勇者より儲かる商売がある ~ステータス測定器で世界市場を制した商人の話~   作:スコップ売りの少女

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第四話 転生者バブル

「ロイド」

「何だ」

「市場が爆発しました」

「お前がその顔をしてる時は大体ろくでもない話なんだよ」

 

「転生者が増えています」

「知ってる」

「勇者も増えています」

「知ってる」

「追放された元勇者も増えています」

「なんでそんなものまで増えてるんだ」

「流行です」

「流行で増えるな」

 

 王都本店最上階の会議室でガイアスが次々と報告書を並べていく一方で、ロイドはその枚数だけ嫌な予感が強くなっていくのを感じながら椅子に深く座り直した。

 

「昔は年に数人だったんですよ」

「何がだ」

「転生者です」

「そうだな」

「今は?」

「聞きたくねえな」

「昨年だけで四千八百六十二人です」

「害虫か何かか」

「市場規模としては理想的です」

「その感想が出るのがお前なんだよ」

 

 ガイアスは窓の外を指差した。

 王都中央広場。

 

 そこではまた新しい転生者が人だかりに囲まれていた。

 

「レベルアップしました!」

「おおおおお!」

「レベル何ですか!」

「百二十です!」

「すげええええ!」

「ユニークスキルも覚えました!」

「おおおおおお!」

 

 歓声。

 拍手。

 どよめき。

 

 そして。

 

「隠しステータスも解放されました!」

 

 さらに大歓声。

 ロイドは頭を抱えた。

 

「また始まった」

「始まりましたね」

「何なんだよ隠しステータスって」

「普通の測定器では見えない追加項目です」

「なんでそんなものがある」

「転生者だからでは?」

「雑だな」

 

 広場の転生者が誇らしげに胸を張る。

 

「俺の魅力値は通常表示だと三十ですが!」

「おお!」

「隠し補正込みだと百八十です!」

「おおおおお!」

「女性との会話成功率が上がります!」

 

「どうでもいいな!」

 

 ロイドが叫んだ。

 ガイアスは冷静だった。

 

「なるほど」

「なるほどじゃねえよ」

「興味深いですね」

「どこがだ」

「需要が生まれています」

「お前は本当にそれしか見てないな」

 

 さらに別の転生者が現れる。

 

「俺には成長限界突破があります!」

「おお!」

「俺には称号補正があります!」

「おお!」

「俺には転生ボーナスがあります!」

「おお!」

「俺には隠し職業があります!」

「おおおおお!」

 

 ロイドは遠い目をした。

 

「昔は筋力と魔力だけだったんだぞ」

「シンプルな時代でした」

「それで十分だったんだよ」

「しかし今は違います」

「違うな」

「顧客が複雑化しています」

「だから顧客って言うな」

 

 ガイアスは資料をめくった。

 

「こちらをご覧ください」

「何だ」

「苦情です」

「苦情?」

「はい」

 

 読み上げる。

 

「『貴社の宝珠では転生ボーナスが表示されません』」

「うん」

「『隠し称号が見えません』」

「うん」

「『ユニークスキルの成長率が表示されません』」

「うん」

「『隠し好感度が見えません』」

「最後は別のジャンルだろ」

 

「要望は増えています」

「嫌な方向にな」

 

 ガイアスは報告書を閉じた。

 

「新商品を開発します」

 

 ロイドが顔を覆った。

 

「始まった」

「始まりました」

「何をだ」

「隠しステータス対応版です」

「お前はサメか」

「?」

「血の匂いを嗅いだ瞬間に食いつくじゃねえか」

「需要の匂いです」

「もっと悪いな」

「市場が求めています」

「お前が市場を育ててるんだよ」

 

 ガイアスは真面目な顔で説明を始めた。

 

「ロイド」

「何だ」

「転生者は自分が特別だと思っています」

「まあそうだろうな」

「実際特別です」

「うん」

「だから普通のステータスだけでは満足しません」

「うん」

「もっと知りたい」

「うん」

「もっと強くなりたい」

「うん」

「もっと数字を見たい」

「最後がおかしいな」

 

 ガイアスは指を立てた。

 

「だから表示します」

「何をだ」

「全部です」

「全部?」

「全部です」

「全部って何だよ」

 

「見えるもの全部です」

「雑だな」

「見えないものも可能なら表示します」

「もっと雑だった」

 

 そのとき扉が開いた。

 開発部長が飛び込んでくる。

 

「会長!」

「どうしました」

「試作品が完成しました!」

「早いですね」

「昨日の会議ですよね!?」

「市場は待ってくれません」

「お前の会社怖えよ!」

 

 開発部長が宝珠を机に置いた。

 

「これが新型です!」

「どんな機能だ」

「隠しステータス表示!」

「うん」

「称号補正表示!」

「うん」

「転生特典表示!」

「うん」

「ユニークスキル成長率表示!」

「うん」

「恋愛適性表示!」

「やっぱりそっち行ったな!」

 

 開発部長は胸を張った。

 

「現在確認されている全ステータス項目に対応しています!」

「やめろ!」

 

「価格は?」

 

 ガイアスが尋ねた。

 開発部長が答える。

 

「通常版の三倍です!」

「素晴らしい」

「素晴らしくねえ!」

 

「転生者は買いますかね」

「買うだろうな」

「勇者は?」

「買うだろうな」

「貴族は?」

「買うだろうな」

「冒険者は?」

「買うだろうな」

「よかった」

「よくねえよ」

 

 ロイドは椅子にもたれかかった。

 

「なあガイアス」

「はい」

「昔はな」

「はい」

「ステータスって強さを知るためのものだったんだ」

「そうですね」

 

「今はどうなってると思う?」

「娯楽ですね」

「即答するな」

「市場調査済みです」

「聞いた俺が悪かった」

 

 ガイアスは窓の外を見た。

 

 また新しい転生者が歓声を浴びている。

 また新しいスキルが話題になっている。

 また新しい流行が生まれている。

 そしてそのたびに新しい需要が生まれる。

 

「良い時代です」

「転生者にとってか?」

「商人にとってです」

「だと思ったよ」

 

 翌週。

 隠しステータス対応版は発売された。

 そして予想通り完売した。

 

 その翌日には予約が殺到し、その翌週には類似商品が現れ、その翌月にはさらに新しい隠し要素が発見され、ガイアスは嬉しそうに次の企画会議を始めたという。

 

 なおロイドはその頃から本気で「こいつは商人の姿をした自然災害なのではないか」と考え始めていた。

 

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