一刀がいなくなった世界の乙女たち ―― 魏国再臨 前日譚 ――   作:無月

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秋蘭視点の続き小話となります。


過ぎ去ったものと 変えられる今と

「ということが、昔あってな」

「そっか・・・」

 逢引き中、茶屋で菓子をつまみながら秋蘭が語ったのは俺がいなくなった後のこと。

 秋蘭たちの立場を考えれば自然で、あって当たり前のことだった。それに俺のあの件を伝えてある今、覚悟はしていた。

「他のみんなはどうしたんだ?」

「華琳様は立場もあり、皇族の血に連なるものと結婚した。

 桂花はそれなりの立場があったがあの男嫌いは親族でも熟知し、初めから子を残すことは期待していなかったようだ。それに荀家は後継ぎにも困らなかったからな。

 季衣、流琉も後に結婚したと聞いた。

 だが、風や稟は『実力主義である魏において、世襲制はあってはならない』と言って、全てを断っていたらしい」

「あぁ・・・」

 何も言う権利もない昔のこと、華琳達も割り切って受け入れ、風達は自分たちの想うように生きた。

 俺が否定することも、意見を言うことも間違っている。

 だってそれは、もう変えることの出来ない過去の事なのだから。

「それでその・・・ 秋蘭?」

「何だ? 一刀」

 聞こうとしていることをわかっているのか、机の向こう側で意地の悪い笑みをする秋蘭に俺は小さく聞いた

「相手のことを・・・ どう思ってたんだ?

 それに、その相手はこっちにも・・・・」

「冬雲、嫉妬か?」

 ・・・その通りなんて、言えるか。

 俺がいるから秋蘭が見合いをして結婚することはないとしても、俺が愛想尽かされて彼へと行くことはあり得るし、なぁ・・・

 嫌われないように努力はするつもりだけど、やっぱり不安なんだよ!

「話した通り、我々は仮面夫婦だった。

 家のために子どもを残すこともしたが、その関係に恋慕の情はない。

 ある意味、友愛に似ていたものだった」

「だけど・・・ やっぱり心底嫌った人間とは傍には居られないだろ?

 それにその人の恋人だって、助けられるなら助けたいんだ」

 不安と、別れの経験を知っているからこそ、同じ思いを繰り返してほしくない。

 俺たちはこうして出会えたのに、身を裂かれるような思いを誰かがするのは・・・ 嫌だと思ってしまう。

「そう、だな・・・

 互いに立ち入らぬ、興味関心、好意を持たないとした中であっても・・・・ 夫として奴が傍に居た時間は悪くはなかった。後継ぎとして子も残した・・・ だが、不思議なことに子らは互いの亡き想い人の話ばかりをせがんできたよ。

 死ぬまで付き合ってもいいと思うほどには、互いに情はあったのだろうな。

 そしてもう一つの答えは・・・ あぁ、あれを見ろ」

 どうとでもないことのように言いきり、秋蘭は茶屋の一角を指差す。

 何かと思い振り向けば、そこには仲睦まじい恋人が俺たちと同じようにしている光景があった。

「あの男がかつて私と結婚した男だ。

 隣に並んでいるのが、流行病で死んだと聞いた奴の恋人だろうな」

 華奢でどこか病弱そうな肌の白い女性と、女性を愛おしげに見つめ、優しげに笑う男性はとても幸せそうで、冷やかすのも馬鹿らしいほどお似合いだった。

「記憶違いでなければ、彼女はこの頃既に亡くなっていたそうだ」

「えっ?」

「医者も少なく、医術も未熟。交通も、流通も悪かったあの時、薬一つで治る筈だった流行病で亡くなった。

 だが、今は違う。

 お前が早々に華佗に協力を求め、医術が広まったおかげで彼女は生きている。

 冬雲、お前がしたことは今も、昔も多くを救っている」

 嬉しそうに笑いながら、まっすぐに見つめてくる秋蘭の綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。

「だから、冬雲。

 もう二度と私たちを置いていくな、行くというのなら我々全員を連れていけ」

 そして、釘を刺すことを忘れない。秋蘭らしいよ。

「あぁ、約束するよ。

 絶対に俺は、みんなを置いて消えないってな」

「それでいい。

 この世のどの男よりも、お前を一番愛しているぞ。冬雲」

 唇を重ね合うことはなくとも、この言葉だけで十分。

 言葉を交わし、共に居ることを感じられるこの距離が俺たちの幸福なのだと感じられる。

「そう言えば、荊州の地ではあの張勲が知恵袋となったと聞いたな」

「何でだよ?!」

「フフッ、詳しくは二人にでも聞くといい。

 こうして、逢引きでもしながらな」

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