虚ろと悦び   作:めめ師

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怪しい商人

夢境ショップを後にした私たちは、近くにあったレストランへと来ていた。

 

「夢の中で食べる料理...果たしてどんなものなのでしょうね?」

 

注文を終えて料理を待っている間、ベルはそう呟いた。

 

「普通の料理じゃないの?」

「夢っていうのは本来、記憶の整理よ。だからここでの体験は過去の追体験で、記憶を超えることはない。

...って思っていたのだけれどね、蓋を開けてみれば新しい体験だらけじゃない!流石に宴の星を舐めていたと言わざるを得ないわ。」

 

ベルがそう語っていたところに料理がやってきた。そしてそれを運んできたウエイターはやけに上機嫌であった。

 

「そうなんです!例えばお客様が注文してくださったこのフライドポテトサンデー!こちらは夢境であるからこそ実現が可能となったのです!ポテトがしなしなになることなく、アイスクリームが溶けることもない...熱さと冷たさの完璧なハーモニー!調和の愛に満ちた宴の星にピッタリな食べ物だと、そう思いませんか?」

「えっ、あっ、う、うん...」

「その他にもクロックピザ、クラシックスラーダ、オークロールになります!どうぞごゆっくり〜...」

 

唐突に振られてびっくりした。なんかよく分からなかったけど、まあいいやとポテトの先端にアイスを纏わせて口に運んだ。

 

「どうかしら?」

「うーん...あんまりよく分からない。」

 

一応説明しておくが、私は虚無にやられたものの、味覚まで失ったという訳では無い。その上で感想としてはよく分からない。

確かに熱いポテトだ。確かに冷たいアイスだ。

それが同時に合わさって、口の中で混ざりあって...結果よく分からない。どちらかに温度が持っていかれることなく、舌を動かしていると熱いゾーンと冷たいゾーンが確かに存在していた。

個々は美味しいが、まあ混ぜるものではないし温度が固定になっている意味も無かった。

さっさと飲み物...スラーダで流し込む。まあ普通に美味しい炭酸ジュースだった。

 

次はクロックピザの1ピースに手を伸ばして口に運ぶ。

うん、ピザだ。それ以上も以下もなく、ピザであった。特別語ることもない。

 

そして最後のオークロールだが...見た目が完全に木だった。木に見えるとか似せているとかでは無く、普通に木だ。

真ん中に穴の空いた円形のパンの1部にナイフを通して切り取ってみる。口の中に入れて咀嚼すると食感は確かにパンだった。でも咀嚼する度に何かパキパキ鳴っている。そして味は木だった。木を食べたことは無いが、木とはこんな味だろうを再現したもの。これ本当に木じゃないんだよね?

 

 

「まあ夢の中ならでは...なのでしょうけどね。」

 

レストランを出たベルが開口一番そう言った。

仮面があるため表情は分からないが、まあ微妙だったのだろう。

確かに熱さと冷たさを文字通り同時に味わうのは現実には不可能だ。夢の中だからこその食べ物なんだろうけど、現実で味わったことの無い感覚すぎて違和感が全面に出てくる。味どころではなかった。

夢の中に入り浸ってその感覚になれた人達にとっては美味しいのだろうか?

 

まあ要するに、総合すると微妙だった。夢の中ということでハードルが上がっていたのか、それともこの星ならではの味だったのか。

奇を衒っていない普通のレストランでも後で探すことにした。

 

 

気を取り直して次にやってきたのは、エディオンパーク。様々なゲームやらアトラクションやらが建ち並ぶ広場だった。

 

広場の中央では勝手に動いている楽器たちが音楽を奏でている。

 

「あれは誰かが楽しく演奏しているのかしらね?」

 

ベルがこういう風に疑問をこぼした時は、大抵なにか自分の中でそれ以外の想像が着いているときだ。それなりに長い付き合いの中で何度も経験した。

 

「それ以外に、何かあるの?」

「宴の星においては無機生命体ですらない楽器や看板すらも生命や意志を持って活動している、とすれば聞こえはいいけれど、果たしてそれがプログラムされたものでないのかと、観客(わたしたち)は疑問を持つべきではないのでしょうね。」

「おやおや?ミス・トラベルは愉悦の行人らしくないことを考えますね?」

 

唐突に聞こえてきた声に振り向くと、そこには青い髪に赤いジャケット、そして何よりも目を引く腕に取り付けられた銀色の篭手のような装備が特徴的な長身の男性だった。

 

「あら......サンポじゃない。奇遇ね。」

「こんにちはミス・トラベル、そちらは初めましてですね?僕はサンポ・コースキ。しがない商人でございます。お嬢さん、その仮面を見るにもしかして仮面の愚者なのですか?それにしてはあなたのことは見たことがありません。僕はこれでも商人として情報の仕入れは欠かしていないのですが...」

 

どうやらベルと知り合いらしい。

 

「初めまして、ソラです。」

「ソラが仮面の愚者になったのはごく最近よ。ソラを連れてパブに行ったことも無ければ、ソラが自分の星以外に来たのもここが初めてよ。だから知らないのも無理はないわね。」

「おやそうなのですか、どうりで!それにしてもミス・トラベルと同じ仮面とは。ミス・トラベルは相当お嬢さんを気に入ったようですねぇ!」

「一応自分の仮面もある。...貰ったばかりだけど。」

 

そう言って私はサンポに懐から取り出した無表情の仮面を見せた。それを見たサンポは驚愕の表情を見せた。

 

「その仮面...!?お嬢さん、あなた...」

 

サンポは両手の人差し指と親指で輪っかを作り、メガネのように顔の前に持ってきて私をじーっと覗いた。

 

「あなた...サンポ、あなたはそんなことする人じゃなかったでしょ。」

「おっと失敬。それにしてもお嬢さん、その仮面はどこで?」

「さっき、アッハが私のところに来て置いていったの。」

「ふむ、やはり其から贈られたものなんですねぇ。実際に種を見たのは初めての経験です。

いやぁ貴重な体験をさせていただきました。これはお礼です。」

 

そう言ってサンポが私にぬいぐるみのようなものをくれた。赤が基調の着物を着たツインテール、そして狐の仮面を顔に着けた少女のぬいぐるみだった。誰かモチーフになった人がいるのだろうか?

 

「あなた...ソラが知らないからってずけずけと...」

「良いじゃないですかぁ!別に貴方も止めるつもりはないんでしょう?」

 

ベルとサンポが何かを話しているが、なんの話なのかは分からなかった。というかこのぬいぐるみ、夢の中で渡したところで別に現実には持っていけないのでは?

まあとりあえず持っていよう。

 

「おっと、これから商談があるのでした!それではミス・トラベル、お嬢さん、またどこかで会いましょう!」

「じゃあねサンポ。またいつか。」

「ばいばい。」

 

サンポが地面に何かを投げつけたと思うと、そこから煙が吹き上がってサンポを包んだ。一瞬にして煙が晴れたかと思うとサンポはもう既に跡形もなく消えていた。

 

「...あの人も仮面の愚者なの?」

「...うーんと、まあそうね。」

 

ベルが何故か一瞬迷ったような様子を見せて答えたが、その理由は私には分からなかった。

 

 

 

それからはエディオンパークで色んなゲームをして遊んだ。巨大なガチャガチャやらスロットなど、そして屋台のような場所のカウンターでトランプを使用したカードゲームだ。

 

「ソラ、あなた恐ろしく運がないのね...カードゲームであればポーカーフェイスで有利かと思ったのに...」

「みたい。私にはこの手のゲームはダメだね。」

 

私には運が全く無いらしく、運が絡むスロットやカードゲームなどのゲームは全敗だった。お金をなくしただけだ、二度とやらない方がいいだろう。

 

「どうかしら、楽しかった?それとも、負け続きで怒っちゃったりした?悲しかった?」

 

多分だけどベルは、私から感情を引き出そうとしてここに連れてきたんだろう。

残念だけど...

 

「特に何も...感じなかった。」

「そう、まあいいわよ。こんなゲームで感情が浮き上がるほど虚無も甘くは無いでしょうからね。じゃあ、次のところに行くわよ!」

 

そうしてベルに手を引かれて次の場所へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

「ふぅ〜ん。感情を失った自滅者がねぇ...面白い試みじゃん、ベルちゃん!」

 

そんな様子を高所から見下ろす少女の姿があった。

さっきソラが貰ったぬいぐるみに似た容姿からそのモチーフになった少女であることは一目瞭然だ。

 

「でもぉ、愉悦に染まれていないのはあなたもおなじ!そんなベルちゃんが愉悦に挑戦しようだなんて、ちょーっと早すぎるんじゃないかな!」




○ンポ・コースキって仮面の愚者でいいんだよね?
なんか調べたら弔伶人かもとかあったんだけど、あのムーブで愉悦アンチな訳ないよな?

これのために久々にピノコニーに出向いたら思った以上に"夢のような世界"じゃなくて"夢の世界"で笑った。
と言うよりはいちばん近いのは"風邪を引いた時に見る夢"の世界か?
あのレストランの料理の説明面白すぎてだしたけど、さすがに普通の料理あるよな?あってくれ。
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