装甲歩兵テイヘンズ TS転生・労働生命体カーニャ 作:水辺ロープ
労基法も過労死ラインも軽く超えた現場では、
労働者の喜びも悲しみも、一瞬のタイムカードの瞬き。
万物流転。
全てが社会に仕組まれた、許容されたブラック企業という地雷が起こすイルミネーションだとしたら。
「お前が辞めても代わりは誰でもいる」と嘯かれる椅子に座り、
いつ果てるとも知れぬ、無数の労働者の命の光の盛衰を見つづけてきた者。
それは本当は誰でも座れる椅子ではなく、
底知れぬ闇の中にしつらえられた、ただ一つの「死にゆく勇士のための椅子」ではないのか。
次回「片道切符2 所詮、私は流れ星。堕ちるさだめにあったのだ」
それが、我が運命(さだめ)なら。
突入した。カーニャ分隊、攻勢開始!
ミサイル機「ドリー」が遠距離から、砲台や装甲歩兵など脅威度の高い敵へ一斉射。
連射給弾システムを搭載した「ココ」のヘビィマシンガンの支援射撃をカバーに、取り回しやすく短尺化したヘビィマシンガンを持つ「アル」と、散弾銃型のライフルを乱射する「バニー」の前衛二機が肉薄する。
前衛機の弾幕を背に、私の機体が接近。脅威と判断した敵が爆炎に包まれ、退避し、後退する!
新たに押し出してきた敵装甲歩兵へ、再び「ドリー」からのミサイルと「ココ」の制圧射撃の嵐!
突進した前衛機「アル」と「バニー」が高周波山刀を抜き放って斬りつけ、よろめく敵を私が確実に狙撃で打ち抜く。
『標的、クリア』
『標的、クリア』
爆炎と硝煙が立ち込める見慣れない視界の中、無人機からの合成音声とシグナルが刻一刻と戦況を知らせてくる。各機にはクエルト製とまではいかないものの、高性能レーダーを増設してある。その反応を元に、機械的な射撃と回避を瞬時に連動させていく。
激しい爆発音とともに、敵兵たちの悲鳴が響き渡る。
「前進だ!」
私は叫んだ。
また現れた敵装甲歩兵──リヴォルティング・タートル。
接近戦用の短尺ヘビィマシンガンとショットガンを撃ちながら前衛機「アル」と「バニー」が突っ込み、その頭上をミサイルと制圧射撃が飛び交う。ミサイルの着弾で敵機がよろめき、転倒!
私の『ホワイト・ラビット』は、制圧射撃と前衛機の攻撃の隙間を完璧に塞いで突撃し、撃ち漏らした敵を容赦なく撃ち抜く。
爆炎の中から飛び出してくる敵機。返ってくる弾丸の嵐。
その真只中へミサイル、ヘビィマシンガン、ショットガンを乱射し、前衛機「ココ」と「バニー」が山刀を振るって斬りつけ、崩れ落ちる機体へ私が狙いを定めてとどめを刺す。
間髪を容れぬ波状攻撃。
転倒した前衛機が倒れたまま敵機にヘビィマシンガンを連射し、追いついた私の機体がそこに山刀で斬りつけ、後方からの「ドリー」のミサイルと「ココ」の狙撃が敵を完全に粉砕する。……まるでジェット・ストリーム・アタックだな!
原作なら、真っ先に駆けつけたプルートゥに一瞬で蹴散らされるはずの我々先行部隊。
今回は冷や汗ものの綱渡りながら、畳みかける速攻の波状攻撃によって、一機も失うことなく宮殿内を破竹の勢いで突き進んでいた。
……何だこれ?
覚悟して飛び込んできたのに、プルートゥと一向に出会わない。出会えないのだ。
宮殿内部に入っても勢いは止まらない。
巨大な扉を発見し、爆薬で吹き飛ばしてなだれ込む。大広間だった。
パニックを起こして逃げ惑う者、手を挙げて棒立ちになる者。
突入の爆風で、崩れた建築パイプの下敷きになっている男がいた。
クエルトの邪神の手先──敵秘密結社の幹部、セルジュ・ギンズボーロだ。スーパー・ソルジャーのテスト運用を任されている男。小汚い不精髭だらけの唇から血を流しているが、意識はあるようだ。
周りの連中を威嚇射撃で追い払うと、私は機体を操作し、彼の背中を押し潰していた建材をどけてやった。機体のハッチを開けて飛び降り、問い詰める。
「サンジェルマンはどこだ? プルートゥはどこにいる!?」
苦しい息の下から、途切れ途切れの返事が返ってきた。
「プルートゥは……ジョルジョを追い詰めた……。すぐに、貴様も……」
え……!?
流れが原作と完全に前後していやがる!
カニューがやられてからジョルジョが対決するはずが、ジョルジョが先にプルートゥとぶつかっているだと!? どうなってるんだ!?
助かりそうにないギンズボーロの口元に、火をつけたタバコを咥えさせてやった。少し考え、非常用の麻酔薬を射出器で打ってやる。すぐに彼の意識が落ちた。たぶん、このまま安らかに逝くだろう。
ホワイト・ラビットに飛び乗り、ゴーグルを装着する。
どこだ、プルートゥ! どこにいる!?
原作ではプルートゥがジョルジョを探して暴れ回るが、この世界では私がプルートゥを探して宮殿内を彷徨う羽目になるとは!
奴はどこだ? 原作のカニューが撃破された中庭か、ジョルジョとプルートゥが死闘を繰り広げた竪穴の坑道か。中庭はすでに通り抜けてきた。さあ、我が獰猛な子どもたちよ。
「坑道を目指す!」
『『『YES, MA'AM!』』』
◆ ◆ ◆
一方、エッセンシャルNo.10基地では、クルツ司令より極秘指示が下されていた。
近頃同盟が結ばれたはずのナメルキャ軍による空襲・奇襲に備えよ、との通達である。
さらにはノックダウン街10番地──つまり首相官邸からも、同様の緊急警告と秘密指令が全軍に発せられていた。軍情報部の報告が根拠だという。そしてエッセンシャル基地の有志には、「基地の終身刑囚」とあだ名される過重労働者・カーニャ大尉からの事前の「囁き」もあった。
「神聖クメソ王国」軍とワーカー・ゲリラの全土攻勢により、政府側は劣勢に立たされていた。ここでナメルキャ惑星連邦による騙し討ちが加われば、クメソ王国が一気に崩壊するのは火を見るより明らかだった。
エッセンシャル基地周辺に長距離砲「神の手」を張り巡らせて守るウィンズロウ大尉も、警戒を解いてはいなかった。情勢からの推測、クルツ司令や首相官邸からの警告、そして現場の仲間であるカーニャ大尉の囁きが重なった結果である。
形勢逆転の斬首作戦──敵奥地サンジェルマン宮殿への大空襲には、クルツ司令直々に主力を率いて出撃していたため、手薄になった基地の緊張感は元より最高潮に達していた。
通信兵が緊迫した声でウィンズロウを振り返る。
「予定にない航空部隊のレーダー反応あり! 恐らくナメルキャ軍航空部隊!」
「ほう、事前情報通りか!」
「首相官邸より緊急警報! 全土でナメルキャ軍航空部隊による攻勢が開始されました! 事前通告なし! 我が軍に対し、ナメルキャ軍への先制攻撃が許可されました!」
「野郎ども、鴨撃ちの時間だ! 待っていたナメルキャ鴨が来やがったぞ。ヘッドショットで撃ち落としてやれ! 砲撃開始!!」
配置されていた対空ミサイルと、自慢のレーダー連動による長距離砲火が、押し寄せる敵航空部隊へ向けて一斉に火を噴いた。
──サンジェルマン宮殿上空。
クルツ司令率いるエッセンシャル空襲部隊は、空爆のみに集中し、地上降下部隊の発進を遅らせていた。
基地を守るウィンズロウと首相官邸からの「ナメルキャ軍奇襲開始!」の電報、さらには「サンジェルマン宮殿に向けてナメルキャ軍航空部隊が接近中!」との報告が入る。これも想定内であった。
本来の計画では、エッセンシャル部隊が空襲と降下攻撃で先制し、そこへナメルキャ軍のシェーンベルク大尉率いる部隊が合流する手はずだった。もし事前計画通り降下部隊を出して地上戦に噛み合っていたら、ナメルキャ軍にまとめて背後から撃ち滅ぼされていたところだ。
空爆ヘリの砲門がナメルキャ軍機へと向けられ、サンジェルマン宮殿上空を制圧していたエッセンシャル基地のエース──シンの戦闘機編隊が即座に上昇。得意の超低空急降下からミサイルを叩き込み、ナメルキャ軍航空部隊を奇襲返しで急襲した。
一方──ナメルキャ軍情報部大尉であり、サンジェルマン宮殿奇襲とスーパー・ソルジャー捕獲計画の総責任者であるシェーンベルクは、思わぬ展開に激昂し、狼狽していた。
本来の作戦は、サンジェルマン宮殿の神聖王国軍とエッセンシャル部隊が噛み合って疲弊したところを、横合いからまとめて叩き潰してスーパー・ソルジャーを回収するはずだった。
さらには、彼の真の主である「クエルト星の谷の底におわす超文明神・メイガス」の指示通り、異能生命体であるジョルジョ・デ・キリコとスーパー・ソルジャーのディアナを、宇宙へ脱出させる極秘任務も帯びていた。
これまではメイガスの超知覚による予言と指示があり、それがシェーンベルクの行動を完璧なものにしていた。しかし今回に限って、その最大の武器である情報と指示が一切届かない。
(バカな……何が起きている!?)
シェーンベルクは青筋を立てて叫んだ。
「全軍攻撃開始! 予定通りである! ナメルキャ軍以外の抵抗するあらゆる存在を抹殺せよ!!」
航空部隊からミサイルが放たれ、パラシュートの鋼の装甲歩兵が飛び出し、装甲歩兵を載せた揚陸艇が一斉に発進していく。
しかし、神聖王国軍の激しい対空砲火と、備えていたエッセンシャル部隊の先制攻撃により、パラシュートの装甲歩兵や降下揚陸艇が次々撃墜されていく。予定していた戦力が維持できない……!
メイガスからの助言がない以上、目の前の惨状は自らの力量だけで打開するしかなかった。
ふと、あのカーニャ大尉とかいう、彼らの緻密な作戦の足を引っ張り続けた「手際の悪い下働き」の笑い顔が脳裏をよぎった。
(あたしに帽子を被ったクマ公が言うんですがね……『山火事を防げるのはお前だけだ!』ってね!)
◆ ◆ ◆
さて──先行突入組のカーニャ大尉である。
後続部隊が本当に到達できるかは不確定な状況のまま、残弾を気にしつつも敵を排除し、宮殿の最奥へと突き進んでいた。そして──たどり着いた。
深く広い巨大な竪穴。縦横無尽に建築パイプが張り巡らされた、前世の『スーパーマリオ』か何かのゲーム画面のような高低差のある空間。
そこに、打ち捨てられた装甲歩兵の残骸が転がっていた。
中には、ジョルジョが固執していた緑の改造機──エキサイテッド・ドッグの姿もあった。だが、ジョルジョ自身の姿はない。ディアナも、同行していたはずのサロ・サリアやウッズマンの姿もなかった。
その時、ホワイト・ラビットの特製レーダーが激しく反応した。
回避行動とほぼ同時に、激しい着弾! 弾丸を撃ち返す。
巨大で、絶望的な威圧感を放つ「青い影」。
直後、通信機に割り込んでくる声があった。
『耳付き……貴様は例の女隊長か? よく回避したな。初手で葬り去るつもりだったのだが』
見たくもなかった。
プルートゥの最新専用マシン──『レイジング・ドッグ』がそこに立ち塞がっていた。
あまりの圧迫感に息を呑むが、頭を高速回転させて原作知識の腹芸を繰り出す。
「プルートゥだな。降伏しろ。ギンズボーロは死んだ。サンジェルマンもだ。エッセンシャルとナメルキャの大軍が、間もなくここへ降下して完全制圧する。私はエッセンシャルNo.10のカーニャ大尉だ。私が身柄を保証しよう」
ブラフを交えて告げる。ハッタリがうまくいくわけがないのは百も承知だが、上からの「生け捕り命令」に対するパフォーマンスだけはやっておかなければならない。
(※ギンズボーロは間もなく死ぬはずだが未確認だし、サンジェルマンの死に至っては原作知識でしかないのだが)
プルートゥが冷たく返してくる。やや高めの声。
『そんなことには興味がない。進路を塞ぐ敵は滅ぼすまでだ。我が方が劣勢であろうと……私とこのマシンは、飛び切り獰猛だぞ』
奴が喋っている間、私は必死で機体を観察していた。
原作ではクロー(爪)と内蔵砲だけだったはずなのに、ご丁寧に右手にロケットランチャーまで携えている。あてが外れた。口の中で「ど畜生」とつぶやく。
『隊長! 生きてたんですかい!?』
通信が割り込んできた。ウッズマンだ! お前こそ生きていたのか!
「ウッズマンか!? どこだ!?」
『ヤツの後ろでさあ!』
原作では奴はここで背後から突進し、坑道の底へ突き落とされて死ぬはずだ……。
「電ノコで撃て! こちらがやられるぞ!」
『残念ながら、弾が尽きやした!』
「了解した! 我が分隊で仕掛ける、貴様はいったん退いて敵の武器を拾え!」
『……エッセンシャル(底辺)の女!』
プルートゥの鋭い声。
「私は聖徳太子だ! 降伏しろ!」
混線通信にジョーク混じりで返す。
『ショート・クタイシだと……!? 攻めて来る大軍の前に、まず貴様らから滅ぼしてやるッ!』
ジョークの名乗りを真に受けたプルートゥの宣告と同時に、ロケット弾の猛撃が降り注いだ。
撃ち返しつつ即座に離脱。「ドリー」が一斉射を放つ。
早期決戦のつもりだったが、宮殿内を彷徨ったせいで残弾が怪しい。だが、これまで成功してきた波状攻撃で押し切るしかない!
「ココ」のヘビィマシンガンの制圧射撃をカバーに前衛機「アル」と「バニー」が肉薄。斉射をかいくぐり、私と他の機体が肉薄。そこへ追撃のミサイル! ジェット・ストリーム・アタックにも似た、畳みかけるこれまでの必勝パターンだ。
爆炎と硝煙で視界はゼロだが、レーダー反応はある。
その時──激しい爆発音とともに、ウッズマンの叫びが通信機に響き、ぷつりと途切れた。
「おのれぇッ!」
ウッズマンがやられたか!
接近戦用ヘビィマシンガンを連射しながら突進した前衛機「アル」「バニー」に弾着。転倒!
私は突っ込みながら撃ちまくるが、起き上がりかけた前衛機「アル」へプルートゥの精密射撃が突き刺さり、完全に沈黙した。
射撃の発射点と思われる爆炎の中へヘビィマシンガンを乱射するが、返ってくる弾丸の嵐。脚部、腕部、胴部へと襲い来る衝撃。私の機体が転倒する。
ミサイルを撃っていた「ドリー」の機体も穴だらけにされ、明後日の方向へミサイルを放ちながら停止。爆発と落下物の破片が散らばる。
転倒したままヘビィマシンガンを撃ち続ける私の機体へ、爆炎の中から躍り出た巨大な青い影が猛然と体当たりをかましてきた。
「くそっ!」
壁へ激しく叩きつけられる。
組み合う私ごと射撃できず、「ココ」が牽制射撃をしながら突進してきたが、ロケット弾を至近距離で食らって転倒。
転倒しながらも突っ込んでくる無人機「ココ」を避けるため、レイジング・ドッグは私の「ホワイト・ラビット」を突き放して身を翻した。
私とプルートゥはほぼ同時に発砲し、互いに遮蔽物の影へ飛び込む。
──ズドンッ! 爆発音!
やった、当たった!
ロケットランチャーと奴の右腕を潰した!
だが……左腕の凶悪な爪(アイアンクロー)と内蔵砲が残っている。
そしてこちらもタダでは済まなかった。
左肩口から下が完全に死んでいる。胴部に爪を食らい、手足も蜂の巣にされた合わせ技で、操作感が狂いきっていた。脚部ローラーで滑走しようとするが、まっすぐ走れず壁へ激しく激突する。
というか、5機いた我が分隊はみるみるうちに撃破されている。
いま動けるのは何機だ!? 全滅してプルートゥが野放しになる原作にないバッドエンドルートに突入しているんじゃないだろうな!?
起き上がりヘビィマシンガンを乱射してカバーに入ってくれた最後の1機「ココ」とともに、距離を詰めながら撃ち込む。
だがその「ココ」の機体は、飛び込んできたレイジング・ドッグに突進され、豪快に振り回されて壁へ叩きつけられた。倒れる間際、左腕のクローで何度も殴りつけられ、沈黙。
クローで直接殴ったということは……奴も内蔵砲の弾が尽きたか!?
ならば距離を取って撃ちまくれば──!
そう思った瞬間、一気に間合いを詰められた。
そう来ると読めてはいたが、スピードが想定を遥かに超えている!
こちらの生命線であるヘビィマシンガンを持った右腕が潰され、折れ曲がった肘があらぬ方向へ弾丸を撒き散らす。再び壁へと叩きつけられ──
「ドンピシャだッ!」
待っていた私の隠し兵器──胴体に仕込んだ「ヒートロッド(電撃鞭)」が、レイジング・ドッグの巨体にガチリと絡みついた。
強烈な電流で電子機器をショートさせ、パイロットごと行動不能にする。警察のテーザーガンのような代物だ。
接近戦で当てられるか賭けだったが、向こうから飛び込んできてくれた! ゴトーに取り付けさせた秘密兵器で形勢逆転、こちらの、勝ちだ──!
……そのハズ、だったのに。
度重なる損傷のせいか、トリガーを力任せに引いてもヒートロッドの電撃発動シグナルが点灯しない。画面に表示される虚しい『ERROR』の文字。
バカなっ!?
「うわわっ!?」
ヒートロッドの電撃が起動しない絶体絶命の隙。
ホワイト・ラビットは壁に寄りかかったままろくに抵抗もできず、巨大なクローで殴られ続けた。
「ふぉふっ!?」
壁に叩きつけられ、胴が潰れて口から変な息が漏れる。
「きゃー」なんて色っぽい悲鳴が出ないのはどうでもいい!
「おうっ!? ふおうっ!!」
二度、三度と叩き込まれるクローのアームパンチ。
強烈な衝撃で息どころか、胃の中のものが「キラキラしたエフェクト(吐瀉物)」となって吹き出された。歪んだハッチが邪魔だとばかりにこじ開けられ、剥き出しのコクピットで奴と対面する。三枚おろしにでもするつもりか!?
最後の手段に手をかける。
シートの下に忍ばせた、自爆用爆薬の起動スイッチ。設置の際、ゴトーは渋っていたが……転がり出ながら作動させたとして、私はどれだけダメージを軽減できるだろうか?
キラキラエフェクトでヌメるシートベルトを外した、その瞬間。
目の前のレイジング・ドッグが電光石火で振り返り、忍び寄っていた最後の無人機──穴だらけボロボロで倒れたフリを擬態していた「バニー」の機体──のコクピットを殴り潰し、倒した。
だが直後、レイジング・ドッグから激しい火花と黒煙が噴き出した。
倒れる間際、無人機「バニー」が「ヒートロッド」を直撃させたのだ。
レイジング・ドッグが……動かない。やったのか!?
私の無人機チームの大金星! 無人機だと高をくくったのが運の尽きだッ!
「バニー! よくやった!」
……もう返事はない。
私は歩み寄り、レイジング・ドッグのハッチを開く。
操縦桿にもたれるように動かないプルートゥの肩へ手をかけ──直後、弾かれたように腕を払いながら飛び退いた。
プルートゥは身を起こしながら、抜いていた拳銃を構えようとしていたのだ。私が腕を払ったことで、拳銃が遠くへ吹き飛ぶ。
奴にはヒートロッドのダメージが残っているはずだ。ならば!
私はナイフを抜き放つ。飛び道具はレイジング・ドッグに殴られている間に紛失していた。
プルートゥは素手だった。
「改めて言う。降伏しろ! 私の勝ちだ!」
「どちらが……! 勝てる状況で……私が降伏などするものか!」
ヨレヨレのはずのプルートゥを生け捕りにしようと、一気に詰めなかったのが間違いだった。
突きを軽々と払われ、腕を絡め取られて突進される。押し込まれた体勢から、綺麗な小手返しを決められた。
「あっ!?」
激痛に悲鳴を上げた瞬間、ナイフが手から弾き飛んでいた。奴の近くに落ちなかったのだけが救いだ。必死で暴れて距離を取り、仕切り直す。
ジャブ、牽制の蹴り、組み付き──その全てが足さばきでかわされ、鋭い打撃が叩き込まれる。
こちらが当て損ねを1発入れる間に、あちらからクリーンヒットを2発もらう。組めば投げられ、寝技に持ち込んでも離脱され、倒れた私へ容赦ない打撃が降り注ぐ。
必死で体を回転させ、足を向けて蹴り返すが……まるで歯が立たない!
プルートゥは電撃を喰らって体に激痛とダメージが残っているはずなのに、立ち技、組み技、寝技の全てにおいて私を遥かに凌駕し、次元の違うスピードとパワーで圧倒してくる。
だが、私も怯もうが殴られようが手を止めない。
立ち上がりかけたところへ飛び込まれ、体を折りたたまれるように抑え込まれて殴られる。咄嗟に腕を伸ばして防ごうとして──
(しまった……!)
気づいた時には遅かった。伸ばした腕を抱え込まれ、関節を無慈悲に折られていた。
呻き、歯を食いしばり、蹴り上げながら殴られ続ける。
気づけば……背後から首を強力に絞め上げられていた。
まだ動く側の腕は固められ、折れた腕には力が入らない。必死で歯噛みし、踏ん張るが……視界が暗転する……。
……引きずられる不快な振動と痛みで、意識が強制的に呼び戻された。
絞め落とされていたのか……!
どのくらい意識が飛んでいたのか分からないが、ほんの少しの間だろう。
体がぐんと担ぎ上げられる。
逆ファイアーマンズキャリー──私は背中から反る形で、奴の首の後ろから肩へと担ぎ上げられていた。抵抗できないまま運ばれていく。
奴が足を止めたのは、あの深い竪穴のフチだった。
「気づいたか。ただの人間の貴様が、ここまでよく戦った。……だがこれで、楽にしてやる」
耳元で響くプルートゥの声。
そう来たか……!
原作でカニュー大尉は、雑に扱い続けた味方のルイスに『あんたは、人間のクズだな!』と竪穴へ投げ捨てられて終わる。
私カーニャ大尉は、敵のプルートゥに竪穴へ投げ込まれて終わるのが違いか……。
終わりか。
もがくが、プルートゥの筋力は一切緩まない。凄い漢(おとこ)だ!
すべてを諦めかけた、その時──
──ズドンッ!
50口径の強烈な風圧と破砕音が、至近距離を駆け抜けた。
「止まれッ!」
何だ……!?
プルートゥの動きが止まった。
「こちらを向け! ゆっくり動け!」
「そのままゆっくり下ろせ!」
「隊長! 生きてますかい!?」
プルートゥがゆっくり向きを変えたことで、視界が一変する。
生身のウッズマンとサロ・サリア。複数の装甲歩兵。
ルイスのシュペール・トレーガーに、フランコたちのボーリング・ビートル。
ハッチを開けて怒鳴っているのは……ルイス、フランコ、グエンだ!
あの野郎ども……命令を無視して降下突入してきやがったな!
ウッズマンとサロ・サリアが銃を構え、じりじりと近づいてくるのが見える。
(私は……これで助かるのか……?)
そうならなければ、いけなかったのだ。
そうならなければ、いけなかったのに。
「うおっ!?」
私を下ろそうとしたプルートゥから、驚愕の声が漏れた。
奴が、猛烈な勢いで足元を取られて躓いたのだ。
ヒートロッドの電撃も効いていたのかもしれない。
奴の足元には……転がっていた巨大な「空薬莢」。
奴の体が前へ倒れ込み、肩に乗せられていた私は放り出された。
「待てぇぇぇいッ!」
マテと叫んでも、投げ出された私の体が空中で待つはずもない。
美しい弧を描いて、巨大な竪穴の暗闇へ──!
両手を広げてくるくる回っても、飛べそうにはない。
「隊長!」
「姐御!」
空中で振り返った視界に見えたのは、フランコ、サロ・サリア、ルイス、ウッズマン、グエンの絶望の表情と、私を事故で投げ放してしまったプルートゥの『しまった……!』という凍り付いた表情だった。
くそっ! 助かるはずだったのに、ヒューマンエラーで結局地獄行きかよ!
おお神よ、真面目に働いて生きてきた私に何という仕打ち。
しまらねえなぁ……!
野郎ども、あばよ!!
──落下。
落下Gとともに血液が体内を不自然に移動する強烈な不快感。落ちていく。
私を襲う、絶大な衝撃。
そして──何も、分からなくなった。
【テイヘンズ補足小事典】
● 無人機作戦
『ワイルド・バンチ』のように死の行進に参加した無人機分隊。AIの愛称はアル、バニー、ココ、ドリー。
プルートゥ機「レイジング・ドッグ」を機能停止に追い込むという大金星をあげましたが、誰一機として無事には帰ってきませんでした……。
● ジェットストリームアタック
言わずと知れた、有名な縦一列の波状攻撃。弱点は、縦一列を貫通する攻撃を合わせられること。
●基地の終身刑囚
まあ、職業軍人の米俗語(lifer)でもありますし…
● ナメルキャ鴨をヘッドショット
北欧の某・猟師出身の凄腕スナイパー(シモ・ヘイヘ)のように。
ただし、この鴨は鋼鉄製なので、撃ち落としても鴨南蛮にして食べることはできません。
テイヘンズ世界に鴨南蛮が存在するかは謎ですが、カーニャは前世で深夜25時過ぎに帰宅した大晦日(=すでに明けて新年)、意地になって蕎麦を粉から手打ちし、日本文化と蕎麦の誇りを死守した過去があります。
「粉を捏ねて、伸ばして切って、茹でるだけ……」
某シンジ君のようにブツブツ呟きながら……。
●「あたしに帽子を被ったクマ公が言うんですがね……『山火事を防げるのはお前だけだ!』ってね!」
ピーター・フォーク演じる『刑事コロンボ』のように。
各担当俳優さんの素晴らしい吹き替えをご想像ください。
● 「プルートゥの筋力は一切緩まない。凄い漢(おとこ)だ!」
まるで不破刃(『龍虎の拳2』)のごとし!
ならば竪穴に放り投げられたカーニャは「漢プター(真空斬首刀)」の回転力で空を飛んで避難だ!……なんて芸当は不可能なため、普通に落下しました。