ソードアート・オンライン ―アインクラッド戦記―   作:へーちょ

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5話  陽だまりの午後

第62層攻略から数日後

 

 

 

血盟騎士団本部。

 

 朝の光が、磨き上げられた石の廊下に静かに射し込んでいた。戦いのない日の本部は、どこか違う呼吸をしている。鎧の金属音も、鍛錬場の掛け声もなく、代わりに湯気の立つカップを手にした団員たちの笑い声が穏やかに行き交っていた。

 

その空気の中、アスナは私室の扉を開ける。

濃紺のニットに淡いグレーのプリーツスカート。腰には薄手のカーディガンを軽く結び、髪はいつものように肩の後ろで束ねていた。戦闘服とはまるで違う、柔らかな印象の装い。鏡の前で一度だけ袖を整え、彼女は玄関へと向かう。

 

「――あれ、アスナさん? 今日はお出かけですか?」

 

声をかけたのはリオだった。

手には革製の探索用バッグを抱え、鎧の肩紐を締めているところだった。

 

「うん。ティンクルと一緒にね。外でキリト君とリズとも待ち合わせなの」

 

「キリトさんとリズさんも、ですか。賑やかですね」

 

アスナは微笑んで頷く。

「ここしばらく本部が騒がしかったでしょう? ティンクル、全然外に出られてなくて。ちょっと気分転換」

 

「なるほど……。いいと思います。僕は今日、ジョンさんとハルトさんと一緒にフロア探索と素材集めの予定です」

 

「そう。気をつけてね、リオ君」

 

「はい!」

 

リオの返事がまだ空気に残っているうちに、階段の下から軽い足音が響いた。

柔らかく、一定のリズムで。いつもの戦場での足取りとはまるで違う――音だけで空気が変わる。リオはすぐにその主を悟った。

 

「ごめん、アスナ。お待たせ」

 

振り向いた瞬間、リオの呼吸が一瞬止まった。

ティンクルだった。けれど、いつもの血盟の白と紅の制服ではない。

 

薄い生成りのセーター。胸元は深くV字に開き、その下には落ち着いたチャコールグレーのインナー。柔らかい布地が肩に沿って自然に流れ、長い銀の髪がその上でふわりと揺れた。戦場の光を弾く鎧の輝きではなく、朝の陽だまりに溶けるような淡い色彩。

 

彼女は、少しだけ照れくさそうに笑った。

「血盟騎士団に来てから、私服は初めてかも」

 

「……!」

 

言葉が出ない。

 いつもの“氷姫”の印象が、あまりにも違って見えた。

 気取らないその笑みと、やわらかな色合いが、リオの視界の中でゆっくり溶け合う。

 心臓が不規則に跳ね、呼吸のリズムがうまく合わない。

 

(ただの服……ただの服なのに……)

 

(――普通の女の子にしか、見えない)

 

(ダメだ、そんな風に考えちゃいけないのに)

 

脳裏で警鐘が鳴る。だが身体はうまく従ってくれない。

 視界が白く霞んでいくようで、思わず背筋が硬直する。

 

「リオ君?」

 

「ひゃいっ!!」

 

アスナの声に跳ねるように反応した。

 周囲の団員たちが一瞬だけ振り返る。リオは顔を真っ赤にして慌てて手を振った。

 

「い、いえ! そのっ、なんでもありませんっ!」

 

ティンクルが首を傾げる。

 その仕草も、いつもの戦場では見られない。目元の柔らかさがリオの胸を更に締め付けた。

 

「……あんまり似合ってない、かな?」

 

「ち、ちがいます!!」

 リオは思わず声を張った。

「す、すごく似合ってます!!」

 

「よかったー」

 ティンクルは素直に笑った。その笑みが、どこまでも穏やかで、無邪気だった。

 

アスナが苦笑を漏らす。「ふふ、ありがとう、リオ君」

 

廊下の奥では、他の団員たちがチラチラと二人の様子を見ている。

 “氷姫”の私服姿は、それだけで話題になるのだ。

 だがアスナは軽く肩をすくめ、「行こっか」と声をかけた。

「うん。リオ君、気をつけてね」

「は、はいっ!」

 

二人が並んで玄関を出る。

 光の加減でティンクルの髪が白銀から淡い青へと移り変わり、アスナの長い栗色の髪と対照的に風を受けて揺れる。その後ろ姿を、リオはただ見送ることしかできなかった。

 

(……まだ、ドキドキしてる)

 

胸の鼓動が落ち着かない。

 そんな自分に戸惑っていると、背後から低い声がした。

 

「こら、リオ。またティンクルに見惚れてたな」

 

振り返ると、ハルトが腕を組んで立っていた。

 青黒い鎧の肩を鳴らし、半分呆れ、半分楽しそうな表情で。

 

「す、すみません! そんなつもりじゃ……!」

 

「“そんなつもりじゃ”って顔してる奴が一番怪しいんだ。前にも言ったろ、お前がティンクルより先に入団した以上、“先輩の矜持”を持てって」

 

「きょ、矜持……! はい! 気をつけます!!」

 

リオは敬礼のように背筋を伸ばす。

 だが、ハルトの眉はぴくりと動く。

 

「……“気をつけます”って言葉が出る時点で、全然足りてねえんだよなあ」

 

「うっ……!」

 

軽く肩を叩かれ、リオは小さく頭を下げて駆け出す。

 その背を見送りながら、ハルトは短く息を吐いた。

 

数秒遅れて、後ろから足音がひとつ。

黒髪を後ろで束ねた長身の男――ジョンが歩いてくる。

 

「……お前が言うと、説得力があるな、ハルト」

 

その一言に、ハルトの肩がピクリと跳ねる。

 

「お、おいジョン。俺がいつティンクルに――」

 

「以前、訓練場で。五分間、目が離れてなかった」

 

「うっ……!」

 

「矜持、なかったな」

 

「………………」

 

それだけ言って、ジョンは踵を返す。

 残されたハルトは頭をかきながら、苦笑した。

 

「まったく……“氷姫”はほんと、罪な奴だな」

 

遠ざかる背中を見ながら呟いた声は、誰にも届かず静かに消えた。

 

外では、アスナとティンクルの二人が、通りの陽だまりの中を歩いていた。

 戦場では見られない柔らかな横顔。

 その光景を知らずに、ハルトは鍛錬場の方へと歩き出す。

 

――穏やかな一日が、静かに始まろうとしていた。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 白い石畳が陽光を反射し、通りには香ばしい匂いが漂っていた。露店の並ぶ通りには、パン屋の呼び声と、金属を打つ音が混ざり合っている。休日の街は、攻略層とは思えないほど穏やかだった。

 

カフェの前、赤い庇の下にキリトとリズが立っていた。

 どちらも軽装。キリトは黒いジャケットに灰のパンツ、リズはエプロン代わりの腰布を外し、代わりに白シャツにベージュのベストを重ねている。

 

「でさ、この前さ」

 リズがストローをくるくる回しながら笑う。

「ティンクルがすっごいレアな鉱石持ってきたの。しかも“どこで見つけたの?”って聞いたら、“道端で拾った”って」

 

「……道端で?」

 

「うん。“道端”」

 

キリトは腕を組んで軽く眉を上げる。

「まあ、ティンクルの“道端”には何かしら落ちてるんだろうな」

 

「うまいこと言うね。……一緒に探索行ったことある?」

 

「ないな」

 キリトはあっさり答えた。

「誘うのは簡単だけど、連れ回すのは悪いだろ。血盟騎士団に勝手に出入りさせてもらってる身で、ティンクルまで勝手に連れてくのは、流石にわがまますぎてさ。……行ってみたい気持ちはあるけど」

 

「ほんと、そういうとこは真面目なんだから」

「なにを。俺はいつも真面目だぞ」

 

「はいはい、真面目真面目」

 リズは呆れ顔で笑う。「あんた、ギルドもう入らないの?」

 

「今はソロで気ままに、って感じかな。束縛が苦手なんだ」

 キリトは軽く肩をすくめる。

「……まあ、アスナにはたまに怒られるけど」

 

「怒られる、ね」

 リズは少し声を落とす。

「あの子、口には出さないけど、いっつも心配してるわよ」

 

キリトは短く息をついた。

「……もう、引きずってはないよ。忘れることはできないけど、止まってるわけでもない」

 

リズは一拍黙って、それからいつもの明るい調子に戻した。

「そっか。思いつめてないなら、それでよし!」

 

「なんか保護者みたいだな」

「鍛冶屋はね、物も人も折れないように手入れするのが仕事なの」

 

軽く笑い合う。

 その直後、リズはストローをくわえたまま、ぽんと手を打った。

 

「そういえば、アスナといえば! ちゃんと褒めなさいよ、今日の服!」

 

「……いきなりなんだよ」

 

「“なんだよ”じゃない! あの子すごくモテるんだからね? 血盟騎士団の副団長だから手を出しにくいってだけで、もしソロで活動してたら――ティンクルにだって負けてないんだから」

 

キリトは、あからさまに視線を泳がせた。

「そ、そうだな。アスナはモテる……と思う」

 

リズはニヤリと笑う。

(まあ、アスナがあんた以外に行くことはないけど。これくらい言っといたほうがいいわよね)

 

「……ん?」

 

「なんでもない!」

 

リズが慌てて顔を背けた直後、背後から明るい声が届いた。

 

「キリト君、リズ!」

 

振り向くと、アスナとティンクルが並んで歩いてくる。

 柔らかい生成りのニットと、淡いグレーのスカートが陽光を受けてきらめく。

 街の風景に、自然に溶け込む二人の姿。戦場とはまるで違う空気をまとっていた。

 

「ごめん、待たせた?」

「いや全然」

 キリトが笑う。

「……アスナ。似合ってるよ、その服」

 

「へ? あ、う、うん……ありがとう」

 アスナが頬を染めて視線を逸らす。

 その反応を見たリズが、にやりと口角を上げた。

 

「おおー、いつもより素直!」

 

「リズ!」

 

「ふふっ」ティンクルがくすくす笑う。

「僕たち、お邪魔だったかな?」

 

「い、いや違う! やめろよティンクル!」

「いやぁ、あついですなー」

「リズ!」

「もうっ!」

 

四人の笑い声が、昼下がりの街に軽やかに溶けていく。

 

 

 

 

 

 

それから数時間。

 露店を冷やかし、雑貨屋をのぞき、カフェで甘いものをつまむ。

 ティンクルが食べるクレープを見て、アスナが「ちょっと一口」とつまみ、リズが「ほら、こうやって巻くとこぼれないの!」と手本を見せ、キリトが「それ絶対熱いやつだろ」と突っ込む。

 他愛ない会話の連続が、何よりの休息だった。

 

「……もうこんな時間か」

 夕刻前、キリトが空を見上げる。「あっという間だな」

 

「ほんとね」

 アスナも頷く。その隣で、ティンクルが小さく笑った。

 

「楽しかった。こうやって街を歩くの、久しぶりだったよ」

 

その穏やかな声の余韻の中で――リズが、ふと足を止めた。

 通りのショーウィンドウ。飾られた新作のワンピースに、視線が釘付けになる。

 柔らかな薄紅色、腰にはリボン。可憐すぎるそのデザインを、彼女は一瞬だけ見つめて、慌てて目を逸らした。

 

「リズ?」

「えっ? あ、ううん。なんでもない!」

 

だが、アスナはその反応を見逃さなかった。

 彼女の視線が、服とリズを交互に行き来する。

 やがて、ぱっと笑顔になって言った。

 

「……いい、すごくいい。リズ、あれ買おうよ。絶対似合う!」

 

「ちょ、ちょっと! むりむり! 私そんなキャラじゃないって!」

 

キリトが笑いながら口を挟む。

「おいおい、料理だけじゃなくて服のセンスもあるアスナ先生のご意見だぞ?」

 

「それはそれは、無碍にできませんね」

 ティンクルが穏やかに同調する。

 

「ちょ、ちょっと待って! 二人して何言ってんの!?」

 リズは耳まで真っ赤になって手を振る。

「ただちょっと見てただけで――っ」

 

アスナの瞳がきらきらしている。

「リズ、行こう!」

 

「アスナ、ストップ! わたし本気で……!」

 

キリトは肩をすくめて笑った。

「無理だぞ、リズ。ああなったアスナは止められない」

 

「もうっ!」

 

リズは頭を抱えるようにして、しばらく唸ってから息を吐いた。

「……わかった! じゃあこうしよう。先にアスナとティンクルが買ってきてよ。それで、二人が買ったら、私も買う。これでどう!」

 

アスナは一瞬きょとんとして――すぐににっこり笑った。

「わかった」

「いいよ」ティンクルも頷く。

 

「…………へ?」

 

リズの表情が固まる。

「ま、待って! そんな即答する!? ふつう遠慮とか――!」

 

「じゃ、決まりね」

 アスナがティンクルの手を取る。「リズ、あとでね!」

 

小走りに店内へ消える二人。

 残されたリズは頭を抱えながら、隣のキリトに呟いた。

 

「……あれ、ぜったい買う気だよね」

 

「だな」

「どうしよう、ほんとに買われたら……!」

 

「買えよ、もう」

 

「うるさいっ!」

 

通りに響く笑い声。

 その夕暮れの光の中で、四人の影が長く伸びて重なった。

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

カラン――。

 店の扉につけられた小さな鈴が、夕風に揺れて鳴った。

 視線が一斉に向く。

 

店内から姿を現したアスナとティンクル。

 二人とも、もう新しい服を身につけていた。

 

アスナは淡いブルーグレーのワンピース。

 襟元に細い白のリボンが結ばれ、裾が風に揺れるたびに光を反射する。

 戦場で見せるきりっとした印象とは違い、柔らかく、どこか照れたような微笑みが新鮮だった。

 

その隣に立つティンクルは、白のワンピース。

 海の光をそのまま映したような明るさで、胸元の赤いリボンが淡く揺れる。

 髪に当たる夕陽が銀色を薄桃色に染めて、街の風景に溶け込むようだった。

 

――その姿を見た瞬間。

 

リズは息を呑み、

 キリトは完全に、動きを止めた。

 

「……ほ、ほんとに着て出てきた……」

 リズが呆然とつぶやく。

 

隣でキリトはアスナを見つめたまま、何も言えない。

 目の前の光景に、頭の中の言葉が全部飛んでいったようだった。

 

ティンクルが小首をかしげる。

「キリト?」

 

「……え? あ、ああ、うん……その……」

 動揺が隠せない。

 喉を鳴らしてから、目を逸らすように口を開いた。

 

「……その服、かわいいな。アスナ」

 

「えっ? ……や、やだ、何言って……!」

 アスナの頬が一気に紅潮する。

 リズが「うわ〜」と口を押さえて笑いをこらえる。

 

「と、とにかく、次はリズだから!」

 アスナが強引に話を切り替え、リズの手を取る。

「行こう、リズ!」

 

「うぅ……もう……」

 観念したように、リズは肩を落とし、店の中へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後。

 再び、カラン――と鈴の音。

 

出てきたリズは、完全に“別人”のようだった。

 ラベンダー色のワンピースに白いベルト。

 髪はゆるくまとめられ、普段の職人気質な雰囲気が嘘のように柔らかい。

 

「……おおおおおーーー」

 キリトとティンクルの声が重なる。

 

「や、やめてよ! ほんとにやめてってば!」

 顔を真っ赤にしながらリズは抗議する。

 

アスナは両手を叩いて喜んだ。

「すっごく似合ってる! 思った通りだった!」

 

「ほんと」ティンクルも笑う。

「いつものリズとは違うけど、ちゃんと“リズらしい”」

 

キリトが腕を組んで頷く。

「アスナの目に間違いなかったな」

 

「うぅぅ……恥ずかしすぎる……」

 リズは手で顔を覆いながらも、耳まで笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り道。

 夕日が沈みかけ、三人のワンピースが同じ光を受けて揺れていた。

 

リズは少し下を向いて歩きながら、ぽつりと言う。

「その……ありがと」

 

「ん?」アスナが振り返る。

 

「買う勇気、なかったから。……でも、嬉しかった」

 

アスナは優しく微笑んだ。

「ふふ。私はティンクルと一緒だったから、つい勢いで」

 

ティンクルも穏やかに頷く。

「背中を押すのは得意だからね」

 

リズが頬をかく。

「……押されっぱなしだったけどね」

 

その会話を、キリトは少し後ろで聞いていた。

 ――どこか、まだ現実感がなかった。

 ワンピース姿の三人が、同じ通りを並んで歩く。

 戦場を共にした彼女たちと、同じ人たちとは思えないほど、柔らかな時間だった。

 

「キリト君」

 アスナが振り返る。

「リズを送ってあげてね。私とティンクルは、帰り道が同じだから」

 

「……」

 キリトは一瞬、何か考え込んでいた。

 ぼんやりとしたまま、返事が遅れる。

 

「キリト君?」

 アスナが顔を近づけてのぞき込む。

 

「え? あ、ああ! その……リズを、送っていく話だよな? わかった」

 頬が赤くなる。アスナは呆れたように笑い、

「もう、変な間をあけないの」

 

「気をつけてね」

 そう言ってアスナたちは歩き出す。

 

「じゃあ2人とも、また明日な」

 キリトは手を上げて見送った。

 

その背中を、アスナが振り返らずに微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

――夜。血盟騎士団本部。

 

廊下には静かな空気が流れ、外の風がわずかにカーテンを揺らす。

 リオは部屋の前で深呼吸をしていた。

 

(今日はジョンさんに、“精神の落ち着け方”を教わった。呼吸と姿勢を整えれば、動揺は制御できる。今の僕なら――ティンクルさんを前にしても落ち着いて会話できるはずだ)

 

そう自分に言い聞かせながら、廊下を歩く。

 

「――あ、リオ君。よかった、無事で」

 アスナの声が後ろから届く。

「リオ君、お疲れさま」

 ティンクルの声が続く。

 

振り返りながら言葉を返そうとした瞬間――

 リオの思考が止まった。

 

白いワンピースのティンクルが、そこにいた。

 昼間よりも静かな照明の下で、彼女の髪が淡い光をまとっている。

 ただ、それだけで、空気が柔らかく揺らいだ。

 

リオは息を詰まらせ、手に持っていた工具を落とした。

 カラン――。

 

(お、落ち着け……! 今日教わったことを、思い出すんだ……!)

 

顔を上げた瞬間、ティンクルが一歩近づいた。

「リオ君、大丈夫? どこか怪我でも?」

 心配そうに覗き込む瞳。

 距離が近すぎて、思考が止まる。

 

「あ……あ……」

 声にならない音だけが漏れた。

 

 

 

 

 

一方そのころ。

 

鍛冶屋《リズベット工房》。

 扉が開く音とともに、リズが帰ってきた。

 

「ただいまー」

 

店番の少女が顔を上げる。「あ、リズ姉おかえ――」

 言葉の途中で目を丸くする。

 

工房の奥から出てきた職人仲間の男も、手にしていた金槌を止めた。

 

「姉御……おかえり……」

 

次の瞬間、二人の手元から同時に――カランッ。

 

「え? え? やだリズ姉、めっちゃかわいい!!」

「お、おれもそう思う……!」

 

「ちょ、ちょっと! やめなさいってば! もう、わかったから、落ち着けーっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、血盟騎士団の食堂。

 

テーブルには、いつもの顔ぶれ。

 キリト、アスナ、リズ、リオ、ティンクル、そしてシリカ。

 

――だが、空気が微妙に違った。

 

 リズ、顔が赤い。

 リオ、顔が赤い。

 キリト、アスナを見た瞬間に顔が赤くなる。

 アスナ、それを見て赤くなる。

 ティンクル、いつも通り。

 

そして、シリカが不思議そうに首を傾げた。

「あの……みなさん何かあったんですか?」

 

ティンクルが微笑む。

「色々とね。ふふっ」

 

その笑顔に、全員が同時に目をそらした。

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