一刀がいなくなった世界の乙女たち ―― 魏国再臨 前日譚 ――   作:無月

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ここから変わる者 そして 彼の居ない世界の限界 【桃香視点】

「だから、桃香様。

 あなたが私を裁いてください。

 王として私を裁き、三国へとあなたが蜀の王であることを示してください。

 それが私に出来る、あなたへの最後の奉公です」

 朱里ちゃんから明かされたのはこの一件の目的と理由、そしてほんの少しの朱里ちゃん自身の想い。

 

『桃香様が王でなくなることを望むのなら、私は全てを持って桃香様のために策を練り、実行に移します。

 それも不可能であるというのなら、何を犠牲にしてでも桃香様を「王」とします』

 

 沙和ちゃん・・・ 沙和ちゃんが言ってた通りだね。

 私はみんなと毎日会ってたのに、ちゃんと向き合ってなんていなかった。

 顔を合わせてた筈なのにみんなの気持ちになんて気づいてなくて、それなのに沙和ちゃんみたいに考えることも、信じることも出来なかった。

 郭嘉さんが焔耶ちゃんに言っていたみたいに、自分の言葉や行動にどれだけの責任が乗ってるかどうかも私には見えてない。

 あの町で見た私がしてきたことのもう一つの面なんて、楽進さんに連れていってもらうまで考えようとすらしなかった。

 沙和ちゃんから聞いた天の遣いさんのことも、帰り道で星ちゃんに教えてもらったこの一年間の愛紗ちゃんのことも、荊州で頑張ってる鈴々ちゃんのことだって・・・ ううん、それだけじゃない。

 白蓮ちゃんのことも、翠ちゃんのことも、紫苑さんのことも、月ちゃんたちのことだって、私は何も知らなくて、わかろうともしてなくて、見てるつもりで何も見てなんかいなかった。

 口先だけの出来てるつもりで、結局私は何一つできてなくて。

 そんな自分が情けなくて、恥ずかしくてたまらなかった。

 華琳さん達を『羨ましい』って言いながら、結局自分が何一つとして変わろうとしていなかったことに、嫌というほど気づかされた。

「みんな、私ね。

 最初はただ、自分の周りをほんの少しだけ幸せにしてみたかったの」

 最初はただ私でも何かが出来るってことを示したかった。

 でも、何がしたいのか、何をすればいいかなんて、まるでわからなかった。

「普段見てるところにだって辛いことや苦しいことがあるって知って・・・ 先生からたくさんのことを学んで、大陸のあちこちに、自分でも旅してみて、最初の気持ちはだんだん大きくなっていったの」

 先生から多くを聞いて、私は白蓮ちゃんみたいに官位についてどこかを守ることより、まず自分で大陸を知るために旅することを選んだ。

 草鞋売りをしてあちこち回って、野宿もして、生活はけして楽じゃなかったけど、その旅の途中でみんなに会えた。

「みんなと会って、姉妹になって。

 仲間が増えて、軍になって。

 領地を治めて、国を得て、たくさんのことがあったよね」

 でも、いつも怖かった。

 戦うことも、自分が何も出来ないっていうことに向きあうことも。そして何より・・

「でもね、私はいつも凄く怖かった。

 あの剣(靖王伝家)がなかったら、私が投げ出してしまったら、みんなが私の元からいなくなっちゃうんじゃないかって。

 『桃香』じゃなくて、『王』としてしか見てくれないんじゃないかって」

 私から剣を奪ったら、『劉』というこの姓を奪ったら、何も残らない。

 愛紗ちゃんたちみたいに剣が振るえるわけじゃない。

 朱里ちゃんたちみたいに頭がいいわけでもない。

 白蓮ちゃんみたいにずっと努力を続けることも、翠ちゃんたちみたいに馬に乗れるわけじゃない。

 雪蓮さんみたいな凄い勘もないし、華琳さんみたいに何でもできるわけじゃない。

 そんなの私自身が一番よくわかってる。

 でもわかってるからこそ、怖くて誰にも聞けなかった。

「姉上・・・」

「でも、そんな心配いらなかったんだね」

 だから、私は嬉しかった。

 『王』としての(劉備)じゃなくて、『桃香』としての私を見てくれて、そのために朱里ちゃんが行動してくれたってことが。

 誰も私を『王』じゃなくて、『桃香』として見てくれてたことに気づけたから。

 愛紗ちゃんの迷いも、朱里ちゃんの想いも、他のみんなが私の傍に居てくれるのは私が王だからじゃないっていうことが嬉しかった。

「私、やっとわかったから。

 みんなからもう、目を逸らさないでちゃんと向き合っていくから。

 だから、お願い」

 私はその場で立ちあがってみんなへと頭を下げる。

 私は一体いつから、人に頭を下げることをしなくなったんだろう。

 『お願い』と言いながら、いつからか私は自分が上に立つことが当たり前になっていた。

 『王』として扱われることに恐怖しながら、私自身が一番自分を『位の高い誰か』として見ていたのかもしれない。

「桃香様?! 頭をお上げください!」

 焔耶ちゃんの声と、みんなの驚く様子が見なくても伝わってくる。

 でも、これでいい。こうじゃなきゃいけなかった。最初はこうしてた。

 私は何も出来ないから、頼ることしか出来なかったから、学問がどれだけ長い時間と努力によって大成するものかは馬鹿な私にだってわかってたから。

「お願いします。

 この大陸の平和を保つために、二国との関係を維持し続けるために、みんなの力を私に貸してください」

 何もわからないなら、何が出来るかわからないなら、また踏み出せばいい。

 私はもうあの時みたいに一人じゃない。みんながいてくれるんだから。

「姉上・・・・

 私はあなたが望んでいなかったことを押し付け、あなたが本当に成したかったことが出来なかったのではないか。

私がしてきたことで姉上の自由を奪ってしまったのだと思っていました。

 そして私は・・・ 大きくなる勢力の中で自分自身をいつしか『妹』ではなく、『将』という括りにいれてしまっていたのです」

 愛紗ちゃんはまっすぐに私を見て、手を伸ばしてくれた。

「『蜀の王』にではなく姉上。あなたに問います。

 あなたはこれからどうなさりたいのですか?

 あなたが何を選んでも、それこそ玉座を捨てること選んでも、私はあなたにどこまでもついていきましょう」

 愛紗ちゃんの言葉に呆然としている朱里ちゃんと雛里ちゃんを置き去りにして、その場にいるみんなが少しだけ笑ってくれる。

「あたしは西涼に帰らなきゃいけないからついていくことは出来ないけどさ、どんなことになっても桃香は大事な友達だぜ?」

「翠ちゃん・・・」

 あぁ、やっぱり私は恵まれてる。

 だって、こんなに素敵な友達がいるんだもん。

「桃香様、それでも私は罰せられなければなりません。

 私がしたことはどんな言葉を尽くしても、許されることではないんでしゅ!

 それに今回の噂を、既に魏の将たちは・・・」

「知ってるよ。

 だって、私に教えてくれたのは沙和ちゃんだから。

 でもね、朱里ちゃん。もういいんだよ」

「私は独断で、三国同盟の崩壊及び蜀という国の存続すら危うくさせたんです! まったく何もないなどという選択肢はもう出来ないんです!

 他国にも示しがつきません! それどころか、もし噂の全てが彼が行ったというのなら民すらも納得はしないんです!

 だから、桃香様! ご決断を!!」

「もういいの! 朱里ちゃん!」

 私は叫びながら、左隣に座っていた朱里ちゃんを強く抱きしめた。

 私が思ってたよりずっと朱里ちゃんの体は小さくて、軽くて、細かった。

 私はこの小さな体に、どれだけのものを背負わせてしまっていたんだろう。

 その欠片すら私にはわからなくて、わかろうともしてこなかった。

 でも、このままじゃもう駄目だから。

 私が一番最初に変えなくちゃいけなかったのは、私自身だったのをようやく気づいたから。

「私を想って行動してくれた二人を罰することなんて、私には出来ないよ。だから・・・」

 言葉を続けようとした瞬間、何の前触れもなく扉が開いた。

 

「やはり、ですか。

 流石は劉備、あなたのその甘さは筋金入りですね。

 甘ったるすぎて、見ているだけで胸焼けしてしまいそうです。

 本当に・・・ 気持ち悪くなるほどに」

「稟ちゃん、それは言いすぎですよ~。

 風達がどう思おうと、それが彼女の持ち味なのですから。

 『蓼食う虫も好き好き』と言いますし、ここにはそうした彼女を好む方々もいるようですしね」

 

「郭嘉に程昱!?

 貴様ら! どうしてここに!」

「あなたに用などありませんよ。魏延殿」

 焔耶ちゃんのことを相手にすることもなく、郭嘉さんは円卓の誰もが見える位置に立ち、それでいて誰もが一歩踏み出さなきゃ届かないところで止まった。程昱さんも郭嘉さんの隣に立って、私達をゆっくり見渡していた。

「いやいや、こんな日も高い時間からほぼ全ての将を集めて会議、お疲れ様なのです」

 いつもみたいににこにこしながら頭を下げる程昱さんとは違い、郭嘉さんの目は魏の街で会った時とまるで変わらない厳しいもので、目を逸らしたいのを必死に堪えて彼女たちを見据えた。

「郭嘉さん・・・・ 程昱さん・・・・」

「『どうやって入ったか』などのくだらない問いはしないでください。

 私は堂々と、城門から、自分の立場を利用して来ただけですので」

 私の言葉を聞くことすら拒むようにすぐさま応える郭嘉さんは取りつく島もなくて、そんな郭嘉さんを程昱さんは軽く後ろへ下げるように裾を引っ張った。

「りーんちゃん、あまりそう言う対応をしていると話が先に進まないのですよ。

 この部屋どころか、この国に長く居たくない気持ちもわかりますけどね~」

 ちらりと見るのは私の左隣に居る朱里ちゃんたち。

 もしかして程昱さん達は・・・

「その、今回の一件は・・・!」

 今回の件で来たのならもう華琳さん達が動き出したんだと思って、私は慌てて何かを言おうとするけど程昱さんがゆっくりと手で制した。

「あぁ、何も言わなくて結構なのですよ。劉備殿。

 何故なら今回の一件はただの民の間に流れた噂というだけにすぎず、そして民自らその噂を鎮静化させ、事態は終息へと向かっているのです」

「えっ・・・? まさか、そんな筈が・・・」

 驚く朱里ちゃんと雛里ちゃんに対してだけでなく、ほぼ全員に冷たい視線を向け続ける郭嘉さんは失笑した。

「『民を見る』と言いながら、あなた方は何も見えてなどいないのですね。

 特に臥龍と鳳雛、あなたが見ているのは本当に人ですか? それとも得体のしれない化け物ですか?

 地に堕ちてなお人を見ることも出来ず、本当に滑稽ですね」

「我らが軍師へのこれ以上の侮辱は聞き逃さんぞ、郭奉孝」

「侮辱? ただの事実でしょう。軍神。

 あなた方がおそらくは最初に流したであろう、『天の遣いは魏の王と将、全てと恋仲である』というものと同様にね」

 穏やかではない気を放ちながら言う愛紗ちゃんに対して、郭嘉さんは何も変わらない。

 冷たい視線も、私達に向ける殺意も、私達に見せている怒りなんてきっと火花程度でしかないことを示しているようだった。

「今回の一件にて臥龍に与した者たちは噂ばかりに目をとられ、商人としての仕事を疎かにして機を逃し、運送業という新しい波に乗り遅れました」

「ましゃか・・・ 私と会ったあの日・・・!」

「えぇ、その通り。あなた如きのために私がこの地を訪れる筈がないでしょう?

 あの日私は、この地に居るある商人との話し合いを終えた後でした。

 波に乗り遅れ、ありもしない噂を流して信頼を失った商人がどうなったかなど、私の知ったことではありませんが」

「まぁ、こればかりは致し方ありませんよねぇ。

 商人としての選択まで、風達が関与するところではありませんし。

 正直自業自得でもあるのですよ、物を扱う以前に彼らは言葉を扱う方々。契約を結ぶ口の信頼を失えばどうなるかなんて、わかりきっていたことですよねー」

 私が居ないうちに起こったこと、私が知らないところで起きてしまったことがどんどん話されていく。

「まぁ、風から言えることはあれですかねぇ。

 お兄さんに対してどんな噂を流しても、お兄さんを知っている方が一人でもいればそれは否定されるのですよー。

 何よりお兄さんの姓である『北郷』の名は、どこにでもありますしね。

 物に、一座に、街を守る隊の名に・・・ あぁ、越族の方々は記念碑を作りたいという申し出もありましたねぇ」

 なのに、彼の名を口にしている間だけ、程昱さんはとても幸せそうに笑ってる。

 もういない彼が残したもののことを、とても大切そうに抱きしめているみたいに私には見えた。

「ならば風、稟。

 お前たちはわざわざ蜀の重鎮が揃う会議の間に、そのことを伝えに来たのか?」

 肩をすくめながら語りかけた星ちゃんに対してだけ、二人はわずかに目を緩めた気がした。

「あはははー、流石に風達もそこまで暇ではないのですよ。星ちゃん。

 華琳様からあなた方・・・・ というよりも、この場合は臥龍さんに伝言を預かっているのですよ。

 身分も身分ですし、本来なら同じ立場にある桂花ちゃんとかが来るのがいいんでしょうけどねー。何分魏の筆頭軍師は多忙の身で、魏を留守にするわけにはいかないので我々二人が来たのですよ。

 それに稟ちゃんの仕事ならば、いろいろとしながら来れますしねー」

「そうでなければ、今すぐにでも抹殺してしまいたい者たちが都合よく揃うこんな場に来る筈がないでしょう。

 もっとも、先程行われた会話だけでも十分戦を起こせるのですが・・・・」

「りーんちゃん? 言いすぎですよー。

 風も同じ気持ちですが、あの程度のことで次の子たちに迷惑をかけるわけにはいかないのです。

 それに・・・ たとえ止めることが出来なくても、なんとかしたいと思った方々は居たんですし」

 程昱さんがちらりと視線を向けた先に居たのは紫苑さんと星ちゃん、そして蒲公英ちゃんだった。

「まぁ、何も知らない方々も結構いたようですが、それはどうでもよいのですよ。

 華琳様からの伝言は

『民の噂などに目を向けず、治政へと目を向けなさい。

 この一年、蜀からの民の流出が目立っているわよ』

 とのことですー」

 その言葉に朱里ちゃんや雛里ちゃんだけじゃなく、翠ちゃんたち武将のみんなも驚いて何も言えなくなる。

「なっ・・・・ 曹操さんは! 彼を愛していたんじゃないんですか?!」

「えぇ、愛しておられますよー。

 華琳様だけでなく、我々魏国の将は今でもお兄さんのことが大好きなのです」

 朱里ちゃんの言葉をどうということもなく受け止めて、程昱さんは笑う。

「だからこそ、取るに足らない噂程度では、あの方の心は動かないのですよ」

 その言葉だけ少しだけ悲しそうで、どこか寂しそうで。

「正直、風も今回の件はどうだってよいのです。

 お兄さんを知らない人がどう語ろうとも、お兄さんは帰ってこないのですから。

 まぁ、だからこそ怒ってる方も居るには居るんですけどねー。稟ちゃんが最も激しいというだけのことですし」

「恥を知るならば、今すぐ自決することをお勧めしましょう。

 生きていられることが不愉快ですので」

 程昱さんは左手で郭嘉さんを指し示すのとほぼ同時に、彼女は短く容赦のない言葉を口にする。

 かと思ったら、彼女はその場で身を翻し、扉の方へと歩き出した。

「稟ちゃーん、もう少しで終わるので待ってくださいよー」

「言ったでしょう、風。

 出来ることなら私は、この国を塵にしてしまいたい。

 私がそれをせずに今を生きているのは、あの方と彼が望んでくださったからというだけです」

 彼女が言葉を口にするたびに、彼女の怒りの一端が見えるようで怖くてたまらなかった。

「郭嘉さん! 私は!!」

「最後まで黙っていただけませんか、劉備殿」

 私が叫ぼうとした瞬間、何も起こっていない筈なのに冷たい風が吹いた気がした。

 数拍遅れて、それが殺気だということに気づいたけれど、私は既に驚いて椅子に座ってしまっていた。

「あなたの言葉は、私にとって一切価値がありません。

 あなたがこれから何を成そうとも、どう行動しようとも、私があなたに対して思うことは変わりません。

 この国がどうなろうと私にとっては些事でしかなく、いっそ滅んでしまえばいいとすら思っています。

 『人々の笑顔のため』と謳うのなら、どうか私の笑顔のために死んでください。劉備殿」

 最後に笑顔でこちらをほんの少しだけ振り向き、彼女はまた歩み出した。

「貴様! 言わせておけばーーーーー!!!」

「駄目!! 焔耶ちゃん!

 愛紗ちゃん、お願い! 焔耶ちゃんを止めて!!」

 武器を持って駆けだした焔耶ちゃんは私が言っても止まってくれず、愛紗ちゃんたちが止めようと動きだしてくれた。

 とっても早い筈なのに、なんだか全てがゆっくりに見えた。

 駄目! 間に合わない!!

 そう思って目を閉じかけた時に聞こえたのは、程昱さんののんびりとした声だった。

「はぁ・・・ 霞ちゃーん」

「へいへい、任せときー。

 よっと!」

 その後に聞こえたのは固い物同士がぶつかった音と、人が倒れる音。

 目を開ければそこには居たのは張遼さんと、倒れた焔耶ちゃんだった。

「この方は将から外すことをお勧めするのですよ。

 あるいはどこか旅をさせるなど、外の世界を知るべきですねぇ」

「ハッ、無駄や無駄。猪に人の話は通じんわ。

 あーぁ、あほらし。風が連れて来よるから何かとおもたら、猪相手の保険かいな」

「もっとも稟ちゃんは、これすら狙っていたんでしょうけどねー。

 風達のどちらかが殺されれば、この国を滅ぼす大義名分を得られますから」

 郭嘉さんはこちらを気にすることもなく立ち去っていて、程昱さんと張遼さんは本当に呆れたように倒れた焔耶ちゃんを見ている。

 そして、程昱さんだけがこちらへと改めて向き直った。

「劉備殿、あなたが描く理想も夢も、聞いているだけならば大変素晴らしいのです。

 ですが、稟ちゃんのように・・・・ あなた方がしたことによって、どうしてもわかり合えない方がいることも心に留めておいてほしいのですよ。

 それでは、失礼するのです」

「風」

 立ち去ろうとした程昱さんを止めたのは星ちゃんで、そして多分星ちゃん以外の誰も彼女たちを止めることなんて出来ないことがわかってしまった。

「私達はもう・・・ わかり合えぬのか」

「わかり合えないわけではないのですよ、星ちゃん。

 ただお兄さんがいないこの大陸では、これが限界なのです。

 ではでは、星ちゃん。また~」

 そう言って張遼さんと程昱さんは去っていった。

 

 私はこの日、どんなに願っても、行動しようとしても出来ないことがあるということを思い知らされた。

 きっと彼女たちは、天の遣いさんが帰ってこない限り笑うことはなくて、幸せになることもない。

 勿論私達を許すことも、友達になることもない。

 でもそれは、私が何もしないという理由にはならない。

 だから、この国のために、みんなのために出来ることをやっていくことを硬く心に誓った。


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