一刀がいなくなった世界の乙女たち ―― 魏国再臨 前日譚 ――   作:無月

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創り 残す者 【真桜視点】

「・・・・あぁ、もう朝かぁ」

 安全眼鏡を首に下げながら、ウチは窓から入ってきた光が眩しくて目を細める。

 ウチの近くには隊長の書簡に残されとった催し案の模型やら、ウチの中での模索案が書かれたもん、完成品やら、作りかけのもんばっかりやった。

「隊長、自分は居らんくせにこんな大仕事残すんやもんなぁ・・・・ ホンマ、参るで・・・ 

 この催し案とか、ウチにだけ負担でっかくあらへんかぁ?」

 なんて言いながら、隊長の顔が浮かぶだけで自然と笑みが浮かんでまう。

 今でも自分が隊長のこと好きなんやって思えることが嬉しゅうて、悲しゅうて、でも隊長がやりたいことにはウチが必要なんやってことが思えることが今でも幸せで、なんや複雑な気持ちやわ。

「ホンマ、ウチらのことばっかり・・・・

 隊長、どんだけウチらのことが好きやねん」

 魏の将全員に配られた隊長の書簡の写しは何度確認してもウチら()のことばっかりで、何度読み返しても笑てまう。合間合間に入る他陣営の名前に嫉妬するのも阿呆らしくて、なんちゅうか隊長やなぁとしか思わんもん。

 競馬に将棋、武闘大会に料理大会。水車に風車、姐さんの運送業に必須な荷車。

 ホンマ、いろいろ多すぎやろ。

 しかも、発案者の隊長が居らんとかウチに丸投げしすぎやないかー?

「真桜ちゃーん? 朝ご飯の差し入れだよー?

 起きてるー? 寝てるー? どっちみち突撃なのー!」

「沙和ー? 突撃してもえぇけど、散らばってる部品一個でも踏み潰したら張ったおすから、そんだけは覚悟してはいりやー?

 そんから扉空ける勢いで棚揺らして、ウチ埋めるのも勘弁してなー」

 扉の前で聞こえたいつもの沙和の声に、ウチは自分でも不自然なくらい良い笑顔をしながら警告しとく。まぁ、部屋散らかしとるんはウチやけど。

 昔それで、隊長埋めたことあるんよなー。

 寝取った隊長飛び起きて、『俺を永眠させる気か、コラー!』とか言って怒っとったんよなぁ。

「はーいなの・・・・」

 肩落として静かに入ってくる沙和が持っとるんはまだ湯気が立っとる肉まん。こんな朝からやっとるとこなかった気がするんやけどなぁ?

「おはよーさん、沙和」

「おはよーなの、真桜ちゃん」

「んで、その肉まん。どうしたんや?」

「今朝、幽州に出発した職人のおっちゃんに渡すように頼まれたのー。

 真桜ちゃんが徹夜してること、おっちゃんたちにばればれなの」

 おっちゃん共、余計なこと言うてからに・・・

 そう言って沙和は足元に注意しつつ歩いて、ウチに肉まんを手渡してきた。

「徹夜駄目って言って聞かないのは昔からだから諦めるけど、おっちゃんたちに心配させるほどってどんだけなのー!」

「んー・・・ 最近、特に忙しゅうてなぁ」

 やってなぁ、隊長の書簡の前から仕事ばっかりやったしー。

 沙和の言葉を聞きながら、口には肉まん咥えて、ウチは近くにある模型のいくつかを弄る。競馬場に武闘会場の立体見取り図、それに必要な道具とか、隊長の作成説明文解読できるのって何遍も話しあっとったウチくらいやし。

「でも、無理しちゃ駄目なの。

 ちゃんと寝るんだよー?」

「そのうちなー」

 ウチじゃないと出来んことが多いんやもんなぁ、この一件。

 まぁ、将棋の駒は隊長が結構細かく図にしといてくれたおかげで、彫るだけやけど。あとの設備が大半大掛かりなんやもんなぁ。

 料理大会に関しても外にそういう設備作るんだか、どっかの飯店借りんのか、全然書かれてないんやもん。その辺りの詰めが甘すぎやねん。

「寝・な・さ・い・な・の!」

「えー・・・・ ウチの仕事ぎょうさんあること、沙和なら知っとんやろ?」

 警邏隊の仕事の比率減らしてもろてるけど、それでも毎日時間たりひんよ。

 案の状態ならウチが決めんことの方が多いし、それが終わっても理解しとるウチが指揮に回らな作業は進まんやろしなぁ。

「こんなこともあろうかと! 凪ちゃん!!」

 そう言う沙和もウチには想定内やけどな~。

 ウチは凪を呼ぼうと沙和が一瞬後ろを振り向いたのを狙って、一分の一影武者人形の頭に書簡をさしてから、窓から飛び出す。

「あっ! 真桜ちゃんが逃げたの!?」

「はぁ・・・・ 沙和、私たちも仕事に行くぞ。

 真桜を見てるのは私たちだけじゃないしな、ぎりぎりになる前に止める者が将だけとは限らない」

 二人の言葉を背後に聞きながら、ウチは街の工場(こうば)の方へ足を向ける。

 おっちゃんたちにいろいろと頼まなあかんし、教えなあかんからなぁ。

 

 

「へーい、おっちゃんども。

 今日も汗水流して、頑張っとるかー?」

「おぉ、真桜の嬢ちゃん。

 また来たのかよ? 幽州組なら今日出発したし、荷車の方は足りてるだろ?」

 ウチがそう言ってはいると、一番近くにいたおっちゃんが応対してくれる。まぁ、いつもこんな感じやし、簡潔に状況教えてくれるんも助かるわ。

「工場長言わんかーい。

 つーわけでみんな! 今の作業、一旦止めて、ちょっと集まってもろうてえぇかー?」

「あー? 人使いあれぇーよ! 嬢ちゃん」

「あいよー、今日昼飯奢ってくれたらなー」

「つか、久々じゃね?

 わざわざ嬢ちゃんがこっちまで足運ぶって、なんかあったのかよ?」

 ウチがそう言って大声で呼ぶと、あちこちから文句やら軽口混じりに返事が返ってくる。

 ホンマ、工場は相変わらずやなぁ。でも、頑固一徹の職人どもしかおらんこんなとこでも隊長はいつも通りやったっけ。

「えーから、はよ集まりやぁ!」

『うーっす!』

 ウチがそう言うと全員が持ち場からのそのそと立ち上がり、弟子とかのちんまいのまで集まってくる。

「んで? 久々に集めた理由はなんだよ? 工場長」

「隊長が、ウチらにでっかい置き土産したんや」

「北郷の旦那が・・・?」

 そう言ってウチは持ってきた隊長の書簡の写しと華琳様たちが書いた案の書簡、ウチが必要となるだろうと予測した器具やら、なんやらのこまごました書簡を机の上に投げる。

 その書簡を見た工場のまとめ役のおっちゃんは顔に手を当てた後、大声で笑い出した。

「まったく、旦那だなぁ・・・

 よえぇー癖に、技術もくそもねぇ癖に、俺らにしか出来ないことをうまく残しやがる」

「やろ?」

 ウチとおっちゃんが笑いあい、机に置かれた書簡を全員が見ては同じような笑みを見せる。

 ここに居るんは根っからの技術屋、全員無理難題が大好きな阿呆共、不可能を可能にしてこそ北郷工作隊。

「何から取り掛かりゃいい? 工場長」

「まだ会場となる場所が決まってない、大掛かりなもんは何も作れん。

 けど、始まりんとこの厩舎もどきは何度か試作が必須や。おっちゃんがまとめる一班には、これを中心に進めてほしいんや。ウチが考えた模型はあとで持ってくる。許可とかは全部ウチに任しとき。

 二班には将棋の駒や。これも実際何度かやってもろうて、高さやらなんやらの調節まで試行錯誤してもらうで。

 他の班は魏国内での水車や、風車の普及作業を継続的に続ける。それに近々涼州にももう一班送らなあかんから、ウチがじっくり教え込んだるわ。

 ここまででなんか質問ある奴、居るか?」

 軽く見渡すと全員が頷き、ウチは満足げに笑う。

「ほな、いつものやるでぇ!」

 そう言ってウチは大きく息を吸って、吐き出した。

「やるときゃやったる、全てを創れ! ウチらは魏国の」

『北郷工作隊!!』

「失敗なんぞ屁でもない! 北郷隊の理念はー!!」

『発案! 実行! 改善!』

「やるでーーー!!」

『おおおぉぉぉぉぉーーーーー!!!』

 隊長が団結力を持たせるとかで始まったこの掛け声は、団結力が高まった今でも続けとる。

 これをやるとみーんな、表情変わって、やる気に満ち溢れてるような気がするんよな。

「ったく、旦那は大陸にどんだけ笑顔を運べば気が済むんだよ。

 あぁ、やってやろうじゃねぇかよ!

 天の遣いの名において、職人の誇りにかけて、全部作り上げてやろうじゃねぇか!!」

 そういうおっちゃんの目は輝いていて、傷だらけの腕を叩いて鑿を握りしめる。

「『大陸に北郷工作隊あり』って、言わせてやろうじゃねぇか!」

 若い職人が鉋を持って、拳を振り上げる。

「んでもって全部に刻んでやるよ、『北郷』の二字を。

 あんたあっての大陸だと、あんたがいたから俺たちは作れたんだって、後の世すらも語り継ぐように!」

 その言葉にウチは頷いて、もう一発号令を叫んだ。

「さぁ、取りかかるでーーーー!!!」

『おおおぉぉぉぉぉーーーーー!!!』

 

 

 

 そうして日が暮れるまで、熱気あふれる工場で過ごしてウチは上機嫌に城へと道を歩く。下手な睡眠より、ウチにはこっちの方がずっと体にえぇわ。

 仕事の方も順調やし、あと問題なんは大掛かりな建物とかやろうなぁ・・・・ となると桂花様やら風様辺りに掛け合わんと。

 仕事のことをあれこれ考えとると、あっちゅう間にウチは自分の部屋兼工房の前についとった。

「真桜、勝手に邪魔しとるでー」

 扉開けたら、そこには姐さんが酒盛りしとった。まぁ、たまにあることやからウチは驚かんけど。

「『華乃郷』の新酒ですかいな」

「おー、真桜も飲みや」

「んじゃ、遠慮なく」

 姐さんに盃渡されて、酒瓶から手酌で飲む。

 相変わらず、杜氏のじっちゃんたちもえぇ仕事しとるわ。

「んで? 今日はどないしたんです? 姐さん」

 いつもと違う雰囲気、この酒を飲んでるとは思わんような真剣な雰囲気を持っとるのをウチが気づかんはずがない。

「ちょっち、仕事で蜀に行ってきたんよ」

「・・・それをウチに報告する意図がわからへんです」

 ガキみたいにそっぽ向くウチを姐さんはいつもみたいに笑いもへんで、まっすぐ見つめてくる。

 姐さんの目はたまに隊長に似とる。

 まっすぐ人を見る目は眩しゅうて、時々見えへん。見透かされる気がして、なんか落ち着かへんし。

「仕事ついでに詠と飲んで、そん時泣きながら言われたんよ。

 『天の知識を渡せっていうことは、あなた達と彼の思い出にずけずけ入っていって、彼が残した欠片を奪っていってるようなもんなのよね』ってな。

 それ聞いて、ウチは『まだ人間も捨てたもんやない』って思えた。

 その後、ふと気づいたんよ。その痛みを一番味わっとんのは真桜なんやないかって」

 隊長の思い出の欠片、か・・・・ そう思ってくれるん人が、蜀にも居るんやな。

 目から零れそうになったものを堪えながら、ウチはほとんど使わん机の一番上の引き出しには入っとるもんを手にとった。

「姐さん。これ、なんやと思います?」

「ん? 何やそれ?」

 いくつかの部品が飛び、大きな穴の開いたそれは『初代・全自動籠編み機』。もっとも全自動なんて名ばかりのもんで、籠売る傍らに置いといたらネタになる程度やった。

「この子は、ウチと隊長を出会わせてくれた子なんです。

 ウチ、元々農民出身で、沙和と凪と一緒になって籠売りに来たんです。

 そん時、偶然隊長と華琳様に会うて、顔覚えてもらってたんです。

 隊長、子どもみたいに目輝かせて『スゲー、スゲー』言うて、籠まで買うてくれたんですよ」

 置いといても誰も目をくれんかったこの子を、隊長は何の表裏もなく褒めてくれた。

 たったそれだけが、嬉しかった。

 やってウチの作品を褒めてくれたんは、凪と沙和以外は隊長が初めてやったから。

 豪天砲を作っても、他になんか作っても爆発ばっかさせたウチなんて村では変わりもん。村が黄巾賊に襲われてたからこそ役に立っただけで、ウチなんかいつ村から追い出されててもおかしくなかったんやし。

「その後、なんやかんやあって華琳様に仕えることになって、隊長の下についてたくさんのもんを作りましたんよ。

 防柵、弩、即席の大木落とし、春蘭様たちの武器・・・ 戦いに関するもんだけやない。玩具やら、棚やら、臼やら、水車やら、身近なもんまで隊長作らすんやもん。ウチ、おもわず笑ってもうた」

 技術で危ないもん作っとる傍らで、隊長の案で作ったもんは気がつけばウチの周りに笑顔を作っとった。豪天砲なんて危ないもん作ったウチにそれだけやないって、誰かを笑顔を作れるんやって教えてくれた。

 天の知識なんて曖昧な、夢物語みたいな話は職人の遊び心も、探究心も、向上心をくすぐられて、毎日が楽しゅうてたまらんかった。

「姐さん、ウチな・・・・ ううん、ウチら技術屋は隊長の言葉にな。

 壊すばっかりの中に、光りをもろうた気がしたんよ」

 作っても壊されて、作ったもんは壊すもん。

 ウチら技術屋が作ったもんは戦いにばっか活かされて、技術屋のなかには腐るもんも多くて、金のために物を作る奴も増えとった。

「意見の交わし合いなんて言いながら喧嘩みたいなやり取り何遍もして、職人と向き合って、もっとも喧嘩弱い隊長が職人のおっちゃん共に勝ったことなんて一度もなかったんやけど。

 あのくっそ頑固なおっちゃん共が隊長を驚かした時だけ得意げに笑って、隊長も嬉しそうに笑うんや」

 いちいち驚いてくれて、自分の身近にあったもんが出来たことを嬉しそうに笑うてくれた。

 使う側だけじゃなく、作る側のことも隊長は見とってくれた。

 使い捨ての技術屋を、使い捨ての道具を大切なもんとして、苦労に気づいてくれたことが心底嬉しかったんや。

「真桜・・・」

「戦いはなんも生まんのですよ、姐さん。

 壊すばっかり、なくすばっかり、有望視されとった若い職人も死んでくんや。

 奪いたくないもん奪わせて、作る可能性すらも摘んでってまう・・・・」

 ウチはただ悲しかったんや。

 物も、人も壊して、奪うだけの戦いが。

 やったらやり返す、子どもの喧嘩と一緒で進歩もない繰り言が。

 壊すんは一瞬でも、作るんはその何倍の時間がかかるっちゅうことを知っとるくせに、誰も振り返ってくれへんことが。

「やっぱり、真桜が三人中で一番戦いを望んでへんのやな」

「一番は沙和やで、姐さん」

 あんだけ誰に対して仲を保とうとして、ウチには無理なことをしてくれとる沙和が一番戦いを嫌がっとるとしか、ウチには思えん。いつもの愚痴の時も、友好関係も、ついこの間の件もそうやったしなぁ。

「いやぁ、沙和も前回の一件で相当きてると思うで?

 仲を保とうとしても無駄で、あーんな噂流されて、向こうが戦う気満々。

 むしろ逆に『これで駄目だったら、今度こそ容赦なく叩き潰せる』って、考えそうなもんやないかー?」

 姐さんの考えにウチは笑い飛ばすことが出来ずに、顔を強張ってく。

 今の沙和なら、ありえへんと言えへん。

「かもしれへんですね・・・

 姐さん、戦は起こるんでっか?」

 ウチのその問いかけに姐さんは苦笑して、酒を飲んではる。

 おそらく姐さんはどっちかっていうと戦いを望んでる側で、華琳様が頷いたら先陣きって行きはるんやろうなぁ。

「どうやろな・・・・」

 姐さんが言葉を濁して沈黙を訪れようとしたそん時、突然窓が開かれた。

「それは蜀の穏健派たちがどう動くか次第、ね」

 星の明かりを背負ってのご登場するんは、魏の王たる華琳様。

「華琳様・・・」

「華琳・・・ どっから聞いとったんや?」

 姐さんの問いに答えず、華琳様はウチへと歩み寄り、突然抱きしめた。

「真桜、ごめんなさい」

 その言葉にも、行動にも目を白黒させるウチにもかまわず、頭を撫でてきてくれはってさらにウチを混乱させる。

「私は技術を尊びながら、あなた達技術者への配慮が欠けていたわね。

 本当に、ごめんなさい」

「華琳様が謝るんことはなんにもあらへん!

 華琳様が居ったから、ウチらは技術を守ることが出来たんです!!

 だからウチらは、隊長に会えたんです!」

 華琳様の言葉にウチは気づけば泣いていて、子どものように首を振って否定しとった。

 華琳様に守ってもろうて、居場所を貰えた。

 隊長に会えて、作るっちゅうことに光り(希望)を貰うた。

 それはどんなことよりも幸福やった。

 泣きつくウチを華琳様はただ優しく撫で続けてくれて、受け止めてくれはった。

「私はあなたが技術提供を拒んでいた理由を他国への嫌悪ばかりだと思っていたけれど、違ったのね。

 ねぇ、真桜。

 あなたは他国に技術提供をすることで、その技術を戦争に利用されることを恐れていたんでしょう?」

「隊長、たまに『技術の発展は素晴らしいことだけど、みんな使い方次第なんだよな・・・・』って、悲しそうに言うとったんですよ。

 そん時のウチには理解出来へんことやったんですけど、今ならその言葉の意味がわかる気がするんです」

 水の力を利用した水車をうまく使えば、人力のいらない投石器が出来る。豪天砲をばらして、作りを簡略化したもんが量産できるようになったらそれだけで戦のやり方は変わってまう。

「魏の職人はえぇんです。みんな隊長の影響受けて、戦いなんて誰もしたないし、望んでないっちゅうことを知っとる。

 けど、他国はそう見えへんのです! 信じられへんです!!」

 ウチは拳を握って、叫ぶ。

 戦うことばかり考えて、『寄越せ寄越せ』と叫んで、この技術が何のために生まれたかも知らん阿呆共には渡しとうなかった。

「隊長が笑顔のために作ろうとしたんもんを、いろんな願いが詰まったもんを!

 人を殺す兵器として利用されるんを、ウチらは耐えられんのです!!」

 もう嫌なんや、平和望んだ隊長が考えて、作り上げたもんが人の命奪うだけなんて。

 ウチらのあの時間を、思い出を血で汚されんのは我慢できへん。

「また、大事なもんを奪ったり、失ったりするんをウチは嫌なんです・・・・ 華琳様・・・」

 呉から黄蓋を奪ったように、今度は誰を奪うんですか?

 隊長を失ったみたい、ウチらは次に誰を失うんですか?

 民から、どれほどの家族を奪うんですか?

「そうなってほしくないから、一つの書簡に多くの希望を残した者がいることをあなたは知っているでしょう?

 諦めの悪く、おせっかいで、優しさに満ち溢れて、人の幸せを当たり前に望んでくれたそんな馬鹿な人を私たちは愛して、それを見習って動いてくれてる子たちがいる」

 動いてくれてるんが誰なのかは、ウチにはわからへん。

 けど、華琳様の手が優しくて、暖かくて、響く言葉がとても心強いと思えたんや。

「おおきに、華琳様」

 ただウチは、こうして思うてくれてる人の下に居れることに自然と感謝を口にしとった。


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