「どうする、助けるべきか」
気づかれていません。あきらかに不自然です。
もしかしてわたしは存在していないのですか?
いや、まさかそんなことはないはずです。
だって歯ブラシを取れ……あれ?
触ることはできるのですが、打ち付けられた釘のようにびくともしません。
なんかこれ知っています。幽霊です。
え、私は死んだんですか!?
嘘ですよね。まだ幽体離脱の可能性があるじゃないですか。
視線を戻すと、男が私の体を持ち上げていました。
何してるんですか!
ああ、背負うだけ……。小説の見過ぎですね。
直後、轟音が腹に響いて、パラパラと細かい瓦礫が降ってきました。
まだ攻撃は続いているようです。
安全な場所に移動しなければ、いずれ死んでしまうでしょう。
「ジョナサン。必ず迎えに来るからな」
男は私を背負って、玄関を出ました。
埋葬より、私の命を優先してくれたようです。
私が避難していれば、こうはならなかったでしょう。申し訳ないです。
そういえばこの人は、敵ですか味方ですか?
助けてくれているのだから、味方でしょう。
私は後を追いました。
背後の気配に気づかずに。
外は昼間というのに人気がなく、かわりにあちこちから煙が上がっていました。
愛着とかそういうのがない私ですが、こういう時は役に立つ気がします。
男は角ごとに止まり、注意深く索敵して着々と進んでいきます。
行く当てがあるのでしょう。頼もしいです。
背後から声がしました。
「あ、あの」
「はい。何でしょう」
振り返ると、普通の男性がいました。
しかし彼は、軍服を着ていました。
軍人さんとはあまり関わりたくないですね。
「そのう、前にいる男と同じチームでして、ジョナサンと言います」
マジですか。
忘れていたけれど、私幽体です。
「夏目と言います。この度はご愁傷様です」
「あはは、死んだ後に聞くとは」
そして何気なく質問してきます。
「あの男とはどういう関係なんです?」
「私が気絶しているところを助けてもらっています。頭が上がらないです」
「へぇー、そうなんですね。じゃあ、まだ生きられると?」
「思いたいですね」
「非常が起こりすぎて、そのノリでいけますって」
ジョナサンはにっこりと微笑んでいます。
自身の死体を見た後でしょうに、何故他人の心配ができるのでしょうか。
その心情は、きっと想像もできないほど残酷です。
私はなんとか苦笑いを返しました。
そして疑問が湧きます。
「あの場に何故いなかったのですか」
「あの場?」
「死んだ直後です」
「えと、死んだ直後は空に吸い上げられて。そしたら何かの壁にぶつかって。ゆっくりと地上に降りてきました。いやぁ、空中は怖かったですよ」
こんなことにならなければ、知る由もなかったでしょう。
人生ってわからないものです。
刹那、パキンッ、と金属音が間近で鳴りました。
恩人は物凄い早さで隣の平垣に私の本体を投げ込みます。
ええ!?
ガン、ゴンと嫌な音がしました。