ケンガンシークエル   作:如月雪

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幕間①神聴(しんちょう)のシュライク

──

 

「調子はどうだい?刀也」

 

「何試合か経験させてもらったが正直言って、阿古屋レベルは全くいないな」

 

「そりゃそうだろう……日本でも10指にはいる強者だよ刀也。そうだ……取引先からチケットらもらったんだけど、見に行くかい?」

 

「どこだ?」

 

「ヴァルキュリア」

 

──

 

「拳願試合よりは見劣りするかもしれないが、案外悪くないものだね。」

 

「なるほど。この世界では女でもここまで鍛えるのか……拳願より、こっちの方が面白いんじゃないか?」

 

「え?キミは拳願仕合の闘技者になるんだよ」

 

「俺も出てみたいなヴァルキュリアに」

 

「……女の子と戦うんだよ?」

 

「だろうな。」

 

「…………話だけはしてみるよ。」

 

──

 

「…………試合決まったよ」

 

「本当さ、僕もびっくりしてるよ。」

 

「相手は?」

 

「…………まぁお楽しみにとっておくといいよ。」

 

──

 

『――ピンポンパンポーン』

 

一瞬の電子音が響いた。

 

その直後、天井に取り付けられたスピーカーから、場内へ向けて女の声が流れ出す。

 

『お待たせいたしました! 本日のエキシビションマッチッッ! 選手入場ォォォ――ッ!!』

 

ザ……。

 

『“神聴”モズ』

 

《161cm 49kg》

 

「でらマブい子きたよ! 今日の試合、当たりでは???」

「アルビノきちゃー!!」

「僕、目覚めちゃったかもしれない!!!」

 

ザ……。

 

『“紅月”刀也』

 

《176.5cm 65kg》

 

「男……? これはアリなのか?」

「まさかの男女マッチ!? 期待してますよーーー!!」

「これはこれで…………アリ」

 

二人がリングの中央で向かい合う。

身長差はおよそ十五センチ。

傍から見れば、どう見ても刀也の方が有利に見える。

だが――。

 

『――Ready……Go‼‼‼』

 

開始の合図と同時に、最初に動いたのは刀也だった。

一歩。

たった一歩で、二人の間合いが消える。

 

「――ッ」

 

モズの銀髪が大きく跳ねた。

刀也の拳が、その頬を掠める。

しかし――拳は空を切った。

 

「……?」

 

刀也が僅かに目を細める。

今度は逆の拳。

それすらも、モズは紙一重で躱した。

 

「おいおい……」

 

モズはただ避けていた。

時には半歩。

時には首を僅かに傾けるだけ。

ガードすら、ほとんど必要としない。

それも――すべて最小限の動きで。

 

「……お前」

 

刀也が拳を引く。

 

「俺の動き、見えてるのか?」

 

モズは首を横に振った。

 

「ううん」

 

「じゃあ、どうして避けられる?」

 

モズは少しだけ首を傾げた。

 

そして、まるで当たり前のことを答えるように言った。

 

「聞こえるの」

 

「……聞こえる?」

 

「あなたの筋肉の音」

 

モズの瞳が、刀也を真っ直ぐに捉える。

 

「どの筋肉が動いたか。どこに力が入ったか。それが分かるの」

 

刀也の表情から、笑みが消えた。

 

「…………」

 

「だから、どこに攻撃したいのかも分かる」

 

――なるほど。

 

刀也はようやく理解した。

 

“神聴”。

 

それが、この女の二つ名か。

 

「だったら……」

 

刀也が腰を落とした。

 

「これはどうだ?」

 

踏み込む。

瞬間、モズの身体が僅かに沈んだ。

刀也の拳が放たれるより早く――。

 

「――ッ!」

 

モズの掌が、刀也の胸元を打ち抜いた。

 

「ぐっ……!」

 

ドンッ!!

 

鈍い衝撃が響く。

刀也の身体が、僅かに後ろへ流れた。

観客席が一瞬、静まり返る。

 

「今の……」

「カウンター?」

「いや、違う!」

 

刀也が胸元を押さえる。

 

「俺が殴る前に、入ってきた……?」

 

モズは構えを解かない。

 

「だって、聞こえたから」

 

「何が?」

 

「踏み込む音」

 

「……」

 

「筋肉が縮む音。骨が動く音。呼吸が変わる音」

 

モズが一歩、前へ出る。

 

「あなたが動こうと思った時には、もう私には聞こえてる」

 

「……なるほどな」

 

刀也の口元が僅かに吊り上がった。

 

――二人の戦いは激化していくこととなる。

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