勇者より儲かる商売がある ~ステータス測定器で世界市場を制した商人の話~   作:スコップ売りの少女

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第八話 ラスボス

「ロイド」

「何だ」

「来月の予定ですが」

「聞きたくねえな」

「神界出張です」

「は?」

 

 王都本店最上階の会長室で、ガイアスが淡々と予定表を確認する一方で、ロイドは今聞こえた単語が聞き間違いであることを期待しながら耳を疑ったが、残念ながらこの男がそういう冗談を言う人間ではないことを十五年かけて学習済みだった。

 

「今何て言った」

「神界出張です」

「神界」

「神界です」

「天界じゃなくて?」

「神界です」

「比喩じゃなくて?」

「物理的な神界です」

 

「帰れ」

「まだ出発していません」

 

 ロイドは額を押さえた。

 嫌な予感しかしない。

 そして大体当たる。

 

「何しに行くんだ」

「支店の視察です」

「待て」

「はい」

「支店?」

「支店です」

「神界に?」

「あります」

「何で?」

「売れますので」

「売れるのかよ」

 

 ガイアスは資料を取り出した。

 

「神官用モデル」

「うん」

「天使用モデル」

「うん」

「神獣用モデル」

「うん」

 

「非常に好評です」

「神様もステータス見るのか」

「自分の信仰値を確認したいそうです」

「生々しいな」

 

 ガイアスはさらにページをめくる。

 

「ちなみに」

「まだあるのか」

「魔界支店も順調です」

「やっぱり作ったのか」

「昨年黒字化しました」

「お前本当にやったのか」

 

 ロイドは椅子から立ち上がった。

 

「ちょっと待て」

「はい」

「魔王復活したの去年だぞ」

「そうですね」

「もう支店あるのか」

「あります」

「早すぎるだろ」

「市場は待ってくれませんので」

「それもう社訓にするのやめろ」

 

 ガイアスは楽しそうに報告を続ける。

 

「魔族向けモデルは人気です」

「何が違うんだ」

「角が通しやすい設計です」

「知らん」

「あと闇属性適性を詳細表示できます」

「需要あるんだな」

「大人気です」

「そうかよ」

 

 さらに資料。

 さらに報告。

 さらに支店。

 

「精霊界支店」

「あるのか」

「あります」

「竜界支店」

「あるのか」

「あります」

「海底王国支店」

「あるのか」

「あります」

 

「お前もう世界征服してるだろ」

「していません」

「してるだろ」

「征服ではなく事業展開です」

「言い方を変えるな」

 

 窓の外には巨大なステータス商会本店が見える。

 

 十五年前。

 果物屋だった男。

 

 十五年前。

 鑑定士だった男。

 

 その二人が始めた商売は、いつの間にか国家どころか世界そのものに根を張っていた。

 

「なあガイアス」

「何でしょう」

「今何支店ある」

「三千二百六十一です」

「国の数より多いじゃねえか」

「国以外にもありますので」

「だろうな」

 

 その時。

 会長室の扉が開く。

 秘書が飛び込んできた。

 

「会長!」

「どうしました」

「神界本社から連絡です!」

「はい」

「新しい神様が就任されたそうです!」

「おめでたいですね」

 

「就任記念モデルの製造許可が出ました!」

「素晴らしい」

「何がだよ!」

 

 ロイドが叫ぶ。

 秘書はさらに続ける。

 

「あと魔界支店からも!」

「はい」

「新魔王即位記念モデルが完売しました!」

「素晴らしいですね」

 

「何で同時に売ってるんだ!」

「顧客ですので」

「敵同士だろ!」

「市場では平等です」

「最低だな!」

 

 ガイアスは静かに頷いた。

 

「ありがとうございます」

「褒めてねえ」

 

 ロイドは窓の外を見る。

 

 勇者がいる。

 魔王がいる。

 神々がいる。

 精霊がいる。

 

 世界には様々な強者がいる。

 だが。

 

 その全員が同じ会社の商品を使っている。

 

「なあガイアス」

「何でしょう」

「昔さ」

「はい」

「俺は王国最高の鑑定士になるつもりだったんだ」

「なりましたね」

「まあな」

「素晴らしいです」

 

「でも今は違う」

「と言いますと」

 

 ロイドは本店の壁面に掲げられた巨大な商会旗を見上げた。

 

 神界。

 魔界。

 精霊界。

 人間界。

 

 すべてに同じ紋章がある。

 

「俺の鑑定スキルより影響力あるじゃねえか」

 

 ガイアスは少し考えた。

 本当に少しだけ考えた。

 

 そして。

 

「ありがとうございます」

「褒めてねえんだよ!」

 

 会長室にロイドの叫び声が響く。

 しかしガイアスは満足そうだった。

 

 勇者も。

 魔王も。

 神も。

 精霊も。

 

 誰もがステータスを見たがる。

 だから彼は売る。

 ただそれだけだった。

 

 そしてロイドはふと思った。

 

 勇者が世界を救う物語にはラスボスがいる。

 魔王が世界を征服する物語にもラスボスがいる。

 

 だがこの世界で最も倒せそうにない存在は。

 世界中の需要を見つけては商品に変える、この男なのではないかと。

 

「なあガイアス」

「何でしょう」

「お前がラスボスじゃないか?」

 

 ガイアスは首を傾げた。

 

「商人ですよ」

「そこが怖いんだよ」

 

 こうしてステータス商会は世界最大企業となり、勇者も魔王も神々も顧客となった。

 

 そして誰も気づいていなかった。

 世界を最も変えた人物が、勇者でも魔王でもなく、ただの商人だったことに。

 

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