エディオンパークを後にした私たちは、今度は大通りを歩いていた。ベルに連れられるままに歩いているため、私にはどこに向かっているのかは分からない。
そんな中、ふとビルの壁に大きく貼り出されたポスターが目に入る。
「気になるかしら?」
私の様子に気づいたベルが私の顔を覗き込みながら言った。
「うん。さっきからこの人のポスターがいっぱいあるなって。」
「彼女の名はロビン。この宇宙全体に名を轟かせる調和の歌姫よ。」
「歌姫...?」
「そうね...後で彼女の歌を聞かせてあげるわ。調和の歌なら、もしかしたらあなたもなにか感じるかもしれないもの。」
そんなことを話しながら歩いていると、ベルがふと足を止めた。
「...ベル?」
「ちょっとごめんね、ソラ。
...さっきから私たちを尾行しているのは誰かしら?」
私がその声を聞いて後ろを振り向くと、後ろの物陰から人が出てきた。
「さすが...とでも言うべきでしょうか?
無断であなたがたを付け回った無礼をお許しください。
私はハウンド家の警備を担当する者です。失礼ながら以前このピノコニーにおいて愉悦の行人がとある事件を起こしましてね。以降仮面の愚者に対しては特に警戒するように指令がでているのです。」
彼の言葉を聞いて私はさっき夢境ショップで見た内容を思い出していた。確かに仮面の愚者が事件を起こした様子だったが、ここで起きた出来事だったとは...
「ふーん。ま、愚者が起こした事件が原因って言われちゃうと断れないわね。
個人的にはアレと愉悦の行人を一緒にしないでもらいたいものだけれど...アレはただの酔狂が過ぎた愚か者にも劣るナニカよ。あんなものは愉悦ですらないわ。」
「気分を害したのなら申し訳ありません。ですがこれもみなが安心して夢を楽しむため。どうか協力していただけないでしょうか?1度協力していただければ二度とあなたがたの邪魔はしないと誓いましょう。」
「まあ良いわよ。どうすればいいのかしら?」
「1度会って欲しい御方が居らっしゃるのです...」
それから私たちは彼に連れられて何やら荘厳な館へと連れてこられた。
「ここはどこ?」
「ここは朝露の刻。ここ、ピノコニーを管理するファミリーの方々がおられる場所で、基本的には関係者以外立ち入り禁止となっております。今回はファミリーの方に直々に招待を受けたお二方だからこそ、案内したのですよ。」
「そう、どうやらあまり嬉しくはない招待のようだけどね。」
「否定は致しません。ですが、あなた方の調査が終わり次第、ピノコニーでの観光における何かしらの報酬をとの話になっております。わざわざここまで御足労いただいた迷惑料だと思って受け取っていただけると助かります。」
警備の人とベルが会話をしているのを話半分に聞きながら、私は辺りを見回していた。ただの通路だと言うのに辺りには黄金で作られたカラスの像が建ち並び、あたかもここが特別な場所だと主張するような様子だった。
...夢の中にあって黄金の像なんかに価値などありもしないのだが。
そうして歩いているとやがて1つの部屋に通される。
例に漏れず荘厳な雰囲気で中央の壁には3重に重なった円のような模様が描かれている部屋だった。
そこには青と白の左右に別れた服装で、頭には灰色の髪と左右に小さく生えた羽。そして後頭部に浮かぶ金属の輪っかが特徴的な男性がいた。
そして私は彼に見覚えがあった。
見たのは少し前、夢の泡の中で。名前は確か...
「サンデー...?」
「おや、私はオーク家の当主といえど、あまり表舞台に立ってはいないのですが...もしやどこかでお会いしましたか?」
彼は少し驚いたように目を見開くと私にそう返した。思わず声に出していたらしい。
「さっき夢の泡の中で見た。愉悦の愚者を尋問してるところ...」
「...あの時の...夢の泡になっていたのですか。あまりいい経験と言えるものではありませんし、そういった類の記憶は手放すように話してみますか。
...失礼、わざわざ御足労いただきありがとうございます、お二方。私はサンデー、オーク家の現当主です。」
「ハッピー・トラベルとソラよ。とりあえず建前はいいから調べたいことがあるなら早く調べてちょうだい。」
ベルが苛立ちを隠す様子もなくサンデーを急かす。さっきまでそんな怒ってなかったと思うんだけど...
「これは失礼しました。それでは早速...」
そう言ってサンデーがベルに手をかざすと目を閉じた。
傍目には何やら珍妙な光景だが、少なくとも何かは起きているのだろう。そしてそのまま数秒経った後にサンデーは目を開けて手を下ろした。
「えぇ、大丈夫です。ご協力ありがとうございました。」
「そ、それじゃあ次はソラね。早くしてちょうだい。」
何故か未だに苛立った様子のベルに疑問を持ちながら私はサンデーの前に立つと、サンデーはさっきベルにやったのと同じように私に手をかざして目を閉じた。
その瞬間、私は思考に若干もやがかかったような感覚に襲われた。
その奇妙な感覚こそがサンデーが先程やっていたことなのだろう。
口ぶりから察するに相手がなにか悪巧みをしていないかどうかを探る...もっと言うと思考を読む、とかそういった類の力が働いているのだろうか...と疑問に思った瞬間だった。
サンデーが目を開いたかと思うと驚愕の表情と共に声を漏らした。
「これは...ソラさん、でしたね。あなたは...」
「そこまでよ。ソラに悪意が無いって事は分かったでしょ?もういいかしら。」
「お待ちください、ソラさんは...」
「あまり他人の事情に深入りするものではないわ。調和の力でソラをどうにかできるって言うなら話は別だけど。」
「...すみません、差し出がましい真似を。
調和の力は言わば楽器の調律の様なもの。弦の無いヴァイオリンの調律は私には出来ません。
ですがもしかしたら私の妹、ロビンの歌であれば弦を張ることは出来るかもしれません。」
「そう、あまり期待しないでおくわ。」
そう言って歩き出したベルに手を引かれて私も館を後にした。
それから黄金の刻、最初に居た場所へと戻ってきた私はベルに疑問を口にする。
「ベル、なんでそんなに怒ってるの?」
「別に怒ってはないわよ。」
「え?でもさっき...」
「さっきのは演技よ、演技。」
あっけらかんとそう言うベルに私はなんで、と当然の疑問を抱いた。
そんな疑問を持つことは分かっているとばかりにベルは続けざまに話し出した。
「さっき聞いたでしょ。調和の歌姫、ロビンであればあなたの虚無を埋められるかもしれないって。その為に私は怒ってるように見せかけて貸しを作ったの。そして見返りを貰う前に離れることでその貸しを先送りにできる...例えばピノコニーに調和の歌姫が戻ってきた時とか、何処かで調和の歌姫にばったり会った時だとか、そんな時にこの貸しの分を返してもらおうってワケよ。」
「貸しって言っても少し時間を取られた程度のものだよ?」
「どんなに小さくとも貸しは貸しよ。それに歌姫が噂に聞く心優しい人柄なら貸しなんかなくてもやってくれるかもね?」
それから私たちは再び黄金の刻を歩き回り、思いっきり遊んだ。
そしてその途中でのこと。
「そういえばロビンの歌を聞かせるって約束だったわね。」
そう言ってベルがスマホを操作して私にイヤホンを渡した。私はそれを耳につけると聞こえてきた音楽に耳を傾ける。
綺麗な伴奏に透明感のある歌声。そして壮大な物語を語りかけるかのような歌詞。
銀河中を魅了したというその歌は続いていく。澄んだ音色のピアノに乗せられた物語は希望を持って続いていく。
やがて物語は最高の結末を迎え、調和の取れた伴奏と共にフィナーレを迎えたのだった。
これらはきっと聞く人が聞けば感涙にむせぶほどの歌なのだろう。
でもそれは、私の感想ではなく、ただの予想だ。
つまり、私には何も感じられなかった。まあ、強いて言うなら...
「どうだった?」
「歌が上手だなって。私には同じようには歌えない。」
「そういうことじゃないんだけど...」
ベルが呆れたように私を見るが、私は思ったままに言っただけだ。
「まあしょうがないわね。もしかしたら実際に聴いたら変わるかもしれないけれど、調和の歌ではダメだった、という事ね。」
どこか嬉しそうに言いながら歩き出したベルに、私は着いていくのだった。
サンデーってこんな感じか?序盤サンデーあんま覚えてはないけど、割とちゃんと当主してたとは思う...蓋を開ければ色々抱え込んでたっていうオチだった訳ですが。
今じゃ完全に列車の末っ子に...
ロビンとかサンデーの調律って何処まで便利なんでしょうね?主人公を見るに感情を植え付けるとか出来そうな感じはするけど、それをやっちゃうと色々と崩壊しちゃうのでなしということで。