動乱の泥濘に揉まれてもなお、月間労働400時間を超えて煌めく恍惚の光。
だが、この命は何のために。
過労死ライン3倍の環境に、「あ、これ知ってる」と馴染んでしまう絶望の運命。
だが、そのバグった社畜脳は何のために。
迫る「ざまあ」の回避を誓い、美人将校?(元社畜)は戦場を這う。
炎熱のクメソに、人生の第2幕が「大腸菌ホールド」で強制的に開く。
次回「疑惑 神の茶色い手」。
まだジョルジョは手を洗わない。
【疑惑 神の茶色い手】
社畜男子から女性将校カーニャへ、まさかのTS転生。
戸惑いながらも好意を寄せてくる同僚兵士にドキドキしたり。
あるいは、可愛い女性の同僚にドキドキしたり。
そんな、甘酸っぱくも賑やかなハーレム展開。
あるいは、転生に伴う圧倒的なチート能力や、
前世の近代知識を使って戦場を無双する爽快なファンタジー。
世の中には、そういう都合のいい物語がいくらでもあるような気がしていたのだがねえ。
現実は非情である。
何しろ、この世界は「生き残れ、ただこの日を」と泥水をすすりながら歌う『装甲歩兵テイヘンズ』。
社会の底辺、視聴者含めた「地を這う虫けらたちの夢」を乗せて、底辺兵士として何があっても生き残る「ジョルジョ・デ・キリコ」という生きる災厄が、目もくらむ破壊の中を走り抜け、一目ぼれした人間兵器の美人と結ばれるドラマなのだから。
地を這う虫けらジョルジョ氏は、将棋の「歩」が転じて「何があっても生き残るルール外のチート駒」異能生命体なので、奴の社会的地位は底辺だけれども、人生では規格外の強みを持つ人物である。
そして災厄に巻き込まれた周りの地を這う虫けらたちは、大抵死ぬ。
シリーズの『ラスト・ショルダー 錆びた肩』『初めのストーカー 野望のルーツ』とか『テイヘンズファイルズ』あたりだと、画面の向こうはむさ苦しい男子だらけの戦場で、そっち方面の目が光る「匂わせ」が一部で人気だった気もするが、今の私は物語どころではない。
浮いたり沈んだりパッとしない人生を送る中で、人生の花道とばかりにチート生命体ジョルジョに思いきりパワハラ上司仕種で絡みまくって、主人公ではなくその仲間(ルイス・オラトリア)に深い竪穴に放り込まれて「ざまあ」されるというカニュー大尉…の女性版「カーニャ大尉」にTS転生してしまったのだから。
現状を、整理しよう。
まず、前世。
多い時は朝1時間の自主早出。
昼休みは当然のように自主短縮、あるいは自主カット。
20時以降はタイムカードを打刻して「建前上は帰ったこと」にし、そこから実態として22時、あるいは26時まで残業。
帰宅してから、さらに持ち帰りの書類仕事が30分前後。
朝3時〜4時にようやく眠りにつき、遅刻しないよう(場合によっては再び早出のために)這い起きて出勤する日々。
そんな連勤が20日、30日を超えるのはザラだった。
現場のキャパシティ的に、本来なら2〜3人は欲しいセクション。
そこに会社がよこしたのは、1人の私と、日本語も英語もフランス語もまともに読めない外国籍の派遣労働者(しかも固定ではなく日替わり)。
彼ら彼女らに日本語文書を渡して「これやって」という崩壊プラン。
「どうしろと言うんだ!?」という現場の悲鳴を無視して、上司から降ってくるのは「派遣を入れたのだから、定時に仕事を終わらせろ」という無慈悲なご指示。
いや、そもそも熟練者がいても定時に収まらない仕事量ですよ?
――あの時期、私の月間総労働時間は、たぶん400時間をゆうに超えていた。
連続残業時間が「過労死ライン80時間」の約3倍。
赤い彗星も真っ青になるほどの暗黒スケジュール十数年から、神が憐れんで救い出してくれた先がこれかと思ったら。
今世。
――何も変わっていない。
配属されたエッセンシャル基地の労働環境は、前世そのもの。
言葉の通じない派遣さんの代わりに目の前にいるのは、工業用洗剤を混ぜた密造酒をあおって潰れているような、毎週5パーセントの割合で死んでゆく消耗品の兵隊たちだ。
そんな地獄で、私が現世に持ち込めた唯一の「チート能力」とやらが、
「原作のタイムラインを知っている知識」と、
「前世では10年以上の熟練者! 今世でも残業240時間超え、総労働時間400時間超えのデスマーチに耐えられます!」
という、バグった基礎体力(社畜脳)だけ。
前世と全く変わらんではないかね。
男性からも女性からも憧れられるハーレムどころか、過労でギスギスに痩せ細った貧相な身体を、周囲から笑われたり憐れまれたりするだけのポジションだ。
いまや私の副官ポジションに収まっているフランコにしてもそうだ。
毎週5パーセントずつ兵員が死んでゆく過酷な確率変動の中で、「たまたま運良く生き残り続けたから、消去法でそこにいる腐れ縁」というだけ。
能力的には、前世の言葉の通じない外国籍の派遣さんよりも、さらに無能寄りのロクデナシだったりする。
そして私は、主人公の異能生命体ジョルジョといがみ合って「ざまあみろ」されて殺される運命と来た。
奴隷みたいな労働をして、認められずに嘲笑されて、「あんたは人間のクズだな!」と投げ殺される「ざまあ」で終わる新しい人生のために転生してきたわたくし。
……おかしいじゃないかね! 私は世界に対して、厳重なやり直しを要求する!
もし、私をこんな割に合わない現場へ呼び寄せた「神」とでも呼ぶべき存在がいるのだとしたら、そいつは残酷なクソ野郎だろう、あまりにも。
会ったことも、拝んだこともないが、敬意(?)を込めて「物体X」とでも呼んでやろう。
永遠に南極の底にでも沈んで凍り付いていて欲しい。
◇
19時。
無理やり「早上がり(※もちろん定時を1時間以上過ぎている)」して、基地の食堂、砲兵隊、航空部隊を駆け巡ったが、お目当ての人間は留守だった。
仕方がない。私はジープに飛び乗り、夜の帳が下りるボイコツの街へと車を走らせた。
20時前。
『ファントム・クラブ』の前に到着する。
この街は灯火管制が始まって2時間以上経つというのに、そのお化け屋敷のような飲み屋だけは、周囲の闇をあざ笑うかのように煌々とケバい光を放っていた。
私は天を仰いで深くため息をついてから、ドアをくぐった。
カウンターの奥には、スポンサーの武器商人ゴトー、店長のカカオ、愛人の歌姫ミントがたむろしている。私は迷わず彼らの元へ歩み寄った。
「これはこれはカーニャ大尉。あんたも一杯やってみるかね?」
「一応仕事中だ、飲まない。――あー、それよりゴトー。基地の食堂への原料納入、特にアイスクリームの在庫だけは絶対に切らさないように頼む。この炎熱のクメソにおいて、冷たくて癒されるアイスクリームは兵たちの唯一の精神安定剤なんだ」
ふとゴトーの手元を見る。
いかの燻製にピーナッツの乾き物でビールをちびちびやっているらしい。
散々裏で儲けているくせに、相変わらずケチ臭い男だ。だからこそ金が溜まるのだろうが。
ついでにオーナーのカカオと歌姫のミントを見る。
飲食物を扱う店だというのに、長髪のカーリーヘアを振り乱しているカカオ。
ショートカットながら、ステージ衣装の背中に巨大な鳥の翼を背負っているミント。
……食べ物や飲み物に、髪の毛や羽毛が落ちたりしないのだろうか。
前世の衛生管理基準(HACCP)で見たら、監察官から「すぐ改善しなさい」と厳しい指摘が飛んでくるヤツではないか?
「マスター、何か美味いものはあるか?」
灯火管制無視を軍人としての私に絡まれないかと、少し身を硬くしていたカカオが、慎重に声を潜めて答える。
「水牛のベーコンを厚切りにしたステーキがございます。……60ギルダンと、少々お値段は張りますが」
「ブランデーの最高級品、レミー・サンファミーユはあるか?」
「はあ、これもボトルで60ギルダンになりますが……」
よし、交渉開始だ。私はさらに声を落とした。
「もう一つ質問だ。ウィンズロウと、シンは店に来ているな?」
カカオの目がさっと警戒の色を帯びる。
「……それはお答えしかねますが」
私は黙って財布を開き、カウンターに490ギルダンを叩きつけた。
「レミーと水牛ベーコンのステーキ、セットで3組。ここのゴトー氏と、ウィンズロウ、それからシンに。……できるか? あと、私にはアイスコーヒーを。370ギルダンあれば足りるな? 残りの120ギルダンはオーナーと歌姫へのチップだ。どうだね?」
カカオの顔が、一瞬で絵に描いたように相好を崩した。
「出来ますよう! 大尉殿! ウィンズロウは右の隅の席、シンは奥の隅の席から、さっきから大尉殿をチラチラ見ていますよ!」
「取引成立だ」
ブランデーを一本手にしたゴトーが、さっそくグラスに注いでいる。
「お堅いかと思ったら、あんたは意外に話が分かるな」
「話が分かる」だなんて、たかがブランデー一本で言ってしまっていいの?とタワ・ラマチの1フレーズが頭をよぎる。
まあ、「ざまあ」に進む人生ならば、敵が増えるよりは良い。
私はゴトーとコーヒー、あるいはブランデーのグラスで軽く乾杯を交わすと、受け取ったボトルを手に歩き出した。
まずはウィンズロウ。砲兵隊のボスだ。
岩を鏨で打ち削ったような体格とご面相をした大男である。私はそのテーブルに、無造作にブランデーのボトルを置いた。
作業帽を被った巨漢は、威嚇するように私を睨みつけてくる。
だが、目の前の高級酒のせいで険しい顔全体が嬉しそうにデレデレと崩れており、全く効果がない。
「お待ちどおさま!」
じゅうじゅうと肉の焼ける香ばしい音と共に、カカオがさっそく水牛ベーコンのステーキを運んでくる。
「よう、リトル・ジョン。この間は、おかげで命拾いをした。そのお礼だ」
私は酒とステーキを勧めた。
「任せておいてくださいよ。自分たちもろとも敵を吹き飛ばすなんて、大尉殿もいい度胸してるじゃねえですか。……ところで、お体の傷はもう大丈夫なんですかい?」
「ありがとう、何とかなったよ」
本当は過労死3倍チートの反動でまだ微妙に体調がおかしいが、現場に弱みを見せる必要はない。
私はそっと、小さなケースを彼の前に押し付けた。
中身はエッセンシャル基地の食堂の食券と、アイスクリームの特別優待券だ。
炎熱のクメソにおいて、冷たくてエネルギーにもなるアイスクリームは大人気。
まるで子供騙しだが、命がけの戦場ともなれば、この手の甘味への食いつきが文字通り違ってくるのだ。
「ありがてえ! いつだって、俺たちの魔法の手が大尉殿をお守りしますぜ!」
私はまた、コーヒーとブランデーで乾杯を交わした。
――死神除けのお札は、買っておいて損はない。
何しろここでは、毎週5パーセントの兵員が生きて還らないのだから。
砲撃支援という『魔法の手』とのつながりは維持した。
次はシン。航空隊のエースだ。
可哀想に、結婚を前に詐欺か何かにはめられて莫大な借金を背負い、その返済のために航空部隊に身売りしたという、影のある優男である。
彼は一人、暗い表情でちびちびとグラスを傾けていた。私はその席に、もう1本のボトルを差し出した。
「あんた、生きていたのか、ホワイト・ラビット。味方の砲撃に巻き込まれて吹き飛んだと聞いたが」
暗い男が、ぼそりと呟く。
「ご挨拶だな、ブルー・ライオン。まあ、ここは『ファントム・クラブ』だからね。私は地獄から化けて出た幽霊なのかもしれないぞ?」
タイミングよく、また水牛ベーコンのステーキの音と匂いが追いかけてくる。カカオがドン、と皿を置いた。
「しっかり食って休んで、稼いでくれ。私がピンチになったら、あんたにゲリラの位置情報を山ほど提供する。例の蒼い死神…ストーキング・スナッパーだっている。そいつらを平らげた賞金で、早く年季を開けることだね」
「……分かった。今後も、あんたの力になろう」
シンは、ふっと影のある笑みを浮かべた。
私は彼の手元にも、小さなケースを押し付けた。またブランデーとアイスコーヒーで乾杯する。
用は済んだ。
私はカウンターに戻り、もう一杯のアイスコーヒーをすすりながらチョコレートをつまんだ。
(……効くッ!)
朝にバナナを1本食べ、15時頃にエネルギーゼリーを胃袋に吸い込んでからの、20時。
久しぶりのまともな栄養補給に、血管を熱い血液が走り回っている感覚がする。
ちなみに夕飯は「ドイツ風ディナー」が多い。
「じゃがいも(ポテチ)、ソーセージ(魚肉)を(咀嚼する気力が無いので)ビールで」流し込む。
フランス・イタリア・スペイン式ならワイン、東欧式ならウオトカで流し込む。
前世から変わらぬ「世界の味めぐり」だ。
おかしい。夢の異世界TS転生を果たしたというのに、この「食事を燃料補給としか思えない限界社畜生活」が前世と全く変わらないのは、一体どういう不具合かね。
独りで世界へのやり直しを請求していたら、店内で揉め事が始まった。
原因は、我が部隊の誇る「不審者」ジョルジョ・デ・キリコ氏である。
彼がぼーっとした様子で店に入ってきて、飲んでいた兵隊たちに正面衝突したのだ。
小競り合いはすぐに収まった。
ジョルジョにぶつかられて怒り狂っていたのは、装甲歩兵隊の腕利き、筋肉だるまのティン・ウッズマン。
彼を宥めている長身で理知的な男が、トップチームのサロ・サリア。
そして、背後に巨人のごとくそびえ立っている男が、異星系クエルト人ルイス・オラトリアなのだが……。
(待てよ。原作『テイヘンズ』の流れだと、直後、彼らを狙った爆弾テロが仕掛けられるはずじゃ……!)
当のジョルジョは――呑気にトイレに行っている。
見れば、ウッズマンの隣の席の男が、カウンターの下にわざわざ黒いカバンを置き去りにして、店を出て行こうとしていた。
誰も、気がついていない。
これ、放っておいたら、異能生命体(ジョルジョ)以外のエッセンシャル基地のエースたちがまとめて爆死か?
「20時だよ、全員KIA!」で、私の現場の戦力が一瞬で崩壊するんじゃないかね!?
私は叫んでいた。
「待て貴様! 何故そこにカバンを置いた!」
男が振り返った。冴えない地味な服で固めた男だ。その顔は興奮と恐怖で強張っている。
男は私と目が合うなり、背を向けて猛然と走り出した。
私はカウンターを飛び越え、荷物へと駆け寄りながら絶叫した。
「爆弾テロの可能性がある! 皆、離れろ!!」
カバンから飛び退こうとしているウッズマンの巨体を視界の端に捉えながら、私は走り込んでカバンを引っ掴み、店の外へと全力疾走した。
(ドカンと行くなよ! 頼むから今行くなよ!)
原作では、ジョルジョが店の外へ投げ捨てるまで爆発しなかった。だが、今回もそうなるとは限らない。
何しろ、今そのデス・タスクたる爆弾を持っているのはジョルジョではなく、私――カーニャ大尉なのだ。すでに原作のタイムラインは狂い始めている!
店の外階段を駆け下りようとした瞬間、凄まじい衝撃と共に、私の身体が宙を舞った。
路面に激しく叩きつけられる。
(あれ……? 生きてる……?)
カバンは爆発していない。
見ると、なぜかトイレから超スピードで走って追いついてきたジョルジョに、背後から思いきりタックルをかまされて押し倒されていた。
「貴様! 何をやっているか! 爆弾テロだ! カバンを川に投げ捨てろ!」
ジョルジョが私の手からカバンをひったくり、すぐ側を流れる河へと放り投げた。
こういう咄嗟の反応速度については、この男は有能だ。
「爆弾だ! 伏せろ! 伏せろ!!」
私は叫びながら腕を振り、周囲に伏せるよう指示を出す。
「あんたも伏せろ」
私の頭を、傍らにいたジョルジョが無造作に大きな手で掴み、地面へと押さえつけてきた。
庇うつもりか、私の上にのしかかってくる。
周りの人間が悲鳴を上げて逃げ惑い、あるいは地面に平伏する。
10秒、20秒……。 静寂。何も起こらない。
「大尉。……悪戯をしたのか?」
ジョルジョが、至近距離から恐怖の「真顔」で聞いてきた。
――その途端、爆弾が炸裂した。
凄まじい轟音と衝撃波。
河から巨大な水柱が立ち上がり、豪雨のような水飛沫が辺り一面に降り注ぐ。
もちろん、地面に組み敷かれている私たちも一瞬でずぶ濡れだ。
「悪戯で、こんな心臓に悪いことをするものか! ……庇ったようだが、礼は言わんぞ。それより私の上から早く退かんか! 貴様の身体が重くて痛い!」
ジョルジョは濡れた髪を払いながら、淡々と言い放った。
「……俺の重さが痛いんじゃない。大尉の身体が骨ばっているからだろう」
(……私も大概無礼だが、この不審者め、私の過労気味のフラットボディを遠回しにディスったな? 次のシフト表、タイムカードを切らせた上で無限に残業させてやろうか??)
デリカシー皆無発言を喰らい、ずぶ濡れの泥水の中でジョルジョをどかした私は、ふと一つの「疑問」に思い至った。
「ところでジョルジョ. 貴様、店内の異常にあのタイミングで気づいてよく間に合ったな. 男がカバンを置いて逃げた瞬間、動けたのは私と貴様くらいだぞ. さすがだな. 特異な危機感知能力といったところか?」
私が泥を払いながら感心して尋ねると、濡れた青い髪を無造作にかき上げたジョルジョは、淡々と、しかしどこか誇らしげにこう言ったのだ。
「ああ。――個室で危うさを感じ、咄嗟に『切り上げて』飛び出したのが良かった」
「…………。……切り上げた?」
一瞬、私の脳の処理フリーズが起きた。
個室。切り上げた。――戦場において、その不穏なワードが意味する選択肢は二つに一つだ。
私は恐る恐る、血の気が引いていく顔でジョルジョを凝視した。
「……待て。大か小か、どっちだ……!? というか貴様、その手はちゃんと洗ったんだろうなッ!? おいっ、手に着いたその茶色い色はなんだ!?」
緊迫したテロ現場に、唐突に響き渡る衛生管理の絶叫。
私の必死の詰問に対し、ジョルジョはスッと視線を河の爆発跡へと逸らし、感情の消えた真顔でぼそりと呟いた。
「……店が無事で良かった。あ、大尉もな」
手はズボンで拭っていた。
ディアナーっ! 悪いことは言わないからこいつから逃げ出せ!
結婚してから「こんなに逝っちゃってるとは思わなかった」とか言っても、このストーカーは逃がしてくれないぞ!
「貴様ァァァ! 露骨に目を逸らして誤魔化しやがったな!! 大だな!? 完全に大を途中で切り上げてそのまま走ってきたなコンチクショウ!!」
なんということだ。
私の頭を無造作に掴み、地面へと力強く優しく(?)ホールドして庇ってくれた「あの大きな右手」は、さっきまで個室で、おまけになんか色まで着いていたのは――!!
あのバックハグは、プリンセス・ホールド、だいしゅきホールド(?)ならぬ「大腸菌ホールド」か!
(物体Xよ!! 私はテロの被害からは生き延びたが、部下の『洗っていない手』によって精神崩壊を起こしているのだがねえ!! 頼むから定時で帰らせてくれえええ!!)
【テイヘンズ補足小事典】
●『ラスト・ショルダー 錆びた肩』『初めのストーカー 野望のルーツ』『テイヘンズファイルズ』
画面の向こうがむさ苦しい男子だらけの戦場だった頃のシリーズ。ムザー、バイマソ、グレゴーノレ、ペルーゼソ閣下、カスーン、サラリ・イーマン、バコフー分隊(ゴダソ、ザッキー、ダレ・コチャック・ノソス)、オカン、ヴィレ・ムルスケ(※オランダの赤鬼っぽい柔道家/プロレスラーとは一切関係ありません)などの愛を軸に展開する(という一部界隈の妄想)。とても濃い。
●400時間超え労働
上の圧力により18時~20時には「帰ったこと」にして、会社に属さない妖精さんたちが23時~26時まで仕事をしてくれています。連勤4週間とか「住民票(自宅)は職場」というジョークも素敵です。
ヨーロッパの妖精はチーズを置いておくと喜びますが、日本の妖精さんは「故意に残業して小遣い稼ぎしやがって」と罵倒すると、タイムカードを切って実によく動きます。健気で可愛いですね!
●そいつは残酷なクソ野郎だろう、あまりにも……
(ジョルジョ・デ・)キリコの台詞オマージュをやってしまう悲しい「最低野郎」のサガです。
●アイスクリーム アイスクリーム アイスクリーム
(※炎熱のクメソにおける、すべてを潤す絶対の聖水)
●水牛のベーコンを厚切りにしたステーキ(60ギルダン)
元ネタは『青の騎士』。ケイン・マクドガルがバーテンダーから「合成ベーコンのステーキってところだな。50ギルダンと値が張るがな」と勧められ、情報を引き出すために前金で注文したアレです。
●レミー・サンファミーユ
高級ブランデー。家族(ファミーユ)も知れない傭兵どもが、やがて来るかもしれないかすかな希望を託して飲む銘酒。
●タワ・ラマチ
この世界の恋愛詩人。「この酒がいいねと君が云ったから 飲み過ぎ明日は二日酔い記念日」など心に残る歌を残した。どうしても酒……(ここでカーニャ大尉の意識が途切れる)
●シン
本名不詳。エッセンシャル基地での彼の乗機には、なぜか「88」というエリア的な識別ナンバーが書かれている。
●世界の味めぐり
イギリス風バリエーションに「ビッグカツとポテチでフィッシュ&チップス+ビール」、東欧風の時は魚肉ソーセージをミニカルパスに変える手もある……とカーニャの前世さんが言っていましたが、今世の私にはまったくわかりません。
●ティン・ウッズマン、サロ・サリア、ルイス・オラトリア
それぞれ
ブリキの木こりがパーソナル・エンブレム、
別名サロト・サル、
そして巨人は蝦蛄の寿司が好き
●大腸菌(だいしゅき)ホールド
クエルト星の谷の底の神(物体X)が企まずして組み込んだ、最低にして最悪のダジャレ。気づいて震えてます。
※「疑惑」章の導入部だけ、投稿しました