勇者より儲かる商売がある ~ステータス測定器で世界市場を制した商人の話~ 作:スコップ売りの少女
「ガイアス」
「何でしょう」
「お前にもとうとうライバルが現れたぞ」
「それは素晴らしい」
「普通もう少し警戒しないか?」
「市場が成長した証拠ですから」
「その発想が怖いんだよ」
王都本店最上階の会長室では、ロイドが朝刊を机に叩きつけるように置き、その見出しを指差している一方で、ガイアスは紅茶を飲みながら優雅に記事を読み始めた。
「魔導院、測定器市場に参入」
「ほう」
「王立魔導院が総力を挙げて開発したらしいぞ」
「なるほど」
「もっと危機感持て」
「競争は健全です」
「お前は商人の教科書か」
記事を読み進める。
数日後。
王立魔導院。
大講堂。
記者会見。
「諸君!」
「おおおおお!」
「我々も参入する!」
「おおおおお!」
「ついに!」
「ステータス商会の独占を崩せる!」
「王国最高の頭脳集団だ!」
壇上の大魔導師が胸を張る。
「我々が開発した最新鋭の測定器ならば、あの商会にも負けない!」
「すごい!」
「性能は!」
「価格は!」
「発売日は!」
会場は熱狂していた。
ロイドは記事を読みながら頷く。
「まあ普通はこう思うよな」
「何がです?」
「魔導院なら勝てるんじゃないかって」
「そうですね」
「そう思わなかったのか?」
「思いませんでした」
「即答か」
「理由があります」
「聞きたくねえな」
その翌週。
魔導院製測定器発売。
そして。
「売れませんでした」
「売れなかったな」
「思ったより」
「なんでだと思う?」
「単機能だからです」
「嫌な予感しかしねえ」
ガイアスは引き出しから商品一覧を取り出した。
「魔導院の商品は宝珠型です」
「うん」
「つまり宝珠市場で戦うつもりです」
「そうだな」
「ですが」
「ですが?」
「弊社には既に宝珠があります」
「うん」
「冒険者カードもあります」
「うん」
「鑑定虫眼鏡もあります」
「うん」
「スカウターもあります」
「うん」
「顧客は用途に応じて選べます」
「うん」
「向こうは宝珠だけです」
「うん」
「負けました」
「雑な説明なのに説得力があるのが腹立つ」
ガイアスは商品カタログを並べ始めた。
「冒険者はカード」
「うん」
「盗賊は虫眼鏡」
「うん」
「戦士はスカウター」
「うん」
「初心者は宝珠」
「うん」
「貴族向け高級モデル」
「うん」
「神官向け限定モデル」
「うん」
「転生者専用モデル」
「うん」
「恋愛運表示モデル」
「やっぱり作ったのか」
「売れています」
「だろうな」
ロイドは頭を抱えた。
その時。
また別の新聞が届く。
「今度は何だ」
「王国です」
「王国?」
「国営化します」
「何を?」
「測定器です」
「馬鹿だろ」
数日後。
王城。
記者会見。
王国財務大臣が高らかに宣言する。
「国民生活に欠かせないインフラである以上!」
「おおおお!」
「測定器は国家管理すべきである!」
「おおおお!」
「国営化だ!」
「おおおおおお!」
王都は大騒ぎになった。
ロイドはその記事を読みながら呆れ返る。
「で?」
「失敗しました」
「知ってた」
「半年で撤退です」
「知ってた」
「赤字でした」
「知ってた」
「在庫も大量に余りました」
「知ってた」
「なぜ分かるんです?」
「お前がいるからだよ」
ガイアスは不思議そうな顔をした。
「国は優秀な人材も資金もあるのに」
「そうだな」
「なぜ負けたのでしょう」
「お前が言うな」
「本当に分かりません」
「絶対分かってるだろ」
ロイドは新聞を閉じた。
「国は測定器を作った」
「うん」
「魔導院も測定器を作った」
「うん」
「でもお前は違う」
「ほう」
「お前が売ってるのは測定器じゃねえ」
「何でしょう」
「ステータスを見る習慣だ」
一瞬だけ。
ガイアスが感心したような顔をした。
「なるほど」
「新人冒険者はカードを買う」
「ええ」
「ベテランはスカウターを買う」
「ええ」
「転生者は限定モデルを買う」
「ええ」
「壊れたら買い替える」
「ええ」
「新機能が出たらまた買う」
「ええ」
「つまりお前」
「はい」
「市場そのものになってるんだよ」
ガイアスは少し考えてから頷いた。
「褒め言葉として受け取ります」
「褒めてねえ」
しばらく沈黙。
そしてロイドは窓の外を見た。
王都の大通り。
誰もが何かしらの測定器を持っている。
宝珠。
カード。
虫眼鏡。
スカウター。
どれも見慣れた商品だ。
「なあガイアス」
「何でしょう」
「最近思うんだが」
「はい」
「どこかで見た企業だな」
「そうですか?」
「何か新しい市場を見つける」
「はい」
「先に入る」
「はい」
「周辺商品を全部作る」
「はい」
「競合が来る頃には囲い込みが終わってる」
「はい」
「怖えよ」
「ありがとうございます」
「褒めてねえって言ってるだろ」
その頃、王立魔導院は第二世代機の開発に着手し、王国は三度目の国営化計画を検討し、各地の商会も市場参入を目論んでいた。
そしてガイアスはというと。
「ロイド」
「何だ」
「ペット用測定器の試作品が完成しました」
「また増やすのか」
「市場がありますので」
「もう誰もお前に勝てねえよ」
ガイアスは少しだけ首を傾げた。
「そんなことはありません」
「ん?」
「まだ魔界市場が残っています」
「やめろ」
「面白そうですね」
「やめろって言ってるだろ!」
こうして競合たちは次々と現れ、次々と敗れ去っていった。
もっとも、その敗因の大半は技術力の差ではなく、ガイアスが既に顧客の生活の中に入り込んでしまっていたことなのだが、本人だけは最後まで「たまたまですよ」と本気で思っていたのである。