ソードアート・オンライン ―アインクラッド戦記― 作:へーちょ
昼下がりの食堂は、湯気と香辛料の匂いに満ちていた。磨かれた木卓の向こうで、アスナがスプーンを置く。向かいのリズベットがパンをちぎり、シリカは頬杖をついて、ピナを膝であやしている。そこへ、キリトがトレイを抱えて腰を下ろした。
「なぁ、今度の週末、この街の主街区で夏祭りがあるってさ。屋台も花火も出るらしい」
「夏祭り……!」
シリカの瞳がきらりと光る。
「ピナ、一緒に行こ!」
アスナはほっと息を弾ませた。
「いいわね。みんなで行きましょう」
リズが口角を上げる。
「問題は“みんな”の範囲よ。アスナと――特にティンクル。あの子、外だと注目の的でしょ。外出、危なくない?」
匙を持ち直し、アスナは丁寧に言葉を選ぶ。
「この階層の住民の方たちは、血盟騎士団との付き合いは長いの。世間で騒がれているほど、無遠慮に近づいてくる人は少ないはず。警戒はするけれど……大丈夫、だと思う」
キリトが頷く。
「入口で顔見知りの衛兵に声もかけられるしな。俺はリオにも声をかけておくよ。特訓の約束があるから、その時ついでに」
「浴衣、どうしよっかなぁ」
リズがわざとらしく両手を組んで天井を見上げた。
「淡い青か、思い切って紅か……」
「私は紺色がいいです!」
シリカが身を乗り出す。
「帯は白で、金魚柄……!」
アスナは微笑み、ふと横顔を上げる。
「ティンクルには私から連絡しておくわ。無理にとは言わないけれど……きっと、好きだと思うの。ああいう賑やかなの、表には出さないけれど」
「そうね」
リズがニヤリ。
「“氷姫”の浴衣姿、見てみたいし」
「からかわないの」
アスナは目だけで窘めて、席から立ち上がった。
「ちょっと伝えてくるわ」
スカートの裾がさらりと鳴り、アスナは軽やかに食堂を出ていった。
――――
訓練場脇の廊下。
キリトは、汗を拭う若い団員に声をかけた。
「リオ、ちょうどよかった。今度の休み、みんなで祭りに行くんだけど――」
「あ、すみません。その日は自主練のつもりで……」
リオは慌てて頭を下げる。
「早く皆さんに追いつきたくて」
キリトは肩をすくめ、わざと視線を逸らす。
「ふーん、そっか。じゃあ俺たちだけで行ってくるよ。……ティンクルの浴衣、リオも楽しみだろうとおもったんだけどなあ。」
リオの耳がぴくりと跳ねた。
「……え? テ、ティンクルさんも?」
「そりゃあ、アスナが声かけてるし。まあ、修行熱心な人は来なくても――」
「い、行きます!!」
反射的に出た声に、自分で驚いて口を押さえるリオ。キリトは苦笑して、軽く背を叩いた。
「ほんと、分かりやすいな。……でも、頑張りすぎも良くない。休むのも修行のうちだ」
「べ、別に好きとかじゃないです。ボ、ボディーガードとして、です」
「はいはい。じゃ、浴衣、用意してこいよ」
――――
夕刻前――祭り当日。
主街区の大通りには、紙灯籠が等間隔に吊られていた。まだ陽は沈みきっていないが、通りの端から屋台がのび、香ばしい匂いと砂糖の甘さが風に混じる。金魚すくいの水面は薄く光り、射的の木箱がきちんと並ぶ。行き交う人々の笑い声が、塔の石壁に柔らかく反響する。
約束の集合場所、噴水前。先に来ていたのは、黒い浴衣に細い銀の縞を走らせたキリトと、濃い藍の浴衣に白帯を締めたリオだった。
「まだ少し早かったか」
キリトは腕を組み、風鈴の音を耳で追う。
「……花火まで時間、ありますし」
リオは帯をそっと正す。仕立ての良い藍が、若い輪郭を落ち着かせていた。けれど指先はそわそわと揺れている。
「そんなに楽しみか?」
「ち、ちが……っ」
声が裏返り、咳払いで誤魔化す。
「こ、こういうの、久しぶりで」
「そうか」
キリトはわざとらしく空を見上げる。
「……浴衣、似合ってるじゃん」
「え? あ、ありがとうございます」
リオは視線を落とし、それでも口元が緩むのを止められない。
噴水の縁を撫でる風が、紙灯籠の影を揺らした。屋台の呼び込みが、少しずつ近づいてくる。二人の前を、この街の住民たちが笑いながら通り過ぎる。「団長のところの若いの、浴衣似合うねぇ」などと囁かれて、リオはさらに耳まで赤くなる。
「そういえば、アスナは何色だと思う?」
キリトが軽口で空気をやわらげる。
「え、えっと……白……? いや、薄桃色も……」
「リズは絶対、攻めてくるぞ。派手色か、柄で勝負か」
「シリカさんは紺で、帯に金魚柄!」
「ピンポイントだな」
二人で笑った、その時だ。
「おまたせ」
鈴の音みたいな声がして、視線が自然にそちらへ吸い寄せられる。最初に目に入ったのは、夕映えを含んだ薄紅色。細やかな朝顔の柄が、涼やかに咲いている。白い帯がきゅっと結ばれ、髪は柔らかくまとめられて、うなじに小さな簪が光った。
アスナだ。立ち止まる仕草まで、整っている。
「わぁ……アスナさん、とっても素敵です!」
シリカが弾む声で続いた。紺の浴衣に白帯、約束どおり金魚が泳いでいる。ピナの小さな飾りまでお揃いだ。
「おぉー、いい反応」
横で胸を張ったのはリズ。深い群青に大ぶりの紫陽花が咲く、粋な柄だ。帯はからし色、結び目がどこか職人めいていて、彼女らしい。
そして、もう一人。
銀の髪をきちんとまとめ、淡い水浅葱(みずあさぎ)の浴衣に、小さな氷結の模様が撒かれている。帯は白に薄い銀糸。控えめなのに、目が離せない涼やかさ。――ティンクルが、静かに微笑んだ。
「似合う?」
小首を傾げる、その一瞬の“間”までが絵になっていた。
リオは、言葉をなくす。胸の鼓動が、花火より先に上がった。
「……っ、す、すごく、似合ってます……!」
ようやく絞り出した声に、ティンクルが目を細める。「ふふ。ありがとう」
アスナは柔らかく笑い、キリトの横腹を肘でつついた。
「キリト君も、ちゃんと言わないと」
「はいはい。みんな、すごく似合ってる。――リズ、その帯、結び方凝ってるな」
「気づくとはやるじゃん、黒衣くん」
シリカがくるりと回って見せる。
「見てください!金魚が泳いでるんです!」
「うん、かわいい」
ティンクルは穏やかに頷き、アスナの帯の結びに視線を落とした。
「その結び方、歩きやすそう。……似合ってる」
「ありがとう」
アスナは少し照れて、髪にさした簪に触れた。
「ティンクルの色も、とても涼やかで素敵ね」
リオはまだ胸の高鳴りを手のひらで押さえながら、皆のやりとりを目で追う。
キリトが横から小声で囁く。「深呼吸、深呼吸」
「は、はい……っ」
紙灯籠に火が入り始め、通りの色がゆっくりと夜の表情へ変わる。屋台の呼び込みが一段と賑やかになり、綿飴の白、焼きそばの湯気、りんご飴の赤が並んだ。
「さて――行きましょうか」
アスナが手を叩く。丁寧で、それでいて嬉しさが滲む声。
「うん。今日は“遊ぶ訓練”だね」
ティンクルが冗談めかして言い、目尻だけを和らげた。
六人は歩き出す。紙灯籠の下、浴衣の裾がさらりと鳴る。最初の屋台は輪投げか、金魚すくいか――そんな相談をしながら、灯りの川へ溶け込んでいった。
――そして、祭りの夜ははじまる。
――――
並木の灯籠に火が入り、露店の暖簾がいっせいに風を受けた。笛の音、太鼓の地響き、焼き台の匂い。集会広場の石畳は、夜の支度を終えた人波でやわらかく揺れている。
「じゃ、まずは輪投げ!」
リズベットが袖をからげて腕をぶん、と回す。浴衣の柄がふわりと踊った。
「金魚すくいも……! ピナ、見ててね!」
シリカは簪を指で押さえ、目をきらきらさせる。肩の小さな羽根飾りが弾んだ。
「お腹すいたな。焼きそば行こうぜ」
キリトは帯に手を当て、屋台の列を一瞥する。
「順番。みんなで一周、ね」
アスナが優しく制して笑った。淡い藤色の浴衣に、金の帯。いつもの副団長の凛々しさは隠れて、涼やかな少女の顔だ。
そして――銀の髪に薄氷の帯を結んだティンクルは、変わらぬ柔らかな笑みで、ほんの少しだけ首を傾げた。
「どこからがいい?リオ君」
「え、ぼ、僕!?」
すでに耳まで真っ赤なリオは、慌てて咳払いを一つ。
「こ、子どもっぽいかもですけど……輪投げ、行きませんか」
「うん、いいね」
ティンクルがにこっと笑う。その一言でリオの足取りが半歩軽くなるのを、アスナは肩越しに面白そうに見ていた。
――――
輪投げ台は、色とりどりの木札と玩具で埋まっていた。
「三投で一回、当たりは鈴の根付。外れても飴をどうぞ〜」と、店主が威勢よく叫ぶ。
「ほいっ」
リズが真っ直ぐに投げた輪は、狙いすましたかのように金色の鈴にスポンと落ちた。
「よーし一本! 見た? 鍛冶屋の目測、甘くないんだって」
「さすがリズさん!」
シリカが拍手する。続く二投目は少し外れたが、三投目でまた当てて二個目の鈴を奪取。鼻高々だ。
「じゃ、次は俺」
キリトは軽く肩を回してから投げる。輪は軌道を外れ、木槌にふにゃりと引っかかった。
「……あれ?」
「ふふっ、かわいいミス」
アスナは袖口で口元を隠し、視線だけで「がんばれ」と促す。二投目、三投目は小さな木札にかすって外れ、飴玉二つを両手に乗せられてキリトは苦笑した。
「リオ君」
「は、はいっ」
リオの一投目は緊張で手首が固かったのか、輪が手前で落ちる。二投目――深呼吸して、視線を一点に絞る。アスナに教わった呼吸。輪は鈴に吸い込まれ、涼やかな音が鳴った。
「……っ、やった!」
「おめでとう」
隣でティンクルが小さく手を叩く。その横顔が近い。リオは慌てて三投目を投げ、惜しくも外した。
「一本、立派」
「ありがとうございます……!」
「最後、僕の番だね」
ティンクルは輪を胸の前で一度だけ回し、力みのない動作で放った。輪はふわりと弧を描き、木札の間をすり抜けて、いちばん奥の小さな鈴へ――ちりん。
「……すごい」
シリカがぽつりと漏らし、店主まで「お見事」と目を丸くする。二投目はあえて手前に落とし、一投分の“遊び”を見せると、三投目で別の鈴を拾った。
「氷姫、いや氷の達人、だな」
キリトが肩をすくめ、アスナが涼しい目で「言い過ぎ」と肘で突く。笑いが広がり、鈴の音がそれに混じった。
――――
金魚すくいは、シリカの独壇場だった。
「見ててください!」
紙のポイを手首で寝かせ、すっと水面を滑らせる。群れからふっと抜けた一匹が、彼女の碗に吸い込まれた。
「わぁ……」
リオが感嘆し、キリトがうんうんと頷く。二匹、三匹――最後の一匹は紙が破れかけで危うかったが、シリカは息を詰めて角度を変え、ふわりと救った。
「綺麗だったよ」
ティンクルが優しく言うと、シリカは頬を少し染め、ピナの小飾りをつついて照れ笑いした。
アスナは横でそっと碗を受け取り、店主へ預けながら、ティンクルに耳打ちする。
「ありがとう。さっきの“綺麗”、いい言葉」
「本当に綺麗だったから」
短い言葉の行き来だけで、二人の目に信頼の色が灯る。横からリズが肘で小突き、にやっと笑った。
――――
焼きそばの屋台は、鉄板が戦場だった。
「団長抜きで“焼きそばの陣”です」
リズの謎の宣言に、キリトがツッコミを呑み込む。
「ソース、濃いめでお願いします!」
シリカのリクエストに、店主が豪快にソースを回しかけた。湯気の向こうで麺が跳ねる。
紙舟が渡るたび、六人の顔がほころぶ。
「んー、うまい」
キリトが頬張り、アスナは口元にソースを付けてしまう。
「ついてるよ」
ティンクルが控えめに指先で示すと、アスナは「あら」と笑ってハンカチで拭った。
「ありがと、ティンクル」
「どういたしまして」
リオはというと、箸がソースに滑って落としかけ、慌てて救出。
「落ち着いてね」
ティンクルがそっと紙舟を持ち直してくれた手つきが、妙に丁寧で、リオはまた耳まで赤くなる。
「は、はいっ……!」
――――
射的では、キリトが面目躍如だった。
「ここで名誉挽回だ」
構えた瞬間に雰囲気が変わる。呼吸、狙点、引き金。ぱん。
小さな景品のロボットが落ちた。二発、三発――きっちり当てる。
「やればできる子」
アスナのからかいに、「いつもできる子」と返すキリト。リズは「じゃこれ、アスナに」と花の簪を押しつけ、アスナの耳際に挿してみせる。
「似合う」
ティンクルが静かに言い、アスナが照れくさそうに視線を落とした。
リオも挑戦したが、最初の一発は大外れ。
「肩に力、抜いて」
ティンクルの小声のアドバイスに従い、二発目はかすめ、三発目で小瓶がコロンと倒れた。
「っ……!」
「おめでとう。今の、良かったよ」
柔らかな褒め言葉に、また胸が忙しい。
――――
綿あめを受け取ると、道の端で少し休憩になった。
浴衣の裾を整えながら、ティンクルがふと視線を遠くへ向ける。
「……ちょっと、気になる屋台があるんだ。すぐ戻るから、ここで待っててくれる?」
「おっけー。――リオ、ついてって」
リズが自然に振る。
「一人は危ないしね」
「は、はい!」
リオが小走りで並ぶ。二人の背中が人波に紛れるのを見送り、リズはくるりとシリカの腕を取った。
「さてシリカ、私も見たい店あるんだ。一緒に来て」
「え、あ……」ちら、とキリトとアスナを見やる。
「は、はい。わかりました」
「ごゆっくり〜」
リズは片目をつむり、シリカを連れて反対方向へ。残された二人は、同時に小さく息を呑んで、顔を見合わせて笑った。
「……気が利くなぁ、リズは」
「ほんとに」
アスナは簪の花に触れ、少し照れた目でキリトを見る。
「どう? 変じゃない?」
「いや。すごく、似合ってる」
まっすぐな返事に、アスナの頬がほんのり染まる。
「ありがと」
二人は人波の端を並んで歩く。仕事の話を少し、昔話を少し。言葉に急ぎはない。夜風が、ちょうどいい。
――――
一方その頃。
リオは、ティンクルの半歩後ろに歩幅を合わせていた――つもりだった。が、どこか引っかかる。いつも訓練場で見ている“静かな歩み”と、微妙にリズムが違う。
「あの……」
呼び止める勇気を絞る。
「少し、無理してませんか」
ティンクルが足を止め、わずかに目を丸くした。
「え?」
「歩幅が。いつもと、ちょっと違う気がして……。もし、でしたら、ゆっくりで」
銀の睫毛が、ふっと和らぐ。
「ふふ。気づくんだね、リオ君」
ティンクルは帯の位置を押さえて、小さく苦笑する。
「慣れない格好だから。歩き方を変えないと裾を踏みそうでね。――ありがとう。助かったよ」
「い、いえ!」
胸が一気に熱くなる。見抜けたことが嬉しい。役に立てたことが嬉しい。
「じゃ、少しゆっくりで」
「うん」
速度を落とすと、風鈴の音がよく聞こえる。二人で並んで、灯籠の影を踏む。
「祭り、楽しいね」
「はい。……ティンクルさんは、何を買いに?」
「内緒」
そう言って微笑む瞳は、夕立の後の空みたいに澄んでいた。
ーーーー
時刻が少し進み、四方の露店も賑わいを極めてきた頃。
「ただいま」
ティンクルとリオが戻ってくる。ティンクルの手には、小さな紙袋。中身は見えない。
「おかえり。――迷子にならなくてよかった」
アスナが冗談めかして言い、ティンクルが肩をすくめる。
「リオ君が道案内してくれたから」
「えっ、ぼ、僕はただ横を……」
「立派な道案内」
柔らかい肯定に、また顔が熱くなる。
「こっちも戻ったよ〜」
リズとシリカも手を振って合流した。
「どうだった?」とアスナ。
「内緒」
今度はリズが同じ答えを返し、目だけで「ふふ」と笑う。
――――
太鼓が三度、低く鳴った。
視線が一斉に夜空へ向く。
ひゅるる――
最初の火が、暗の天井へ吸い上げられる。
間。
どん、と花が咲いた。白。続いて紅、藍、金。広場の歓声が波になって、石畳に伝う。
「わぁ……!」
シリカが両手を胸の前で組み、目を丸くする。
「綺麗」
ティンクルは仰いだまま、まぶたの縁だけを細めた。花の色が瞳に映って、氷みたいに澄む。
リズは「火の打ち上げ角度、均一だね」と職人目線を捨てきれず、キリトは「いや、今は純粋に見ようぜ」と笑って肩を寄せる。
アスナは横目で皆の表情を確かめ、安心したように空を見上げた。
もう一段、高く。
打ち上がる
弾ける。
尾を引く光が、夜気に溶けていく。
その一つが、ひときわ大きく咲いた瞬間。
「……これ、皆に」
ティンクルがそっと紙袋を開けた。中から出てきたのは、小さな涼鈴の根付。色の違うものが6つ。
「屋台で見つけて。……よければ、記念に」
震えるほど小さな鈴の音が、花火の合間に重なる。
「わあ、可愛い!」
シリカがいち早く受け取り、ピナの飾りの隣に結わえる。
「ありがと。すっごく嬉しい」
リズは帯に結び、「鍛冶屋の火にも負けない音だ」と笑う。
「ありがとう、ティンクル」
アスナは帯紐に結び、指先でちり、と鳴らした。
「いい音」
「うん」
キリトは懐にしまい、ひと呼吸置いてから「帰り道、なくすなよ」と自分に言い聞かせるように呟き、リオは丁寧に両手で受け取って、胸の前で大切に鳴らした。
「……一生の宝物にします」
「大げさ」
ティンクルは笑って、自分の帯にも結ぶ。
その時、またひゅるると上がり、夜が光る。
音と光の隙間で、六つの鈴が、ほんの少しだけ重なって鳴った。短く、涼しく、確かな音。
祭りは、まだ続く。
けれど、今ここにいる六人にとっては、この瞬間がもう“充分”だった。
明日になれば、また鍛え、走り、戦う。だけど――
この夜の浴衣の裾の重さも、甘いソースの匂いも、火の花の余韻も、そして小さな鈴の音も。
全部、きっと、背中を押す。
最後の大輪が、夜空いっぱいに咲いた。
誰かの短い歓声が、花のしずくみたいに弾けた。
そして、拍手。
アスナがそっと振り返る。
「――ありがとう。みんな」
ティンクルは微笑み、リオは力強く頷く。
キリトが「また来よう」と言い、リズとシリカが「約束!」と声を重ねた。
夏の夜は、ゆっくりとほどけていく。
鈴の音が、最後まで涼しかった。