枯山くんの後ろをしばらく歩いていると、目の前に大きな鉄製のドアが見えてくる。
学校に通っていれば一回は絶対目にしてそうな、どこにでもありそうなちょっと塗装の剥げた重々しい感じの扉
枯山くんが片手でそのドアを軽々と引くと、金属がこすれる音と一緒に中から明るい光がこっち側に漏れてくる
ここにきてから基本真っ暗か非常口の緑色のほのかな灯りに慣れていた私の目は、久しぶりのちゃんとした光にびっくりして涙が出てきそうになっていた
悲しいとか安堵したとかじゃなくて、純粋に目が痛いだけ。
「うぃ、ここがみんないる場所なー……って、何泣いてんだ? 目潤んでんぞ」
「泣いてないです、なんか……ちゃんとした光って感じの灯り見るのここにきてから初めてなんで……目が痛くて」
「あ~……ま、ここ以外基本薄っすら暗ぇもんな、そりゃあ目もやられるか? 俺は何ともなかったけど」
「煙とかで慣れちゃってるんじゃないですか? ……副流煙的な奴です」
「あ~……かもなぁ。煙目に入った時よりかは全然マシだった気がすんもんなぁ。ってなわけで、皆めっちゃ見てっけど。どーするよ?」
視線がめちゃくちゃに痛い、ほとんどの人が枯山君の後ろにいる私を見つめている気がする。
恐らくだけど枯山くんがタバコを吸って私を見つけてくれるまでの間に一通りの自己紹介とかは終わってそうな、完全に新学期早々遅刻してしまったような気まずい雰囲気
初めての学校の教室に入る転校生ってきっとこんな気持ちだったりするのかな? 転校したことないからわかんないけど。
「あー.えっとぉ……」
なんとか気の利いた自己紹介の言葉を探そうとしてみたけど、私にそんな能力は搭載されてないらしい
しかも誘拐された上でポップでキャッチーな一言なんて私の読んでいた雑誌には載ってなかった、それに高校デビューと誘拐デビューが一緒に来るなんて想定すらしていない。
「多分これで全員集まったろ、んじゃ改めて出口っぽいの見つけたやつは~?」
沈黙に耐えかねたのか、それともただただマイペースなだけか、枯山くんが体育館にいる皆にそう声をかけてくれた。
けど誰一人として枯山くんの言葉に対する明確な答えは出してくれなかった
「そう言う事です、あれから進展はございません」
しばらくの沈黙の後にしゃべり始めたのは花魁みたいな恰好の女の人、地方の成人式みたいな感じではなくて、神々しい感じ。
本当に同じ高校生なのかなってくらいの落ち着き方で、さっきまで冷たい床の上であたふたしていた私とは別の人間みたい
「つーかよ! 窓打ち付けてる鉄板ブチ外しちまえばどーにかなんじゃね~の?」
「それさっき体育委員の子が試してたけど無理だったじゃないか」
「ぼく様の強化アームで引いてもうんともすんとも言わないんだから君たち人間には何もできないだろうね!」
「血液……血液を3リットル……そ.!! それでこの体育館に大きな鍵開けの魔方陣を!!!」
「アホなんか!? 死ぬわ!!!! そんな血ぃ出たら一人は確実に死ぬわ!!!!」
「でもほらぁ……こう言った物語って必ず犠牲が出るものだとお姉さんは思うのねぇ、だから言い出しっぺの人がミイラになるまで出血すればいいんじゃないかしらぁ?」
花魁の人の言葉を皮切りに、口々にいろんなところで皆が口を開く。
サングラスをかけているチャラチャラした感じの人、どっかのサーカスからやってきたみたいな背の高い女の人、見たことのない機械に乗っている小学生みたいな男の子に、頭に蝋燭を巻きつけている女の子
「変な人……ばっかだなぁ……」
今まで誘拐されているとか、見たことのない場所で記憶がおぼろげだとかで夢の中にいるような感じだったけど、これがちゃんと現実味をおびて夢じゃないって理解できたときに真っ先に出てきた言葉がこれだった。
いや、もっと自分の身を心配したり、パニックになるべきなのかもしれないけど、それをはるかに超えてくる私以外の皆
これが超高校級ってことなのかな? なんだとしたら私はこの人たちと上手い事やっていけるのかな……なんて。
「フハッ……まあ、そうだよな。そうなるよなぁ」
「え……なんで笑うんですか? 何か変なこと言いました?」
「ん、いや……真っ先に出てくる言葉がそれって、お前も案外肝座ってんだなぁって」
確かに枯山くんの言う通りな気はする、けどそれはここにいるみんなのせいというか、みんなのおかげというか。
なんならこの状況で一人煙草を吸に行ける枯山くんの方が大胆不敵だと思うんだけど、なんてことは心にしまっておくことにした
「ほんで? そこの子は? アンタも新入生なん?」
枯山くんの後ろに隠れるように立っている私の所に一人の女の子がスタスタと歩み寄ってきた
関西弁でサバサバした雰囲気の子、いかにもギャルですみたいな見た目で、関西弁も相まって凄く強そう。
「あー.うん。そうみたいなんだけど」
「ウチは超高校級の売り子、道頓堀ゼニー。バリキャリJKって感じのしごできウーマンよ、アンタの名前は? 才能は?」
「あ……えっと~。超高校級の幸運で、名前は芽吹苗香です」
「なんで敬語なん? ウチらはもう同級生で誘拐仲間やで!? もっと気軽にゼニーちゃんって言うてくれてええよ?」
関西の人って見んなこうなのかな、それともこの人がとびっきりずば抜けて明るいだけなのかな
それとも遅れて来た私が溶け込みやすいようにわざとこういう風にふるまって、気を使わせないようにしてくれてるのかな?
「どーせ枯山からなーんも聞いてへんやろ? みんなの事とか、ここで分かってる情報とか」
「聞かれてねぇしなぁ」
「聞かれてへんちゃうねん、アンタには親切心ってもんが無いんか? こんなか弱い女の子不安にさせて心は痛まへんのかって話やん」
「とりあえず誘拐されてて、みんな同級生でって話は聞いている感じで」
ずけずけと枯山くんに詰め寄る道頓堀さんとそれをのらりくらりといつものことのような顔でかわす枯山くん
本当にこの二人は初対面なのかなって思うくらいにテンポのあったやり取りだった。
「ほんなら暇やしウチがみんなの紹介でもしたろか? いや、した方がええわ。 だってな……ここにおる子……皆ヘンコやねん……」
「ヘンコやねん」というときだけ小さな声で口元に手をやってるから多分その言葉が良くない事なのはなんとなくわかるけど、初めて聞く言葉だからそれが何を意味してるのかが全くわからなかった
ヘンコ……変子……変な子ってこと? でも私から見れば十分道頓堀さんも変な……個性的な人のように思えるけど。
「ほな! 枯山! ちょっと芽吹ちゃん借りてくけど! ええよな?」
「好きにしてくれな、俺はまた探索がてら煙草吸ってくっからよぉ」
「ほんま暇さえあったらスパスパスパスパ……肺真っ黒なんで? それにその煙草切れたらどないすんのよ、ニコチン禁断症状とかで死ぬんとちゃうの?」
「もし死んだら焼香は香木の代わりに煙草の葉でやってくれな、線香も煙草で代用してくれ、パーラメントな」
「そんなヤニ臭い葬式なんて嫌やわ!位牌の黒さなんかヤニ汚れなんかわからんなるやろ!」
漫才の様なやり取りを繰り広げながら枯山くんは後ろ手に手をひらひらと振って体育館を出て行ってしまった。
「ていうか高校生が喫煙なんて世も末やわ」なんて道頓堀さんは呟きながら、私の肩に手を置いた。
「ほな、一番マシな子から順番に紹介したるからな! 行こか!」
「一番マシじゅない子って逆に何? 怖いんだけど……」
「ん……アレ」
指さした方向にいたのは頭に蠟燭を巻き付けている猫背の女の子。
確かにあれは……いや、あの子は……このメンバーの中でも異彩を放っているというか……近寄りがたいというか……
「あとは~……あの人とか」
筋骨隆々のいかにも強い男の人っていう見た目なのにセーラー服の女? の人
「でもあれやで? ちょっと変なだけで皆悪い人ちゃうから! そこは安心してええで? ……知らんけど」
最後に付け足された知らんけどが私の不安を一気に煽るけど、もうみんなの紹介を止めることはできないみたいで
私はずるずると道頓堀さんに引きずられるようにして、まずは道頓堀さん曰く一番マシな人の所へ連れていかれた