1日目:1
校内アナウンスがラジオ体操の音楽を鳴らして、私はベッドから起き上がった。
寄宿舎、私の部屋にはベッドに大きな監視カメラが一台、棚付きの学習机にシャワールーム
小さなホテルみたいな部屋で、特に居心地は悪く無かった気がする
けど、どうしても昨日届いたメッセージに、モノクマが言っていた異常な生活、生徒手帳の校則
そして机の棚の中に入っていたドラマや映画絵しか見たことのないような黒色のピストル
どれもこれもが心をグンと重たくして、昨日は眠れる気が全くしなかった。
多分だけど、このピストルが……、昨日届いたメッセージに書かれていた凶器……なんだと思う。
ピストルなんて玩具ですら触ったこともないし、撃ちたいと思ったこともない、もちろんこれで誰かを撃ち抜こうなんてことも考えていない。
「……どうしよう」
多分、なんの才能も取柄もない一般人の私は昨日届いたメッセージに従うのが一番安全なんだろうなとはなんとなく思う。
けどこれは考えても答えなんてすぐに出てこない、今すぐにこの拳銃で誰かを撃ち抜いてもバレないようにしないといけない
人並くらいに推理系のアニメは見たことあるけど、あれに出てくる犯人みたいに大掛かりなトリックなんて作れっこない
それに憎くも嫌いでもない人を無差別に殺すなんてこともきっとできない、想像すらできないけどきっと人生で一番後悔するに決まってる。
だったら期日までに誰かが殺人を起こしてくれたら──―
そんなことが一瞬頭に浮かんできてしまって、かき消すようにブンブンと頭を振って顔を洗おうと洗面所の前に立った。
「うわ……ビジュ最悪」
鏡の向こうの私の顔は本当に最悪だった、目はちょっと充血してるし薄っすらとクマもできている
寝たはずなのにこうなってるってことはきっと安眠はできなかったんだろうな、当然っちゃあ当然なんだけど
「……はぁ」
あいにく部屋にメイク道具なんてものはないから、コンシーラーでクマを隠すことすらできない
あるとしたら売店なんだろうけど、この顔をあんまり人に見られるのは嫌かもしれない。
けどこんな状況でもお腹は減るみたいだし、ずっと部屋にこもっているってわけにもいかないからいずれは外に出ないといけないんだろうな……なんて
だったらまだ朝の早い今の時間にさっと売店の商品をチェックしてさっとこの終わり切ったビジュだけでもなんとかしよう。
誰に宣言したわけでもないけど、とにかくここでなんとかして生きよう、もしかすると助けが来てくれるかもしれないとありあわせの取ってつけた様な希望と覚悟を胸にいつもより髪をきつく縛って部屋のドアを開けた。
「うひゃっ!?」
ガチャッと勢いよくドアを開けた瞬間扉の向こうから小さな声が聞こえた
まずい、もしかしてドアを当てちゃったかも、と開いたドアの向こう側をのぞき込んでみると、そこにいたのは白い布をすっぽりと被った誰か。
絵本とかに出てくるおばけみたいな見た目で、白い布だけがわさわさと動いている。
「え……誰.」
あまりにも誰かわからなさ過ぎて、謝るよりも先にそんな言葉が自然と口から出てくる。
「しーっ!!! おっきい声出さないで!! 本当にやめて! 人が来ちゃう!!」
「え……虹咲さん?」
白い布のその奥から聞こえてきたのは小さいけど虹咲さんの声で、でもどうして白い布で体をすっぽり覆ってるのかは理解できない。
「虹咲さん……なんでそんな格好してるの? 不審者すぎるけど……」
「わかんない!? ……あ。おっきい声出ちゃった……。ごめん……あの……今すっぴんだから顔晒すの無理なんだよっ」
ということは虹咲さんも売店に行こうとしてたの? 紺名前すらまともに見えてない状況で?
私も今のこの顔を人に見られるのはちょっと嫌だけど……。さすがにここまでではない……かな
「べ……別にみんなすっぴんだし、そんな気にすることないような気もするけど、前見えない方が危ないっていうか」
「わかってないっ!! 分かってなさすぎるよ!! 地下アイドルのすっぴんは地下より深いんだよ! マントルなんだよ!!! 寝起きどっきりですら薄っすら仕上げてないとNG出してるのにっ!」
「それ寝起きどっきりになってなくない?」
「テレビも配信業界も全部そんなものなのっ! 寝起きから顔しあがってるなんてユニコーンだよ! ペガサスだよ! ファンタジーだよ!!」
なんだか一つ夢がつぶれた様な気がするけど、これはプロ意識っていうやつなのかな?
一般人の私には全然理解できないけど……
【1F 売店】
とりあえず行先も一緒だし、前の見えない状態で虹咲さんを歩かせるわけにもいかないので、私が先導する形で売店まで連れてきてドアを開けた
「おー! おはよーさん! ……ってなんやその後ろのパックマンの敵みたいなん」
「パックマンの敵じゃないっ! 虹咲みらい!! 分け合って今は人前で顔を晒せないだけ!!」
売店に入るとそこにいたのは道頓堀さん、商品をかごに入れて、せっせとレジ前に並べている最中だった
もしかしてここでお店でも開くつもりなのかな?
「はんはんはん……なるほどな~。メイク用品か、メイク用品やったらそのどん突き真っ直ぐ行って右見たらある程度は揃ってるわ」
さすが売り子、私達が何を求めてるのかすぐにわかったみたいで、指でメイク用品がどこにあるかを教えてくれている。
「ガンメイクにセザンニュ。チャネルとかジオールとかめちゃくちゃいろいろ揃えられてるから、まあパパッと見て行き」
聞いたことのある、というより私が普段使いしているようなプチブラから、お年玉を貯めてようやく一つ買えるか買えないくらいのハイブラまで
普段そういうのを使ってみたいななんて思っていた私は寝起きの憂鬱がちょっとだけ和らいだような気がした。
「ちなみにお金って.」
でも気になるのはそこだった、レジ前商品を並べている道頓堀さんにお金はありませんって目線を向けてみる。
「いらへんよそんなん、こんな緊急事態でそんなあこぎなことやってられるかー言うねん。好きなもん好きなだけ持っていき。あ! でも独占はあかんで!!」
「じゃあどうして商品並べたりしてるの? てっきりここでお店でもするのかと……」
「あー、これ? ほら、ここ無駄に広いしな、奥に倉庫もあって陳列されてない商品もあるから、とりあえずみんなが必要そうなもんだけ取りやすいように陳列してるだけやで」
言われてみると確かにそうだった
レジ上に並んでいるのは生理用品であったり消毒液、剃刀に洗顔フォームに歯磨き粉、どれも暮らしていく上では必要になりそうな物ばかり。
「それにどんな商品もタダで使い放題やで! こんな夢みたいなことあらへんやろ! サッサ行っといで」
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30分くらいで私達のメイクは完成した、虹咲さんは昨日見た時よりもめちゃくちゃ可愛くて、めちゃくちゃ良い匂いもする
私も思う存分ハイブラコスメを使ったからか、いつもより2割は可愛い気がする。
特にこのリップは何をしても落ちないんじゃⓆ無いかって思えるくらいに定着していてお気に入りだ。
「ふうっ……完成っ! これでいつもの虹咲みらいになりましたぁっ!」
「ハイブラってすごいね……。なんか私ですらいつもの2割は可愛くなったような気がするもん……」
「高校生のぴっちぴちのお肌に高い粉ぶちまけとけば大体みんな可愛くなれるんだよっ! 課金だよ! 課金!」
「そういうもんなの?」
「そういうもんだよ! サブカル系でちやほやされてるアイドルなんで20上がる前には一回整形するんだからっ」
「なんか夢壊れるなぁ……」
なんだか知りたくない事実を知らされてさらに夢を潰された気もするけど、可愛いは作れるってことでいいのかな?
……お金の力って本当に偉大だなぁ。
「ん? 顔やり終わったんやったら食堂いっといで、さっきチラッと覗いた感じ皆大体そこに集まってるみたいやわ」
「道頓堀さんはいかないの?」
「ウチはもうちょっとここでいろいろカタしてから行くわー、先行っといて―」
まだせっせと陳列を続けたり、レイアウトを考えたりしている道頓堀さんを後目に私たちは売店を後にした。
【1F:食堂】
食堂のドアを開けてみると、そこは病院とか大きな会社にありそうな白くても野静kな雰囲気のレストランだった
観葉植物に何も泳いでない水槽、それにたくさんの長机と規則正しく並べられている椅子。
「思ったより大きいね」
「ブジテレビの社員食堂より広いんだけど……。さすがは希望ヶ峰学園だねっ」
中にいるのは枯山くんに清木君に野田さんに蓮宮さんに蝶ヶ崎さんの5人
別にみんな隣り合って座るわけでもなく、好きな席でご飯を食べたりお茶を飲んだりしている
「お、おはよーさん。飯なら食堂の奥に冷食あっから適当に暖めて食えよー」
入ってきた私たちを見て枯山くんはそう言ってくれたけど、別に今私お腹が空いてるわけではない。
道頓堀さんにみんな居るからと言われてきてみただけ
「……ブス」
ここからどうしよっかななんて思っていたときに食堂の奥から唸るような低音と鋭い眼光が私たちに突き刺さった。
「アンタ達、とくにアイドルじゃない方!! なにそのお金だけに物言わせましたみたいな勘違い港区青山女みたいな顔!!!」
蝶ヶ崎さんだった、レストランの一番奥にいるのに耳元で怒鳴られているような声量で私たちの耳元に声が突き刺さる
確かに調子に乗って高いコスメをふんだんに使いすぎたかもしれない
「どーせただでハイブラ使えるからって調子に乗って使い慣れもしてないコスメを無駄に塗ったくってきた感じでしょ!!! おてもやんじゃない!! 令和の可愛いおてもやんよ!!
優雅な朝の紅茶の時間になんてブスなもの……。小娘が背伸びしすぎよ!!! 20になるまでは!! ハイブラは1つまで!!」
「まあまあ、お年頃ですからお化粧に興じてしまうのも仕方がありません、可愛いじゃないですか。お化粧箱にいたずらした子供みたいで……」
「こんなゲルニカみたいな顔になってなーにが可愛らしいよ!?」
「色の使い方はあまりよろしくないとは思いますけれど、大胆で個性的だと思いますよ?」
「はんっ! ほら! アンタ達三人はどう思うのよ!!」
朝から私たちにイラついている蝶ヶ崎さんにそれをなだめる蓮宮さん。
それだけならず残った3人にも蝶ヶ崎さんの言葉の弾丸はとんでいった
「私は特に化粧などに関しては知識が無いので」
「んあ? なんか昨日と顔変わってっか?」
「おでこに666って描きましょう!!! 魔を真似て厄除け効果を付けちゃうんです!!!」
私でもわかることが一つ、多分この三人に化粧に関しての意見を求めるのは大いに間違っている
知識がない清木君に、興味のない枯山君、それにもう訳の分からない野田さん。
そういえば昨日貰ったお札がポケットに入れっぱなしだったから、洗濯に出すときは一緒に洗わないように気をつけなきゃ。
「んまあああ!!! なんてことなの!!! この3人はそもそも美醜って言葉を知らないのかしら!?」
「美醜だかなんだかしらねえけど、とりま無事に生きてここ出ることが第一だろ」
「それには私も同意します、昨日のあの宣言があった以上緊急実態なことは確定していますので」
枯山君の言葉にさすがに言い返すこともできなくなったのか蝶ヶ崎さんはむっと黙り込んでしまった
これが多分正論パンチってやつなんだと思う。
「けど殺し合いだなんて……この中から殺人犯が生まれてしまう、ということですよね? あり得るのでしょうか……そのようなこと」
「しらね、けどあれじゃね? あと5日くらいは無事だろーよ、確証はねえけど」
「けれど命が何者かの掌の上にのせられているのは紛れもない事実です、何らかの策は講じた方が良いのでは?」
何らかの作戦……かぁ
なにかみんなが無事で安全に過ごせる方法……。なにかあるかな
「……朝と夜に出席を取るってのはどうかな? ほら、皆が無事なのはそこで確認できるだろうし」
パッと頭に思い浮かんだ言葉だった、学園生活って言うくらいなら出席はつきものだよねくらいの気持ち
言葉以上のことは何も考えていないから、また多分蝶ヶ崎さんあたりに怒られちゃうんだろうなあ……なんて。
「いんじゃね? ついでに朝飯と晩飯一緒に食っとけば愛着とかもわきそうだし」
「そうですね、こんな状況下だからこそ親睦を深めるというのは妙案かもしれません」
意外だった、私の意見が超高校級のみんなにすんなりと受け止められるなんて
喋ってない皆はどうだろうと食堂を見てみたけど、清木君と荷田さんは黙って首を縦に振っていて蝶ヶ崎さんは何も言ってこようとしてこないってことは概ねみんな賛成なのかな?
「でもさ、それっていつから開始するの? 早い方が良いよね?」
「そんなの今日からに決まってるでしょ、言い出しっぺなんだからアンタ達が声かけてきなさいよね」
虹咲さんの問いかけにさもあたりまえでしょと言わんばかりに蝶ヶ崎さんの返答がスパンッと飛んでくる
虹咲さんは何も言い返さなかったけど「え? 私達で?なんで私が?」っていう表情で私を見つめていた。
「虹咲さんごめん……」
「いいよぉ……仕方ないっ、それに9人に声かけるだけだし、やることもないし。パパッと終わらせちゃおっ」
完全に虹咲さんを巻き込んでしまう形にはなってしまった、申し訳なさを感じつつも私たち二人は食堂を後にした
ついでに校内になにがあるのかパパッと探索を済ませちゃうのもいいかもしれないな。
今回ランダムで決めた個所
・芽吹が部屋を出て遭遇する人物
・食堂にいる5人