勇者より儲かる商売がある ~ステータス測定器で世界市場を制した商人の話~   作:スコップ売りの少女

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第六話 インフルエンサー勇者

「ロイド」

「何だ」

「時代が変わりました」

「お前がそう言う時は大体ろくでもない」

 

「勇者が魔王を倒さなくなりました」

「ろくでもなかったな」

 

 王都本店最上階の会長室でガイアスが最新の市場調査報告書を机の上に並べ始める一方で、ロイドはその表紙に書かれた『勇者配信市場の成長率』という文字を見ただけで頭痛を覚え始めていた。

 

「昔は単純だったんですよ」

「何がだ」

「勇者は召喚される」

「うん」

「レベルを上げる」

「うん」

「魔王を倒す」

「うん」

「世界を救う」

「うん」

「終わりです」

「健全だったな」

 

「ですが今は違います」

「嫌な予感しかしねえ」

 

 ガイアスは窓の外を指差した。

 王都中央広場。

 

 巨大な魔導水晶が設置され、その前には数千人規模の観客が集まっている。

 

「何だあれ」

「配信会場です」

「配信?」

「勇者です」

「嫌な予感が当たったな」

 

 水晶の映像の中で若い勇者が得意げに叫ぶ。

 

「皆さんこんにちはー!」

「うおおおおおお!」

「今日はダンジョン百階層に挑戦します!」

「うおおおおおお!」

「その前に現在のステータス公開です!」

 

 歓声。

 拍手。

 

 そして。

 

「レベル九百九十九になりました!」

「うおおおおおおおおお!」

「ついに!」

「カンストだ!」

「伝説だ!」

「世界最強だ!」

 

 ロイドは頭を抱えた。

 

「世界大丈夫か」

「大丈夫です」

「何を根拠に」

「売上が伸びています」

「大丈夫じゃないな」

 

 さらに映像の中で勇者が笑顔を浮かべる。

 

「記念配信なので投げ銭お願いします!」

 

 直後。

 水晶に数字が流れ始めた。

 

『金貨十枚』

『金貨二十枚』

『金貨五十枚』

『金貨百枚』

 

『王国騎士団団長が応援しています』

『魔導院院長が応援しています』

『第三王女が応援しています』

 

「王族まで何してるんだ」

「人気ですね」

「人気じゃねえよ」

 

 ガイアスは資料を一枚取り出した。

 

「こちらをご覧ください」

「見たくねえ」

「勇者配信市場の統計です」

「聞きたくねえ」

「昨年比三百七十パーセント成長」

「聞かなきゃよかった」

「配信者勇者登録数二万四千人」

「増えすぎだろ」

「平均収入は王国上級騎士の三倍です」

 

「魔王倒す必要あるか?」

「ないかもしれません」

「終わったなこの世界」

 

 その時。

 会長室の扉が開いた。

 営業部長が飛び込んでくる。

 

「会長!」

「どうしました」

「大変です!」

「何か売れましたか」

「売れました!」

「良かったですね」

「良くねえ!」

 

 ロイドが叫ぶ。

 営業部長は興奮気味だった。

 

「配信者勇者向けモデルが完売です!」

「早かったですね」

「発売三日目です!」

「予想より遅いです」

「お前の予想どうなってるんだ」

 

 営業部長が報告を続ける。

 

「特に人気なのはリアルタイム表示機能です!」

「ほう」

「視聴者が勇者のステータス変化を見られます!」

「なるほど」

「レベルが上がると演出付きです!」

「なるほど」

「スキル獲得時には効果音も鳴ります!」

「なるほど」

 

「広告も流せます!」

「なるほど」

「やめろ!」

 

 ロイドは机を叩いた。

 

「何でそんなもの作った!」

「需要がありました」

「お前それしか言わねえな」

「実際ありましたので」

 

 ガイアスは冷静だった。

 いつものように。

 不気味なほどいつものように。

 

「ロイド」

「何だ」

「勇者は見られたい」

「うん」

「視聴者は見たい」

「うん」

「企業は広告を出したい」

「うん」

 

「ならば繋げるべきです」

「お前は本当に商売の化身だな」

 

 その時だった。

 再び広場から歓声が響く。

 

「うおおおおおおお!」

 

「今度は何だ」

 

 ガイアスが窓の外を見る。

 配信中の勇者が叫んでいた。

 

「皆さん聞いてください!」

「おおおおお!」

「本日のスポンサーはステータス商会です!」

 

 ロイドが固まった。

 

「……」

「……」

「お前か」

「私ですね」

「お前か!」

 

 営業部長が胸を張る。

 

「契約完了しました!」

「いつの間に!」

「先週です!」

「仕事が早いな!」

「市場は待ってくれませんので」

「お前の会社全員同じこと言うな!」

 

 ガイアスは少し考え込んだ。

 

 そして。

 

「なるほど」

「何だ」

「配信市場はまだ未成熟です」

「嫌な予感しかしねえ」

「新商品を開発します」

 

 ロイドは天を仰いだ。

 

「何をだ」

「配信向け新型を発売します」

「大丈夫じゃないな」

「ご安心ください」

「できるか」

「今回は革新的です」

「聞きたくねえ」

 

「視聴者が勇者のステータスを自由に確認できます」

「うん」

「スキル説明も表示されます」

「うん」

「ランキング機能も付けます」

「うん」

「人気投票も実装します」

「うん」

 

「投げ銭連動エフェクトも」

「やめろ」

「さらに」

「やめろ」

「期間限定ガチャを」

「やめろ!」

 

 会長室に沈黙が落ちる。

 ガイアスだけが真面目な顔で次の事業計画を書き始めている。

 

 ロイドは窓の外を見た。

 

 かつて勇者は世界を救う存在だった。

 今は世界を配信する存在になっている。

 そしてその変化のすぐ隣には必ずガイアスがいる。

 

「なあガイアス」

「何でしょう」

「もし魔王が配信始めたらどうする」

 

 ガイアスは一秒も考えなかった。

 

「スポンサーになります」

「知ってた」

 

 その頃、王都で最も人気の勇者配信は同時視聴者数百万人を突破し、魔王討伐配信よりもレベル上げ配信の方が人気となり、若者の将来なりたい職業ランキングで『勇者』が三位から一位へ上昇した。

 

 なお理由は『世界を救いたいから』ではなく『配信で稼げるから』だったという。

 

 ロイドはもう何も言わなかった。

 どうせガイアスは次の市場を見つけているのだから。

 

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