敵SSのストーキング、部下の暴走、上司の無茶振りと丸投げ、叱責。
迫り来る過重労働の嵐の中で、元社畜のプライドをかけた防衛戦が始まる。
だが、カーニャの内心で誰かが囁く。
私の社会的尊厳は、まだここに存在するのか?。
次回、『ラッキースケベ(?)』
――カーニャが流す血の涙は、苦い。
原作の『テイヘンズ』第15話では、主人公が単独で「対SS用戦闘予測プログラム」をミッションディスク内に徹夜で組み上げ、敵のSS(スーパーソルジャー)に対抗して見せる流れがある。
――だが、私は知っている。天才スペシャリストが一人で何でもこなす現場は、間違いなく地獄のワンオペ環境と化す。そんなブラックな体制は前世のデスプロジェクトだけで十分だ。組織とは、属人性を排除し、システムで勝つべきだ。
私は前世のIT社畜時代に培った(タイムカードを無視した)持ち帰り残業スキルをフル稼働させ(ブラックな体制から逃げられていない気もするが)、「対SS汎用戦闘プログラム」を徹夜で組み上げた。もちろん翌朝の出動に間に合わせるためだ。これを我が部隊全員にインストールして対抗する。
「……ふぅ、死ぬかと思った……」
意識が朦朧とするなか、徹夜明けの朝のシャワーを浴びてどうにか正気を保つ。 真っ裸で浴室から出たところで、私の宿舎の部屋のドアがいきなり開いた。
入ってきたのは、自分が組んだ修正プログラムの端末を持ったジョルジョだった。
「……あ」
『貴様ら、個々の対SS戦闘データを各自のミッションディスクに焼き、明朝の出動前に私の宿舎へ直接持ってこい。軍の通信網はゲリラに傍受されている可能性があるからな。締め切りに1秒でも遅れたら、営倉行きにするか有給申請を却下してやる!』
――前夜、上官の権力をカサに着てそう通達したのが、完璧に裏目に出た。私も迂闊だった。私がシャワーから出た瞬間にドアをブチ開けて突入してくる者がいる可能性を、完全に失念していた。相手はディアナのシャワーシーンを覗いていたくせに本気で「俺はクソ真面目な男だ」とかのたまうサイコパスなセクハラストーカー不審者ジョルジョだったのだ。
私は全裸。ジョルジョは無表情でミッションディスクを差し出してくる。 負傷明けかつ徹夜明けで頭が冴えず足元もフラついていた私は、ジョルジョとまともに交錯する形で派手に床へひっくり返った。
どさりと重なる、男の重みと、硬い軍用ブーツの感触。 そして最悪なことに、ジョルジョの奴、私の、その……NASAの基地並みに平坦な胸の上に思いっきり手を突いて、握りやがったのだ!
「貴様、そこをどけ! 早くどかんかァ!」
シンジくんとアヤナミみたいな甘酸っぱいボーイ・ミーツ・ガール?とは程遠い。
私が全裸で悶絶し、もがいている次の瞬間、またしても地の底に棲む神(または悪魔)の悪意が働いた。
またもう一人の部下、無神経なフランコが同じく端末(ミッションディスク)を持って入ってきたのだ。
「おや、大尉殿、芋虫みたいにマッパで何やってんですかい?」
「貴様らぁぁぁ! 人の居室にデリカシーなく勝手に上がり込んで来やがってッ!」
「へ? 出動に間に合うようにできたら即持ってこい、でないと営倉入りか有給却下だって大尉が脅すから、ご命令に従っただけですぜ?」
ジョルジョは私を押し倒した上に掌で乳を掴んだ体勢のまま、ぼーっとした顔をこちらに向けているが、私の裸に見とれたり乳を触って動揺しているわけでは決してない。例の脳内彼女「ディアナ」との妄想に浸って上の空になっているだけだ。心底ムカつく。
一方のフランコは、野生の猿のような無遠慮な目でジロジロとこちらを眺めていたので、怒鳴りつけて無理やり後ろを向かせた。
私はパニック状態でジョルジョを押しのけると、大急ぎで下着を引っ掴んだ。
最近ひどい目に遭ってばかりでメンタルが死にかけていたので、ささやかな心の癒やし(QOLの向上)を求め、ネット通販で買ったお気に入りの「うさちゃんプリント付きのファンシーなブラ&パンツ(上下セット)」を命がけの戦場に挑むときの勝負下着として用意してあったのだ。
よりによってそれを、この地獄の状況で着用するハメになるとは。
「貴様ら! 今日の私の姿を、一言でも他人に口にしてみろ! タダじゃおかんからな!」
私の必死の威嚇に、ジョルジョは服のホコリをはたきつつ、冷淡に言い放った。
「安心しろ。俺の理想はボン・キュッ・ボンのディアナだ。ヒュー、ストン!(絶壁)な大尉に興味はない」
「何だとォ! 貴様! 押し倒した時に思いっきり人の乳を揉んでおいて何を言うか!!」
「俺にも好みがある。目の下にドス黒いクマを作った、やつれたヒュー、ストン!な大尉に抱きつく真似など、不可抗力でなければ頼まれても嫌だね。それと、手をついただけだし、掴みどころが無くて揉むことが出来なかった」
「何だとォ!」
私に背中を向けて今度は部屋の中を無遠慮にじろじろ眺めていたフランコも追撃してきた。
「大尉殿、あのベッドのでかいうさぎのぬいぐるみは何ですかい? もしかして彼氏ですか? ハッハッハッ!」
私は顔が熱くなるのを誤魔化して叫んだ。ラビちゃんは、短時間でも眠るための私の睡眠対策の生命線である!
「貴様らァァァ!! 無駄口を叩くな! 連帯責任で二人とも営倉入りになりたいのか!?」
私の威嚇を聞いたフランコが、ニヤニヤしながら振り返った。
「えぇ〜? それって何の罪でですかい? 『事実陳列罪』で? まあその、子供向けみたいなうさちゃんぱんつ…これはこれでマニアには受ける気もしますぜ?(俺は無理だけど)」
「だ、だまらっしゃい!! しゅ、出動ッ! 出動だァァァーーッ!!」
◇
後日。 我がエッセンシャルNo.10の基地内に、以下のような、事実を悪意半分面白半分で180度曲解した極悪非道な誹謗中傷が、光の速さで駆け巡っていた。
『聞いたか? セクハラストーカー疑惑のカーニャ大尉、ジョルジョとフランコを宿舎の自室に職権乱用で呼び出して、全裸で待ち受けて押し倒したらしいぞ』
『マジかよ。しかも自分の貧相な身体はステータスだ、希少価値だ、と涙ぐましく主張して、見ろ見ろと迫ったらしい』
『勝負下着は、上下セットで30ギルダン(約1000円)の、うさちゃんがプリントされた安い女児向けパンツとブラで、うさぎのぬいぐるみを抱えて迫ったとか……』
『ウワァ……それは……かなり人を選ぶ、並大抵の刺激では満足できないマニアの趣味だな……』
『そこまでしても二人に相手にされなくて、悔しさに血の涙を流しながら昇る朝陽に鋼鉄のララバイを遠吠えしていたらしいぞ』
『哀れだな』
私の社会的ステータスは、ついに前世の倒産した親会社の株価をも下回り、実質上「上場廃止(人間失格)」の領域へと突入したかも知れない。
これも全部、あのムッツリ電波ストーカーと、事実陳列罪のフランコの仕業だ。 いつか、絶対に、あいつらのコーヒーに下剤を限界まで盛ってやる……!!
シンジくんとアヤナミみたいには、なりませんでした
※ミッションディスク。装甲歩兵の戦術データが入った入れ替え可能なプログラムディスク。これを入れ替えすることで装甲歩兵は様々な状況に対応できる。「フロッピーディスク」みたいなものと考えるとピンとくる…はず…?
※うさちゃんプリント付きのファンシーなブラ&パンツ(上下セット)。きちんと成人用。特に危険がある任務に向かう時のストレスに対抗するため、癒しながら心を引き締めるゲン担ぎとしてカーニャが愛用している。なお、上にはさらに胸部に対衝撃ガードのついた下着を重ねて着用。
※大きなうさぎのぬいぐるみ。ろくに睡眠時間が取れず、午前3時半就寝~5時には起床など前世とあまり変わらない生活のカーニャが、短い時間で効率よく入眠できるよう使用。切実。抱き枕の機能の上に、癒し効果もある。