客の不満をなだめ応対するセシリアに、完成品を次々と手渡してゆく。
フランコとジョルジョ、その他の面々も慌ててレジや列の整理に回った。
畜生め、私はお前らのお母さんか!
私は取り敢えずの代打だ。
今の客がはけて、食堂勤務の慣れた兵が呼ばれてくるまでの繋ぎ……そのはずだった。
「ママ〜っ! モッフィーのソフトクリーム!」
「あらまあ〜!」
次々とソフトクリームを巻き、愛想も振りまくうさぎ大魔神『モッフィー』の姿が目立つらしく、次から次へと新しいお客が並んで全然列がハケやしない!
これ、不手際で混雑していたさっきと状況が変わっていないのでは!?
メディアのカメラがその様子を捉え続ける。
クルツ司令、サヴィツキィ、シェーンベルクに市長といった重鎮たちは、前のテーブルに陣取り、名物の水牛肉の芋煮にサンドウィッチ、ソフトクリームにお酒で談笑し始めた。
絵にはなるが、さらに人を呼ぶからやめてくれ!
衛生的に色々怪しい着ぐるみの私が、こっそり抜け出すに抜けられなくなったじゃないか!
……結局、「モッフィーのソフトクリーム」はその日の話題・大人気となり、私は夕方まで誰にも交替してもらえることなく巻き続けた。打ち上げには、セシリアの要望で着ぐるみのままで参加したしな、もう私は一日うさぎの化身だった。
基地の開放デイのニュース(とその中で黙々とソフトクリームを巻くモッフィー)は、クメソ国内はおろか、惑星全土に放送されたらしい。
決死の作戦の前に、単なる余興だと思って働いていたら、とんでもないことになってしまった。どうしよう?
……あとは、水牛の芋煮やバイン・ミーに加えて、
「ソフトクリームは、うさぎ大魔神がボイコツで千年前に開発した」
なんてヨタ話が広まったりしませんように!
【テイヘンズ補足小事典】
● うさぎ大魔神もふもふモッフィー
この世界には、うさぎマスコットの大先達「ミシフィー」が存在しますが、「モッフィー」はギリギリで似ないように作られています……そのはずです。もしかしたらマズイかもしれない……
● プロのアクターの確保
サヴィツキィの頭の中では、最初からカーニャに押し付ける方向で決まっていました。何せ、外部に依頼する予算を浮かせられますので……(世知辛い)。
● 伊達直人もびっくり
『虎の穴』で過酷な訓練を受けた、虎の覆面を被る悪役レスラー。ちびっこハウスの子供たちが悪に染まらないよう、改心して正義の味方となります。 着ぐるみでキレキレのパントマイムやダンスを見せるカーニャが『うさぎの穴』で訓練を受けたかどうかは定かではありません。
● 「こいつも俺たちが食うしかないか!」
「食べたいものは腹のうちに収めておくんだ。生きて還るためにな!」(意味不明)。
● 着ぐるみのままソフトクリーム作り
「着ぐるみを白衣と手袋着用と見なしてもらえないか……」などとカーニャは思っていましたが、保健所的には「ダメ、絶対」です。激しいアクションをこなした直後ですし、なおさら衛生面でアウトです。
それをクメソ全土、さらには惑星ナメルキャ全土に衛星中継されてしまったわけですから、ある意味で大炎上案件(とんでもないことになってしまった。どうしよう?)。
幸い今回は食中毒などの事故は起きなかったようですが、決死の『第二次インパール/ジンギスカン作戦』を前に、「二度と着ぐるみで調理は致しません」と保健所に出頭して始末書を書くという、カーニャの仕事(余計な労力)がまたひとつ増えました。
やったね!(?)