勇者より儲かる商売がある ~ステータス測定器で世界市場を制した商人の話~   作:スコップ売りの少女

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第二話 ステータス商会誕生秘話

「なあガイアス」

「何でしょう」

「お前が今の話をすると毎回腹が立つんだが」

「どの話です?」

「俺の人生を破壊した話だよ」

「候補が多すぎて分かりませんね」

「一つしかねえよ」

 

 王都本店の応接室で書類に目を通していたガイアスは顔も上げずに羽根ペンを走らせ、ロイドはそんな様子を見てさらに腹が立ったので机の上に置かれた高級茶を勝手に飲んだ。

 

「そういや今朝も新人勇者が冒険者カードを十枚まとめ買いしてましたね」

「だからそういう話じゃねえんだよ」

「では?」

 

「創業秘話だ」

「ああ」

「軽く流すな」

「何度も聞きましたので」

「聞かせたんじゃなくて聞かされたんだよ俺が」

 

 ガイアスはようやく顔を上げた。

 

「回想しますか」

「お前が言うな」

「ではお願いします」

「お前が主役なのになんで俺が語り部なんだ」

「話し上手ですから」

「失業者の経験談だからだよ」

 

 ロイドは盛大にため息を吐いた。

 

「今から十五年くらい前だ」

「懐かしいですね」

「俺は当時まだ若手だったが、王国じゃ結構有名な鑑定士だった」

「結構どころではありません」

「まあな」

「王都ランキング三位でした」

「言うな恥ずかしい」

 

「私は憧れていましたよ」

「お前が?」

「ええ」

「その後俺を潰したのに?」

「尊敬と商売は別です」

「お前本当にそういうところだぞ」

 

 ロイドは窓の外を見ながら語り始めた。

 

「当時の冒険者ギルドは今と全然違ったんだ」

「測定器がありませんでしたからね」

「ステータスを見る方法は鑑定士だけだった」

「高級技能です」

「だから新人冒険者はまず俺たちのところに来る」

 

 回想。

 冒険者ギルド。

 昼下がり。

 長蛇の列。

 

「次!」

「お願いします!」

「ステータス鑑定だな」

「はい!」

「銀貨三枚」

「高い!」

「命が惜しいなら払え」

「うっ……」

 

 新人冒険者が財布を覗き込みながら震える手で銀貨を差し出す。

 

「では見るぞ」

「お願いします!」

 

「筋力十八」

「おお!」

「体力十六」

「おおお!」

 

「魔力二」

「えっ」

「二だな」

「嘘だろ」

「現実だ」

 

 新人冒険者が膝をついた。

 

「俺、魔法剣士になるつもりだったんですけど」

「戦士になれ」

「そんなぁ……」

 

 隣の席。

 別の鑑定士。

 

「銀貨三枚」

「高い!」

 

 さらに隣。

 

「銀貨三枚」

「高い!」

 

 さらにその隣。

 

「銀貨三枚」

「高い!」

 

 ギルド中で同じ会話が繰り返されていた。

 

「で、そのときお前がいたんだ」

「いましたね」

「隅っこでリンゴ売ってた」

「果物屋でした」

「行商人だったろ」

「副業です」

「本業は?」

「考えたことありません」

「すげえな」

 

 若いガイアスは壁際からじっと光景を見ていた。

 

 冒険者が来る。

 金を払う。

 ステータスを見る。

 帰る。

 また来る。

 また払う。

 また見る。

 延々と繰り返される。

 

「それで急に話しかけてきた」

「覚えています」

「俺は覚えてねえ方が幸せだった」

 

 若いガイアス。

 若いロイドの前。

 

「質問があります」

「なんだ」

「なぜ皆さん同じことをしているんです?」

「仕事だからだ」

「そうではなく」

「何だよ」

「なぜ毎回人が見るんです?」

「鑑定士だからだ」

「道具では駄目ですか?」

 

 ロイドは当時を思い出して頭を抱えた。

 

「その瞬間だった」

「何がです?」

「嫌な予感がした」

「偶然ですね」

「俺もだ」

「でしょうね」

 

「お前の目がな、商人の目じゃなかったんだよ」

「ほう」

「金鉱を見つけた奴の目だった」

 

 若いガイアスはギルド全体を見渡した。

 

「新人冒険者は年間何人います?」

「知らん」

「数万人はいますよね」

「多分な」

「全員がステータスを見ますか?」

「見るな」

「何回も?」

「見る」

「レベルが上がるたび?」

「見る」

「なるほど」

 

 若いガイアスは納得したように頷いた。

 

「これ、道具にできるのでは?」

 

 沈黙。

 ロイドは今でもその瞬間を鮮明に覚えている。

 

「俺の人生が終わった瞬間だ」

「まだ終わってませんよ」

「鑑定士としては終わった」

「結果論です」

「違う」

「違いますか」

「あの瞬間に分かったんだよ」

「何がです?」

「こいつ絶対やるなって」

「やりましたね」

「やったな」

「大成功でした」

「だから腹立つんだよ」

 

 ガイアスはにこやかに頷いた。

 

「市場規模が明らかでしたから」

「市場って言うな」

 

「需要がある」

「うん」

「供給する」

「うん」

「商売になる」

「うん」

「簡単な話です」

「その簡単な話で全国の鑑定士が泣いたんだよ」

 

 ガイアスは少し考えてから首を傾げた。

 

「でもロイド」

「何だ」

「最初に投資してくれたのは貴方ですよ」

 

 ロイドが固まった。

 

「……」

「試作品開発費」

「……」

「金貨五十枚」

 

「黙れ」

「共同創業者ですね」

「黙れ」

「筆頭株主でもあります」

「黙れ」

「今の配当金は」

「黙れと言ってるだろ!」

 

 ガイアスは楽しそうに笑った。

 ロイドは頭を抱えた。

 

 結局、自分の人生を終わらせた事業に投資した結果、自分も人生で一番金持ちになってしまったので、この話になるといつも怒るべきなのか感謝するべきなのか分からなくなるのだった。

 

 そしてその頃の二人はまだ知らない。

 

 後に世界中の勇者が持つことになる冒険者カードも、宝珠も、スカウターも、すべては冒険者ギルドの片隅で果物を売っていた一人の商人の「これ、道具にできるのでは?」から始まることを。

 

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