装甲歩兵テイヘンズ TS転生・労働生命体カーニャ 作:水辺ロープ
朝暗いうちに出て、夜暗くなってから帰路に就く。
人生で太陽が輝かぬとしても、
休憩も取らず連勤を重ねる、無謀な風となろう。
過重労働の果てにある安らぎが、わずか数分だとしても、
ジョークを飛ばして、また次の日に向かおう。
「深夜残業どころかもう次の日だって? 世界のどこかじゃまだ『今日』さ。時差でな!(笑)」
それぞれの宿命(タスク)を担い、働く者たちが昂然と顔を上げる。
次回「片道切符1 坊主の説教は死んでから聞かせてもらおう!」
放たれた過労の社畜は、終わらないタスクを射るか、地に落ちるか。
ラーダと曹長が死んだ──と聞いた。
いつのことかは分からない。私が救出され、治療入院している間のことらしく、後になっていつしか耳に入った。『異邦人』のアルベール・カミュもびっくりだ。
彼女らは捕虜としてかなり自由な立場にいたはずだった。交通事故に巻き込まれ、遺体は燃えてしまったのだという。暗殺の可能性も十二分に想像でき、この捕虜の事故死自体が情報戦の一部となっているのは明らかだ。ゴ・ジンジャー首相につながるサヴィツキィの情報部が関わっていそうではあるが……分からないものは分からない。死者を鞭打とうが聖人として扱おうが、勝手な言説が飛び交うだけだ。
原作では、エッセンシャル側が優位に立ち、敵の本拠地サンジェルマン宮殿への大空襲が可能となる。だが、全土で神聖クメソ軍が優位のこの現実では……サンジェルマン宮殿にたどり着く前に、我が飛行部隊は撃ち落とされるのではないか?
超低空侵入で対空砲火を避ける計画らしいが、それでも防空戦闘機を避け切れるとは思えない。ただし、敵のエースであるマクレガーは、我々が『第二次インパール/ジンギスカン作戦』で撃ち落とし、まだ宮殿に戻っていないはずだ(奴がその後どうなったかも分からないが)。
食品や雑貨から兵器、果ては外国政府まで取り扱うという闇商人ゴトー。奴に発注してあった私の特注・専用マシンは、『第二次インパール/ジンギスカン作戦』の失敗から費やした期日で、奇跡的に間に合っていた。
さらに喜ばしくも普段ではあり得ないことに、作戦日程が後ろへズレたため、丸一日がぽっかりと空くという「ご都合主義」な時間が生まれた。
前世の仕事なんて仕事の山が重なり、一日を空けるために前倒しで必死に頑張っても、後から後から「次のタスク」を叩き込まれて空きなど一切作れず、いつもより多く仕事をして残業しただけになる、まるでシーシュポスか賽の河原だったというのに。
ぽっかり空いた一日。私は焦りを感じつつも、「自由」な休日を過ごすことにした。
◆ ◆ ◆
朝。
車でボイコツへ向かい、戦災孤児支援施設をいつものようにアポなしで訪問。持っていた古くて大きなうさぎのぬいぐるみや本を寄贈した。
それから、ボイコツ動物公園へ。
開園と同時に「こどもふれあい動物広場」へ急ぎ、初回の整理券を確保。親子連れに紛れて中に入り、鳥やヤギやブタと戯れ、うさぎを太ももの上に乗せて優しく撫で回した。
引き上げようとした時、情報屋のデ・スタソの姿が目に入った。私に気づかず、自前のブラシ持参でヤギやうさぎを熱心に撫でている。通り過ぎざまに声をかけると、ひっくり返るほど驚いていたから、私を尾行していたわけではなく完全に偶然だろう。
私は売店で「どうぶつご飯弁当」とお茶を買い、飼育動物にやる食材を交えた弁当をベンチでつまんだ。後から缶ビールを買ったデ・スタソがやってきて、隣に腰掛けた。
「大尉殿。ご無事で」
「あんたもな」
私たちは互いに肩をすくめ、黙々と弁当をつまんだ。
デ・スタソと別れ、動物園を出る。
動物園の周りに広がる公園には、ホームレスの姿もあった。地雷で膝下を失った男など……やり切れないが、どうしようもない。将来の私の姿かもしれないし、あるいは私は形すら残らず吹き飛ぶのかもしれない。
街中を歩く。飲食店が立ち並ぶエリア。
以前、私を「お兄さん」扱いした客引きのねーちゃんが見えた。私は言われるがまま店に入り、焼き鳥をつまんだ。酒は飲まず、お茶で焼き鳥と蟹のスープ。前世なら「日本酒万歳」なメニューだ。サトウキビとモチ米のラム酒(自称ウイスキー)も悪くはないが、今日は車がある。『バケツの中の戦争』某ミハイル・カミンスキーみたいに、戦場で、装甲歩兵なら、飲んで乗っても良いだろうかと頭をよぎる。くそっ。
再び街を歩く。
細い路地、屋台の並ぶ通り。広い大通り、川沿いの風景。
これらが完全に消え去ることはないだろうし、「終わる」こともない。だが、体制が変わり大混乱に陥る可能性があることは、前世のベトナムやカンボジア、中南米諸国の歴史が嫌というほど繰り返し見せている。
店を出て歩き続け、「マジェスティック・パレス・ホテル」へ。
昼から開いているバーは、14時過ぎのこの時間、比較的空いていた。サヴィツキィがいた。
私は彼の隣に座り、ノンアルコールのカカオ・カクテルを注文した。ものすごく美味い。ここの静かな食堂とバーは評判なのだ。一度味わってみたかった。サヴィツキィはステーキ・サンドウィッチにポテトフライにサラダがまとめて乗ったプレートのランチを食っている。これも値は張るが大評判なんだよな。
「で、通信ではなくわざわざ呼び出した用件は?」
「私はカッサンドラの使いだ。大空襲作戦で……ナメルキャは、ナメルキャのシェーンベルクは、我々とサンジェルマンをまとめて葬りに来る。双方の主力が集まる格好の好機だからだ。だから、ナメルキャを撃てる備えをしておけ。ナメルキャはスーパー・ソルジャーを確保し、抵抗勢力のなくなったクメソを完全に丸呑みする気だ」
シェーンベルクと彼を使う谷の底の邪神は異能生命体たるジョルジョをコントロールする意図も持つが、そこまで言うと信用されないだろう。事実はアニメより、二次創作パロ小説より奇なりだ。
「ナメルキャとは停戦し、協力体制に入っているはずだが」
「形の上だけだ。奴らはこの機会に確実に裏切る。私は命が惜しいんでね」
「根拠は?」
「あんたがシェーンベルクに疑いを感じていないはずがない。私がこうして口頭で伝えているのは、通信が漏れるからだ。……もう一つ、ナメルキャを疑う情報は、私からだけではないはずだな? 違うか?」
サヴィツキィは肉汁たっぷりのステーキが挟まったパンに齧りつき、カクテルで飲み干した。
彼も、私も、黙っていた。
バーテンダーは寄っては来ない。
建築内装と言い人と言い、良いところだ。
こんな時に使いたくはなかったし、店も困るだろうが。
良いところだ。
「……貴様は妄想患者でなければ、どこのスパイなんだ?」
「……ただの労働者、かな。私はシェーンベルクのように、クエルト星の谷の底にいる邪神の目や耳ではないよ」
サヴィツキィは無表情を貫いていた。何かを考え、何かを隠し、何かを動かそうとしているのだろう。
私は彼より先に麗しのマジェスティック・パレス・ホテルを後にした。資金潤沢な奴に業腹だが、私は自分の勘定を自分で払い、あいつが頼んだ酒と料理の勘定も済ませた。国家の大事の情報提供だから首相に近い奴に払わせたかったが、呼び出したのは私だからな。評判のフルーツパンケーキやビーフシチュー……いずれ食べてやるつもりだが、戦場から生きて還るのと同じくらい、この勤務でまともな休暇を取るのは難しそうだ。
◆ ◆ ◆
さらに夕方、「ファントム・クラブ」へ入った。
店主のカカオに歌姫ミント、スポンサーのゴトーを冷やかし、シンとウィンズロウを探して言葉を交わす。水牛ベーコンのステーキに、高級ブランデーのボトル、アイスクリームの食券もセットで。この動き、前にもやったなと思いながら。
急遽声をかけたセシリアが合流してきたので、前回も今回もシンとウィンズロウへの「工作」に使った水牛ベーコンのステーキを、彼女と自分にも奢った。最高級ブランデー『レミー・サンファミーユ(家なき子のレミ)』もグラスでセシリアに奢る。私は車だからアルコールはナシでコーヒーだ。
途中、デ・スタソとルイスも入ってきた。またレミーをグラスでデ・スタソにも奢る。ルイスにステーキを注文しようとしたら「要らない」と言うので、私の分を切り分けて渡した。……食いやがった。私が楽しみにしていた初めてのステーキを。私が楽しみにしていた初めてのステーキを。大事なことなので二回。悔しくなんかない。大食いのヤツが喜んでくれるなら、悔しくなんかないのだ。悔しくなんか…(三回)。
デザートにアイスクリームと小さなケーキとフルーツの乗った小皿を人数分。本当は私とセシリアの分だけのつもりだったが、前世の私のようなうらぶれた人生のデ・スタソに、黙々と(ざまアポイント勘定に)働くルイスを見たら、食べさせてやりたくならないはずもない。前世の荒っぽいが後輩にやたら食べさせたがる先輩のようだな、と我ながら思う。もしくは若いのや子どもらにやたらと食べさせたがる世話焼きの職場や親戚のおばさんか。
店を出て、4人が私の車に乗り込む。もちろん私の運転で。
あれ? なんか前世から同じような運転手を繰り返しやって私がいつもノンアルコールの(略)。
街中でデ・スタソを降ろしてやり、セシリアとルイスを乗せて基地へと帰還する道すがら。
ビーチからの帰り道、故障したセシリアの軽自動車を一緒に押して歩いた道だ。
ルイスの目の前だというのに(いや奴は後部座席だが)、セシリアが聞いてくる。
「あんた、本気でナメルキャが裏切ると考えているの?」
セシリア、クエルトの砂漠の産物のこやつを、私の腹心だと勘違いしていないか? ざまあポイントをあうんの呼吸で溜めて、原作では私(カニュー大尉)に引導を渡す男だぞ? 私には三銃士の敵役ミレディにとっての首切り役人に当たる恐怖の代名詞だというのに。
「裏切るさ。間違いなくな。軍事機密のスーパー・ソルジャーを確保して、今のクメソの二大勢力──エッセンシャルとサンジェルマンを同時に退場させる。あとは傀儡政権を打ち立ててコントロールする算段だ」
クエルト星の谷の底の邪神とシェーンベルクの思惑については触れない。
後部座席で聞こえているはずのルイスは、何も言わない。
原作知識的に意図していることや考えていることを、ルイスの前で明かすことはなかった……いや、作戦中に結構やっちゃってたな。
自分の郷里に世界をコントロールする邪神がいる……それを滅ぼすことに平気で賛同する男。もしかして朴訥な出稼ぎ者のふりをして、クエルト人の秘密コネクションの一員として007バリに世界を暗躍しているのかも知れない。
ルイスを兵舎で降ろした。
「隊長殿、ありがとうございました」
真っ正直に(見える)礼をする奴を置いて、私やセシリアのいる兵舎へ車を回す。
セシリアが車を降りる前、私はセシリアを呼び出した理由の一つである、一通の封書を手渡した。
「?」
セシリアは怪訝そうだ。
まあ、ラブレターでも今夜の請求書でもない・
内容は──『本官が今次作戦において戦死した場合……』。
残された身辺整理と、分かっている範囲の手配をしたためた殴り書きだ。
大空襲で宮殿へ着く前に落とされて死ぬ、宮殿突入でプルートゥに殺される、宮殿内を逃げまどっているうちに殺される、ルイスに殺される。死の原因はより取り見取り。まさに原作カニュー最後の作戦だからな。
最後に、まだ明かりのついていた司令室へ。
酔っ払いのクルツ司令は、隠していた秘蔵のブランデーを飲んでいた。例のレミーだった。
ここは司令室ではなくて、「バー・司令室」というコンセプト酒場ではなかろうか?
政府からカネをもらい親不孝者どもを集めて死地に放り込み、その中から毎週5パーセントの人材を神の国に送るのは、国際的な制約から効果的な軍事作戦を行えない「縛り」があるからで。酒に溺れるのもわからないでもないが。もうちょっとうまくろくでなしどもを死なせてやれないものか、もしくは生き延びさせてやれないものかと、私は思う。
「カーニャ、シェーンベルクが裏切ると……本気で考えているのか?」
片目が義眼の大男は唸るように言う。
「先に申し上げた通りであります。大部隊を降下突入させた場合、敵側もろとも撃滅を図られるかと。最初から計略の可能性が強いですから、裏切りと呼ぶのは的外れかも知れません」
酔っ払いは重いため息をつくと、私にグラスを一杯差し出してきた。
もう公道を運転することもない。遠慮なくいただくことにする。装甲歩兵での緊急出動はあるかもしれないが、ミハイル・カミンスキーに倣って許してもらうとしよう。
さて。詰め込んだ一日だったが……悪くない休日だった。
抱き枕代わりにしてきたうさぎのぬいぐるみをガキどもに贈ったため、ちょっとだけ寝台の寝心地は違ったが。
◆ ◆ ◆
作戦当日。
格納庫には、腕組みをしたゴトーが待っていた。
「あんたの注文通りに仕上げたぞ。特注のボーリング・ビートルが五機。特注プログラムによる遠隔操作・自律の無人行動機能つきだ。部品も再利用品やバーゲン品は一切使っておらん。向こうにどれほどの難敵がいようとも、ここまでチューンされたマシンは持っておるまい。何しろ、このわしがこの手で仕上げたんだからな!」
「恩に着る」
私はニヤリと笑ってゴトーと固い握手を交わす。私をヘビのようだと酷評していたゴトーが、こんなきっちり仕事をする「仲間」になってくれるとは考えても見なかった。一機──耳のような大型アンテナを取り付けた指揮官機から、残りの四機を見渡す。
満点とは言えないが、できる限りの対策は施した。
大空襲の出撃が迫る。
私は、居並ぶ部隊の連中の前を歩いた。
皆、作戦内容を知っている。大空襲の混乱に紛れてのスーパー・ソルジャー捕獲──その命を受けた先行突入部隊。まあ、ほぼ自殺行為、片道切符だ。
顔をピクピクさせているフランコ。無表情なルイス。オシャレな絹のスカーフを弄っているグエン。
私は声を張り上げた。
「我々には宮殿突入の名誉が与えられたわけだが……残念だが貴様らには外れてもらうぞ!」
「「……!?」」
「本隊降下後、ナメルキャが我々と敵側をまとめて葬りに来る可能性がある。貴様らはそれに備えろ。クルツ司令にはすでに伝えてある。貴様らに余計なことでうっかり死なれてみろ、労災だ。こちらはムダ飯食わせたことになるからな!」
「……」
「悪いが、先行突入とスーパー・ソルジャー捕獲の名誉は、私が独占させてもらう! 誰が手柄を立てても文句はないはずだ、任務だからな。……解散!」
◆ ◆ ◆
大空襲、対空砲火に敵の戦闘機の襲撃、撃ち返す機載銃砲や兵たちの怒号が重なる爆音と騒ぎの中、私は特注の愛機『ホワイト・ラビット』の前に立っていた。はるばる越えて、サンジェルマン宮殿のそばだ。
機体整備をしていた連中が、集まってくる。フランコ、ルイス、グエン。
「大尉……」
フランコの声に振り返る。
「緊張しているな。ツバを飲み込め、深呼吸して笑顔を作れ」
「……おかしくもないのに笑えませんよ」
お前はミフネか。
畳みかける私の口から、前世の無茶振りに応え続けた言葉がスラスラと溢れ出た。
「緊張ほぐしに、表情だけでも笑顔を作れ。生存率が上がる。死の谷の底におわす神は人形使いで、我々は人形で役者だ。だが──神の拙い脚本を嘲笑う『観客』でもある。このブラックコメディには、心底うんざりさせられるからな。嘲笑でもいい……歯を剥いて笑ってやれ!」
「大尉……!」
至近弾の炸裂音と衝撃、震動。
「運が良ければ、私は中佐だ! 貴様らもな。これから一しごとだぞ。だが──死神からの出世の誘いなんて断ってやれ!」
反応に困るような戦死二階級特進恩給のブラックジョークを飛ばし、ニヤリと笑いかけて背を向けた。
「大尉……姐御ッ!」
「ほな、バイナラ!」
フランコたちに背を向けて手を振る。某黒い入江のヤクザ(ドス一本持って旧ソ連特殊部隊に殴り込みをかけるバンドー)のオマージュが自然と口をついて出た。
足をダン!と強く踏み鳴らし、この世の父の口癖のように、背を伸ばし、頭を高く掲げて。愛機へと乗り込む。験担ぎのうさちゃん下着と、胸部ガード下着も忘れずに着用済みだ。ハンカチOK。スキットルの「消毒用アルコール」はおやつに入らないと、ミハイル・カミンスキーも言っていた(?)。さて、父に母、姉に弟よ。近々挨拶に行くかもしれないが、せめて面白い土産話を増やしてやるからな!
装甲歩兵たちは揃って不細工な降下ユニット──通称「バケツ」に収まっている。
「通信周波数、80メガ!」
周囲の無人機たちが応じる。
『『『セット!』』』
「エネルギー充填、フルチャージ確認!」
『『『チェック!』』』
また至近弾の衝撃と振動。
行くも危険、ここにいるも危険か。
人に言ったことは実践しないとな。
私はつばを飲み込み、大きく深呼吸すると、ニヤリと笑いを作り、それから無人機という部下たちに声をかける。
「……Let's……go……!」
『『『Why not?』』』
「地獄へ行くぞ」「喜んで!」我が忠勇なる無人機どもは、『ワイルド・バンチ』で死の行進へと赴くウィリアム・ホールデンに応えるウォーレン・オーツのように返してきた。対スーパー・ソルジャー用プログラムに各種の追加装備、自律行動プログラム。データを与えたのは私だが、ゴトーの奴も獰猛な我が子どもたちを実に良く組んでくれたものだ。
「降下ァッ!」
私は四機の無人機を引き連れた「一人だけの分隊」として、敵本拠地へ突入する。
「宮殿突入の名誉を与えられたのは、我々だけだ! 食えるだけ食ってやれ。戦場における名誉と獲物の独占禁止法違反だァッ!」
『『『YES, MA'AM!』』』
猛烈な対空砲火の嵐の中、「降りられるわけねえだろ!」と歯を食いしばりながら機体を操る。
弾幕の渦の中で一人呟くのは、前世の職場入り口に掲げられていた標語──『できない理由ではなく可能にする方法を考えろ』『言い訳を言うな、謝罪しろ』──労働者を信用しないそれらを見て嘲笑っていた言葉たち。
「arbeit macht frei!(働けば自由になる)……過労死した先のヴァルハラでな!(笑)」
至近弾を力任せに回避!
「Lasciate ogne speranza, voi ch'intrate!(ラッシャーテ・オーニ・スペランツァ、ヴォイ・クィントラーテ、一切の希望を捨てよ、汝らここに入る者!)……(笑)」
やりたくもないが、派遣や部下を先に帰して一人で残業を回していた前世の日常そのままだな。阿呆な私の特攻野郎Aチームから、死にそうな奴らを外してやった。大空襲自体が特攻作戦みたいなものだから、気休めにしかならないとしても。
クルツ司令、ウィンズロウ、シンへも、シェーンベルク率いるナメルキャ軍への警戒は促しておいた。後方のサヴィツキィやセシリアにもだ。
あとは私「たち」が……ストーキング・スナッパーからさらに凶悪な『レイジング・ドッグ』に乗り換えたであろうプルートゥ相手に、どこまで生き延びられるか。
左手に強力な爪(アイアンクロー)と内蔵砲。手持ちのヘビィマシンガンやロケットランチャーすら持たなくても、近接戦闘で熟練兵を圧倒したレイジング・ドッグ。原作では、突入したカニューとルイスがあっという間に叩きのめされ、機体を捨てて脱出を余儀なくされている。ルイスの大型装甲歩兵シュペール・トレーガーすらパワー負けして振り回されたのだ。ウッズマンも殺され、その後ジョルジョが相討ちに持ち込む過酷な相手。
仮にジョルジョが機体を破壊され、プルートゥが野放しになった場合、後続部隊には壊滅的な被害が出る。
未知数ではあるが、私がレイジング・ドッグに傷一つでもつけられれば、ウッズマンやジョルジョの生存率、勝率勝算は跳ね上がるはずだ。……しかし、私がプルートゥとやり合って生きていられるかは神のみぞ知る。問題は、前世と同じだ。15年?前後の過重労働を経た私の反応速度が、鈍って落ちてきていることだ。これは前世死ぬ前の数年でも経験した。脳も身体もすり減ってきているのだろう。対抗プログラムを使ったからと言って、スーパー・ソルジャーとためを張れるようなトップクラス戦士のコンディションでは、既にないということだ。伽しいけれど、現実だね。
この状態の私が、サイコミュ……ではなく、遠隔操作の自律無人機チームをどこまで操れるか、ゴトーに保証を求めておくべきだったか。
◆ ◆ ◆
『大尉の無人機操作経験は未知数じゃよ! 保証なんてできると思えるのか!?』
「ありがとう、その正直さを信じよう!(?)」
【テイヘンズ補足小事典】
● 「こどもふれあい動物広場」
親子連れやはしゃぐ子どもたちの中で、やつれた女性やわびしい中年男が、自分を労わるように動物たちを撫でている光景(後ろから頭突きされたり、膝の上に粗相をされたりもする)。「どうぶつご飯弁当」をベンチで静かに食べている姿に、周りはそっと見ないふりを決め込んでいます……。
● 私を「お兄さん」扱いした客引きのねーちゃん
店内業務から客引きまで何でもこなす、ごちゃごちゃした飲食店街の働き者。その勢いの分、ちょっとそそっかしいところも働くお姉さんの可愛げでしょうか。カーニャへの誤認(性別認識)が改まったのか否かは永遠の謎です。
● 「マジェスティック・パレス・ホテル」
古くからある名門高級ホテル。美しい建築をはじめ、様々な名物や名物料理がある。
カーニャは「私はこのホテルに出資しているからな!」が新たな口癖になりつつありますが……パーティでの騒動で壊したホールの修理費を払わされただけです。
● 某ミハイル・カミンスキー
某『ポケットの中の戦争』に出てきた、『戦争のはらわた』っぽい隊長が率いる部隊のベテラン機械人形乗り(MSパイロット)。コクピットでたびたび酒を呷っていましたが、仕事はキッチリこなすベテランなので誰も注意できない困ったちゃんおじさん。時々現場にいますよね……。
● 若いのや後輩、子どもらにやたら食べさせたがる先輩・おばちゃん
「あんた、これ食べなさい!(こっそりお菓子などを手渡してくる)」
いますよね……。
● 『本官が今次作戦において戦死した場合……』
「ブーツとか、引き出しの靴下や私服は古着屋に売ってください。欲しければセシリアにあげます。あと始末をして残ったお金は、うさぎ大魔神モッフィーの名で戦災孤児支援施設に寄付してください。ベッドの下は探さないでください。ハードディスクは見ないで物理破壊してください」等々。
● 「arbeit macht frei」、「Lasciate ogne……」
前世の職場入り口に掲げられていた標語の文面は、旧ナチスドイツの収容所に掲げられた文句や、ダンテ『神曲』の地獄の門にある「汝らここに入る者、一切の希望を捨てよ」と変わらんね、と笑いながら働いていた過去。猛烈な対空砲火の出迎えの中で「ああ、やっぱり似てる……」と思い出したカーニャさん。こういうのが懐かしい古巣で自分の居場所と、自然と笑みがこぼれます(?)。
● カーニャのコンディション
色々と上手くいかない限界状態。身体と脳を回復させる睡眠時間すら削り、ほぼ一日中労働を10年以上……。バーンアウト(燃え尽き症候群)とか大袈裟に言わなくても、他より早くすり減ってくるのは当然かもしれません。突然死や過労死が出てしまうのも、必要人員と人件費を無駄として削りまくる「痩せて身軽な組織!」の当然の帰結ですね。
かの『太陽の牙』の予告決め台詞「給料だけじゃない、僕は生活時間が欲しい」(※言ってません)はまさに真理。