虚ろと悦び   作:めめ師

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愉悦の種

ベルに手を引かれて最初にやってきたのは服飾、飲食などのお店が立ち並ぶショッピングエリアだった。

 

「夢の中なのに、服とかあるんだ?」

「そうね、ここは居心地が良すぎるから...ここで生活したいって人も多いだろうから、需要は尽きないでしょうね。まあ、私たちの目的はそこではないわよ。

...あぁ、気になるものがあったら遠慮なく言ってね。急いでるわけではないもの。」

「大丈夫。」

 

迷いの無い足取りでベルがやってきたのは、こちらをじっと見つめる巨大な目が壁に着いている場所だった。

 

「ようこそ、夢境ショップへ!このDr.エドワードがご要件を伺いましょう!」

「そうね、仮面の愚者の記憶はあるかしら。」

「えぇ、ありますよ。こちらです。」

「あら、いっぱいあるのね...そうね...」

 

ベルが巨大な目から渡された幾つかの泡を覗き込んでいる間に手持ち無沙汰になった私は、目の前の巨大な目に自然と視線を奪われていた。

 

「お客様は、こちらを訪れるのは初めてですか?もし分からないことがあれば、このエドワードにご相談ください!」

「えっとじゃあ、あの泡ってなんなんですか?」

「あれは夢の泡と言って、他人の記憶を維持、保管したものになります。

あれに触れることによって内包する記憶を追体験することができる、といったものになります。」

 

追体験...つまりベルはここに、他の仮面の愚者の記憶を見に来たということなのだろうか?

 

「よし、エドワード。これとこれを貰うわ!」

「かしこまりました!...お買上げありがとうございます!」

「はいソラ、これに触れなさい。」

 

そう言ってベルから夢の泡を渡された。まさか私用だったとは。泡を見てみると、中には割れたなにかの破片のようなものが浮かんでいる。

私はベルから渡された夢の泡に触れる。

 

 

次の瞬間、私は気がつけばバーのような場所のカウンター席にいた。

周りを見渡せば仮面を被った人が多くいる。察するに、みんな仮面の愚者なのだろう。

 

「あなたの仮面、ひび割れたままだけどいいの?」

 

私の意思に関係なく私の口から言葉が飛び出して、びっくりした。今私が体験している記憶の持ち主の言葉だろうか。

 

「いいんだよ。俺の仮面は何時だってこれ1つだけなんだから。」

 

声の帰ってきた方を見ると、ひび割れた仮面を身につけた男性がいた。

 

「ふぅーん...こんな話を知ってる?仮面の愚者から仮面を取るとどうなるか...あなたのその仮面が、もう修復もできないほど粉々になった時、あなたはどうなるんだろうねぇ?」

「それ、有名な話だろ?最後に残るのは愚か者ーってやつ。あの子がずっと話して回ってんだ、俺も知ってるさ。

...もしこの仮面が割れたら?はっ、その時は愚か者らしく踊り狂ってやるさ。」

 

男は笑い飛ばして言った。

 

「あの時のあなたはどこ行ったのよ?まさか幻月への願いと一緒に自我も置いてきちゃったの?」

「まさか。ただ俺の熱はあの幻月に見せた喜劇で燃え尽きた、それだけさ。」

「あれが喜劇?悲劇の間違いじゃないの?」

「そうだぜ!あの出会いと別れが悲劇じゃないってんなら、何が悲劇になるんだ?」「そうだそうだ!」

 

唐突に周りにいた仮面の愚者からも声が飛ぶ。その声は止むことなく、むしろ熱量を増していった。

 

「...いいや、喜劇さ。」

 

周りで声をあげる仮面の愚者には聞こえないような声量で、それでも私...隣にいる人には聞こえるように、彼は呟くのだった。

 

 

 

「見終わったかしら?」

 

目を開ければ目の前にベルがいた。

今ので終わり?色々と分からないことが多いんだけど...

幻月っていうのがなんなのかも分からないし、あのひび割れた仮面の男の話も断片しかわからなかった。

でも、あの夢の泡の中に浮いていたのが仮面ではなく破片だったことを考えると、彼の仮面は多分...

 

そんなことを考えていたらベルから「はいじゃあ次はこれね。」ともうひとつの夢の泡を渡された。

今度の夢の泡の中に浮いているのは、ものではなく暗い部屋の隅で蹲る男の姿だった。

その様子を不思議に思いつつも私は夢の泡に触れる。

 

 

目を開けると目の前に鬼の形相をした男が立っておりこちらを睨んでいた。

今回の記憶の持ち主はこの男を怒らせるようなことをしたのだろうか。

 

「答えろ、何故こんなことをした!」

「面白そうだったから。」

「面白そうだと!?そんなふざけた理由であんな凄惨な...!」

「ふざけてるように見えるか?少なくとも俺は大真面目だぜ?」

 

目の前の男の表情はますます怒気を孕んでいく。

それでも記憶の持ち主は話すのを止めることはしなかった。

 

「忘れちゃいねぇか?俺は仮面の愚者だぜ?常楽天君、"愉悦"の星神、アッハを信仰する愉悦の行人。

いいか、よく覚えとけ刑事さん。

仮面の愚者ってのはいつだって真面目。真面目にふざけるんだ。理性を持って快楽と欲望を貪るんだ。そこをあんたらの尺度で測ろうってのが大間違いなんだぜ?」

 

あからさまな挑発に目の前の男の怒りが頂点に達したのか、彼が拳を振り上げてこちらに殴りかかろうとする瞬間。

 

「お待ちください。」

 

別の男の声が聞こえ、彼を静止した。

声の方向を見ると、そこに居たのは顔の横に小さな羽が生えており、また頭の上に金属の輪っかが浮かんでいる人。確か天環族だったか、ピノコニーにはそういう種族がいたはずだ。

 

「いくら相手が犯罪者と言えども、ここは"調和"の元に定められた法が絶対の星です。いくら貴方と言えども私刑を加えたとあっては私も見過ごせません。」

「...サンデーさん。」

 

サンデーと呼ばれた男は激高した男が鎮まったのを確認すると、こちらを向いて手を向けた。

 

「...なるほど、その仮面で意図的にその身に狂気を植え付けているのですか。勝手ながらこちらで調律させていただきますよ。何せ今のままではまともな証言すらも得られませんから。」

 

その瞬間、この記憶の持ち主が苦しみ出した。

夢の泡で得られるのは他人の記憶だけらしく、その人が何を考えていたのかや何が起こったのかまでは私には分からない。

 

「ぐぁ...!テメ...返せ!あれは俺が其に近づくための最高の切り札だぞ!」

「其に近づくためですか...私は常楽天君には詳しくありませんが、模倣するだけの狂気など、其が最も嫌いそうなものだと私は思いますがね。」

 

 

 

記憶の持ち主がそのまま意識を失ったことで、この記憶はそこで終わりとなった。

 

「...終わった。」

「OKソラ、どうだった?」

「どうって言われても...よくわからなかった。

ベルがこれで何を見せたかったのか...」

「ま、そうよね。私が見せたかったのは仮面を失った愚者(愉悦を忘れた愚か者)。ソラにはそうなって欲しくないじゃない?反面教師よ。ま、ソラには必要ないかもしれないけれど。」

 

私はベルの言葉にようやくピンときた。

 

「もしかしてベルは、私を仮面の愚者にしようとしてる?」

「そうよ、別に愉悦の行人になる必要は無いんだけど、ソラにはやりたいことをやって生きてもらいたいの。どうかしら?」

「わかった。ベルがそれを望むなら。」

 

虚無に飲まれ感情と記憶を失った私がベルの期待に添えるかは分からないけれど、あのまま無の中で朽ち果てるだけだったはずの私を連れ出したベルの思いには、答えてあげたいから。

 

「そう、それじゃあ...

ようこそ自滅者!愉悦はあなたを歓迎するわ!

仮面の愚者における唯一のタブーは、やりたいことをしないこと!

だから...これからは好きに生きなさい?」

 

そう言ってベルが私に手を伸ばす。

私がその手を掴んだ瞬間、どこからともなく笑い声が聞こえてきた。

 

「アハハハハ!!」

 

その笑い声は、男女様々な声が混ざりあっているにもかかわらず、やけに統一感があるように聞こえた。

私は気がつけば、1人で宇宙空間のような場所にいた。

そして目の前には、巨大な赤い仮面がひとつ。

 

「凡人どころかIXに感情を奪われながら愉悦を志すだって!?いいね!実に面白い!

いいよ、汝には"種"を贈呈しよう!是非とも芽吹かせてくれたまえ!」

 

そう言った巨大な仮面から私の方に何かが投げられた。

受け取ってみると、それは無表情の真っ白な仮面だった。

 

「これは...」

「おっと!質問はナシナシ!それじゃあせいぜい頑張りたまえ!」

 

そう言って仮面は虚空へと消えていった。

私は手元に残った無表情の仮面を見る。

見たところ何の変哲もない仮面に見えるが...

種と言ったか、芽吹かせるとも。

 

というかそもそもあの巨大な仮面、何?

 

 

 

「ソラ?」

 

気が付けば私は夢の中に戻っており、ベルの手を掴んでいた。

 

「あれ、戻ってきてる...」

「戻ってきてる?何かあったの?」

 

私はさっきまでの状況を、持っていた無表情の仮面を見せながらベルに説明した。

 

「はああ!?一瞥だけならともかく、種までですって!?

あの馬鹿!ほんと余計なことを!」

 

説明の途中からベルの表情...は見えないが、雰囲気が徐々に怒気を孕んでいき、やがて爆発した。

こんなに荒れたベルは初めて見たので私はおっかなびっくりベルに聞いてみる。

 

「あの...結局あの赤い仮面って...?」

「ん?...あぁ、アレはアッハ。愉悦の星神よ。」

「星神...ていうか自分が信仰する運命の星神をバカとかアレとか言っていいの?」

「アッハはパブ...愉悦の行人の拠点みたいなとこを出禁になっているくらいよ?そんなもんでいいのよ。」

 

あっけらかんと言われ、さすがに困惑した。

とはいえ流石に愉悦だからこそなのだろうと思う。

他の存護を信仰するカンパニーやら巡狩を信仰する仙舟はもっと星神を崇拝しているらしいし。

 

「じゃあ私も...同じようにした方がいい?」

「それで良いわよ」

(良くないぞ!アッハはもっと愉悦を愉しみたいというのに!)

 

ベルの言葉に被ってどこかから言葉が聞こえてきた気がしたが、私はベルの言う通りに無視することにした。




アッハならここまで人間味持たせても問題ないはず...っていうか普通に原作でこんなもんでは?
嵐とか明らかに超常存在って扱いだし(実際超常存在だけど)、カンパニーのスタンスはビジネスに利用って感じだろうけどクリフォトもちゃんと信仰されているはず...
行人に嫌われてる星神はアッハとIXくらいかな?
まあ嵐も疎まれてる側面はあるんだけどね...仲間巻き込んでの無差別爆撃はアカンよ。
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