歩く。静かで、人っ子1人いない廃墟を歩く
とっくに水道や電線は物理的に断ち切られており、雨でもないのにそこら中に水溜りがあったり倒壊した家屋の陰からポタポタと水の滴る音がする
水があるのを良いことにコケや草が繁茂し、灰色のコンクリートの色と変わり映えのない深い緑しかないこの地を歩く
様々な動物の鳴き声が耳を傾けずとも入ってきて、それらはまるで縄張りを主張し外敵に対して警告をするかのように聞こえる
歩く、歩く、歩く。
誰もその歩みを止める事は出来ず、ただ一つのものを目指して歩き続ける
不意に、自然と一体になりつつある廃墟から似つかわしくない電子音が響く。それが聞こえると同時に刃はやっとこさ歩みを止めた。彼の目的は何を隠そう廃墟のロボットだった
「随分奥の方まで行かないと出てこなかったが、それに見合う素材だといいな」
ロボットは刃の声を認識してピーピーと音を立てながら目と思われる部分を赤く点滅させて警告の意を示しながら何本もある触手で刃へと襲いかかる
「ほう、脚部にローラー等が付いていないのにも関わらずスピードが出ているな。ブースターが付いているのだろうか?表面の装甲もあまり年月か経っている様子もなく、シンプルで硬そうなものだ。これだけでも十分実りがあったな」
目の前まで迫ってきているのにも関わらず、呑気にロボットの観察をして武器を取り出すそぶりさえ見せない刃は、仕方がないと言った感じで虚空から刃先が折れた剣──「
「興味深い構造だ。なるべく傷をつけずに無力化したかったが、致し方あるまい」
そう独り言を呟くと、烈火の如く猪突猛進して来るロボットの速度に合わせて剣を振り抜き、カウンターの形で触手の部分と頭部にとで切り分けた
「機体はいいが、思考回路がまだまだだな。指揮を行う個体がいれば十分脅威となり得るだろう」
刃が必要な部位の素材を剥がし終わって来た道を戻ろうとすると、何処からともなく一台のドローンが刃の目線の高さに合わせて停止する。また敵襲かとも思ったが、そのドローンには見覚えのある文字が刻まれていた
“ミレニアムサイエンススクール”
これが意味する事は──
『ここは立入禁止区域です。即刻、立ち去って下さい…と、本来なら言うところですよ?せめてこの超天才清楚系病弱美少女ハッカーである私、明星ヒマリに一言くれないと対応に困るんですよ刃さん』
「やはりお前だったか。久しいな、明星。飯は食っているか?」
ドローンからホログラムが出て来て、ヒマリの形を作る。ホログラムの中のヒマリは頬を膨らませて少し怒っているような、久しぶりに対面できて嬉しいような気持ちが混ざっている表情だった
『ええ、もちろん食べていますとも。何せここで食べていないと答えたらどうなるかくらい想像に容易いので』
ヒマリの脳内には自らが二年生になったばかりのころ、刃とのいつもの挨拶で「食べてない」と答えてしまい、家(ほぼ部室)に問答無用で押し入られて嫌と言うほど栄養満点のバランスが整った食事を何日も食べさせられた記憶が浮かんでいた
もしあのまま自らが動いて食生活を改善せねば、きっと儚さが消えてしまうほど食べてしまい、食事の面を全て刃に任せてしまう自信がヒマリにはあった
「こほん、
「そうか。助かる」
「そして、もう一つ伝えるべきことがあります。エンジニア部とゲーム開発部の皆さんが遊びに来て欲しいそうですよ?」
刃はふっと笑い、当たり前だろうと言わんばかりに歩き始める
「わかっている。明星、まずはエンジニア部に案内を頼めるか」
「私はカーナビか何かですか?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ミレニアムに着いたあたりでヒマリと別れてエンジニア部の部室前に着いたが、相変わらず中では騒々しい音が防音の壁も突き抜けて外に響いている。何かを製造中なのではないか考えてみるが、銃撃音と悲鳴が爆発音に混ざって聞こえることを踏まえると、どうやら穏やかな事象ではないらしい
「今度はどんな発明をやらかしたのか見ものだな」
そこまで長くもない自動ドアを通り抜けて部室と廊下の境界線を越えると、そこは地獄であった
3mはあろうかという巨体のロボットが自らの機体に群がる生徒をちぎっては投げちぎっては投げ…コトリは壁にめり込んでいるし、挙句の果てにはロボットに装着されているレーザーガンやらビームサーベルやらパイルバンカーが一斉に作動していた
「…?」
まさに宇宙猫状態になってしまった刃だが、助けを求めるようなか細い声が隣から聞こえて意識を取り戻した
「刃さん、“アレ”を止めてもらう事って可能だったりするかな?」
「私からもお願い。変数は全部完璧に計算してたはずなんだけど」
「白石と猫塚か。元気…ではなさそうだな。止める事なら構わんが、アレを壊してしまうことになるぞ」
「私が暴走モードをつけてしまったがために…すまない」
ヒビキが「犯人いたぁ!」と一瞬驚いたが、「暴走モードはロマン…仕方がないね」と一瞬で許していた。そんなのでいいのか。
刃はゆっくりと支離剣を取り出して、いつもの構えになる
それに呼応するかのように暴走したロボットは攻めの用意をし、銃口と剣先を刃へと向ける
「いいだろう、砥石になりたくば来い」
まずは小手調べという様に肩から小型ミサイルを刃の足元と本体に目掛けて発射する。足元に発射することによって生じる粉塵と動きづらさ、そして粉塵の中でもサーモグラフィーを使って敵の位置を補足できるアドバンテージを得る選択を取る
「中々頭が回るヤツだな」
自らに直撃するものだけを見極め、ダメージが比較的少ない足元のミサイルは無視して弾き落とし、すぐに粉塵の中からの脱出を試みた
「ほう、俺の動きはお見通しという訳か」
しかし、刃が粉塵から脱出した瞬間にレーザーガンのチャージを完了させていたものを刃の真後ろから発射し、3mの巨体とは思えない機敏さで刃を攻め続ける
「中々良いのを貰ったな。…終わりか?ならば次は俺の番だ!」
刃は支離剣を右手から左手へと持ち替えグッと身を屈めて呟いた。その呟いた声は小さく、更に敵が放つ爆音で絶対に聞こえないレベルだったがスッとヒビキとウタハの耳に入ってきた
「彼岸…葬送!」
刃が支離剣を振りかざすと、その支離剣の軌跡に赤い彼岸花が咲いている彼岸そのものの風景が見えた様に感じた。凄まじい腕の力から放たれた斬撃は見事に脚部の破壊に成功し、ロボットは体勢を崩す
このままではまずいとロボットはレーザーガンをしまってビームサーベルとパイルバンカーをメインにし、接近して来た瞬間に反撃をしようとじっくり機会を伺っていた
「抜かれた剣は、必ずや死をもたらす。お前を弔ってやろう」
いつのまにか刃はロボットの視界から外れて部室の両壁に設置されている足場に乗り移っており、ロボットがこちらに気づかない間に飛び上がって重力を伴う上段からの一刀両断をするつもりでいる
だが、ロボットは刃が足場から飛び上がって丁度頂点に達した所で上にいる刃の存在に気づいて刃の落下地点を予測してビームサーベルを構える。するとロボットも片方の足を使って跳躍し、刃の支離剣と空中で鍔迫り合いを行った
「最後は力勝負か、受けて立とう!」
ただの人と3mはあるロボット。普通ならロボットの圧勝であるが、ロボットが対面している人間はまさしく特異点と呼称して差し支えないレベルの怪物だった
徐々にロボットが押され始め、ビームサーベルが少しずつ刀身を失なっていく。ロボットも負けてたまるかと自分を作ってくれた人達のことを想いながら(殆ど自分自身で吹っ飛ばしているが)刃に対抗するがその想いも虚しく、ビームサーベルが完全に断ち切られて眼前に支離剣が迫る
「中々手強かったぞ。お前の前に戦ったヤツよりかは幾分かマシだった」
刃はロボットを縦から真っ二つにして、重力に従って床にどすんと着地する。すると、真っ二つになったロボットの機体も時間差で床に落ちる
観客になっていたエンジニアの部員たちはその結末を見届けたのだ
「う、う……」
「う?」
「「「「うおおおお!!」」」」
部員たちの大歓声がエンジニア部を包み込む。周りからは刃を讃える声が止めどなく降り注ぎ、逆に刃はそれに少し困惑している。このロボットをどうにかしてと言われたから壊しただけなのに…と
困惑している間に部員達の代表としてウタハが近寄って来た
「いやぁ、助かったよ。今回も手伝わせて悪かったね…後日、この埋め合わせはするからその時にしっかりとしたおもてなしをしてあげるよ」
「気にするな。当たり前のことをしたまでだ。この後、ゲーム開発部にも立ち寄る予定だからな、あまり待たせるのも彼女らに悪いだろう。俺はこれにて失礼する」
「手当ては大丈夫なのかい?」
「不要だ。どうせすぐに回復する」
最後にいくつか言葉を交わして、終わることのない万雷の拍手を背に刃はゲーム開発部目指して歩いて行った。
千冶・刃(オリ主)…まだ刃の技を使えば対処可能だなガハハ!あっちょっ強っ。やっぱりロボットは手荒いね…ゲーム開発部で癒されて来ます。
ヒマリ…一度、刃のせいで堕落しかけた。刃さんは私の母になってくれるかもしれない男性です!
ウタハ…一年生の頃からものづくり関係で刃と縁があり、溶接の技術などを教えてもらった。暴走モードを追加したことに悔いはない。
ロボット…暴走させられた挙句、真っ二つに両断されて無事終了。