そもそも俺は兵士なんだろうか?
そんなことを思っていると木々の間が明るくなった。もう直ぐ分隊が、この森を抜けるのだろう。
突然、パンッと、乾いた音が耳に入った。
何だろう?
また鳴っ・・・・・・え?
前方にいる隊員の右肘から下がない。直後、赤い飛沫を撒き散らす。
日向の草むらが、太陽のように煌めいた。それに続いて爆音が俺を襲う。
それで漸く気付いた。敵である。
「総員、戦闘配置」
隊長が声を上げた。急いで遮蔽物を探す。
窪地だ。そこに滑り込むようにして身を隠す。
動悸が出る。
俺は何時死ぬのか。
足が面白いくらいガクガク震え、視界が回る。鳩尾が大きく凹み、胃液をぶち撒けた。
焼けるような喉の痛みに顔を顰める。
状況を確認せねば。何度か呼吸を意識して落ち着く。
まだゲロの味は残っていた。
俺はペリスコープをバックから出し、先端を堀から出した。
隊員は・・・・・・7人か。元が18人だから、11人死んだ。呆気ないもんだ。
「うおぉぉ!」
突然、大声がした。
何だと思い、声の方向にスコープを向ける。一人の隊員が敵の方向に、勇敢に発砲をしていた。撃って、ボルトを引く。これを繰り返している。
あっ、倒れた。直ぐに近くの隊員が彼に駆け寄り、肩を小刻みに揺さぶる。
・・・・・・反応がない。刹那、心配する隊員が彼に被さるように倒れた。ああ嫌だ。嫌悪感に鳥肌が立つ。
右耳に葉擦れの音が入った。スコープを下ろし、首を向けると、ゴツい隊長が居た。
彼の目は、何時もとは真逆の優しい目をしている。
「おい、敵の機関銃を殺ってこい。」
飲み物買って来て、とでも言うように。
俺の頭にさっきの光景が過った。嫌な汗が全身から吹き出す。
「恐縮ながら申し上げ――」
「やらないというなら、お前を敵前逃亡と見做し、射殺する」
俺の意見を遮り、そう言いながら隊長は、右腰の拳銃に手を添える。
心臓が飛び跳ねた。
「開始は二分後だ。いいな?」
「はっ!」
元気な声で敬礼する。自分で自分と思えなくて、全身を掻きむしりたい。
逃げても隊長に殺され、従っても敵に殺される。
(敵って何だ?)
絶望感の中で、突拍子の無い疑問が湧いた。
答えは直ぐに出た。“俺を殺そうとするのが敵だ”
・・・・・・。
何故今まで気付かなかったのだろう。
隊長が命令をするから俺が死ぬ。つまり、他国軍という名の凶器で俺を殺そうとしているのだ。
(隊長は敵だ。隊長さえいなければ俺は生きられる)
銃口はいつのまにか、新たな敵に向いていた。
引金を引く。
反動と乾いた音と共に、敵(隊長)が倒れた。
そいつは溺れているような音を何度か発し、静かになった。
(隊長を殺した?)
「敵を殺すことの何が悪い」
そうだ、“敵を殺せ”と言ったのは隊長である。自殺したのだ。可哀想に。
隊長がいない今、俺は逃げても殺されない。いや、生きようとしても邪魔されないのだ。