グルメ界で、鹿でしかない 作:トリコ世界の料理食べたい
【祝】蛇、撃退
なんとか勝てました。
あの蛇、綺麗なものが好きなのはいいのだが、他の大陸に喧嘩売りまくるから好きじゃないんだよね。鯨も嫌い。
たまに来る烏とはまぁ…、うーん。
どうにもあの蛇は特に目的もなくやってきたみたいである。
前回や前々回は砂浜とか林檎を狙いにきていたんだけど、今回ばかりはむしゃくしゃしてやってきた、という雰囲気を感じた。
多分だけどブルーニトロにしてやられて、地球のデザート“アース”を奪われでもしたんだろう。
ざまあみろ、と思いもするけど、ブルーニトロは100倍にくいので複雑である。
八王の共通認識として、それぞれの考え・スタンスはあれどブルーニトロは敵という関係性だ。
地球のフルコースが熟する前に奪われたり、縄張りの一部を占拠されたり。
一番可哀想なのは馬王ヘラクレスだ。
彼女が出産する時はフルコース・サラダ”エア”の大気が必要だって言うのに、ブルーニトロは熟し切る前に持っていっちゃうもんだから、大変である。
私が生まれた初期ごろには100年に一度、虹の橋と共に新鮮な大気がグルメ界に満ちて、新たな馬王が生まれる”
しかしながら最近になってめっきり見ることは無くなってしまったのは悲しい話。
あの新鮮な風を浴びんのが好きだったんだけどなー。
残念。
そんな感じで100年に一度の収穫の際は、グルメ界全体がピリピリする。
今度ばかりは地球のフルコースを取られないように、と八王たちが臨戦体制へと移行し始めるからだ。
それが”グルメ界の夜”であり、同時にフルコースが熟しはじめたことを示す知らせでもあるのだ。
私と蛇とで戦っている間に、GODの出現と収穫は終わったみたいで、グルメ界は安定期に入っていった。
日食とかいう面倒臭い現象も終わり、いつも戦いに満ちているこのエリア5にも静けさがやってきたのだった。
…というかグルメ衛星によって落とし蓋みたいに太陽の光を遮るってなんやねん。
エリア5代表として日照権で訴えるぞ!ブルーニトロめッ!
はー、もう。
イライラしてきたわ。森でも食べよ。
そういえば私は鹿(人間の前世入り)な訳なのだが、この場合ビーガン認定受けるんだろうか。
樹木と土からの栄養しか食べてないし。
もしかして私菜食主義者?
なわけないか。草w。
…私疲れてるのかも
ブルーニトロと蛇王ティアマト。
短い期間内での大きな二つの襲撃。
この時のために色々準備してきたわけなのだが、無事失敗して結構メンタルにきているみたいだ。
鹿王として不甲斐なしッ!私*1が入れる穴があったら入りたい!
腹ペコ侍になりかけたけど、気概は十分。
次こそは殺す。
目標としては目からビーム放つことです。
“食域の森”のみんなもやる気満タン。
どうにもブルーニトロでダウンしてしまい、蛇王との戦いにほぼ参加できていない子が多かったらしい。そのため全体的に鍛錬や戦闘への意欲を滾らせながら、静かに休息をとっている。
ママはみんなが成長してくれてとても嬉しいです。
最近入ってきたレッドニトロたちも、元々いた“食域の森”のみんなにいい刺激を与えてくれている。
実のところ、このレッドニトロたちは元ブルーニトロの奴隷だ。
捕らえられ、弄られ、使役されて、畜生同然の扱いを受けていたところをなんとか脱走し、この森に行き着いたんだとか。
聞き取り調査によれば狼と竜がガチ喧嘩して、ブルーニトロが手こずっている間に逃げ出したとのこと。
やはりブルーニトロ、悪では?
他にもブルーニトロの奴隷っていうものは多い。
そも、人間界自体がブルーニトロが作った養殖場だ。
例えばブルーニトロが用意した毒の海やマザートルネードに偽装した風の壁だったり。
人間界をグルメ界からの脅威から守っている盾であるとともに、それらは人間の数を増やしながら閉じ込める鉄柵でもある。
そんな
グルメ界基準ではだいぶ雑魚なのだけど、そこらの人間程度では太刀打ちできないのがグルメ界の生き物というわけなのです。
収穫された人間の用途は多岐に渡る。
効率よく育てるために、地球のフルコースの肥料へ。
雑多な作業や面倒臭く汚い処理を行わさる労働力へ。
使い捨てできて、補充が簡単に行える戦力へ。
そして、なんとか青の食材を再現できないか未来永劫試し続ける実験体に。
増えやすく、扱いやすく、賢く、器用で、そして圧倒的に弱い。
実に、なんて良い家畜だろうか。
事実、この世界のホモサピエンスという種は品種改良されて、地球の人種とはだいぶ異なっている。
そして、彼らブルーニトロは考えた。
更に効率よく、使い潰そうと。
グルメ細胞は旨みやの元であるとともに、肉体に宿っている者と持たざる者ではその膂力に歴然の差がある。
グルメ細胞を人間が手に入れる方法は先天的なものと後天的なもの。
先天的なものは生まれた時から髪色や肉体に模様や傷として、常人とは異なる様相を出す。
そして後天的に得るためには大きく分けて二つ。
長期的にグルメ細胞を宿した食材を食べ続けることで、肉体に適合させる方法。
安全だがとても長い時間がかかり、更に宿るのは結局運頼りの非効率な方法。
一方、短期的な方法はグルメ細胞の直接注入により、無理やり肉体に適合させる方法。
濃度や注入するグルメ細胞の種類にもよるが、危険度は高く、成功率も低い。適合しなければ化物となって肉塊になるかもしれないし、最悪死ぬ。
死んだとしても肥料にすればいい、化け物になったら労働力になるし、動かぬ肉塊にでもなれば家畜の餌に使える、とても効率的な技術。
増やし、攫い、弄び、最後は餌にする無駄のない洗練された調理だ。
反吐がでる。
彼らもまた、レッドニトロと同様にブルーニトロの被害者。
このエリア5にも彼らが逃げてきた文明があり、エリア8の妖食界やエリア7の文明のように、八王の影のもとブルーニトロから隠れ、文明を築いているのだ。
エリア5にある文明は木漏れ日の下、樹木の上、大木の洞の中に家を作る。
グルメ細胞の影響で変容し、獣の姿と化し、人間界に帰る術もなかったために、グルメ界の端っこでひっそりと生きることにした住民の数が数百程度しかいない、弱き者たちの国。
文明の名は”仙食界”。
もふもふなケモミミがいっぱい居る、隠れ里である。
…行ってみたいなー‼︎私デカすぎて絶対に無理だけど!
こーん、こーん、こーんと木を切る音がする。
ザクザクと、田畑を耕す音がする。
コトコトと、水を煮ている鍋の音がする。
家と家の間を駆け回り、ふさふさとした尻尾を揺らしながら、ぴこぴこと頭頂部に生えた獣耳を揺らす子どもたちがいる。
ここはグルメ界、エリア5にある文明のうちが一つ。
森林の中の国、”仙食界”である。
「みんなー!帰ったぞー!今日はエベレス豚*2が取れた、ご馳走だ‼︎」
森の奥から若い女性を先頭として、何体かの狼を連れた集団が村へと帰ってくる。
若々しい彼ら彼女らは槍や斧、弓を携え、奥からは二足歩行の獣のような大男たちが、これまた巨大な豚を担いでやってきていた。
その声を聞いて子どもたちや、作業をしていた女衆も集まりだし、一仕事してきた狩人たちを労うように集まってくる。
「スゲー!でっけぇ豚だ!」
「ご馳走だご馳走!わーい!」
「よし、解体だ!あんたら、道具持ってくるよ!」
「ランチちゃん、お疲れ様。怪我はないかしら?」
歓喜するもの、すぐさま行動に移すもの、先頭にいた女性を心配するもの。
反応は様々だったが、その顔には嬉しさに満ちている者で大勢賑わっていた。
ランチ、と呼ばれていた少女は後ろへと振り返りエベレス豚を背負っていた男衆のうち、一人へと話しかける。
「ブレックさん、他の皆も背負ってくれてありがとう」
「良いってことよ。ランチちゃんらが狩りの中心を担ってんだ、こんぐらいどうってこたねーよ」
右腕に力瘤を作りながら羆が二足歩行したかのような、隻腕の大男が代表として応える。
早速何人かの者たちがエベレス豚を解体して、周囲に新鮮な血の香りが漂う中、子ども達に囲まれながらも戦士たちは休息をとっていた。
「そうか…。王還祭に向かわれた父上の代わりが十分にできていると良いのだが」
「いや、サンドさんと比べても十分にやれているさ。今回だって大物だ。子どもたちも皆、喜んでいる。この里の未来も安泰よ」
犬のような耳と、普通の人間種のような顔つきの少女が分かりやすく耳を垂れれば即座にブレックと呼ばれる男も返答する。
周りにいる女衆や共に狩りに向かっていた戦士たちもまた、口々に褒めたて、先ほどまで大豚を運んでいたブレック以外の男たちも、怪我の多い顔を縦に振りながら返答していた。
「なぁランチ姉ちゃん!どうやったら姉ちゃんみたいに強くなれるかな!?」
すると一人の犬顔の少年が先ほどまでそれで遊んでいたであろう、木の棒を仕切りに振り回しながら聞いてくる。
他にも、狐耳の少女や狸顔の少年、虎耳の幼子までが憧れの眼差しで首を上げ、彼女を見てていた。
「そうだな、いっぱい食べて、たくさん寝て、ママの手伝いをしっかりして!そしてしっかり運動すれば十分だ!」
「えー、ほんとー?」
「そうさ!ほら、そろそろあっちで解体が終わったんじゃないか?見に行ったらどうだ!?」
膝をおり、頭を撫でながら応える彼女に対し、少し首を傾げる少女。
少しばかり、尾をビクリ、とさせながらもランチは指を指し、子どもたちの興味を解体現場へと逸らさせた。
「はははっ!畑仕事ほっぽり出して棒切れ振り回していたお転婆娘がよく言うわ!」
「うるさいな、ブレックさん‼︎」
ワハハ、と他の戦士衆が笑い出し、顔を赤ながらもランチもまた強気に言い返す。
木々の間の木漏れ日の下、それぞれが岩や倒木の上に腰掛けながら、休息をとり、水を飲む。仲間をやじりながらも、笑い合っていた。
不意に、一人の子どもが解体現場の方から戻ってきていた。
先ほど、棒切れを持っていた犬耳の少年だった。
「なぁなぁおじちゃんに姉ちゃん!」
目をキラキラしながら、二人に問いかける
「次の王かん祭っていつ!?」
笑い声が、止まる。
「俺も戦士ちょーや父さんみたいに、
王還祭。
この里における、100年に一度、戦士たちが森へと還る日。
「ちょっと、スナック‼︎すみません、うちの息子が…!」
「いや、子どもの言うことだ。気にしてはいない」
耳が垂れる。尻尾が垂れる。
ブレッグもまた、苦々しい表情は少し残したままに、朗らかに喋り出した。
「あー、そうだな。休憩は終わりにするぞ!肉を運び出す力仕事も必要だ。もう一踏ん張り、てめえら頑張るぞ!」
「「「おう!」」」
切り替えるように、欠損部位や傷の多い者たちが動き出し、それに続いて若い狩人たちもまた立ち上がる。
「ランチちゃん、大丈夫か?あの子もまだ幼くてな、よく分かってねえんだ。だからーーー」
「すまん、少し一人になってくる」
後ろでブレッグが何か言ったような気もしたが気にせず、彼女は里一の俊脚でその場を去る。
「分かっている、分かっているんだ…‼︎」
欠損や老いで狩りにはついていけず、力になりたいと願う者たち。
父母や兄姉を失い、代わりとして新たに戦士団に入った者たち。
家族を失い、伝統だからと飲み込んでいる残った者たち。
理解できず、まだ純粋な目をしている子どもたち。
そして、偉大な父を失いまだ立ち直れずにいる少女。
彼女は大木の影の下で一人、目を手で覆いながら深呼吸をした。
ーーーああ、子どもの目が眩しい。
この場所を守りきれない弱い自分が恨めしい。
父や他の戦士に置いて行かれた、この身が腹立たしい。
ーーーここは”仙食界”。
ブルーニトロから逃げてきて、グルメ界の端っこで息を殺して生きている人々の集まり。
鹿王の結界の中で、細々と人間でも狩れる獣を狩って暮らしている。
100年に一度の祭りにて、慈悲深き鹿王の役に少しでも役に立とうと、肉盾にすらなれずとも、せめて”食域の森”の獣たちの経験の糧になろうと修練し続ける獣人の里。
弱く、弱き者たちが足掻いている国、”仙食界”である。
グルメ界は人間が暮らすにはだいぶ厳しい。それだけの話。
でも最後はきっとハッピー。少年誌ですもん。